TICAD特集:アフリカビジネス5つの注目トレンド静岡発!モロッコ企業と組み、日本茶を世界へ(その2)
製茶工場を開設、丸善製茶に聞く(2)

2019年7月31日

シリーズ第1弾「モロッコに日本の茶メーカーが初進出、3社協業で欧州・中東市場を狙う」では、合弁会社を立ち上げた日本・モロッコの計3社にそれぞれモロッコでインタビューした。第2弾となる本稿では、丸善製茶の海外への取り組みなど詳細を聞くため、静岡の同社を訪ねた。

静岡市駿河区に本社を置く1948年創業の老舗茶商の丸善製茶は、原料茶や包装茶の生産と販売を手掛ける。同社は2018年に、茶の包装機械・資材を扱う日本企業と、加工・輸出を担うモロッコ企業と組み、現地に合弁会社を立ち上げた。日本産茶葉を現地工場で加工・包装し、欧州市場に売り込む狙いだ。モロッコ進出のきっかけやメリット、今後の事業展開について、古橋克俊代表取締役に話を聞いた(6月10日)。

東日本大震災を機に、国内外で新たな事業を展開

質問:
これまでの国内外事業の概要は。
答え:
創業71年の当社は、主に静岡産原料茶を卸売りするほか、包装茶の製造・販売や、緑茶・ウーロン茶・紅茶などのティーバッグ製品の加工・製造を手掛ける。近年の茶葉の国内消費量と単価は低下傾向で、茶業界は厳しい状況に置かれているため、新しい取り組みや発想が必要と感じている。国内では2018年に、コーヒー店のように気軽に茶を楽しんでもらえる日本茶専門カフェを静岡駅近くに開いた。客の好みに合わせて茶を焙煎(ばいせん)し、香りや色見など新たな楽しみ方を提案している。2019年には、東京のミルクティー専門店と共同で、日本茶ミルクティーをプロデュースした。
海外事業へと踏み出した転機は、2011年の東日本大震災、福島原発事故後の風評被害と自粛ムードのあおりを受け、売り上げが低下したことだ(注1)。海外に販路を広げるため、ジェトロの輸出商談会に出席し、タイの商社と知り合った。その商社からタイでの茶葉生産、加工について持ち掛けられ、関心を持った。現地生産・加工の可能性と、現地パートナーの発掘のため、時間をかけて数々の小規模農家を訪問した。現地の事情や法規制を徐々につかんでいき、2014年にはビール大手のシンハ・コーポレーションを傘下に持つブンロート・ブルワリーと合弁会社を設立した。北部チェンライ県で日本茶、ティーバッグの生産・加工を手掛け、主にタイ国内、オーストラリアで販売している。

世界からバイヤーが集まるモロッコに商機を見いだす

質問:
モロッコ事業のきっかけ、決め手は。
答え:
きっかけは、取引があった包装機械販売業者ナサに、モロッコの茶産業大手SITIを紹介されたことだ。丸善製茶の海外販路をさらに広げるため、モロッコでの加工と同国から距離的に近い欧州市場への参入の可能性を探った。最初はモロッコと聞いてピンと来なかったが、SITIの操業過程を映した動画を見せてもらいながら、具体的なイメージを徐々に作った。
2018年6月に、丸善製茶20%、ナサ40%、SITIグループのマネジメント・アンド・アドバイザリー40%の出資割合で、合弁会社マルゼン・ティー・モロッコを設立した。SITIグループ企業が集まるモロッコ中部のマラケシュに加工工場を構え、2月に試験操業を開始した。6月には食品安全衛生局(ONSSA)から製造・輸出入・販売許可が下り、本格的に生産・販売を開始する。
モロッコ進出の決め手は、SITIが域外バイヤーとのネットワークを持っていること、加工から販売まで一貫したプロセスを1社で担えることだ。工場には日々、欧州や米国、オーストラリア、中東からバイヤーが訪問し、商談の機会が常にある環境だ。また、既に製茶プロセスを確立しつつあったSITIに、丸善製茶の良質な原料茶、ナサの高品質機械を導入することで、生産から輸出・販売まで一貫したプロセスを完成させた(図参照)。
図:協業イメージ
マルゼン・ティー・モロッコは丸善製茶、ナサ、シティの3社が共同出資する合弁会社。主に丸善製茶が原料茶を用意し、ナサが加工・包装用機械を手配・メンテナンスし、シティがロゴの印字、品質チェック、販売・輸出を行う。

出所:インタビュー内容と公開情報を基にジェトロ作成

狙うは欧州市場、将来的に自社ブランドを

質問:
課題と対応、今後の事業展開は。
答え:
マルゼン・ティー・モロッコでは、無機だけでなく、主に欧州向けに有機茶も販売していきたいと思っている。有機JAS認証を取得している日本産の農産品は、相互認証により、欧州市場でも有機として販売できる。しかし、第三国(当社の場合はモロッコ)を経由することで、欧州で同認証は利用できなくなる課題があった。そのため、EUが正式に認定しているエコサート認証(注2)をマルゼン・ティー・モロッコとして取得した。また、丸善製茶ではエシカル消費の意識が高い欧州市場で顧客を確保するため、持続可能な農業要件を満たしていることを証明するレインフォレスト・アライアンス認証(注3)も取得した。生産量は年間50トン以内だったため、書類審査だけで済んだ。

丸善製茶が扱う茶葉。
浅蒸し煎茶(左上)、深蒸し煎茶(右上)、玄米茶(左下)、抹茶(右下)(同社提供)
現在は相手先ブランド名製造(OEM)、原料販売、自社ブランド製品の販売など、あらゆる可能性を探っている段階だ。今はまだSITIの既存の顧客との取引が多く、番茶のニーズが一番多い。だが、番茶であっても、自社のものは中国やスリランカ産より甘みがあり質が高く、現地の従業員も違いがわかってきている。日本産茶葉の良さは時間をかけて広めていければ、自社ブランドでも販売していけると考えている。

編集後記:現地企業との協業が日本の中小企業進出の選択肢に

中小企業にとって、アフリカ進出はハードルとリスクが高いと言われて久しい。日系企業の進出は着実に増えているものの、資金回収の問題や、労働・輸送コストなどが決して安価でないため、進出を手控える企業も多い。

丸善製茶は創業から71年の老舗だが、2011年以降の売上減少を受けて、2014年にタイ、2018年にはモロッコへの進出を果たした。同社はいずれも現地企業とパートナーシップを組んでおり、パートナーの操業・管理・販売などのノウハウを活用できる。丸善製茶の場合は、タイ進出とナサをきっかけに、SITIとつながり、結果的にモロッコ進出へとつながった。欧州に近いモロッコの立地、既存の顧客と販売ノウハウを持つ現地パートナーと、高品質の原料と生産設備を持つ日本企業が見事にはまった事例と言える。


注1:
農林水産省が実施した2016年度茶需給・流通状況調査報告書によると、2011年以降、関東や静岡を中心に、風評被害が原因とみられる茶価の下落、贈答品の売れ行き悪化が見られた。
注2:
EUの輸入規則 (EC) No 1235/2008 ANNEX IV に定める、有機認定を行う管理当局および管理機関の1つであるエコサートが認定する。生産者だけでなく、加工者、輸出業者もこの認証を取得しないと、有機商品として EU へ販売することはできないため、注意が必要だ。詳しくはジェトロの2017年度欧州における有機食品規制調査レポートを参照。
注3:
非営利団体レインフォレスト・アライアンス外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます が定める持続可能な農業を目的としたプライベートスタンダード。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部 中東アフリカ課
山崎 有馬(やまざき ゆうま)
2017年4月、ジェトロ入構。2018年10月より現職。

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