ASEAN主要国の産業政策と企業によるサプライチェーン対応タイの現場課題を解決する化学製品商社の供給網戦略(フジケミ)

2026年4月30日

フジケミトレーディング(東京都中央区)は、エレクトロニクス、自動車、建築など幅広い業界向けに、化学系製品の電気電子材料やフィルムを供給する専門商社だ。同社の最大の特徴は、単なる商社機能だけでなく、顧客側の在庫管理を代行するVMI(Vendor Managed Inventory)や、タイ・ベトナム自社工場での微細スリット加工といった「物流支援機能と製造機能」を併せ持つ点にある。

1990年のタイ進出以来、日本の製造業のアジアシフトに呼応し、アジアにおける化学製品のサプライチェーンの不可欠なピースとして存在感を高めてきた同社。地政学リスクの高まりやチャイナプラスワン、ASEAN事業の拡大によるASEANプラスワンの潮流、さらにはデジタル化が進むタイ市場において、いかにして独自のポジションを築いているのか。現地法人の経営を牽引するフジケミタイの林大樹Managing Directorに、その戦略を聞いた(取材日:2026年2月25日)。


林Managing Director(ジェトロ撮影)

商社の枠を超えた多機能展開:タイ進出35年の歩み

質問:
海外進出の経緯と、タイ拠点における現在の事業概要を教えてください。
答え:
1985年のプラザ合意後の急激な円高を受け、多くの日本の製造業(特に自動車、家電、電子部品メーカー)が生産拠点を日本からタイへシフトさせた。当社も当時、日本国内の貿易部を中心としたフォローだけでは、現地でのきめ細やかなサポートに限界があると考え、1990年にタイ進出を果たした。現在は、タイとベトナム(2013年進出)、また中国(2005年進出)に拠点を構え、直近の海外売上比率は会社全体の20%強に達している。主力製品として、自動車メーターやOA機器用のFFC(フレキシブルフラットケーブル)のスリット加工、FPC(フレキシブルプリント基板)、内装材、メッシュシートなどを幅広く販売している。
当社の最大の特徴は、単なる商社機能にとどまらない点にある。自社工場での特殊フィルムのスリット加工や搬送用トレー製造といった「二次加工機能」、そして顧客の在庫管理を代行する「VMI(Vendor Managed Inventory)機能」を併せ持っている。
特に、日本からの少量輸出が割高になる際、自社のコンテナに混載して輸送コストを下げる工夫や、5mm幅といった極細のスリット加工を現地で即座に行える当社の体制は、リードタイム短縮とコスト削減を求める顧客から高く評価されている。海外拠点を持たない日本の仕入れ先に代わり、地場代理店として機能するだけでなく、物理的な加工と物流の工夫を組み合わせることで、顧客のサプライチェーンを根底から支えている。

二次加工機能を持つタイのフジケミハイテック社(同社提供)

現地市場への挑戦:日系からローカル企業への販路拡大を目指して

質問:
タイ国内における顧客層の変化や、ローカル市場の開拓に向けた課題について教えてください。
答え:
30年前のタイ進出時は100%日系企業との取引だった。しかし、現在は取引先が100社以上に拡大し、少しずつタイローカル企業の顧客も増え始めている。タイ企業の中でも、財閥系企業は積極的に他のASEAN諸国への展開を加速させている。また、タイ市場では中国系企業が圧倒的な価格攻勢を強めており、時には当社と比べて5分の1もの価格を提示されることもある。
こうした激しい価格競争に対し、当社は現場の困りごとを直接拾い上げるスタイルで差別化を図っている。タイ現地の9人の営業担当が吸い上げた顧客の技術的課題に対し、日本側に控える40人の調達・技術チームが即座に連携してソリューションを提供する。日本でしか製造できない高スペック樹脂や代替部材を提案・加工することで、価格だけでは測れない信頼を勝ち取っている。
また、商品ラインアップをやみくもに広げるのではなく、当社が専売契約を持つ商材など、介在価値を発揮できる分野に「選択と集中」を行う。これにより、日系・ローカルを問わず、サプライチェーンの安定を求める顧客にとって代替困難なパートナーとなることを目指している。

持続可能な組織:人員定着が支える「技術商社」の信頼

質問:
海外拠点における組織運営において、特に大切にされていることは何ですか。
答え:
少数精鋭の組織において、人員の定着は事業の継続性に直結する。当社は10年以上勤務するベテランスタッフが多く、離職率が極めて低いのが特徴だ。タイではジョブホッピングが一般的だが、彼らが長年かけて蓄積した深い商品知識と顧客との信頼関係こそが、当社の最大の無形資産となっている。
低い離職率を維持するカギは、当社の人事評価制度にある。例えば、当社には、スタッフが自ら扱いたい商材を見つけ、輸入するのに必要なFDA(タイ保健省食品・医薬品局)登録やライセンス取得などの実務を主体的に進める文化がある。経営陣の役割は、彼らがプロフェッショナルとして能力を発揮できる「レールの整備」に徹することだ。言語や文化の壁がある海外展開において、自社の理念を深く理解したスタッフが現場を支えているからこそ、複雑なVMIの運用や顧客の細かな要望に対する「日本品質」のサービスを安定的に維持できている。

今後の事業展望:インド市場への布石と、目利き力が開く新事業

質問:
今後の重点分野や、新たな市場への取り組みについて教えてください。
答え:
市場の変化を先取りし、現在はデータセンター向けHDD(ハードディスクドライブ)の副資材などのニッチ領域に注力している。日本にしかないユニークな技術を持つメーカーの総代理店ポジションを狙い、他社が介在できない独自の供給網を構築する攻めの調達を進めている。
また、タイの既存顧客がインドへ進出する動きに呼応し、当社もそのサプライチェーンを支えるべく、インド市場への本格展開を検討中だ。タイ・ベトナムで培った「商社×工場×VMI」の成功モデルは、未整備な市場が多いグローバルサウスにおいて、強力な武器になると確信している。
さらに、産業資材で培った「目利き力」を活かし、BtoCのライフスタイル製品事業(マスクや生活雑貨など)にも乗り出している。自社ECサイトの活用や、現地の主要小売店への販路開拓を通じ、産業界だけでなくタイの一般消費者の生活にも日本品質の「安心・安全」を届けていきたい。
質問:
地政学リスクが高まる中、これからのサプライチェーンに求められるものは何でしょうか。
答え:
中国のコスト増や地政学リスクに対し、ベトナムを「チャイナプラスワン」として活用しつつ、タイをASEANのハブに据える現在の拠点体制が、昨今の変化への適応そのものと言える。中小企業の最大の武器は、大手にはない意思決定の「機動力」にある。
特定の国や既存の商材に固執せず、現地の産業政策や市場の変化を敏感に察知すること。そして、日本基準の高品質をそのまま押し付けるのではなく、現地のニーズやコスト感に合わせて柔軟にアレンジする「翻訳力」が不可欠だ。 顧客の「困りごと」に寄り添い、商流・物流・製造を泥臭く組み替えていく。この積み重ねこそが、不透明な時代においても代替困難なポジションを築き、強靭(きょうじん)なサプライチェーンを構築する唯一の道だと確信している。
企業基本情報
会社名 FUJI CHEMI CO., LTD.
住所 159/14 Serm-Mit Tower, Room No.903-904, 9th Floor,
Soi Asoke, Sukhumvit 21 (Asoke) Road, North Klongtoey,
Wattana, Bangkok 10110, THAILAND
設立 1990年
URL https://www.ftcj.co.jp/外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
執筆者紹介
ジェトロ海外ビジネスサポートセンター グローバルサウス課 課長代理
石井 佑志(いしい ゆうし)
メーカー、商社にて海外市場向けの商品開発・営業に従事。バングラデシュ駐在を経験後、2022年10月ジェトロ入構。中小企業診断士。

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