インド乗用車市場、2024年度は国内販売、輸出ともに過去最多
2025年6月19日
インドの2024年度(2024年4月~2025年3月)乗用車〔多目的車(UV)とバンを含む〕国内販売台数は、過去最多の430万台だった(注1)。堅調な需要、インフラ投資、中央政府の支援策などが成長要因である一方、伸び率は前年度比2.0%増と緩やかな成長であった。インド準備銀行(RBI)の利上げによる消費意欲の低下が影響したと推測される。本稿では、乗用車を中心に国内販売と輸出の傾向、メーカー各社のシェアや主な投資状況について分析する。
乗用車国内販売台数は3年連続で過去最多も、成長は鈍化
インド自動車工業会(SIAM)の発表では、2024年度のインドの自動車国内販売台数(乗用車、二輪車、三輪車、商用車を含む)は、2,560万7,391台で前年度比7.3%増だった。部門別では、乗用車が430万1,848台で同2.0%増、二輪車が1,960万7,332台で同9.1%増、三輪車が74万1,420台で同6.7%増、商用車が95万6,671台で同1.2%減となった(表1参照)。
部門 | 生産 | 国内販売 | 輸出 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
2024年度 | 前年度比 | 2024年度 | 前年度比 | 2024年度 | 前年度比 | |
乗用車 | 5,061,164 | 3.3 | 4,301,848 | 2.0 | 770,364 | 14.6 |
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1,749,506 | △ 11.6 | 1,353,287 | △ 12.6 | 398,879 | △ 7.2 |
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3,155,312 | 13.6 | 2,797,229 | 11.0 | 362,160 | 54.3 |
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156,346 | 7.9 | 151,332 | 1.5 | 9,325 | 21.0 |
二輪車 | 23,883,857 | 11.3 | 19,607,332 | 9.1 | 4,198,403 | 21.4 |
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7,437,681 | 16.4 | 6,853,214 | 17.4 | 569,093 | 11.1 |
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15,922,027 | 9.1 | 12,252,305 | 5.1 | 3,620,886 | 23.0 |
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524,149 | 7.4 | 501,813 | 4.2 | 8,424 | 208.8 |
三輪車 | 1,050,020 | 5.4 | 741,420 | 6.7 | 306,914 | 2.3 |
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905,821 | 7.0 | 601,642 | 9.8 | 303,141 | 2.4 |
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121,195 | 4.4 | 117,156 | 5.1 | 3,739 | △ 4.1 |
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18,715 | △ 37.3 | 18,474 | △ 41.0 | 34 | — |
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4,289 | 12.8 | 4,148 | 6.3 | — | — |
商用車 | 1,032,645 | △ 3.3 | 956,671 | △ 1.2 | 80,986 | 23.0 |
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639,026 | △ 5.2 | 582,852 | △ 2.0 | 57,735 | 21.3 |
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393,619 | 0.0 | 373,819 | △ 0.1 | 23,251 | 27.6 |
合計 | 31,034,174 | 9.1 | 25,607,391 | 7.3 | 5,363,089 | 19.2 |
注1: BMW、メルセデス、ジャガー、ボルボ・オート、ダイムラー、JBMオート&スキャニアのデータは含まれない。
注2: 電動リキシャは主に乗客輸送、電動カートは主に貨物輸送に使われる。
出所:インド自動車工業会(SIAM)
経済の停滞や新型コロナウイルスの流行などを経た、直近6年間の国内販売台数の推移を振り返る。2019年度は、長引く不景気や不良債権問題から派生する金融機関の貸し渋りなどを要因に、前年度比17.9%減と約5年ぶりに販売台数が減少した。2020年度は、新型コロナの流行によるロックダウン、半導体やコンテナの不足、新排ガス規制の導入などにより、前年度比2.2%減と2019年度に続き2年連続の減少となった。2021年度は、需要の回復により販売台数は増加したものの、変異株の感染拡大や継続する半導体不足、原材料の高騰などにより、2018年度の水準(338万台)には届かなかった。その後、新型コロナの沈静化や半導体の供給状況の改善、個人所得税率の軽減などにより消費意欲が活性化されたことで、2022年度は前年度比26.7%増の389万台と当時の過去最多販売台数を記録した。2023年度は政府の支援策などによる堅調な国内経済の成長に支えられ、前年度比8.4%増の422万台と伸展、2024年度は前年の高成長がベースになっていたため前年度比2.0%増の緩やかな成長となったが、430万台を記録した(図1参照)。

出所:インド自動車工業会(SIAM)の発表を基にジェトロ作成
乗用車シェア、2~4位がほぼ並ぶ
乗用車の主要メーカー別販売台数の伸びは、上位3社は低調あるいはマイナスであった一方、4、5番手が好調だった。首位のマルチ・スズキは前年度比0.1%増と横ばいの176万767台、2位の現代自動車は同2.6%減の59万8,666台、3位のタタ・モーターズは同2.3%減の56万9,245台とそれぞれ不調だった。一方、4位のマヒンドラ&マヒンドラは同19.9%増の55万1,487台、5位のトヨタ・キルロスカは同25.9%増の30万9,230台と成長が著しい(表2参照)。トヨタ・キルロスカは、多目的車の販売台数が同35%増と大幅伸展したことや、ティア2、ティア3都市(注2)での存在感が増したことによる顧客接点の増加などを躍進の要因として発表した(トヨタ・キルロスカウェブサイト参照)。
市場シェアの変化では、マルチ・スズキが40.9%、現代自動車が13.9%、タタ・モーターズが13.2%でいずれも前年度から減少した一方、マヒンドラ&マヒンドラは12.8%、トヨタ・キルロスカは7.2%と伸ばした。その結果、マヒンドラ&マヒンドラは、現代自動車とタタ・モーターズを追い上げ、トヨタ・キルロスカは起亜を引き離した(図2参照)。日系5社(マルチ・スズキ、トヨタ・キルロスカ、ホンダ、日産、いすゞ)は、合計で216万4,187台を販売。前年度比1.9%増で2023年度と同水準になった。日系5社のシェアは50.3%だった。
メーカー | 2023年度 | 2024年度 | 増減率 |
---|---|---|---|
マルチ・スズキ | 1,759,881 | 1,760,767 | 0.1 |
現代自動車 | 614,721 | 598,666 | △ 2.6 |
タタ・モーターズ | 582,915 | 569,245 | △ 2.3 |
マヒンドラ&マヒンドラ | 459,877 | 551,487 | 19.9 |
トヨタ・キルロスカ | 245,676 | 309,230 | 25.9 |
起亜 | 245,634 | 255,207 | 3.9 |
ホンダ | 86,584 | 65,925 | △ 23.9 |
シュコダ・オート | 44,522 | 44,868 | 0.8 |
フォルクスワーゲン | 43,197 | 42,230 | △ 2.2 |
ルノー | 45,439 | 37,900 | △ 16.6 |
日産 | 30,146 | 27,881 | △ 7.5 |
JSW MGモーター | 44,115 | 25,543 | △ 42.1 |
PCAモーターズ | 8,367 | 6,516 | △ 22.1 |
FCAインディア・オートモービル | 5,406 | 3,865 | △ 28.5 |
フォース・モーターズ | 1,755 | 2,134 | 21.6 |
いすゞモーターズインディア | 515 | 384 | △ 25.4 |
合計(その他を含む) | 4,218,750 | 4,301,848 | 2.0 |
出所:インド自動車工業会(SIAM)

注:カッコ内は2023年度のシェア。
出所:インド自動車工業会(SIAM)の発表を基にジェトロ作成
UVの需要はさらに高まる
次に、乗用車のセグメント別では、一般乗用車が前年度比12.6%減の135万3,287台と落ち込んだが、多目的自動車(UV)が同11.0%増の279万7,229台、バンが同1.5%増の15万1,332台と、UVが乗用車全体の緩やかな成長を牽引した(表1参照)。乗用車国内販売台数におけるUVの割合は、2023年度は60%だったが、2024年度は65%に増加しており、引き続きUVの堅調な人気が続く。
UVのメーカー別シェアは、上位4社については前年度と大きな変動はなく、マルチ・スズキが25.7%(前年度25.5%)、マヒンドラ&マヒンドラが19.7%(同18.2%)、タタ・モーターズが15.5%(同15.4%)、現代自動車が14.7%(同15.4%)だった。5位のトヨタ・キルロスカは前年度比35.3%増と大幅伸展したことでシェアは9.2%(同7.6%)を獲得し、9.1%(同9.7%)の起亜を追い越した(図3参照)。国内販売台数の上位モデルは、マルチ・スズキのコンパクトモデル(「スイフト」など)やコンパクトUVモデル(注3)(「ブレッツァ」など)、タタ・モーターズのコンパクトUVモデル(「ネクソン」など)などが占める。コンパクトモデルが好まれる傾向はあるが、前年度からの成長率はUVミニモデル(注4)やUVモデルの人気車種ではいずれも2桁増とより大きい。消費者のプレミアムモデル志向の背景として、グラントソントンバーラットの調査レポートによると、車両を新規購入する目的として「保有する車両からのアップグレード」と回答した割合が全体の約4割と最も多かった。さらに、回答者の85%がより上位モデルの購入に前向きな検討を行うことが示された。

注:カッコ内は2023年度のシェア。
出所:インド自動車工業会(SIAM)の発表を基にジェトロ作成
乗用車輸出台数も過去最多
乗用車の輸出台数は前年度比14.6%増の77万364台で、2019年度の67万7,311台を超えて過去最多を記録した(表1参照)。主要メーカーのシェアは、上位6位に日系企業が4社入っており、首位マルチ・スズキが42.8 %、3位日産が9.3%、4位ホンダが7.8%、6位トヨタ・キルロスカが3.6%だった。4社いずれも前年度の輸出台数から2桁成長を遂げ、インドの製造は内需の取り込みのみならず、近隣国市場への輸出に対応する姿勢が見える(図4、表3参照。「輸出先」は後述)。
マルチ・スズキは、2024年8月にインドで製造されたSUV「フロンクス」約1,600台を日本に向けて輸出した。2016年から日本向け輸出を行っている乗用車「バレノ」に次ぐ2車種目となった。加えて、スズキ初のバッテリー式電気自動車(BEV)「イーヴィターラ」は、グローバル製造拠点としてインドを位置づけており、2025年度には欧州や日本など約100カ国に輸出する計画も発表している。

出所:インド自動車工業会(SIAM)の発表を基にジェトロ作成
メーカー | 2023年度 | 2024年度 | 増減率 |
シェア (2024年度) |
---|---|---|---|---|
マルチ・スズキ | 280,712 | 330,081 | 17.6 | 42.8 |
現代自動車 | 163,155 | 163,386 | 0.1 | 21.2 |
日産 | 42,989 | 71,334 | 65.9 | 9.3 |
ホンダ | 37,589 | 60,229 | 60.2 | 7.8 |
フォルクスワーゲン | 44,180 | 49,543 | 12.1 | 6.4 |
トヨタ・キルロスカ | 17,383 | 27,640 | 59.0 | 3.6 |
起亜 | 52,105 | 26,892 | △ 48.4 | 3.5 |
マヒンドラ&マヒンドラ | 11,135 | 15,743 | 41.4 | 2.0 |
ルノー | 11,266 | 13,322 | 18.2 | 1.7 |
PCAモーターズ | 3,278 | 5,259 | 60.4 | 0.7 |
タタ・モーターズ | 2,648 | 2,847 | 7.5 | 0.4 |
FCAインディア・オートモービル | 4,102 | 2,765 | △ 32.6 | 0.4 |
シュコダ・オート | 1,554 | 1,255 | △ 19.2 | 0.2 |
いすゞモーターズインディア | 6 | 58 | 866.7 | 0.0 |
フォース・モーターズ | 3 | 10 | 233.3 | 0.0 |
合計(その他を含む) | 672,105 | 770,364 | 14.6 | 100.0 |
出所:インド自動車工業会(SIAM)
セグメント別輸出では、一般乗用車が前年度比7.2%減の39万8,879台、UVが同54.3%増の36万2,160台、バンが同21.0%増の9,325台だった(表1参照)。マルチ・スズキと日産自動車のコンパクトモデルがそれぞれ前年度から3.1倍、ホンダのミニモデルが同4.4倍とそれぞれUVの輸出台数を大幅に引き上げた。
なお、乗用車(HSコード8703)の輸出先上位5カ国は、金額ベースではサウジアラビア、南アフリカ共和国、メキシコ、日本、アラブ首長国連邦(UAE)、台数ベースでは南ア、サウジアラビア、メキシコ、UAE、日本だった(注5)。
2025年度も堅調な成長を見込みつつ、市場は緩やかな拡大を予測
2025年度のインド自動車市場の見通しについて、SIAMは安定的なマクロ経済、能動的な政策(EV普及に向けた中央政府や各州政府による製造者・消費者への補助金の支給など)、政府によるインフラ支出により、成長傾向は維持されると予想している。加えて農業に大きな影響を与えるモンスーンによる降雨量が、2025年度は平年並みとの予測で、これが自動車需要の追い風となる農村部や準都市部の経済を支えると見込んでいる。さらに、2025年度連邦予算で発表された個人所得税の改正などによって自動車ローンの利用が促進され、消費が喚起されるとコメントした。また、インド自動車販売店協会連合(FADA)は、2025年度の乗用車販売は前年度比1桁台の伸展を予測している。販売店を取り巻く環境においては資金調達の制約が依然としてあり、厳格な与信基準の緩和や、借り入れコスト削減のためのRBIによる利下げの必要性を指摘した。また、米国の関税措置や他国の対応によって生じる株式市場の混乱、投資信託のリターンの低減による可処分所得の低下が、消費の冷え込みにつながる可能性についても言及した。
- 注1:
- 出荷ベース。本稿で扱う統計は全て出荷ベース。
- 注2:
- 人口に加え、空港、病院、教育施設などの設置状況や、物価などを総合的に判断して指定される都市区分。最も大都市の分類のティア1都市には、デリー、ムンバイ、コルカタ、ベンガルール、チェンナイ、ハイデラバード、アーメダバード、プネの8都市が指定されている。
- 注3:
- UVコンパクトモデルは、全長4メートル未満・価格帯200万ルピー(約340万円、1ルピー=約1.7円)未満を指す。
- 注4:
- UVミニモデルは、全長4メートル以上4.4メートル以下・価格帯200万ルピー未満を指す。
- 注5:
- Global Trade Atlasよりジェトロ抽出。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・ベンガルール事務所
大野 真奈(おおの まな) - 2017年、ジェトロ入構。ものづくり産業部環境・インフラ課、福島事務所を経て2023年1月から現職。