ASEAN主要国の産業政策と企業によるサプライチェーン対応ベトナムで供給網強靭化のため中間体生産を強化(第一稀元素化学工業)

2026年3月5日

ジルコニウム化合物の製造・販売で世界トップシェアを誇る第一稀元素化学工業(本社:大阪市)は、その製造工程で必要な「中間体」であるオキシ塩化ジルコニウム(以下、ZOC)の生産拠点をベトナム南部ホーチミン市に構えている。同社は、中間体の調達で特定国・地域への一極集中を回避するため、サプライチェーン多元化と生産体制の強化を進めている。ベトナム国内に賦存する原料、ジルコンサンドを調達し、環境・安全に配慮した精錬技術と厳格な品質管理を強みに、量産体制の確立を推進している。同社執行役員でVIETNAM RARE ELEMENTS CHEMICAL JOINT STOCK COMPANY(以下、VREC)ゼネラル・ダイレクターの児玉圭太氏に話を聞いた(取材日:2026年1月22日)。

世界トップニッチメーカー、自動車触媒を中心に広がるジルコニウムの用途

質問:
貴社概要を教えてください。
答え:
当社は1956年に設立された無機化合物メーカーで、ジルコニウム化合物を中心に多様な素材の製造・販売・研究開発を手がけている。中でも、自動車排ガス浄化触媒分野では、世界市場で約40%のシェアを持つ世界トップメーカーとしての地位を長年維持してきた。この点が評価され、2020年には経済産業省が認定する「グローバルニッチトップ企業100選」に選ばれている。
ベトナム法人であるVRECは2012年に設立した。ベトナム国内に賦存するジルコンサンドを精製・加工してZOCを製造するほか、最終製品としてのジルコニウム化合物も製造するなど、当社グループのグローバル生産体制における中核拠点として着実に成長している。VRECで製造するZOCは、日本国内の各生産拠点(大阪、島根、福井)に送られ、最終製品へ加工される。当社グループにとって、VRECは原料資源へのアクセス、生産コスト、事業継続性の観点からも重要な役割を担っている。

児玉圭太ゼネラル・ダイレクター(同社提供)
質問:
顧客や用途について教えてください。
答え:
ジルコニウム化合物は多様な特性を持つ機能性材料で用途が極めて広い。特に自動車分野では排ガス中のNOx(窒素酸化物)、HC(炭化水素)、CO(一酸化炭素)などの有害物質を浄化する触媒部品を構成する材料として不可欠だ。当社製品は世界各国の主要自動車メーカーに採用されており、長年にわたり安定した品質・供給体制が評価されてきた。
また、近年は半導体・エレクトロニクス、エネルギー、ヘルスケアを戦略分野と定め、経営資源を集中的に投下している。

同社製造のジルコニウム化合物(同社提供)
質問:
生産工程について教えてください。
答え:
ZOCの製造は多段階の化学プロセスで構成される。まず、原鉱石であるジルコンサンドをアルカリ分解し、精製する。続いて酸処理、結晶化を経てZOCが生成される。これらの工程は温度・濃度・反応時間などの管理が厳格に求められる。
生産工程における特色は、薬品リサイクルシステムを導入していることだ。通常、化学プロセスでは大量の薬品が消費されるが、VRECは薬品を再利用することで、環境負荷低減とコスト合理化を同時に実現している。また、ジルコンサンドには微量の放射性物質が含まれるため、排水処理や廃棄物管理に関わる投資を惜しまず、ISO14001に基づく運用を徹底している。ベトナム政府の精錬分野に対する環境基準は厳しく、欧州に近いレベルだが、それに応えられる環境監視体制を整備していることも顧客からの信頼につながっている。

ベトナムで原鉱石調達と中間体の生産体制強化

質問:
ベトナム進出および生産拡大の経緯について教えてください。
答え:
ベトナム進出の契機は、2010年に中国が日本向けのレアアース輸出を規制し、供給網が特定国・地域に偏るリスクが顕在化したことだ。中国はジルコニウム中間体の世界的な供給拠点であり、当社も調達の大部分を中国に依存してきた。しかし、政策変更や地政学リスクが調達に直接影響する可能性が高まったため、供給網の「地理的多元化」が不可欠となった。
一方、ベトナムは、南アフリカ共和国やオーストラリアとともに原料となるジルコンサンドの産出国だ。ベトナムは、国内調達の可能性が高く、さらに港湾・工業団地のインフラ整備が進み、化学品生産に適した環境が整っていた。そのため、まずは「カイメップ工業団地」(ホーチミン市)にパイロット工場を建設し、技術的な検証を重ねてきた。2018年、その結果を基に、現在の立地である「フーミー3特別工業団地」に、量産化に対応できる新工場建設を決定。新型コロナ禍による計画の遅れはあったものの、新工場は2023年に稼働を開始し、現在もその生産能力を高め続けている。今後、当社グループが使用するZOCの約50%をベトナムで生産することで、サプライチェーンの強靭(きょうじん)化を進める計画だ。

ZOC量産の安定化と次世代用途への戦略的展開

質問:
ベトナム人材について教えてください。
答え:
VRECには、約200人の従業員が在籍しており、その大半を生産部門の人員が占めている。工場は24時間稼働の3交代制を採用している。作業内容は化学プラントの運転・監視、トラブル対応など、一定の技能を要する「オペレーター業務」が中心だ。従業員の多くは機械・電気系の専門学校卒で、化学プラントの監視・制御に必要な基礎知識を備えている。
VRECは、日系・欧米・韓国企業が多数進出し、人材の流動性が高いベトナム南部に立地している。一方で、人材の流出は事業の継続性に深刻な影響を与えかねないため、人材の長期的な定着はVRECにとっても重要課題の1つだ。表彰制度の導入や福利厚生の充実(温かい社食の提供、社員旅行など)など従業員満足度の向上を図る施策にとどまらず、キャリアパスを明確化し、それに応じた教育体系を整備するなど、人的資本の充実を図ることが肝要と考える。
質問:
今後の展望を教えてください。
答え:
短期的には、ベトナム新工場の安定稼働と生産能力の最大化が最優先である。需要が拡大傾向にあることもあり、設備稼働率のさらなる向上、品質の均質化、原料調達の多元化を進める。
また、原鉱石から最終製品までの一貫生産体制をベトナムと日本で強化し、国際市場に対して供給するため、地政学的な変化に耐えうるネットワークの構築を目指す。VRECは、資源アクセス、生産コスト、人材供給の面で引き続き重要な拠点であり、グループ全体の成長を支える基盤としての役割は今後ますます大きくなると考えている。

VREC社屋(同社提供)
企業基本情報
会社名 VIETNAM RARE ELEMENTS CHEMICAL JOINT STOCK COMPANY
設立 2012年
所在地 Lot C1, Phu My 3 SIP, Tan Phuoc Ward, Ho Chi Minh City, Vietnam.
事業内容 オキシ塩化ジルコニウムの製造
従業員数 206人 (2025年6月30日)
URL https://vn.zr-dkk.com/ja/about-us-jp/ 外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課長
藤江 秀樹(ふじえ ひでき)
2003年、ジェトロ入構。ジェトロ・ジャカルタ事務所(10~15年)、海外調査部アジア大洋州課(15~18年)、シンガポール事務所(18~22年)などを経て、2024年9月から現職。編著に「インドネシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2014年)、「分業するアジア」(ジェトロ、2016年)がある。

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