スズキのインド四輪戦略の今
販売・輸出・EV・新市場

2025年12月2日

インド乗用車市場で約4割とトップシェアを誇るスズキ。同社は2025年3月期連結決算で売上収益と営業利益が過去最高を更新。インドの売上収益は2兆4,476億円でグローバルでの構成比42%を占め、四輪車事業でのインドの販売台数は179万5,000台で同55.4%を占めた。

スズキのインドの四輪子会社マルチ・スズキ・インディア(マルチスズキ)は、北部のハリヤナ州グルグラム、マネサール、カルコダおよび西部グジャラート州ハンサルプールに4つの工場を有し、生産能力は260万台となっている。同社は成長を続けるインド市場を背景に、製造輸出拠点としての位置付けをますます強めている。

スズキのインド四輪車事業の現況と今後の展開、電気自動車(EV)、輸出戦略などについて、スズキ株式会社で次世代モビリティサービス本部、BEVソリューション本部、商品企画本部を管掌する常務役員の橋本隆彦氏と商品企画本部四輪原価管理部長の鈴木正倫氏に聞いた(インタビュー日:10月17日)。


スズキの橋本隆彦常務(スズキ提供)

スズキの鈴木正倫部長(スズキ提供)

GST引き下げが好影響、SUVにも注力

質問:
インドでの販売の状況は。
答え:
直近の売り上げは好調だ。インド政府は祝祭シーズンが始まった9月22日に、物品・サービス税(GST)の新税率を施行した(2025年9月25日記事参照)。当社が得意とする小型車などのGST税率が引き下げられた。インドの独立記念日である8月15日に、ナレンドラ・モディ首相がGST改革を発表してからは、消費者の買い控えが続いていたが、GSTの引き下げ以降、販売は一気に回復し好調に推移している。ただ、実際のGST引き下げによる需要喚起の影響は、もう少し慎重に見る必要があると考えている。
販売では、スポーツ用多目的車(SUV)が好調だ。新型SUVの「ビクトリス」を9月3日に発表した。インドの乗用車市場では販売比率の6割がSUVだといわれているが、当社はこれまで同分野での対応が遅れていた。SUVであり、当社初のBEVである「eビターラ」も今年度中にインドでも発売予定だ。この分野で来年度以降、一気に巻き返しを図りたい。
インドは乗用車500万台の市場に成長しているが、規模としてはまだ中国の6分の1だ。今後も需要増加が見込まれるため、まだ市場として製品が届いていない農村部などへの販売拡大を進めていく。

2025年9月にインドで発表した新型SUV「ビクトリス」(スズキ提供)
質問:
トヨタとの連携の状況は。
答え:
2018年の相互供給の合意に基づき、当社からトヨタへはハッチバックなどを提供し、反対に同社から当社へはハイブリッド技術などを供給してもらっている。両社の得意分野を生かして、相互補完しているかたちだ。また、アフリカ市場に向けて当社のインド製の小型車をOEM供給している。

EV普及には手頃な価格のモデルが必要

質問:
現状では二輪、三輪が中心のインドのEV市場動向をどう見ているか。
答え:
インド政府は乗用車新車販売のEV比率目標を2030年に30%としているが、当社はその達成は難しい状況と考えている。現在のEV四輪市場は地場のタタ・モーターズやマヒンドラ&マヒンドラ、中国系のMGモーターが牽引している。中でもMGの「ウィンザー」は、価格は140万ルピーほど(約238万円、1ルピー=約1.7円)とEVの中では比較的安価で人気がある。しかし、ガソリン車よりは高いので、やはりEVは限られた人だけが購入できるイメージだ。EVの価格が下がり、消費者が購入しやすくならないと普及は進まず、これは日本も同様の状況だ。EVの車種が揃ってくれば選択肢が広がり、普及も進んでいくだろう。「eビターラ」についても普及型モデルを発表予定で、2030年までに3機種を予定しているが、モデル投入は市場動向を見ながら進めていく。
当社のマルチパスウェイ(注)の取り組みでは、引き続きCNG(圧縮天然ガス)車の車種を増加させていくとともに、今後はバイオガスにも注力する。インドで牛ふんをバイオガスと有機肥料に変える取り組みを進めている。CBG(圧縮バイオメタンガス)はCNGの代替燃料となる。

CBG(圧縮バイオメタンガス)対応車(スズキ提供)

インドからの輸出は過去最高を記録

質問:
インドからの輸出の状況は。
答え:
マルチスズキから2024年には、前年比121%となる過去最高の約33万台を輸出した。仕向け先は、南アフリカに10万台、サウジアラビアに3万台のほか、チリ、メキシコなどの中南米や日本が多く、現在115カ国へ輸出している。製造ボリュームがあるインドでは低コストでの製造が可能なため、インド製品を各国に輸出するなど、全世界的に見て、最適価格で製造できる場所から市場へ向けて輸出している。そのため、企画段階から、日本向けであれば日本の好みなども踏まえて設計するなど、輸出を前提にした開発を進めている。例えば「eビターラ」も、欧州や日本の市場を考えて、インド市場では需要の低い四輪駆動車(4WD)をラインナップに加えている。

「次なるインド」としてのアフリカ

質問:
輸出先として一定割合を占めるアフリカ展開については。
答え:
現在アフリカでは南アフリカ共和国などを中心に販売しているが、台数は10数万台規模で浮き沈みが激しい。政治経済情勢やさまざまな規制、必要な手続きなど、ビジネス上の課題は多い。しかし、将来大きく成長する市場であることは間違いない。そのため、今まではインドで製造している車種からアフリカ市場に合いそうなものを選んで投入していたが、今後はアフリカ市場も加味した上で、開発製造を進めていく方針であり、既に動き出している。
インドも参入当初は自動車需要が10万台ほどだった。アフリカは国ごとの違いもあり難しさはあるが、比較的需要や政権が安定している国を探してビジネスを進めていきたい。
質問:
昨今の米国関税下での米印関係の変化から、インドと中国の関係性についても注目が高まっている。現在は外資規制の影響もありインドで中国企業の存在感はそこまで大きくないが、中国企業の動きはどう見ているか。
答え:
インド地場メーカーを中心に、中国系サプライヤーが多く入ってきているのを感じる。中国企業とのジョイント・ベンチャーも進んでいるようだ。インド市場にも大きく参入してくるようになると、中国メーカーの価格面での強みなどは脅威となる。

注:
各地の市場動向などを勘案し、特定技術に依存せず、多様な技術的選択肢を用意してカーボンニュートラルを実現していく戦略。
執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課 課長代理
古屋 礼子(ふるや れいこ)
2009年、ジェトロ入構。在外企業支援課、ジェトロ・ニューデリー事務所実務研修(2012~2013年)、海外調査部アジア大洋州課、 ジェトロ・ニューデリー事務所(2015~2019年)を経て、2019年11月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課
深津 佑野(ふかつ ゆうの)
2022年、ジェトロ入構。海外調査部海外調査企画課を経て、2023年8月から現職。