第2次トランプ政権下の新潮流を読み解くトランプ政権下で変わる自動車政策と見通し(米国)
2026年1月19日
米国の自動車市場は、電動化の進展を背景に「100年に一度の変革期」とも評されてきたが、トランプ政権下の各種政策により、足元の不透明感は従来以上に高まっている。各企業は製品ポートフォリオや電気自動車(EV)戦略の見直しなどを通じ、収益の維持に努めている。一方で、中長期を見据えた技術開発など、足元の政策とは切り離した取り組みも継続している。本稿では2025年1月のトランプ政権発足以降の米国の自動車市場を巡る政策環境の変化を整理し、企業の動きを概観する。
通商政策:海外依存の低減と国内生産回帰
2025年1月に発足したトランプ政権の自動車政策では、「アメリカ・ファースト」の理念に基づき、国内産業の強化を軸に貿易、産業、環境・エネルギーなどの分野で見直しが進められている。
通商政策では、海外依存の低減と製造業の国内回帰のため、国際緊急経済権限法(IEEPA)や1962年通商拡大法232条(以下232条)に基づく関税措置が相次いで導入され、対象品目も拡大する傾向にある(注1)。米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の原産地規則を満たす場合の例外措置や自動車部品関税の相殺制度、日本に関しては日米関税合意に基づく税率の引き下げといった緩和策は導入されているものの、企業収益に大きな影響を及ぼしている。2025会計年度の追加関税によるコストとして、ゼネラルモーターズ(GM)は最大45億ドル、フォードは10億ドル、ステランティスは15億ユーロ(約17億ドル)を見込むと発表した。日系メーカーではトヨタが1兆4,500億円、ホンダが3,850億円、日産が2,750億円、スバルが2,100億円と試算した。
もっとも、現時点では関税コストの車両価格への転嫁は限定的だ。米自動車調査会社のコックスオートモーティブによると、2025年11月の平均車両販売価格は4万9,814ドルと前年同月比1.3%増にとどまった(図1)。各社は販売シェアを維持するため、価格転嫁を抑えつつ、調達先や生産体制の見直しなどで対応する傾向にある(2025年10月17日付ビジネス短信参照)。
注:一部暫定値。
出所:コックスオートモーティブ発表データを基にジェトロ作成
雇用と市場原理を重視し、EV・環境政策を見直し
トランプ政権は、雇用の増強と製造業の国内回帰、大規模な規制緩和などを柱に産業政策を進めている。その中で、前政権が推進したEV振興策は大きく後退した。背景には、EVは部品点数が少なく雇用創出効果が限定的である(注2)ことに加え、バッテリー材料の中国依存度が高いという構造的課題がある。
具体的には2025年9月30日、インフレ削減法(IRA)で定められていたEV購入に対する7,500ドルの税額控除(IRC30D)を撤廃し、消費者の購入インセンティブを大幅に低下させた。また10月には、エネルギー省が再生可能エネルギー関連プロジェクト223件に対する総額75億6,000万ドルの補助金を撤回し、加えてバッテリーリサイクルなど、スタートアップ向けに決定していた約7億ドルの補助金の打ち切りも発表した(注3)。
環境規制に関しては、同年6月にカリフォルニア州のEV販売義務を含むアドバンスド・クリーンカーII(ACCII)規制が撤廃され、事実上EV販売義務が無効となった。同規制の下では、2035年までにカリフォルニア州およびACCIIを踏襲する11州およびワシントン特別区での全新車販売をEVにする必要があったが、これは全米の新車販売台数の約3割にあたる規模だ。また、12月には、連邦政府が2022~2031年製車の企業間平均燃費(CAFE) 規制の見直し案を公表した。新案ではEV販売を前提としない策定方法による基準値の緩和などの内容が示された(2025年12月8日付ビジネス短信参照)。これに先立ち、7月に成立した勤労家族減税法(Working Families Tax Cuts)で、CAFE基準値に満たない場合の罰金制度(注4)が撤廃され、規制の拘束力は著しく低下している。さらに、近く自動車からの温室効果ガス(GHG)規制が緩和される可能性も高く(注5)、メーカーにおけるEVの生産、販売に対する動機は一層低下する見込みだ。
こうした政策変更の影響は既に市場に現れ始めている。2024年に全新車販売台数に占めるEVの割合は1割を超えていたものの、EV税額控除撤廃後の2025年11月には6.3%にまで低下した(図2)。米系メーカーなどは税額控除と同額のインセンティブの提供を打ち出したが、多くが一時的な措置にとどまる。自動車情報サイトのエドマンズは、2026年のEVシェアが6.0%にまで落ち込むと試算している。2030年時点のシェアについては、ブルームバーグBNEFが27%、JDパワーが26%と予測するが、いずれも2024年に公表した予測から大きく下方修正した(注6)。消費者向け支援や規制に支えられてきたEV市場は、今後は市場原理に委ねられる局面へと移行し、成長は続くもののその勢いは鈍化する可能性が高い。
出所:モーターインテリジェンス発表データを基にジェトロ作成
クリーンエネルギー政策から安全保障へ:バッテリーと重要鉱物
バッテリーおよびその原材料である重要鉱物の生産支援は、バイデン前政権がクリーンエネルギー政策として、重点を置いてきた分野だ。これに対しトランプ政権では安全保障の観点から継続して注力する。
2025年7月にトランプ政権が署名した減税・歳出法案「大きく美しい1つの法案(OBBBA)」の審議過程では、IRAで定められたバッテリー生産者に対する税額控除(IRC45X)の撤廃が検討されたものの、最終的には、原産地要件を厳格化した上で存続が決定した。新制度では、一次部品の65%に米国内調達要件が課され、中国を含む禁止外国事業体(PFE)に関与する製品は控除対象から除外されている(2025年12月4日付地域・分析レポート参照)。
さらに8月には、重要鉱物・材料の国内供給網強化に向けて、総額約10億ドルの新たな資金供与の意向を表明。加えて、米レアアース大手MPマテリアルズやリチウム・アメリカズへの部分出資や、オーストラリアの鉱山開発への投資を通じて、補助金供与から、連邦政府の関与を拡大するかたちに方針を転換している。
EV事業を一部整理し、HEV、大型ICE生産へ
GMのメアリー・バーラ会長兼最高経営責任者(CEO)は2025年12月、「われわれは、規制当局が設定した環境に対応するために投資しなければならないが、状況は完全に変化した。180度方向転換し、また180度戻るような状況だ」と自動車メーカーが置かれている苦境を語った(CNBC 12月23日)。GMは2021年当初、2035年までにガソリン車(ICE)の製造を中止する計画を掲げていたが、2025年後半には、当初計画していたEV用モーター生産を切り替え、高出力8気筒エンジン生産に9億ドルの追加投資を行うと発表するなど、より利益率の高い大型ICE生産に注力する。また計40億ドルの拠点投資などで、国内生産割合の引き上げを進めることとした(注7)。一方で、2025年第3四半期の決算では、特別損失として16億ドルを計上してEV関連拠点の整理に充てるとし、その規模が拡大する可能性を公表している。
フォードは、全米で販売が伸びているハイブリッド車(HEV)のラインアップを広げる(図2)。赤字が続くEV部門は195億ドルの特別損失を計上し、大幅な事業再編を行う(注8)。次世代EVトラックおよびバッテリーの生産拠点としてテネシー州に建設している「ブルー・オーバル・シティ」を、ガソリントラック生産を含む拠点へと転換。加えて建設中のEV用バッテリー生産設備の一部を活用して、需要が増加するデータセンターや電力インフラ向けの定置型蓄電池(BESS)事業に参入するなど、生産体制を維持しつつ新たな収益機会の創出も進める。また、ステランティスも北米市場においてHEVを収益確保の中心に据える一方、バッテリー電気自動車(BEV)の大型ピックアップトラック「RAM」の開発中止を決定している(注9)。
EV低迷の中でも、低価格車両でシェア確保
一方、主要自動車メーカーは、関税コストが増し、EV市場の成長が鈍化する中でも、中長期的な競争力を左右する重要分野については、一定の損失を許容しつつ投資を継続している。
GMは低価格EV分野で、2023年にリコールなどを理由に生産を終了していた小型乗用車「ボルトEV」の再生産を公表した。同社は「2026年のEV販売は(いずれも小型の) ボルトとエクイノクスが占める」とみており、販売台数確保には低価格帯が不可欠だとの認識を示している(ウォールストリート・ジャーナル10月9日)。同時に、電池分野では、マンガンを多用しつつ比較的低コストで高エネルギー密度を確保する独自のリチウム・マンガン・リッチ(LMR)バッテリーの開発にも取り組み(注10)、電池事業の収益改善を図る。
フォードも、低価格EVの量産を可能とする「ユニバーサルEVプラットフォーム」の開発に50億ドルを投入し基盤構築を進める。2027年に約3万ドルのBEVのスポーツ用多目的車(SUV)を販売する予定だ。さらに、既存のピックアップトラックEV「F-150 Lightning」をBEV仕様から、発電機を併用する航続距離延長型EV(EREV)仕様に転換する。1回の充電あたり700マイル超の航続距離と牽引性能の両立を図り、電池容量の最適化によってコストを抑えつつ、実際に「使える」トラックに焦点を絞る。
自動化は中長期政策の要、党派を超えた連携に期待も
トランプ政権は2025年4月、自動運転車(AV)の実用化に向けた枠組み(Automated Vehicle Framework)構想を発表した。全米の車両基準である「連邦自動車安全基準(FMVSS)」はAVを前提としないが、例外措置としてメーカーあたり年間2,500台を上限にレベル4(注11)相当車の販売が認められている。これに対し米運輸省は6月、例外適用の手続きの簡素化に加え、9月にAVに搭載不要な部品の基準改正を提案。12月にはトランプ第1次政権下の2020年に開始したAV運用のためのFMVSS見直し作業を完結させるなど、一定のスピードをもって制度の整備を進めている(2025年4月30日付ビジネス短信参照)。米国道路安全保険協会(IIHS)によると、米国では州単位で見ると、26州でレベル3~5に該当する自動運転システム(ADS)を搭載した車両の実装を認めており、そのうち21州ではレベル4~5での走行が可能だ(注12)。カリフォルニア州やテキサス州などでは「ロボタクシー」として商業利用が展開される一方で、連邦レベルでの制度準備の遅れが目立つ(図3)。AVは、人工知能(AI)やサイバーセキュリティーと密接に関わる分野であり、安全保障上も重要性が高い。政党間の対立色が比較的薄く、産業界からの期待も大きいことから、制度整備や技術開発は一定のスピードで進展することが見込まれる。
2024年大統領選挙における支持政党
注:青字の州は、2024年大統領選挙において民主党候補を支持。
出所:IIHS発表データを基にジェトロ作成
- 注1:
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IEEPAに基づき2025年2月にフェンタニル関税としてカナダ、メキシコ、中国からの輸入品に、それぞれ35%、25%、10%(税率は2025年1月時点)を課しているほか、全世界からの輸入品に相互関税・ベースライン関税を課している。さらに232条に基づき、2025年3月には鉄鋼・アルミ製品に50%、4月に自動車に25%、5月に自動車部品に25%の追加関税が発動し、8月には銅の半製品などに50%が適用となった。さらに同月、鉄鋼・アルミの派生品として407品目が追加され、11月には中・大型トラックおよび部品などが対象に加わった。詳細はジェトロ特集ページ「米国関税措置への対応」参照。
- 注2:
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独立系米シンクタンクの国際クリーン交通委員会(ICCT)はEV化による雇用減少は、2030年までに44万人に上るとみている。
- 注3:
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米国エネルギー省ウェブサイト参照
。 - 注4:
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年ごとにインフレ率に合わせ増加する制度。2024MY時点で1ガロン当たり0.1マイルの未達に対して17ドルの罰金が定められている。2011~2020MYに企業が支払った罰金額は合計11億ドルに上る。
- 注5:
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第1次トランプ政権下では、就任1年8カ月後にGHG基準の緩和を提案。現政権でも2025年7月にGHGの「危険因子判定」を撤廃する提案を行っている。
- 注6:
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2024年時点での予測値は、ブルームバーグBNEFが48%、JDパワーは40%であり、大幅に下方修正した(ブルームバーグBNEFウェブサイト参照
)。 - 注7:
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ニューヨーク州での大型車両用の高出力V8エンジンの生産拡大に約9億ドル、ミシガン州、カンザス州、テネシー州の3工場への計40億ドルを追加投資する。
- 注8:
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フォードウェブサイト参照
。 - 注9:
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ステランティスウェブサイト参照
。 - 注10:
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各社導入を進める比較的原料コストが低いリン酸鉄リチウム(LFP)バッテリーよりも低コストかつ、高エネルギー密度を達成する。韓国のLGエナジーソリューションと共同開発している。
- 注11:
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Society of Automotive Engineers(SAE)による自動化レベル。レベル0から5までの6段階に分かれる。レベル4では、一定の条件の下、ドライバーによる運転を前提としていない自動運転システムが操作する。
- 注12:
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州により規制内容が異なることに注意。詳細はIIHS発表データ
を参照。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ニューヨーク事務所 リサーチ・マネージャー
大原 典子(おおはら のりこ) - 民間企業勤務を経て2013年からジェトロ・ニューヨーク勤務。自動車産業を柱に米国の産業調査を担当。




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