中東・アフリカにおける物流とインフラプロジェクトの動向を探る中東向けの新たな物流ルートとして整備が進むオマーンの港湾
2025年12月26日
インド洋に面するオマーンは、その地理的優位性を生かし、近年、港湾開発に力を入れている。中東の海運ルートでは、地域情勢の悪化を背景とした紅海経由の物流の混乱に加えて、ホルムズ海峡の閉鎖リスクも潜在的に存在しており、その代替ルートとしてオマーンの港湾が頭角を現している。
産業多角化が後押しする物流インフラ拡充
オマーンの港湾はインド洋沿岸に位置することから、ホルムズ海峡を通過することなく、湾岸地域との物流を可能とする代替ルートとして注目を集める。また、オマーンは石油・ガスへの依存から脱却し、産業の多角化に取り組んでいる。中でも、再生可能エネルギー(再エネ)開発を推進し、グリーン水素・アンモニアや、それらを使って製造するグリーンスチール(注1)などの新産業の創出も見据えて(2023年6月9日付地域・分析レポート参照)、必要となる輸送ルートや製造拠点としての環境整備に取り組んでいる(図参照)。
周辺国との鉄道網の接続構想も、同国の物流インフラ強化を後押しする。オマーンが建設中のハフィート鉄道プロジェクトは、オマーン鉄道とアラブ首長国連邦(UAE)のエティハド鉄道を接続する計画である。将来的にはその先のサウジアラビアとも接続することを視野に入れており、湾岸協力会議(GCC)鉄道ネットワークへの統合を推進するものだ。この物流ルートが実現すれば、UAEおよびサウジアラビアとの国境を越えた陸上貿易が拡大し、輸送コストの削減も期待される。
オマーン運輸・通信・情報技術省によれば、2024年のオマーン全体の港湾取扱貨物量は、一般貨物・ばら積み貨物・液体貨物を合わせて1億3,700万トン(前年比15%増)に達し、同国の総貿易額の77%を占めた。主要港であるサラーラ港とソハール港の合計取扱コンテナ数は420万TEU(1TEUは20フィートコンテナ換算)に達した。
国連貿易開発会議(UNCTAD)によれば、主要貿易相手国(2023年)は、輸出入総額順にUAE、サウジアラビア、インド、中国、カタールとなっている。オマーンはまた、米国やシンガポールなどと自由貿易協定(FTA)を締結している(注2)。イランやイエメンを含む周辺国と関係が良好で、地政学的に安定した位置にあることも魅力だ。
拡張計画が進む主要港と経済特区
出所:Global Dataからジェトロ作成
オマーン南部に位置するサラーラ港は同国最大の港湾で、運輸・通信・情報技術省によれば、2024年の年間取扱コンテナ量は約330万TEUに上る。2024年に世界銀行が発表したコンテナ港効率性ランキングでは世界2位に輝くなど、荷役の効率性においても高い評価を受けている(2024年6月6日付ビジネス短信参照)。さらに、3億ドルを投じた拡張工事により、ターミナル容量を450万TEUから650万TEUに増強し、中継港としての機能を強化した。隣接するサラーラフリーゾーンには、石油化学、医薬品・ヘルスケア、食品加工、再エネ・水素などの分野で企業が拠点を置く。また、サラーラ空港とも近い位置にあり、港湾と空港の接続性の良さも強みだ。
オマーンの港湾を起点とした代替輸送ルートの開発は日本企業の中でも検討が始まっており、住友倉庫は2025年12月、アラビア半島を縦断する新たな輸送ルートの実証輸送を行うと発表した。サウジアラビアのダンマン向けの海上貨物輸送について、ホルムズ海峡とペルシャ湾を経由しないサラーラ港からの陸送ルートが代替(事業継続計画:BCP)ルートになりうるか有効性を検証する。
オマーン中部に位置するドゥクム港でも、大規模な開発が進行している。専用コンテナヤード(34ヘクタール)とバース(注3、1,130メートル)による本格的なコンテナ取扱業務が開始され、コンテナターミナルの容量は現行の20万TEUから170万TEUへ拡張予定である。ドゥクム港の拡張工事は今後も続き、ドライバルクや自動車などのターミナルを含む年間取扱量が2030年までに600万TEUとなる計画だ。また、ドゥクム経済特区(SEZAD)では、再エネハブとしての開発が進む。三井物産は2023年4月、ドゥクム経済特区において神戸製鋼と共同で、将来的な水素利用も想定した低炭素の鉄源製造プラントの事業化の検討を開始したと発表している(2023年6月9日付地域・分析レポート参照)。また、日本郵船は2025年10月、ドゥクム港の港湾管理・運営会社であるポートオブドゥクムカンパニー(Port of Duqm Company、PODC)と、同港の開発と連携強化に関する覚書(MOU)を締結した。日本郵船は同MOU締結を通じて、グリーンスチール産業の支援、中東域内の完成車輸送に対する新たなソリューション開発、グリーンエネルギーの製造や輸送といった多角的分野で、PODCと具体的な協議を進めていくという。日本郵船によると、同港は再エネを利用した水素やアンモニアの製造と輸出のハブとなることが期待されているという(2025年11月7日付ビジネス短信参照)。
オマーンの北部に位置するソハール港は、隣接する工業地区・団地に鉄鋼、アルミ精錬、肥料、石油精製などの製造拠点が集積しており、国内有数の工業地帯として知られる。同港によれば2024年の年間取扱コンテナ量は94万TEUで、オマーン経済特区・フリーゾーン公社(OPAZ)が運営するソハール港フリーゾーンには1,900社以上が入居しているという。再エネの取り組みも模索しており、2025年12月には、OPAZがスイス連邦材料科学技術研究所(Empa)と再エネ施設設立のフィージビリティスタディに関する協定を締結した、と報道された。
| インフラ | 主要商品 |
年間貨物取扱能力 (100万トン) |
TEU (100万個) | 拡張計画 |
|---|---|---|---|---|
| マスカット国際空港 | 電子機器、医薬品、生鮮品 | 0.7 | — | 拡張計画は発表されていない |
| サラーラ国際空港 | 生鮮品、農産物、工業製品 | 0.2 | — | 拡張計画は発表されていない |
| サラーラ港 | ばら積み貨物、石油化学製品、車両、家畜 | 20 | 6.5 | 2030年までに800万TEUに達する拡張計画がある |
| ソハール港 | ばら積み貨物、石油化学製品、金属、農産物、コンテナ貨物 | 60 | 1.5 | 拡張計画は発表されていない |
| ドゥクム港 | ばら積み貨物、石油・ガス、工業製品 | 20 | 3.5 | 2030年までに600万TEUに達する拡張計画がある |
| ソハール・フリーゾーン | 石油化学製品、金属、食品、コンテナ、生鮮品・工業製品の倉庫保管 | — | 1.5 | 2027年までに200万TEU対応目指し、ドライバルク・食品ターミナルを拡張 |
| ドゥクム経済特区(SEZAD) | 石油・ガス、石油化学製品、グリーン水素、工業用資材 | 20 | 3.5 | 2030年までに600万TEU、貨物量5,000万トンに達する拡張計画 |
出所:UNCTAD、GlobalDataを基にジェトロ作成
国家戦略としてグローバル物流ハブを目指す
オマーンは、国家成長戦略として「ビジョン2040
」を定め、同国がグローバル物流ハブとなり、物流部門におけるGDPへの寄与率を2020年の6%から2030年までに12%へ引き上げることを目標としている。さらに、2040年までに物流・インフラ分野へ260億ドルの海外直接投資(FDI)を誘致することを目指す。その一環として、第10次5カ年計画(2021-2025年)ではインフラ開発に180億ドル(うち運輸・物流プロジェクトに50億ドル)を投じ、国家物流戦略2040では、年間2億トンの貨物処理能力と港湾取扱能力1,000万TEU達成に向け、港湾・物流ゾーン拡張や鉄道網に120億ドルの投資を計画している。各プロジェクトの進展に伴う主要港湾の環境整備や接続性のさらなる向上に期待が集まる。
- 注1:
- 水素還元製鉄など温室効果ガス(GHG)が発生しない製鉄技術で製造された鉄鋼のこと。
- 注2:
- オマーンは、米国と「米国・オマーン自由貿易協定」、シンガポールとは「GCC・シンガポール自由貿易協定」を締結している。
- 注3:
- 船舶を係留し、貨物を積み降ろしするための施設。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ドバイ事務所
清水 美香(しみず みか) - 2010年、ジェトロ入構。海外調査部中東アフリカ課、海外調査企画課、ジェトロ埼玉などを経て、2023年9月から現職。




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