「次のフロンティア」アフリカを巡る世界各国・地域の動向対アフリカ投資・貿易動向
トルコ官民一体のアフリカ展開(2)

2025年7月16日

トルコは、アフリカ諸国との経済関係を積極的に構築している。連載前編の(1)では、トルコの対アフリカ外交政策や歴史的関係をまとめた。後編となる本稿では、トルコとアフリカ諸国との貿易や投資関係についてレポートする。

トルコからの輸出では北アフリカ諸国向けが全体の5.5%を占める

トルコ統計機構(TUIK)の発表によると、2024年の対アフリカ貿易は、輸出が全体の8.2%を占め、215億2,424万ドル(前年比0.6%増)、輸入が全体の3.3%を占め、113億1,505万ドル(同9.1%増)で、貿易黒字は102億919万ドルとなった。

輸出について、アフリカを北アフリカ諸国(アルジェリア、モロッコ、リビア、エジプト、チュニジア)とその他のアフリカ諸国に分けると、北アフリカ向けがトルコの対世界輸出総額の5.5%(輸出額前年比5.4%増)、その他のアフリカ諸国向けが2.7%(同7.9%減)を占める(図1参照)。全体の輸出相手国の上位20カ国の中には、エジプトが16位(41億7,598万ドル、前年比24.6%増)、モロッコが19位(34億4,226万ドル、同12.5%増)に入る。特にエジプト向けは、アフリカへの輸出総額の19.4%(全体の1.6%)、モロッコは16.0%(同1.3%)を占める。トルコ輸出業者協議会(TIM)の統計で品目別にみると、エジプト向けは「化学製品」「鉄鋼」「繊維および同原料」の3品目が対エジプト輸出額の50%以上を占める。このほか、「自動車(関連品)」「電子、電気機器」「機械およびその部品」「穀物・豆類」「鉄および非鉄金属」の輸出も目立つ。モロッコ向けの主な品目では「自動車(関連製品)」「化学製品」「鉄鋼」「繊維およびその原料」で対モロッコ輸出の60%を占める。また、トルコは近年、防衛産業に力を入れており、トルコの主要産業へと急成長している。すでに世界39カ国以上に無人航空機を供給しており、供給先にはアフリカ諸国も多く含まれているとされる。軍備装備品全体では、リビア、モロッコ、アルジェリア、ソマリア、エチオピアなどに供給しているとの報道もある(「BBC」2025年6月12日)。このほか、2025年5月28日付の国営アナドル通信によると、トルコ鉄鋼大手カルデミルがアルジェリアの国有企業インフラレールと、総額1,183万ユーロの鉄道レール用鉄鋼製品の売買契約を交わし輸出するとされている。

図1:トルコのアフリカへの年間輸出額推移
2024年の対アフリカ輸出は前年比0.6%増215億2,424万ドルとなった。アフリカを北アフリカ諸国(アルジェリア、モロッコ、リビア、エジプト、チュニジア)とその他のアフリカ諸国に分けると、北アフリカ諸国向けが前年比5.4%増、その他のアフリカ諸国向けが同7.9%減となった。

注:本稿では、北アフリカはアルジェリア、モロッコ、リビア、エジプト、チュニジアとする。
出所:トルコ統計機構(TUIK)を基にジェトロ作成

トルコのアフリカからの輸入でもエジプトがトップ

一方、輸入先を地域別にみると、北アフリカ諸国が対世界全体の2.4%(輸入額前年比11.8%増)、その他のアフリカ諸国が0.9%(同2.8%増)を占める(図2参照)。輸入相手国の上位20カ国には、アフリカからは17位にエジプト(44億1,056万ドル)が入った。エジプトはアフリカからの輸入額の39.0%、全体の輸入額の1.3%を占める。

トルコのイスタンブールでは、一般機械、工作機器、自動車部品、コスメ、食品、繊維、建材、防衛装備品、スタートアップなど多岐にわたる国際見本市が定期的に開催されており、北アフリカを中心にアフリカからもバイヤーが訪問する光景が見られ、商談成立につながっている。見本市主催者が海外バイヤーを招聘(しょうへい)することもあり、例えば、2025年5月にイスタンブールで開催された総合機械機器展「WIN EURASIA 2025」(2025年6月6日付ビジネス短信参照)では、招聘バイヤー168人のうち53人が北アフリカのバイヤーだった。

図2:トルコのアフリカからの年間輸入額推移
2024年のトルコのアフリカからの輸入は前年比9.1%増の113億1,505万ドルであった。地域別にみると、北アフリカ諸国からが前年比11.8%増、その他のアフリカ諸国からが同2.8%増であった。

出所:TUIKを基にジェトロ作成

2024年のトルコへのアフリカからの対内直接投資は前年比66.7%増

トルコ中央銀行発表の国際収支統計によると、2000年から2024年まで累計の対内直接投資(株式資本、フロー)額は、アフリカ全体で0.3%にとどまる。国別に見ると、アフリカ最大は南アフリカ共和国の2億7,700万ドルで、モーリシャスの1億1,000万ドル、リビアの1億300万ドルなどが続く(図4参照)。

2024年単年の対内直接投資(株主資本、フロー)額を見ると、全体では14.1%増の66億9,200万ドルとなった。そのうち、アフリカからの投資は前年比66.7%増の1,500万ドルで、シェアは0.2%であった(表参照)。アフリカからの投資のうち、北アフリカ諸国が8割を占める(140.0%増)。国別の投資額では、前年に続き首位のエジプトが40.0%増の700万ドルと最大で、次いでリビアが500万ドル、南アが300万ドルだった(図3参照)。

図3:2024年のアフリカからトルコへの直接投資額の割合(国別)
エジプトが46.7%で最大で、リビアが33.4%、南アフリカ共和国が20.0%で続く。

出所:トルコ中央銀行からジェトロ作成

図4:アフリカからトルコへの直接投資額の推移
2024年単年のアフリカからトルコへの直接投資額(株主資本、フロー)は、前年比66.7%増の1,500万ドルとなり、そのうち1,200万ドルが北アフリカ諸国からだった。

出所:トルコ中央銀行からジェトロ作成

2000年以降では、2013年に南アのメタイアによるトルコのバッテリー大手ムトゥル・アキュの株式75%の買収(1億7,570万ドル)などが大型案件として挙げられる(2024年、メタイアは米国のQuexco Incorporatedにムトゥル・アキュ買収済み)。また、2024年8月、エジプトのマイクロファイナンス・融資・決済会社のMNT-Halanが、トルコのタム・ファイナンスを買収した。また、エジプトからは不動産投資が活発、との報道もある〔2025年5月27日付トルコ経済紙「デュンヤ(Dunya)」〕。

2000年以降、トルコからアフリカへの対外投資累計額はエジプト向けが最大

トルコ中銀発表の国際収支統計によると、2000年から2024年まで累計の対外直接投資(株主資本、フロー)は、北アフリカが世界全体の1.5%、アフリカ全体では1.8%を占める(図6参照)。国別に見ると、最大はエジプトの3億7,500万ドルで、次いでアルジェリアの2億9,200万ドル、チュニジアの2億2,800万ドルが続く。

2024年単年の対外直接投資は、前年比16.2%増の65億8,500万ドルで、そのうちアフリカへの投資は3.6%(前年比160.9%増)を占める(表参照)。対アフリカ投資のうち、北アフリカ向けが91.3%(同167.1%増)、その他アフリカ諸国向けが8.8%を占め、2024年の対アフリカ直接投資額は単年では過去25年間で最大となった。国別の投資額を見ると、首位のアルジェリアが前年の約30倍の1億5,100万ドル、次いでエジプトが3,700万ドル(46.4%減)、モロッコが約4倍の3,100万ドルだった(図5参照)。

図5:トルコの国別の対アフリカ直接投資額割合(2024年)
首位がアルジェリアで62.9%で、2位がエジプトで15.4%、3位がモロッコで12.9%となった。

出所:トルコ中央銀行からジェトロ作成

図6:トルコの対アフリカ直接投資額の推移
2024年のトルコの対アフリカ直接投資額については、アフリカ全体で2億4,000万ドル(前年比160.9%増)であった、そのうち北アフリカ向けが2億1,900万ドル(前年比167.1%増)、その他のアフリカ諸国向けが2,100万ドル(前年比110.0%増)であった。

出所:トルコ中央銀行からジェトロ作成

具体的な案件では2024年6月、ティッシュペーパーなどを生産・販売するエジザージュバシュ・コンシューマー・プロダクトが、モロッコの最大手ティッシュペーパーメーカーのジーサー・インダストリーズを買収した。エジザージュバシュ・コンシューマー・プロダクトは2022年にモロッコに進出し、工場を開設しており、買収は地域拡大戦略の一環としている。2024年7月、鉄鋼大手トスヤルが、リビアのベンガジに年間総生産能力810万トンの直接還元鉄プラントを建設すると発表し、神戸製鋼所の米国子会社の還元鉄プロセス受注が決定している。トスヤルのアルジェリア最大の鉄鋼工場では、数千人の従業員を雇用するなど、同国の経済に寄与している。同社のアルジェリアへの投資総額は2013年のアルジェリア進出以降、65億ドル以上に上るという見方もある。また、同社は、セネガルやアンゴラへも投資を行っている。

トルコ政府機関に勤める元トルコ留学生でアフリカ出身の職員によると、トルコ企業はアフリカでの進出先で現地採用を活発に行い、研修などを通して現地への技術や製造ノウハウの共有に取り組んでいることが、アフリカに進出するトルコ進出企業の特徴や強みの1つだという。

2024年9月、コチ財閥傘下のトルコ白物家電大手アルチェリッキが、1億1,000万ドルを投資し、エジプトに工場を開設した。同社は2011年に3億2,400万ドルで南アの白物家電メーカーを買収し、現在、同国に2つの工場を保有している。アルチェリッキは、エジプト、アルジェリア、モロッコ、ケニア、ボツワナ、南ア、ナミビア、エスワティにもネットワークを持っている。2021年には、日立グローバルライフソリューションズが同社と合弁会社を設立しており、エジプトなどで事業を展開している。同社は2025年4月に、トルコのリブコ建設、ジェヴァヒル・ヤプ、リビア開発復興機構と、リビア東部4都市ベンガジ、アルバイダ、シャハト、トブルクのインフラおよび医療開発プロジェクトの契約を締結した。

トルコ企業によるアフリカへの投資では、トルコの空港運営会社TAVによるチュニジアをはじめとした空港の建設と運営、ヤプ・メルケズィによる鉄道案件への参入もある。また、スンマやリマク、アルバイラクをはじめとした建設大手による住宅や大型公共施設、港湾、セメントなどのプロジェクトの請負、鉱山、プレハブ建設などのインフラ・建設案件が強いほか、ハヤト・キミヤによる衛生製品の製造や販売などの展開も見られる。


Eurasia Rail 展(2025年6月、イスタンブール)でのヤプ・メルケズィによるエチオピアの
Awash-Kombolcha-Hara Gebaya 鉄道計画の展示(右側)(ジェトロ撮影)
表:トルコの国・地域別対内・対外直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値、-は値なし)
国・地域名 対内直接投資 対外直接投資
2023年 2024年 2023年 2024年
金額 金額 伸び率 構成比 金額 金額 伸び率 構成比
アフリカ全体 9 15 66.7 0.2 92 240 160.9 3.6
北アフリカ諸国 5 12 140.0 80.0 82 219 167.1 91.3
階層レベル2の項目アルジェリア 0 0 0.0 5 151 2920.0 62.9
階層レベル2の項目モロッコ 0 0 0.0 7 31 342.9 12.9
階層レベル2の項目リビア 0 5 33.3 0 0 0.0
階層レベル2の項目エジプト 5 7 40.0 46.7 69 37 △ 46.4 15.4
階層レベル2の項目チュニジア 0 0 0.0 1 0 △ 100.0 0.0
その他のアフリカ諸国 4 3 △ 25.0 20.0 10 21 110.0 8.8
階層レベル2の項目コートジボワール 0 0 0.0 0 4 1.7
階層レベル2の項目ガボン 0 0 0.0 0 2 0.8
階層レベル2の項目ガーナ 0 0 0.0 1 2 100.0 0.8
階層レベル2の項目南アフリカ共和国 4 3 △ 25.0 20.0 0 1 0.4
階層レベル2の項目セネガル 0 0 0.0 5 9 80.0 3.8
階層レベル2の項目タンザニア 0 0 0.0 3 2 △ 33.3 0.8
階層レベル2の項目ウガンダ 0 0 0.0 0 1 0.4
合計(その他含む) 5,863 6,692 14.1 5,669 6,585 16.2

注:「アフリカ全体」の数値はトルコ全体の数値における割合、それ以外の項目は「アフリカ全体」の数値における割合。
出所:トルコ中央銀行を基にジェトロ作成

一部製造業に北アフリカへの生産移転の動き

昨今、トルコにおける高いインフレと人件費や原材料の高騰による生産コストの上昇を受け、トルコ国内の製造拠点の中には生産拠点を海外へ移転する動きが見られている。特に繊維・アパレル業界でこの動きが顕著で、トルコに比べて廉価な生産コスト、トルコとの自由貿易協定(FTA)の存在や材料調達のしやすさなどを背景に、エジプトへの生産移転が進行している。事実、2021年から2023年までのトルコによる対アフリカ直接投資額の首位はエジプトだった。イェシム・グループやLCワイキキなど多くのアパレル関連企業が、現在エジプトで操業している。イェシム・グループは2008年にエジプトに参入し、現在3つの工場を同国で稼働させ、約1万人の従業員を雇用している。トルコ現地経済紙「エコノミム」の報道によると、現在、エジプトで稼働するトルコ関連の繊維関連工場数は200以上、エジプトの繊維・アパレル製品輸出額の約3分の1をトルコ関連企業が担っているという。

日本とトルコ企業のアフリカでの協業

トルコに進出している主な日系企業は約200社(ジェトロ調べ)で、アフリカに商流を持つトルコ企業との連携、イスタンブールからトルコ人技術者をアフリカ諸国へ派遣する企業など様々な取り組みが見られる。例えば、機械関連の日系企業にヒアリングしたところ、「協業するトルコ企業は、アフリカ約10カ国に強固なネットワークと実績がある。また、アフリカでは、機械を購入後、独自に運用、カスタマイズするため、差別化を図ったハイスペックの製品ではなく、広く受け入れられているデファクトの製品をアフリカ向けに準備している」とのことだった。

商船三井は、トルコのカラデニズ・ホールディングスの子会社で発電船事業を手掛けるカルパワーと、アフリカ諸国で液化天然ガス(LNG)発電船事業を展開している。また、三菱商事は、チャルック・ホールディング傘下の総合エネルギー・インフラ事業会社チャルック・エナジーと資本提携をしており、セネガルでの再生可能エネルギー事業などに取り組む。2024年5月に、日本貿易保険(NEXI)がLEADイニシアティブに係る取り組みとして、チャルク・エナジー向け融資保険引受を決定しているほか、チャルク・エナジーは同年10月には、国際協力銀行(JBIC)との間でトルコ・第三国の脱炭素分野などにおける日本企業との協業を促進するためのパートナーシップ強化のための覚書を締結している。

一方、国土交通省は2006年以降、トルコとの建設分野での第三国連携推進を目的に、日本・トルコ建設産業会議を開催している。直近では、第7回の会議が2024年10月にイスタンブールでトルコ貿易省と共同で開催され、両国から多くの官民関係者が集まり、アフリカ市場やウクライナ復興に係る意見情報交換が行われた。

これまで前編の(1)と併せて、官民一体となってアフリカビジネスを推進させているトルコのアフリカとの関係をみてきた。大企業、中小企業ともにアフリカ各国現地で強固なネットワークとノウハウを持つが、日系企業にとって、第三国企業連携の良いパートナー候補になりうるのではないだろうか。

トルコ官民一体のアフリカ展開

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(1)アフリカ政策とその背景

執筆者紹介
ジェトロ・イスタンブール事務所
井口 南(いぐち みなみ)
日系銀行などを経て、2018年からジェトロ・イスタンブール事務所勤務。