急速に変化するベネズエラの政治経済情勢
日本・ベネズエラ商工会議所会頭に聞く
2025年4月17日
日本・ベネズエラ商工会議所(CAVEJA)会頭のエルウィン・ミヤサカ氏に、ベネズエラのビジネス環境、商工会議所の活動状況などについて話を聞いた(取材日:2025年2月19日)。

- 質問:
- ベネズエラの政治・経済状況について
- 答え:
- ベネズエラの動きはいつも急速だ。(石油価格が落ち込んだ)2016年頃の状況は、社会的、経済的、政治的観点から非常に複雑だった。2023年以降にベネズエラを訪問した人々は、変化に驚く。状況が急速に変わったからだ。これはベネズエラの経済、歴史の特徴とも言える。 直近のトピックとしては、(1)2024年7月28日の大統領選、(2)2025年1月のニコラス・マドゥロ大統領就任、(3)ドナルド・トランプ米国大統領の就任、の3つが挙げられる。
- ベネズエラの場合、経済面に影響を及ぼすのは政治的な出来事だ。例えば、2024年7月の大統領選(注1)は経済の減速を引き起こした。投資が止まり、何が起こるかわからないという不安が広がった。2024年後半は不透明感が続き、経済的にも政治的にも相当低迷した。2025年1月10日には、(野党や国際社会から不正選挙の疑念が示される中、)マドゥロ大統領が3期目の就任となった。(マドゥロ大統領の独裁政権は国内の反政府勢力の力だけでは変えられないため)解決策はベネズエラ国内ではなく、国外(諸外国からの協力や制裁の解除への要請など)にあるのではないかという答えだけが残った。
- ベネズエラは石油産出国で、主な産業はエネルギーだ。経済もエネルギー産業の国際的な動きに従うことになる。そのため、2025年1月20日に就任したトランプ大統領が制裁措置で何をしようとしているのかを注視している。ベネズエラでは、トランプ政権が基本的に、不法移民と米国の経済に関する選挙公約に重点を置くとみる向きが多い。ベネズエラへの制裁は個人と特定の政府機関に対するもので、民間部門にはいかなる制裁もない。石油以外は制裁の対象外なので問題なく機能している(注2)。
- 石油についても、各国石油会社は今後もベネズエラで開発計画を進めると見ている(注3)。この前向きな見通しはベネズエラ経済に良い影響をもたらし、今後数カ月以内に民間経済への期待も高まり始めると信じている。これは非常に現実的な可能性だ。
- また、国内経済が良くなれば移民が戻ってきて、これも民間経済にポジティブな影響を与えるだろう。ベネズエラ移民の歴史はキューバやメキシコなどに比べれば非常に短く、まだ彼らは移住先に根を下ろしていない。
- 欧米企業は、ベネズエラでビジネス展開を図っているが、この状況を日本企業に理解してもらうのは難しい。現状、日本企業はベネズエラに足を運びたがらないのでなおさらだ。だからこそ、現状をフォローアップし、発信するジェトロの役割は重要と捉えている。
- 質問:
- CAVEJAについて。
- 答え:
- CAVEJAの設立は、1958年だ。直近の16年間は、私が会議所の会頭を務めてきた。
- この6年間の活動はとてもスローペースだったが、以前はもっと活発だった。会議所発足当時は、ニチメン、住友商事、三菱商事、日商岩井など、ほとんどすべての商社のほか、日本ブランドを代表する企業(パナソニック、スズキ、ヤマハ、カワサキ、ソニー、NECなど)が加入。さらに、ナシオナル・デ・クレディト銀行(Banco Nacional de Crédito:BNC/当地最大の民間銀行)、ディジテル(Digitel/通信)など、地場企業の参画もあった。定期会合に加え、当地エコノミストなどによるプレゼンテーションも提供していた。ここ数年は、日本企業のプレゼンスが非常に低いということもあり、そうしたミーティングを開催していない。
- ただし、2023年にはBNCの頭取と日本へ渡航し、関係企業を訪問した。また、ジェトロと共催でウェビナーを開催するなど、ベネズエラの状況を説明する機会も設けた。2025年からは、会合を再開する予定だ。日本企業のためのセミナーを開くことも検討している。
- ベネズエラに駐在員が常駐する日本企業は現在、トヨタと三菱商事の2社だ。このほか、商社からベネズエラ管轄の担当者が定期的に出張で来ている。今後の商工会議所活動再開にあたり、会員数を増やしていきたい。本来ならリアルの会合参加が理想的ながら、まずはベネズエラを知ってもらうために、国外からのオンライン参加も可能にしたい。
- 注1:
- 選挙の結果、現職(当時)マドゥロ氏の再選を発表した。これに対し野党側は、投票結果の集計に不正があったとして抗議。米国や周辺の中南米諸国からも選挙の透明性を疑問視する声が上がっていた(2024年7月31日付ビジネス短信参照)。
- 注2:
- トランプ大統領は3月24日、ベネズエラ産の原油などを輸入する国に対し、25%の追加関税を課す大統領令に署名した(2025年3月25日付ビジネス短信参照)。
- 注3:
- 撤退の動きも一部にある。例えば、米国財務省外国資産管理局(OFAC)は3月24日、米国石油大手シェブロンがベネズエラで進める石油事業について、当該ライセンスが5月27日までに失効する予定とした。
- エルウィン・ミヤサカ会頭の横顔
-
ミヤサカ氏は会計事務所のデロイトで16年勤務。その後、2011年に自身のコンサルティングオフィスを開設した。
2016年、ベネズエラの経済状況が悪化したタイミングでコワーキングスペースのビジネスを着想。2017年にWeConnectを立ち上げた。その後、ベネズエラの建設最大手のサンビル・グループ(Grupo Sambil)と提携し、良好な関係を構築している。サンビル・グループは、ベネズエラに加え、マドリード(スペイン)やキュラソー(カリブ海に位置するオランダ自治領)などに商業センターを計11カ所所有している。WeConnectが入っているセントロ・リド(Centro Lido)商業センターもサンビル・グループがオーナーだ。
WeConnectはベネズエラのほか、ドミニカ共和国にも展開している。同国では首都サントドミンゴのモール内に700平方メートルのスペースを保有している。
その他、カカオ、コーヒー、ラム酒などを扱う貿易会社も経営。高品質な商品を扱い、日本を含め海外市場を開拓中だ。

- 執筆者紹介
-
ジェトロ・カラカス事務所
マガリ・ヨネクラ - 1998年、ジェトロ入構。ベネズエラ業務全般。

- 執筆者紹介
-
ジェトロ・ボゴタ事務所長
中山 泰弘(なかやま やすひろ) - 2002年、ジェトロ入構。青森、関東貿易情報センター、在ニカラグア日本大使館、サンティアゴ事務所、アディスアベバ事務所などの勤務を経て、2024年8月から現職。