ASEAN主要国の産業政策と企業によるサプライチェーン対応続く資源依存、製造業振興を継続
インドネシア(1)

2025年12月1日

独立100周年となる2045年までに世界の5大経済大国入りを目指すインドネシア。人口は今後3億超に増加する見込みで、アジアの巨大市場としての潜在力は申し分ない。一方、実質GDP成長率は5%台と堅調ではあるものの、プラボウォ・スビアント大統領が目標とする8%には届いていない。中間層の減少や貧困層化の課題も指摘されている。本稿では、インドネシア経済の重要産業の発展や今後の動向について、統計分析や経済政策から概観する。

資源依存が続き、輸出入の特定国・地域への依存進む

過去20年のインドネシアの輸出入を見ると、輸出は増減を繰り返しながらも全体として増加傾向にある(図1参照)。その背景には、資源・一次産品の国際需要や価格変動がある。2003年から約10年間は、資源や一次産品(石炭、パーム油、天然ガス、鉱物など)の世界的な需要拡大と価格上昇を受けて、輸出が大きく伸びた。一方、2014年~2016年や新型コロナウイルス禍には、資源価格の下落で輸出が減少した。2022年には、ロシアによるウクライナ侵攻を契機とした一次産品の価格高騰により、輸出額は過去最高の2,920億ドルを記録した。2023年、2024年も2,500億ドル超で高水準を維持している。HSコード2桁の品目別で見ると、鉱物性燃料(27類)が最多で、2024年は全体の21%を占めた。内訳では石炭が最も多く、次いでパーム油などの動植物性油脂(15類)が10.1%、鉄鋼や電機機械・器具や車両・部品が続いた。

2004年以降、鉱物性燃料と動物性油脂の合計シェアが全体の30%を下回ったのは2020年(28.4%)のみで、資源依存型の輸出構造は大きく変わっていない。ただし、2005年前後は石油や天然ガス、石炭が主力だったのに対し、2010年代前半には石炭、パーム油、天然ガスが主力品目となった。さらに、2010年代後半は石炭、パーム油が上位を占めるようになった。石油や天然ガスの輸出に占める割合は、長期的には減少傾向にある。

輸入も鉱物性燃料が最多で、内訳は石油と歴製油が中心だ(図2参照)。2024年は全体の17.4%を占め、次いで電気機器(85類)や一般機械(84類)が続く。石油製品の輸入は内需の影響を受けやすく、景気が好調だと輸入額が増える傾向にある。資源価格が大幅に下がった年を除けば、鉱物性燃料が首位で、輸入でも資源依存の構造が続いている。

図1:インドネシアの輸出額と上位品目別シェアの推移
輸出額は2004年から増加傾向で、2011年にピーク(約200億ドル超)、2020年に一時減少後、2022年以降再び増加し、2023~2024年は約250億ドル前後。 鉱物性燃料は2004~2012年に上昇し、2012年に約35%でピーク。その後減少し、2020年には約20%、2022年に一時回復(約30%)後再び低下。 動植物性油脂は全期間を通じて約5%前後で安定。 鉄鋼は2018年以降に増加傾向で、2022年に約10%前後。 電気機械機器はほぼ横ばいで約10%前後を維持。 車両並びに部品は2018年以降やや増加し、2022年に約10%前後。

出所:Global Trade Atlas(GTA)を基にジェトロ作成

図2:インドネシアの輸入額と上位品目別シェアの推移
輸入額は2004年から増加傾向で、2012年にピーク(約200億ドル超)、2016年に一時減少後、2022年以降再び増加し、2024年は約230億ドル前後。 鉱物性燃料は2004~2008年に急増し、2008年に約30%でピーク。その後減少し、2016年には約15%、2024年は約20%前後で推移。 原子炉・ボイラー・機械類は全期間を通じて約10~15%で安定。 電気機器はほぼ横ばいで約10%前後を維持。 鉄鋼は全期間で約5%以下と低水準。 プラスチックおよびその製品は約5%前後で安定。 車両並びに部品は約5%前後で推移し、2018年以降やや増加傾向。

出所:Global Trade Atlas(GTA)を基にジェトロ作成

貿易相手国別では、輸出は2000年代初頭から2015年までは日本向けが首位だったが、2024年には日本向けは約7%まで減少した。一方、中国向け輸出は2016年以降首位となり、2024年には全体の23.6%を占めた(図3参照)。輸入は2011年以降、中国が首位で、2024年は33.1%となった(図4参照)。輸出入とも中国依存が鮮明だ。2024年の中国向け輸出では、鉱物性燃料が25.8%、鉄鋼が25.7%と、上位2品目で5割を超えた。次いで、ニッケルとその製品が10%で、2021年に0.6%にすぎなかったシェアが、政府の下流化政策の影響で、2022年以降急増した。

図3:インドネシアの輸出額と貿易相手国上位が占める割合の推移
輸出額は2004年から増加傾向で、2012年に一度ピークを迎えた後、2016年頃まで減少し、その後再び増加し2022年に最大値を記録。 中国向け輸出は2004年から一貫して増加し、2018年以降急速に伸び、2022年に最も高い割合(約25%)を占める。 日本向け輸出は2004年時点で最も高い割合(約27%)を占めていたが、年々減少し、2024年には約10%以下に低下。 米国向け輸出は全体的に横ばい傾向で、10%前後を維持している。 シンガポール向け輸出は2004年から減少傾向で、2024年には約5%程度。 インド向け輸出は緩やかに増加し、2024年には約8%前後に達している。

出所:Global Trade Atlas(GTA)を基にジェトロ作成

図4:インドネシアの輸入額と貿易相手国上位が占める割合の推移
輸入額は2004年から増加傾向で、2012年に一度ピークを迎えた後、2016年頃まで減少し、その後再び増加し、2023年・2024年に過去最高水準に達している。 中国からの輸入割合は2004年から一貫して増加し、2015年以降急速に伸び、2023年・2024年には約30%以上を占める。 日本からの輸入割合は2004年時点で比較的高かったが、年々減少し、2024年には約5%程度まで低下。 シンガポールからの輸入割合は2004年から減少傾向で、2024年には約5%以下。 マレーシアからの輸入割合は2004年から2010年頃まで比較的高水準(約15%前後)を維持していたが、その後減少し、2024年には約10%以下。 米国からの輸入割合は全期間を通じて低水準で、ほぼ横ばい(約2%前後)。

出所:Global Trade Atlas(GTA)を基にジェトロ作成

新型コロナ禍でも増加続く投資、2018年から中国や香港の投資が増加

投資・下流化省によると、外国企業による投資実現額は、2010年の161億ドルから2024年には600億ドルと約4倍に増加した(図5参照)。日本企業は、2013年に47億1,289万ドルで首位となり、2016年に54億ドルとピークを迎えたが、その後は他国企業の投資拡大により、相対的なシェアは低下している。一方、中国企業や香港企業の投資は2010年代後半から急増している。中国企業の投資は2010年の1億7,364万ドルから、2019年に47億4.450万ドルと日本を抜き、2024年には81億691万ドルに達した。特に中国企業の投資の4分の1は基礎金属分野に集中し、ニッケル製錬へ投資が集まっている。

図5:外国企業による投資実現額と各国・地域別シェアの推移
投資実現額は2010年から増加傾向で、2016年頃に一度ピークを迎えた後、やや変動しながらも2023年・2024年に過去最高水準に達している。 シンガポールの割合は2010年に最も高く、その後2013年まで減少したが、2015年以降再び増加し、2024年には約35%で最大。 日本の割合は2010年から2016年にかけて増加し、2016年にピークを迎えた後、減少傾向にある。 中国の割合は2010年から緩やかに増加し、2018年以降は比較的高水準を維持している。 香港の割合は2010年から2018年頃まで増加傾向で、その後やや減少しつつも2024年には再び上昇。 マレーシアの割合は全期間を通じて低水準で推移し、緩やかな増加傾向。 米国の割合はほぼ横ばいで、全期間を通じて低水準(約5%前後)。

出所:インドネシア投資省データからジェトロ作成

資源依存の脱却狙うも道半ば、製造業振興に力入れる

現在、インドネシアは依然として資源依存型の貿易構造にあり、政府にとって資源依存の克服は長年の課題だ。資源依存克服の動機は多岐にわたるが、資源価格変動による経済不安定性の改善、通貨ルピアの安定化、資源枯渇リスクへの対応、産業のモノカルチャー化の回避などがある。過去の政権では、資源依存を脱却しようと、製造業振興に取り組んできた。

独立当初は農業・一次産品中心だった経済は、1966年以降、スハルト政権で工業化を推進し、経済成長や所得向上、貧困削減を達成した。しかし、2000年代初頭をピークに、製造業の比重は伸び悩んだ。2000年代以降、政府は資源依存脱却と製造業振興による輸出志向型経済を掲げ、工業団地開発やインフラ整備、規制緩和による外資誘致などを推進した。2004年から2014年まで続いたユドヨノ政権期は、安定成長と工業化を目指したが、資源ブーム期には製造業比率が低下した。2014年に発足したジョコ政権はインフラ投資と規制改革で製造業を育成し、特に「下流化」政策で資源の国内付加価値を高め、ニッケルなどの未加工鉱石の輸出を禁止し、国内精錬を義務化した。これにより、電気自動車(EV)用電池からEV製造まで一貫して行える産業育成を目指した。2024年10月就任のプラボウォ政権も、下流化政策をさらに強化している。

インドネシア政府は、2045年の独立100周年を目標に、長期計画を掲げている。「黄金のインドネシア2045」では、2045年までに経済規模で世界第5位の先進国になることを目指している。さらに、2024年10月に制定した法律2024年第59号に基づき、「国家長期開発計画(RPJPN)2025―2045」では、達成すべき5つの具体的な目標を示した。5つの目標は以下のとおりだ。

  1. 年平均GDP成長率7%の達成、GDP総額9兆8,000億ドルの達成、GDPに占める製造業の割合を28%、海洋経済の割合を17.5%、1人当たり所得を3万300ドルへ引き上げる。
  2. 貧困率を0%に抑え、GINI係数を0.290–0.320に改善し、東部地域の地域内総生産(GRDP)寄与率を28.5%にする。
  3. 世界におけるリーダーシップを強化し、Global Power Index上位15入りを目指す。
  4. 人的資源の競争力向上を図り、人的資本指数を0.73に引き上げる。
  5. 温室効果ガス(GHG)排出強度を93.5%削減し、ネットゼロに向けた脱炭素を推進する。

プラボウォ大統領は、公約として上記目標を超えるGDP成長率8%の達成を目指している。一方で、インドネシア大学の研究所は「中間層の数が減少し、中間層予備軍や貧困層予備軍に推移しているのではないか」とのデータ(注)を発表しており 、インドネシアのGDPを支える内需の今後の動向が懸念される。

また、製造業に特化した政策も引き続き推進している。2018年4月に発表した「Making Indonesia 4.0」は、2030年までに世界の10大経済国となることを目標とし、達成指標として以下を設定している。

  • GDPに対する純輸出の割合を10%に引き上げる
  • 労働コストに対する生産性を2倍に引き上げる
  • GDPの2%を研究・開発・設計、イノベーションに配分する

さらに、「部品・素材フローの改善」「工業ゾーンの再設計」「持続可能性への適応」「中小零細企業の育成」「デジタルインフラの整備」「外国投資の誘致」「人材の質の向上」「イノベーション・エコシステムの形成」「技術投資に対するインセンティブの導入」「規則と政策の調和」という10の優先項目を掲げている。

本特集では、インドネシア政府が力を入れる産業を2つに絞り、これまでの産業発展と今後の展望を考察する。1つは、自動車産業だ。インドネシアの自動車産業は日本車のシェアが約9割と高く、「日本ブランドの牙城」ともいえる市場だが、各社を取り巻く競争環境は大きく変化している。政府は、国内ニッケルを有効活用し、バッテリー式電気自動車(BEV)製造のハブとなることを目指している。これに応じて、韓国や中国のメーカーが投資を強化し、特に中国メーカーは2017年以降続々と市場参入を果たしている。徐々にではあるが、BEVの普及が進みつつある。日系企業や政府、業界団体へのヒアリングなどから、同産業のサプライチェーンの変化を考察する。

2つ目が、鉱物資源産業だ。ジョコ前政権時代から強く推進してきた下流化政策は、鉱物資源の高付加価値化を目指すものだ。2022年以降、中国向けニッケル・同製品の輸出が増加しており、一定の成果が読み取れる。政府はこの成功例を基に、下流化を他の鉱物やコモディティーに拡大する意向を強めており、下流化の進展状況について、第3稿(URL入れる)で報告する。


注:
Indonesia Economic Outlook Q3-2024PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(4.0 MB)」。
執筆者紹介
ジェトロ企画部企画課 課長代理
尾﨑 航(おざき こう)
2014年、ジェトロ入構。生活文化産業企画課、サービス産業課、商務・情報産業課、EC・流通ビジネス課を経て、2020年9月からジェトロ・ジャカルタ事務所で調査担当として勤務。2023年12月から調査部アジア大洋州課で、ASEAN、インドネシア、シンガポールの調査・政策提言などに従事。2025年10月から現職。

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