ASEAN主要国の産業政策と企業によるサプライチェーン対応インドネシアを供給網多元化の重要拠点に位置付け(大真空)

2026年3月26日

水晶デバイスは、水晶の圧電効果により安定した基準信号を作り出す電子部品で、自動車、スマートフォンなどの通信機器、コンピューターなど、さまざまなものに搭載されている。水晶デバイスのトップメーカーの一社である大真空(本社:兵庫県加古川市)は、生産拠点を国内外に分散させることで、地政学的リスクや自然災害時の影響を軽減している。

ASEANにおける重要な生産拠点であるインドネシアでは、同社の強みである車載用水晶デバイスを長年生産してきた。近年では、通信機器用水晶デバイスの生産にも取り組み、さらには人工知能(AI)データセンターやウェアラブル端末といった有望市場の獲得も見据えている。インドネシア拠点(PT. KDS INDONESIA)の住友芳和代表取締役社長に、インドネシアでの生産拡大、調達・販売状況、人材などの経営課題、将来の展望などについて聞いた(取材日:2026年2月20日)。


住友代表取締役社長(ジェトロ撮影)

原材料の調達から出荷までを一気通貫で

質問:
企業概要とインドネシア進出の経緯は。
答え:
水晶デバイスメーカーは日本、中国、台湾企業で世界シェアの大半を占めているが、当社はそのうちの一社だ。特に車載用に強みを持っており、世界シェアの約20%を占めている。生産拠点は、日本国内では鳥取市、兵庫県西脇市、徳島県吉野川市、宮崎県川南町にあるほか、海外ではインドネシア、中国(天津、東莞)、台湾、タイに設置している。
インドネシア拠点は、プラザ合意以降の急激な円高対応や、世界市場、特にアジア圏への供給体制を整備するため、1989年に大真空グループ初の海外生産拠点として設立した。進出先としてインドネシアを選択した背景には、人件費などの製造コストが安価であることや豊富な労働力などがある。設立当初はジャカルタ西部のタンゲランに設置していたが、手狭になったことから、1990年にMM2100工業団地が開設されると同時に現在地に移転した。
質問:
インドネシア拠点の生産体制とグループ内での位置付けは。
答え:
人工水晶の調達・切断・研磨から、組立加工、出荷までを行う「垂直統合モデル」が当社の特徴であり、インドネシア拠点でも採用している。
インドネシア拠点の設立当初の主力製品は家電用であったが、2004年以降車載用にシフトし、2022年からはスマートフォンなどに使用される温度センサー内蔵の水晶デバイスの生産も行っている。現在は約8割が車載用、残りの2割が通信・産業機械・民生用となっている。
質問:
製品の主な供給先は。
答え:
車載用については、先進運転支援システム、安全装置(ABS)、エンターテインメントシステムなどで使用されており、アジア、北米、ヨーロッパなど世界各国の自動車部品メーカーに供給している。通信用・産業機械・民生用については、電子機器メーカー、通信機器メーカー、産業機械メーカーなどに広く供給している。
インドネシア国内への販売も期待しているが、市場が小さいため、現状ではインドネシア拠点で生産したものは100%輸出されている。

PT. KDS INDONESIA社屋(同社提供)

生産拠点の分散と設備仕様の見直しでリスクを軽減

質問:
大真空グループとしての生産拠点の多元化の対応は。
答え:
BCP(事業継続計画)の観点から、特定の国や地域に集中していた生産を、他の地域に分散させることで、地政学的リスクや自然災害時の影響を軽減している。温度センサー内蔵の水晶デバイスの生産をインドネシア拠点で行っている狙いはこの点にある。従来生産していた鳥取拠点と併せて二拠点生産とすることで、いずれかの拠点でリスクが発生した場合でも迅速にバックアップすることが可能となっている。加えて、インドネシア拠点の製品群と中国・東莞拠点の製品群はほぼ同じであり、いずれの拠点からも供給できる体制になっている。
さらに、生産拠点の分散だけでなく、設備投資の点からもリスクヘッジを行っている。新規設備投資の際は、生産工程の見直しや自動化に加え、専用設備ではなく、複数種の製品の生産が可能な設備仕様とし、柔軟な生産体制とすることで、需要変動や供給障害に迅速に対応できるようにしている。
質問:
原材料・部品の主な調達先と調達における課題は。
答え:
水晶デバイスの中核材となる水晶片は、人工水晶を日本から調達し、インドネシア拠点で加工しているが、一部は中国に依存している。セラミックなどのパッケージ材は、日本、マレーシア、ベトナムおよび中国から調達しているが、中国からの調達は、他の三カ国から調達している品目の廉価版として位置付けており、一部材料に限定している。なお、インドネシア国内からの調達は、包装材や一部の消耗品に限られている。
調達先の多元化を進めているが、少量しか生産していない一部の製品のパッケージ材には特殊なものもあり、提供できるサプライヤーが他になかったり、新たに見つけても価格が合わなかったりすることもある。その場合、その製品に恒久的な需要があり、生産を継続する必要があるかについて検討し、生産終了とすることもある。現時点では、在庫を半月分は確保するという対応にとどまっている。

人材教育と設備の予防保全徹底化により生産性を向上

質問:
人材確保の点での課題は。
答え:
採用面での問題はなく、教育が重要であると認識している。生産現場の教育については、最初から生産工程の理解を求めるのは難しいことから、まずは決められた手順どおりに実行する訓練を反復し、次段階で「なぜそうするのか」を説明する。担当者が毎日一定時間を割き、複数人を継続的に指導することで確実に身についている。
2010年以降、生産量は増加している一方、生産現場の人員は半減している。一人が複数の機械を担当したり、設定とオペレーションを分業したりすることに加え、テーマを与えて稼働率改善などの問題意識を持たせることが生産性向上につながっている。
質問:
設備運用の点での課題は。
答え:
いかに稼働率を上げていくのかが重要であり、予防保全を強化している。設備が停止した理由をデータ化し、パレート分析を行うことにより主要な故障項目を特定し、それに対して予防保全を講じている。こうすることにより、長いスパンで見ると故障停止率なども下がり、結果的に稼働率の向上につながっている。

新製品の開発により先端分野の需要を開拓

質問:
インドネシアの事業環境に対する評価は。
答え:
人材確保の点では問題ない。法令の解釈が操業後に変わることがある点に苦慮している。例えば、現地調達を求める要請が出ることがある。質の問題により現地調達では難しいものもあるが、そのような事情が考慮されずに輸入が規制されるものもある。
質問:
今後のASEAN域内での拠点展開についてどうお考えか。
答え:
欧米の車載用顧客の間で「脱中国」化が進む中、部品の調達先としてASEANが注目されていることから、インドネシアとタイに生産拠点を持つ当社の強みが生きる状況と考えている。
質問:
今後の事業展開は。
答え:
水晶の育成(注)から組立加工、出荷まで一気通貫でできる大真空の強みを生かし、パッケージにも水晶を使用した、外部調達部材を使用しない水晶デバイスを新たに開発した。この水晶デバイスは、まず日本で2026年から量産を開始する予定であり、小型かつ軽量で、高周波化・高精度化にも対応しており、AIデータセンターやウェアラブル端末への採用が期待される。今後、インドネシアでも同デバイスを使った応用製品の立ち上げを検討している。堅調な需要がある車載用をベースとしつつ、今後の需要増加が期待できる分野を取り込むことで、インドネシア拠点の事業を拡大していきたいと考えている。

パッケージに水晶を使用した新たな水晶デバイス(同社提供)
企業基本情報
会社名 PT. KDS INDONESIA
設立 1989年
所在地 Blok O-20, O-21 Kawasan Berikat MM2100 Industrial Town Cikarang Barat, Bekasi
事業内容 水晶デバイスの製造
従業員数 約1,070人
URL https://www.kds.info/company/group-network/ 外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

注:
天然の水晶を、高温・高圧下で「種水晶」と呼ばれる板状の水晶に再結晶させ人工水晶を作ること。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ海外ビジネスサポートセンター グローバルサウス課 プロジェクトマネージャー
阿部 直樹(あべ なおき)
地方自治体にて、高齢者福祉、産業政策、訪日外国人観光客誘致、政策の総合調整業務などに従事した後、2025年にジェトロ入構。

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