ASEAN主要国の産業政策と企業によるサプライチェーン対応外資投資が牽引する輸出の拡大、産業基盤を築く
ベトナム(1)

2025年10月27日

ベトナムは、外需と内需の拡大を取り込み、安定した高成長を続けている。特に輸出は右肩上がりに伸びており、2016年以降、安定した貿易黒字が続く。輸出拡大を牽引しているのが、外国企業による投資だ。内外の環境変化や政府の誘致政策が投資先としての魅力を高めている。本稿では、統計分析や企業ヒアリングを通して、ベトナムの産業構造や企業のサプライチェーンの変遷、今後の展望を概観する。

ベトナムに関する考察は次の5本で構成し、本稿はその1本目に当たる。

  • 1本目:「外資投資が牽引する輸出の拡大、産業基盤を築く」
  • 2本目:「サムスン進出でスマホの輸出大国に、部品生産も拡大」
  • 3本目:「EMS企業が中国から生産移管、コンピュータ輸出が急拡大」
  • 4本目:「縫製輸出で台頭、裾野拡充とFTAが繊維産業の追い風に」
  • 5本目:「「漁夫の利」の先へ、産業基盤強化と多角展開がカギ」

米国向け、スマホを中心に輸出が拡大

Global Trade Atlas(GTA)で入手できる2000年から2023年までの貿易統計をみると、ベトナムの輸出入額は一貫して増加傾向にある(図1参照)。輸出入ともに、世界経済が低迷した2009年と2023年を除けば、年々増加しており、新型コロナウイルスの影響を受けた2020年と2021年も増加した。特に過去最高を記録した2022年の輸出入は、2000年と比較して約24倍に達している。

貿易収支をみると、2000年から2011年までは貿易赤字が続いた。特に2007年から2011年は赤字が拡大し、現地通貨ドン安や高インフレなど、経済の混乱を招いた。しかし、2012年に黒字に転じ、2016年以降は安定した黒字が続いている。純輸出額の増加がベトナムの経済成長を支えている。

図1:ベトナムの輸出入と貿易収支の推移
輸出は2000年は約145億ドル、2005年に約324億ドル、2010年に約722億ドル、2015年に約1,502億ドル、2022年に約3,359億ドルと長期的に増加。2023年は約3,531億ドルとやや減少。輸入は、2000年は約156億ドル、2005年に約368億ドル、2010年に約848億ドル、2015年に約1,478億ドル、2022年に約3,308億ドルと増加。2023年は約3,254億ドルに減少。貿易収支は、2000年は12億ドルの赤字、2005年も43億ドルの赤字。2010年に126億ドルと赤字拡大したが、2012年以降は黒字化し、2019年には約111億ドル、2023年は約276億ドルの黒字となった。

出所:Global Trade Atlas(GTA)を基にジェトロ作成

輸出額を国・地域別にみると、2002年以降、米国向けの輸出が首位となっている(図2参照)。特に2019年から2021年は年率25%前後伸びており、輸出増加を牽引した。輸出に占めるシェアをみても、米国は2003年から2018年までは20%前後で推移していたが、2019年からさらに拡大している。米中貿易摩擦で中国から米国への輸出に高関税が課せられる中、米国向け製品の輸出拠点の中国からベトナムへの移管が進んだと推察される。特にスマートフォンなどの電気機器の輸出が急拡大しているほか、家具や衣類、履物も堅調に増えている。

中国向けは2010年以降、2位に躍り出ており、2017年からは15%超えのシェアを維持している。中国向けでは電気電子部品の輸出が増えている。日本向けの輸出は、2000年時点では首位だったが、米国と中国が輸出額を伸ばす中、シェアは徐々に落ち込んだ。近年は韓国とともに6%台で推移している。

図2:ベトナムの輸出額と国・地域別シェアの推移(上位4カ国・地域)
総輸出額は2000年は約145億ドル、2005年に約324億ドル、2010年に約722億ドル、2015年に約1,502億ドル、2022年に約3,358億ドルと長期的に増加。2023年は約3,531億ドルでやや減少。米国向け輸出シェアは、2000年は5.1%、2005年18.3%、2010年19.7%、2015年20.7%、2022年29.5%、2023年は27.5%。近年は20%台後半で安定。中国向け輸出シェアは、2000年10.6%、2005年10.0%、2010年10.7%、2015年10.2%、2022年15.6%、2023年17.2%。近年は10%台から15%台前半で増加傾向。韓国向け輸出シェアは、2000年2.4%、2005年2.0、2010年4.3%、2015年5.5%、2022年6.5%、2023年6.6%と緩やかに増加。日本向け輸出シェアは、2000年17.8%、2005年13.4%、2010年10.7%、2015年8.7%、2022年6.5%、2023年6.6%と減少傾向にある。

注:2023年時点の上位4カ国・地域。
出所:Global Trade Atlas(GTA)を基にジェトロ作成

輸出額を品目別(HSコード2桁)にみると、2000年代前半は水産品や縫製品などが主要な輸出品目だったが、2010年以降はスマートフォンをはじめとする電気機器(85類)が首位となった。それ以降も急速に伸びており、輸出に占めるシェアは4割近くまで拡大している(図3参照)。

近年ではコンピュータや印刷機をはじめとする一般機械(84類)の伸びも著しく、2020年以降、2位となっている。続いて履物(64類)、衣類〔布帛(ふはく)(62類)〕、衣類(ニット)(61類)といった縫製品も堅調に推移している。縫製品は2000年代に水産品(3類)と並び、輸出に占めるシェアも高かった。その後、電気機器の急増に押されてシェアは伸びていないが、縫製品の輸出額自体は着実に伸びており、主力産業の1つになっている。そのほか、輸出の上位品目である家具類(94類)、鉄鋼(72 類)、プラスチック製品(39類)、果物(8類)、水産品も、シェアの伸びは見られないものの、過去20年ほどで輸出額は大幅に増加している。

図3:ベトナムの輸出額と品目別シェアの推移(上位10品目)
輸出額は、2005年の320億ドルから2008年に630億ドルへ増加。2009年に一時減少も、2010年代を通じて拡大し、2021年に3360億ドル、2022年に3710億ドル。電気機器(HS85)は、2005年に4.8%だった比率は、2012年に19.6%、2017年に35%、2020年に39.5%まで上昇。一般機械(HS84)は、2005年の3.7%から2013年に6.2%、2021年に7.2%、2023年に9.1%と上昇。履物(HS64)は、2005年の9.5%から緩やかに低下。2010年代後半に7%前後で推移し、2021年に5.4%、2023年に5.9%。衣類(布帛)(HS62)は、2005年に8.7%だった比率は、2010年代を通じて減少し、2021年に4.1%、2023年に4.3%。衣類(

注:2023年時点の上位10品目。
出所:Global Trade Atlas(GTA)を基にジェトロ作成

輸出拡大に伴い、中国などから原材料・部品輸入が増加

ベトナムの輸入は輸出と同様、世界不況のあおりを受けた2009年と2003年を除き、年々増加している。国・地域別では、中国が2003年以降首位を維持し、シェアは2000年の9%から2023年には34%まで拡大した(図4参照)。特に中国からは電気電子部品の輸入が拡大している。韓国は、2010年ごろから2016年まで急激な伸びを見せた。2017年以降は停滞してシェアが下落したが、2023年時点で2位を維持している。韓国からの輸出の大半は電気電子部品となっている。3位以下は日本、台湾(注)、米国などで、輸入額は年々増加しているものの、中国ほどの伸びはなく、シェアは横ばいとなっている。

図4:ベトナムの輸入額と国・地域別シェアの推移(上位5国・地域)
輸出額は、2005年の370億ドルから2008年に810億ドルへ倍増。2009年に700億ドルへ減少も、2021年に3310億ドル、2022年に3590億ドルに達した。中国は2005年に16%だった比率は、2007年に20%、2013年に28%、2021年に33%へ上昇。2023年には34%となった。韓国は2005年の9.8%から上昇し、2014年に15.7%、2017年に22.0%で最高を記録。その後はやや減少し、2023年には16.1%となった。日本は2005年に11.1%だった比率は、2010年に10.6%、2015年に8.6%、2023年には6.6%に低下。台湾は、2005年の11.7%から緩やかに低下し、2010年に8.2%、2016年に6.4%、2023年には5.7%。

注:2023年時点の上位5カ国・地域。
出所:Global Trade Atlas(GTA)を基にジェトロ作成

輸入額を品目別(HSコード2桁)にみると、2011年以降、電気機器が首位で高い伸びを示している(図5参照)。これは、輸出品目上位のスマートフォンやコンピュータ、印刷機などの電気製品の生産拡大に伴い、それらに組み込まれる電子部品の輸入が増えているためだ。2位以下は、鉱物性燃料、一般機械、プラスチック製品、鉄鋼などが続く。生地や糸などの繊維原料の輸入も、縫製品の輸出拡大に伴って増えている。

図5:ベトナムの輸入額と品目別シェアの推移(上位5品目)
輸出額は2005年の370億ドルから2008年に810億ドルへ急増。2009年に一時減少も、2010年代に回復し、2021年に3310億ドル、2022年に3590億ドル。電気機器(HS85)は2005年に8.1%だった構成比は、2012年に20%、2017年に29.9%、2020年に36.5%へ拡大。鉱物性燃料(HS27)は、2005年の14.7%から2014年に7.1%、2016年に4.4%まで縮小。その後、2023年に7.9%とやや回復。一般機械(HS84)は、2005年に12.3%だった比率は、2010年前後に13~14%台を維持後、減少。2019年に9.2%、2023年に7.2%。プラスチック製品(HS39)は、2005年に5.8%、2010年に6.4%、2014年に6.6%と安定推移。2020年代も6%前後でほぼ横ばい。鉄鋼(HS72)は、2005年の8.4%から2008年に9.6%でピーク。その後は減少傾向が続き、2019年に4.5%、2023年に3.8%へ低下。

注:2023年時点の上位5品目。
出所:Global Trade Atlas(GTA)を基にジェトロ作成

このように、ベトナムは中間財(部品・素材など)を輸入し、組み立てて輸出する構造となっている。それが顕著に表れるエレクトロニクス産業と繊維産業については、次稿以降で解説する。

外資企業の進出増加、輸出額の7割以上担う

ベトナムの輸出拡大は、外資企業による継続的な投資が支えている。ベトナム税関局統計によると、2020年以降、同国の輸出額の7割超を外資企業が占めており、その存在感は極めて大きい。

1986年に導入された「ドイモイ(刷新)」政策を皮切りに、翌1987年の外国投資法制定で外資受け入れの法的枠組みが整備された。さらに、1994年に米国による経済制裁解除、1995年にASEAN加盟など、国際経済統合の進展があった。この時期には、トヨタやホンダなどの日系を含む外資系製造業の進出が加速した。1997年のアジア通貨危機以降、一時的に外資による投資は停滞したが、2007年のWTO加盟を契機に再び増加傾向となり、現在に至るまで輸出主導型の経済成長を支えている。

その中心を担うのが、製造業による投資だ。繊維からエレクトロニクスまで、幅広い分野で外資の進出が進んでおり、ベトナムの産業基盤の強化に貢献している。製造分野の外国直接投資の推移(2015年~2024年)をみると、年間の投資認可件数は1,000件以上で推移しており、新型コロナウイルス禍でも安定していた(図6参照)。投資認可額も年間150億ドル前後で堅調に推移し、2024年には過去最高額を更新した。近年は新規投資に加え、既存工場の増設や設備更新など拡張投資が多いことも特徴だ。

図6:製造分野における外国からベトナムへの直接投資(認可ベース)の推移
製造分野における外国からベトナムへの直接投資(認可ベース)は、2020年以降、新型コロナ流行の影響で件数が落ち込んだものの、投資額は新型コロナ流行前と同様150億ドル前後を維持している。特に2021年と2022年は、拡張投資額が増加。

注:2015~2023年の各年データは12月20日時点の速報値。2024年は外国投資庁の統計の基準変更に伴い、12月31日時点の速報値。
出所:ベトナム外国投資庁の統計を基にジェトロ作成

外資製造業による投資の背景には、2018年に始まった米中間の関税戦争もある。中国からの生産移管需要やサプライチェーン強靭(きょうじん)化を目指す動きが加速する中、ベトナムの投資環境への注目が高まっている。特に中国と比較すると、ベトナムは人件費が安価で労働力が豊富で、自由貿易協定(FTA)の活用余地が大きいことが強みだ。また、中国と地理的に近接しているため、中国で構築されたサプライチェーンを活用しやすいという利点もある。さらに、ベトナムは米国・中国双方と良好な外交関係を維持しており、米国向け輸出の拡大や中国からの生産移管の受け皿として、注目を集めている。

ベトナムへの投資国・地域の中では、韓国が累計で認可件数・認可額ともに最多となっている。特にサムスンやLGグループによるエレクトロニクス分野への投資が顕著だ。日本も製造業を中心に投資しており、累計認可額では3位に位置している。一方、近年では中国系企業による投資が幅広い製造分野で急増しており、韓国や日本を上回る勢いを見せている。

外資誘致に向けて恩典、官民対話で投資環境改善

ベトナム政府は外資誘致のため、投資分野や地域、投資規模に応じた優遇措置を設けている。例えば、ハイテク産業や経済特区、経済・社会的に困難な地域などへの進出に対しては、法人税減免や輸入関税・付加価値税の免除などを適用するほか、裾野産業の発展を目的とした優遇措置も導入し、外資サプライヤーの進出を後押ししている。ただし、2024年からグローバル・ミニマム課税制度導入に伴い、法人税優遇の見直しが進んでいるため、今後はインセンティブが縮小する可能性がある。

政府は、外資製造業を経済成長の原動力と位置づけ、企業との対話を積極的に行っている。その代表例が2003年に始まった「日越共同イニシアチブ」だ。これは、日本とベトナムの官民合同対話の枠組みで、イニシアチブを通じて日本企業が抱える課題や改善要望をベトナム政府に提起し、協議を通じて解決を図る。このほかにも、在ベトナムの外国商工会議所と首相との対話会も開かれ、政府は幅広く企業の声に耳を傾けている。

外交面では「バンブーディプロマシー(竹の外交)」と呼ばれる柔軟でバランスの取れた戦略を展開し、米国や中国など多様な国・地域との関係を維持しながら、幅広い投資を誘致している。

ベトナムは外資系製造業による投資を原動力に輸出を拡大し、経済成長を推進してきた。WTO加盟などを契機にグローバルサプライチェーンへの参画が進み、さらに、米中貿易摩擦を背景に中国からの生産移管が進んだことで、ベトナムは「漁夫の利」を得るかたちで輸出拠点としての地位を強化した。安価な人件費や豊富な労働力、安定した政治・社会情勢など、バランスの取れた投資環境に加え、投資優遇政策やバランス外交、積極的なFTA締結方針など、ベトナム政府の取り組みも後押しとなっている。


注:
Global Trade Atlasの貿易統計では「その他アジア」に分類されるが、ベトナム税関の貿易統計などでは「台湾」に近い金額となるため、本稿では「台湾」と見なして分析する。
執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課 課長代理(執筆当時)
庄 浩充(しょう ひろみつ)
2010年、ジェトロ入構。海外事務所運営課、ジェトロ横浜、ジェトロ・ビエンチャン事務所(ラオス)、広報課、ジェトロ・ハノイ事務所(ベトナム)を経て、現職。