ASEAN主要国の産業政策と企業によるサプライチェーン対応外資特許をベトナムで実用化、高付加価値市場へ(秋葉ダイカスト)
2026年4月20日
秋葉ダイカスト工業所(本社:群馬県高崎市)は、自動車、電気機器、産業用ポンプなど、幅広い産業の心臓部を支えるダイカストメーカーだ。同社の最大の強みは、製品のデザイン段階から、金型設計・製作、鋳造、そして製品価値を左右する表面処理までを完結させる「一貫生産体制」にある。
同社はグローバル展開においても先見性を発揮し、2004年9月にベトナム、2011年4月にはタイへ進出。東南アジアにおける確固たる生産・供給ネットワークを築き上げてきた。昨今、地政学リスクへの対応が急務となる中、この20年に及ぶベトナム現地での実績と強固な自社供給網は、日系製造業のサプライチェーンの強靱(きょうじん)化を支える重要なインフラとしての価値を再認識させている。
長年培った技術と信頼を基盤に、同社はいかにして不確実な時代に即応する供給体制を高度化させているのか。同社の秋葉雅男代表取締役社長、ならびにAkiba Coating & Technology Vietnamの柳生慎二General Directorに、ベトナムでの生産拡大、調達・販売の実態、人材課題、そして次世代の供給戦略について話を聞いた(取材日:2026年1月21日)。

グローバル拠点戦略:リスクや競争を避けた「最適地」の選択
- 質問:
- 2004年当時、初の海外拠点としてなぜベトナムを選んだのでしょうか。
- 答え:
- 海外進出の動機は、国内の少子高齢化に伴う深刻な人手不足への危機感だ。ダイカストの製造工程には、金属のバリ取り作業など、どうしても人の手に頼らざるを得ない工程があり、機械化が困難な工程が少なくない。こうした人手を要する工程を維持し、国内生産を継続するためには、若く豊富な労働力を確保できるアジアへの進出が不可欠だった。
- 当初は中国への進出も検討したが、知的財産のリスクや、一度進出すると撤退が困難となり得る政策リスクを懸念し、見送った。一方、タイは製造業の集積地として魅力的ではあったが、自動車産業を中心とした競争が激化しており、中小企業がコスト面で優位性を発揮するのは容易でないと判断した。
- 結果的に残ったのがベトナムだった。ちょうど主要顧客から合弁で現法設立の打診があったこともあり、日本の製造現場が抱える課題を、ベトナムの労働力と活力で解決する道筋が見えた。この選択が、当社のグローバル展開の原点となっている。
人材の確保と定着:ベトナムで完結する「一貫体制」を支える650人の従業員
- 質問:
- ベトナムにおける人材確保の状況について教えてください。
- 答え:
- サプライチェーンの強靭化において、設備とともに必要不可欠なのが、それらを動かす高度な「人的リソース」の確保だ。当社は現在、ベトナムの第1工場に約500人、第2工場に約150人、さらにタイ拠点に約250人と、海外拠点全体で約900人規模の従業員を抱える。
- 特筆すべきは、当社はベトナム拠点単体でも、金型設計から表面処理までの一貫工程を担う、代替不能な供給拠点として機能している点だ。近年、ベトナムでも若者の製造業離れが進み、優秀なスーパーバイザー人材の確保が共通の課題となっているが、20年に及ぶ現地操業を通じて培った高い定着率を武器にこの課題に取り組んでいる。
- 日本に同工程がないため、技術者をベトナム現地で育てるしかないという環境を逆手に取り、現地でのOJTを通じて、ユーザーの細かなリクエストに応えられる熟練工を育成している。こうした「人が辞めない」ことで蓄積された技術こそが、単なる低コスト追求ではなく、技術力と品質で勝負できる強靭な供給体制を支えている。
-

同社の自動車部品(同社提供 ※写真は日本生産品)
サプライチェーンの現状:調達の透明性で、次世代需要を掴む。
- 質問:
- 調達・購買の状況と課題について教えてください。
- 答え:
- 主原料は、南米やアジアから調達している。 現在、製造業のグローバルサプライチェーンにおいて最大の変化は、コンプライアンスや地政学リスクを背景とした「調達先の透明性」への要求だ。
- 特に北米を中心とした自動車メーカーなどでは、特定の国や地域に依存した材料・部材をサプライチェーンから除外する動きが厳格化している。これに伴う調達コストの上昇についても、「リスク回避」という観点から、市場全体で一定の理解が得られつつあるのが現状だ。
- 質問:
- 販売先の構成と市場動向をどう見ていますか。
- 答え:
- 販売構成比は日本向けが中心だが、ベトナム国内の日系企業、および米国・欧州・アジアのグローバル企業への直接供給も拡大している。 市場動向としては、自動車の電動化(EV化)や通信インフラの高速化に伴い、高付加価値なダイカスト製品の需要が極めて堅調だ。特に、当社が手がける「熱対策」を要する精密部品は、車載から産業用機械まで用途が広がっている。
競合環境と差別化:20社以上の競合を勝ち抜く「一貫体制」
- 質問:
- 海外勢との競争を、どう勝ち抜いているのでしょうか。
- 答え:
- ベトナムに進出している中国・韓国・台湾企業の存在は、確かに大きな脅威だ。特に中国勢は、圧倒的な短納期と低価格を武器に、近年では技術力も著しく向上させている。
- しかし、顧客である日本企業向けの製品には、独自の要件がある。日本企業の求める仕様は極めて独特かつ細かく、品質への要求水準も非常に高い。こうした要求に対し、スピード重視の中韓企業では十分に対応しきれないケースも多いのが実情だ。
- 象徴的な事例がある。あるグローバル企業からの受注案件で、世界20社以上が参加した見積もりコンペの末、最終的に当社が選ばれた。その理由は、ベトナム拠点で「金型設計→鋳造→加工→表面処理(めっき・塗装)」まで完結できる一貫生産体制と、細かな仕様を汲み取る技術対応力にあった。
- ただし、現在の円安の為替水準により、日本市場向けの価格競争力が低下していることが課題だ。
自社の強み:外資パートナーから得た「独自の源泉」
- 質問:
- 他社にはない「表面処理までの一貫体制」はどう実現されたのですか。
- 答え:
- 外部の優れたプレーヤーと戦略的なパートナーシップを組んできたことが大きい。2002年以降、米国企業からパテント(特許)ライセンスを購入し、技術供与や人材派遣を受けることで、難度の高い放熱材料(AlSiC)の技術をベトナム拠点で確立した。
- 当初、相手が大企業ゆえに契約は困難かと思われたが、当社が中小企業であったことで、かえって競合関係を意識させず、結果的にスムーズに契約を結ぶことができた。ニッチ領域に特化し、正規の権利取得を通じて「独自の強みの源泉」を外部から取り込んでいる。
カントリーリスク:環境認可の停滞という現状
- 質問:
- ベトナムでの事業展開において、現在直面している課題はありますか。
- 答え:
- 深刻なのが行政手続きの遅延だ。ベトナムでは現在、政府組織の再編(省の合併など)の影響により、環境認可のライセンス発行が完全に停滞している。当社も最新設備を導入し、稼働準備は整っているが、認可待ちのために生産を開始できない状況が続いている。これは自社の努力では制御不能なリスクであり、今後の進出企業にとっても重要な教訓といえる。
将来展望:10年分の足固めから、車載を超えた新市場へ
- 質問:
- 将来のビジョンについて教えてください。
- 答え:
- 車載分野のビジネスは時間軸が非常に長く、現在は10年以上先に向けた次世代製品の開発・交渉を顧客と進めている。
- 今後はこの車載技術を基盤に、半導体、データセンター、宇宙事業といった成長産業へ参入したい。これらの分野の共通課題である「熱」に対し、当社の放熱材料や特殊表面処理は不可欠なソリューションとなる。 さらに、省力化と人工知能(AI)活用を一層進め、「人件費の安さ」ではなく代替不能な技術力を武器に、グローバルな供給網の中でのプレゼンスを高めていく決意だ。
| 会社名 | Akiba Coating & Technology Vietnam Co.Ltd. |
|---|---|
| 設立 | 2004年 |
| 所在地 | Standard Building No. 2, Street No. 15, Tan Thuan Dong, District 7, Ho Chi Minh City, Vietnam |
| URL |
http://www.akidc.co.jp/index.html |
- 執筆者紹介
-
ジェトロ海外ビジネスサポートセンター グローバルサウス課 課長代理
石井 佑志(いしい ゆうし) - メーカー、商社にて海外市場向けの商品開発・営業に従事。バングラデシュ駐在を経験後、2022年10月ジェトロ入構。中小企業診断士。





閉じる





