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水素ステーションの整備が進む広東省(中国)

2019年10月18日

電池燃料自動車(FCV)は、走行時に水しか発生しないため「究極のエコカー」と呼ばれる。中国政府は、環境・エネルギー問題への対策のとして、電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド車(PHV)に続き、FCVの普及に向けた取り組みにも本腰を入れようとしている。こうした中で、広東省では、国の取り組みに先駆け、インフラ基盤である水素ステーションの建設を進めている。

中央政府がFCVの普及に向けた取り組みを本格化へ

これまで中国の新エネルギー車(NEV)市場の成長を牽引してきたのは電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド車(PHV)である。他方で、FCVは、水蒸気を排出するだけで、大気汚染の原因物質を排出せず、EVと比べても燃料充填(じゅうてん)時間が短く、航続距離も長い。中国政府は、EV、PHVに続き、FCVの普及に向けた政策も打ち出し、取り組みを本格化させようとしている(2019年6月18日付ビジネス短信参照)。

李克強首相は2018年5月の訪日に際して、FCV「ミライ」を製造するトヨタ自動車の北海道工場を視察。FCVの燃料を供給する水素ステーションの運営に高い関心を示し、2019年3月5日に開幕した全国人民代表大会における国務院の「政府活動報告」で、初めて水素ステーションの建設推進について言及した。

また、同月26日には、財政部、工業情報化部、科学技術部、国家発展改革委員会が「新エネルギー車の普及・利用の財政補助政策をさらに完備することに関する通知」を発表。EVおよびPHVメーカーに対する補助対象車両の航続距離が引き上げられ、交付基準額が減額されたが(2019年4月5日付ビジネス短信参照)、その補助の削減分を充電設備と水素ステーションのインフラ建設に充てる旨が明記された。

さらに、国家発展改革委員会が2019年4月8日に発表した「産業構造調整指導目録(2019年版)」の意見募集稿では、水素ステーションおよび水素の製造、輸送、貯蓄技術と設備製造が奨励類に追加されている。

仏山市、雲浮市が先行、ガソリンスタンドとの連携も

広東省では、各地でFCVの普及に向けた取り組みを進めている。

うち、仏山市政府は、2016 年に中国で初めて「水素ステーション建設審査ガイドライン」を制定し、水素ステーション設置の計画から建設、運営管理までの指針を体系的にまとめた。また同年に、同市三水区において、中国で初となるFCVバスの運行が12台1路線で開始。2017年3月にさらに6台を投入して2路線での運用を拡大し、2018年12月には同市禅城区でも、新たな水素ステーションの完成に伴い、70台のバスの運行が始まった。

さらに、仏山市政府は2017年12月、中国石油集団(CNPC)、中国石油化工(シノペック)とMOU(覚書)を交わした。これにより、水素ステーションをガソリンスタンドと併設させ、建設、運営コストを抑えることが可能となった。2019年7月には、中国で初めてガソリンスタンドに併設する水素ステーションが同市で運営を開始した。

仏山市政府では、モビリティ分野の水素利活用の普及を進めるべく、水素ステーションを2019年末までに28カ所、2025年までに43カ所、2030年までに57カ所建設する計画を打ち出している(表1参照)。

表1:仏山市のモビリティ分野の水素普及計画
種別 単位 2018年 2019年 2020年 2025年 2030年
公共バス 台(保有量) 290 1,000 1,500 2,500 4,000
乗用車 台(保有量) 0 0 0 1,000 11,000
フォークリフト 台(保有量) 0 0 0 550 1,550
モノレール 台(保有量) 0 0 20 60 100
物流車/専用車 台(保有量) 1,000 3,000 4,000 6,000 10,000
水素ステーション 基(累計) 10 28 28 43 57

出所:「仏山市水素エネルギー産業発展規画(2018~2030年)」に基づきジェトロ作成

このほか、仏山市政府は、2018年11月に民間企業の水素ステーション建設に対する補助金措置も発表した。2016年から2020年までに建設され、充填量が1日当たり200キログラム以上の移動式ステーションに対して150万元(約2,250万円、1元=約15円)を、1日当たり350キログラム以上~500キログラム未満の固定式ステーションに対して300万元を、1日当たり500キログラム以上の固定式ステーションに対して500万元をそれぞれ補助している。

仏山市南海区政府は、さらに補助額を引き上げ、固定式水素ステーションの建設に対する補助額のうち、最高額は全国で最も高い800万元としたほか、水素ステーションの運営に対しても補助も実施している(表2、表3参照)。

表2:仏山市南海区の水素ステーションの建設に対する補助基準(ーは値なし)
類別 充填能力
(1日当たり)
新設/改築 完工時期および補助額
2018年末まで 2019年末まで 2020~2022年
固定式 500キログラム以下 新設 500万元 300万元 200万元
改築 400万元 300万元 200万元
500キログラム超 新設 800万元 500万元 300万元
改築 600万元 450万元 300万元
移動式 350キログラム以上 新設 250万元 150万元
改築 200万元 150万元

出所:仏山市南海区人民政府

表3:仏山市南海区の水素ステーションの運営に対する補助基準
年度 販売価格
(1kg当たり)
補助額
(1kg当たり)
2018~2019年度 40元以下 20元
2020~2021年度 35元以下 14元
2022年度 30元以下 9元

出所:仏山市南海区人民政府

雲浮市は、仏山市の支援を受けて、積極的にFCV産業に取り込んできた。広東省では、省内の地域間格差の是正に向けて、仏山市を含む珠江デルタ地域の都市と、それ以外の周辺地域の連携を推進しており、同政策の一環として実施しているものだ。これにより、雲浮市でも2016年10月にFCVバスが10台1路線で運行開始し、2020年までに市内を運行するバスを全てFCVまたはEVに切り替える計画。バスの運行に必要な水素ステーションを2019年度内に市内各県ごとに最低1カ所を設置するとして、インフラ構築に力を入れている。

広東省政府もFCVの産業化を後押し

仏山市、雲浮市が先行する中で、広東省政府としても、省を挙げた取り組みを始めた。同省政府は2018年6月、「新エネルギー自動産業の発展・促進に関する意見」を発表(2018年6月25日付ビジネス短信参照)。FCVの産業化推進についても盛り込まれ、うち水素ステーションの建設に関しては、仏山市の先行事例を基に、設計・建設・運営に関する管理体制・建設基準の完備を進めることがうたわれたほか、ガソリンスタンドとの共同建設を奨励。既存のガソリンスタンド用地に水素ステーションを建設する場合には、土地使用の関連手続きを免除する方針が示された。

地場メーカーによる商用車が先行

2018年時点では、中国で製造・販売されたFCVは、全てバスや貨物車などの商用車である。華北では、山東省の中通客車ホールディングスが主に貨物車などの専用車を、華南では仏山市飛馳汽車製造(以下、飛馳汽車)が主にバスを量産している。

飛馳汽車は、広東省仏山市を本拠地とする1971年設立のバスメーカーである。同社は、上述の仏山市と浮雲市の連携によるFCV産業の発展推進の一環として、2016年10月に生産基地を雲浮市に移転。FCVバスを含む、年間5,000台の新エネルギーバスの生産能力を有し、上述の両市で運行を開始したFCVバスも同社製である。

また、同社のFCVバスは、中国国内のみならず、マレーシア・サラワク州の州都クチンにも路線バス用に10台を納品し、2019年5月に現地で運行が開始した。中国メーカーがFCVバスを海外に輸出するのは初となる。

巨大な人口が生み出す旺盛な需要が魅力な中国において、FCV関連分野でも潜在的需要の大きさが注目されている。今後も、水素ステーションの整備状況の進展およびFCVの普及動向に注視していきたい。

執筆者紹介
ジェトロ・広州事務所
盧 真(ロ シン)
2004年、ジェトロ・広州事務所入所。これまでに総務関係、日本企業の中国進出支援、調査、対日投資、イノベーション促進、経済分析などを担当。

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