TICAD特集:アフリカビジネス5つの注目トレンド転換期のアフリカ経済、世界と日本企業の進出続く

2019年7月31日

アフリカ経済は2003年以降の資源ブームから一転、2014年の資源価格下落を受け減速したが、2017年以降は再び上昇傾向をみせている。主要国企業は市場の成長性を見据え、引き続きアフリカ投資に積極的だ。日本企業も市場拡大を見据えて投資を増加させている。転換期にあるアフリカ経済の「変化」を見ていく。

転換期に入ったアフリカ経済

アフリカ経済は2000年代に入って、新興国の資源・エネルギー需要拡大を背景とした資源輸出の伸びにより、高成長を遂げた〔図1参照、国連貿易開発会議(UNCTAD)〕。2009年以降はリーマン・ショック、中国経済の減速、2014年以降は資源価格下落などを背景に、成長の減速が見られた。しかし、2013~17年のGDP成長率は1.7~3.6%の間で推移し、同時期の世界平均(2.4~3.1%)と同水準を維持した。国際通貨基金(IMF)の見通しによると、2019年、2020年のGDP成長率予測はサブサハラアフリカが3.5%、3.7%、北アフリカを含む中東が1.5%、3.2%で、今後も安定的に成長すると見られる。2018年の国別GDP成長率を見ると、域内経済大国である南アフリカ共和国は0.8%、ナイジェリアは1.9%と低調だった。一方で、ルワンダ(8.6%)、エチオピア(7.7%)、セネガル(6.2%)などの非資源国が高成長を記録している。

図1:2000~2017年のGDP成長率の推移
2000年から2017年のアフリカの名目GDP値と実質GDP成長率、また比較のため世界の実質GDP成長率を示した。 アフリカの名目GDP値は2000年は6,570億ドルだったが、年々着実に増え、2014年には2兆5,310億円に達した。2015年、2016年と連続で前年比減となったが、2017年は2兆2,160億円で3年ぶり前年比増となった。 アフリカの実質GDP成長率は2002年から2008年まで5%以上の高度成長を記録した。しかし、2009年から2012年は1.4%から5.6%の間で上下した。2013~17年は1.7~3.6%の間で推移し、同期の世界平均(2.4~3.1%)と同水準を維持した。

出所:UNCTAD

増加の一途をたどる人口、2050年には4人に1人がアフリカ人に

日本において人口減少に伴い国内市場の縮小が予見される中、日本企業にとってはグローバル化による新規の市場の開拓が急務になっている。アジアに次ぐ将来の巨大市場としても、アフリカの重要性は増している。国連の人口統計(中位推計)によると、2018年のアフリカの人口は12億7,600万人で、世界の17%を占める。2020年代にはインド、中国を追い抜くと見られる。2030年には世界の5人に1人がアフリカ人(約17億人)、2050年には4人に1人(約25億人)の割合に高まり、急速に増加する見込みだ(図2参照)。

アフリカでは従来、大小さまざまな55カ国・地域がそれぞれの市場を形成し、大陸全体として面で市場を捉えることは難しかった。そのような中、2019年5月にアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)設立協定が発効した(2019年7月8日付ビジネス短信参照)。同協定が本格的に運用されれば、アフリカに12億人超の単一市場が形成され、世界でも最大級の市場が誕生する。さらに、日本の労働人口(15~64歳)の比率が、2020年の59%から2050年には51%まで低下する一方、アフリカでは56%から62%に上昇すると予想されている。この労働人口の増加と単一市場の形成をにらんで、アフリカ市場向けの生産拠点の設置を視野に入れる企業も増えるだろう。

図2:アフリカ、アジア、インド、中国の人口(2018年、2030年、2050年)
アジアは2018年の46億人から2050年には53億人と堅調に伸びる予測だ。中でもインドは2018年の14億人から2050年の16億人へと拡大する。しかし、中国は2018年は14億人、2030年は15億人と増えるものの、2050年は14億人と、減少に転じる。アフリカは2018年に13億人、2030年に17億人、2050年に25億人と急拡大する見込みだ。

出所:国際連合

貿易額は2014~2016年に落ち込むも、2017年から回復か

2000年と2017年のアフリカの対世界の貿易額を比べると輸出額(図3参照)は2.9倍、輸入額(図4)は4.1倍に増えている。この間の推移は、図1で示した名目GDP値と同様の傾向を示しており、リーマン・ショックを発端とした世界経済の落ち込みを受け、2009年は減少した。続いて、2013~2016年には資源価格の下落を受けて輸出額は落ち込んだ。しかし、2017年は輸出入ともに前年比増と回復を見せている。

図3:アフリカの世界主要国・地域への輸出額推移
アフリカの世界主要国・地域(EU、アフリカ域内、中国、インド、米国、GCC、日本、韓国、ブラジル、ロシア)への輸出額推移を示した。アフリカの対世界輸出額合計(2000年)は1,431億ドルで、2017年には4,116億ドルとなった。ピークは2012年の6,368億ドル。図1の名目GDP値と同様の傾向を見せていて、2009年、2015年、2016年に大きく落ち込んでいる。

出所:UNCTAD

図4:アフリカの主要国・地域からの輸入額推移
アフリカの世界主要国・地域(EU、アフリカ域内、中国、インド、米国、GCC、日本、韓国、ブラジル、ロシア)からの輸入額推移を示した。アフリカの対世界輸入額合計(2000年)は1,258億ドルで、2017年には5,206億ドルとなった。ピークは2014年の6,273億ドル。図1の名目GDP値と同様の傾向を見せていて、2009年、2016年に大きく落ち込んでいる。

出所:UNCTAD

直近10年間で貿易相手に大きな変化はないが、プレゼンスを増大させてきたのは中国とインドだ(表参照)。2007年にアフリカの輸出構成比で6.7%、輸入構成比で9.2%だった中国は、2017年に輸出11.9%、輸入16.9%までシェアを伸ばした。アフリカからの輸出は原油などの鉱物性燃料、輸入は携帯電話、テレビ、半導体デバイス、パソコンなどの電子・精密機器が多い。インドも、2007年の輸出入構成比は4.0%、3.1%だったが、2017年には7.4%、4.5%にシェアを伸ばしている。輸出は中国と同様に、原油などの鉱物性燃料が多く、輸入は石油・調整品、自動車、医薬品が多い。

中国やインドのプレゼンスが大きくなった一方で、EU、米国、日本はシェアを下げた。2007年にアフリカの輸出構成比で38%、輸入構成比で36%を占めていたEUは、2017年には輸出32%、輸入32%にシェアを下げた。米国も同様に、2007年の輸出入構成比は20%、7%だったが、2017年は7%、5%となり、シェアは大幅に縮小した。日本の2007年の輸出入構成比はそれぞれ3%から、2017年にはそれぞれ2%に下がった。

一方、アフリカ域内の貿易をみると、全体に占める割合は他地域に比べても低い水準にとどまっている。アフリカの対世界輸出額に占める域内の割合は2007年の10%から2017年には17%と伸びたものの、2017年のEU(63%)やアジア(55%)と比べて、域内割合ははるかに少ない。AfCFTA協定では、タリフラインベースで9割以上の物品を関税撤廃することが合意されており、同協定が運用開始されれば、域内貿易についても促進が期待される。

表:アフリカの対世界貿易額に占める主要国・地域の割合(△はマイナス値)
項目 EU アフリカ域内 中国 インド 米国 日本
2007年 2017年 増減 2007年 2017年 増減 2007年 2017年 増減 2007年 2017年 増減 2007年 2017年 増減 2007年 2017年 増減
輸出 37.5% 31.6% △ 5.9 9.9% 16.6% 6.7 6.7% 11.9% 5.2 4.0% 7.4% 3.4 20.3% 7.0% △ 13.3 2.6% 1.8% △ 0.8
輸入 36.3% 31.8% △ 4.5 13.0% 12.9% △ 0.1 9.2% 16.9% 7.7 3.1% 4.5% 1.4 7.0% 5.0% △ 2.0 3.4% 1.7% △ 1.7

出所:UNCTADデータからジェトロ作成

対アフリカ直接投資は3年ぶり増、非資源分野が好調

UNCTADが2019年6月に発表した「世界投資報告2019」によると、2018年の世界の対アフリカ直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)は、前年比10.9%増の459億ドルだった。2015年(569億ドル)をピークに低下傾向にあったが、3年ぶりに増加に転じた。世界の対内直接投資は前年比13.4%減だったが、アフリカ向け投資は資源分野が回復し、非資源分野の投資増と相まって増加した。

国別に見ると、最大の投資先はエジプトで、68億ドル(前年比8.2%減)だった。2015年に発見されたオフショアガス田の開発が活発化し、関連投資案件は12件に上った。域内2位の南アは前年比約2.7倍の53億ドルに増加した。欧州など海外にあるグループ企業の本社からの貸付金が最大要因だが、政府主導の投資促進計画にとっても追い風となる。3位のモロッコは36億ドル(35.5%増)で、金融、再生可能エネルギー、自動車産業など多様な分野で投資を受け入れた。エチオピアは4位の33億ドル(17.6%減)で2018年は減少に転じたものの、東アフリカで引き続き最大だった。6月に情報通信分野の開放が議会で可決され、同分野への投資増も期待される。域内経済大国のナイジェリアは2年連続減少の20億ドル(43.0%減)だった。2019年の大統領選挙を前に、投資が手控えられたとみられる。

2017年の対アフリカ直接投資(残高)を見ると、投資元ではフランスが2年連続の首位(640億ドル)となった。以下、オランダ(630億ドル)、米国(500億ドル)、英国(460億ドル)、中国(430億ドル)が続き、日本はトップ10に入らなかった。

日本からは、化学工業品や食料品などの輸出が伸びる

日本の財務省統計によると、2018年の日本の対アフリカ輸出額は前年比8.4%増の81億1,000万ドルで、2011年以来7年ぶりの増加となり、回復の兆しを見せている。2011年以降減少傾向にあった背景には、アフリカ経済の成長鈍化を受けて、日本からの輸出のうち、主要品目である乗用車やブルドーザーなどの機械類の需要が縮小したことがある。近年は、サバなどの冷凍魚類や鋳型用の粘結剤、殺虫剤などの化学工業品が堅調に伸びている。

2018年の日本の対アフリカ輸入額は前年比8.0%増の89億6,700万ドルで、2年連続の増加となった。品目別では、石油ガスや原油などの鉱物性燃料が2015年まで1位であったが、原油価格下落を受け、近年は減少した。2018年は鉱物性燃料に代わってプラチナなどの貴金属や、鉄、マンガン、チタンなどの鉱石が上位を占めた。資源分野では、イカ・タコなど魚類、コーヒーやバニラなどの食材、動物性飼料なども堅調に伸びている。

日系企業の進出は多様な業種に

財務省統計によると、2018年の日本の対アフリカ直接投資(残高)は9,673億円となった。自動車関連分野、医療サービス・医療機器・医薬品分野、情報通信分野、金融・保険業の投資が目立った。現地に進出する日系企業の拠点数は着実に伸びており、2012年の235社・拠点から2017年には795社・拠点に達した(外務省)。

中でも、拡大傾向にあるアフリカの自動車市場を見据えた自動車関連投資が活発だ。豊田通商は2019年に子会社CFAOを通じて、南アのユニトランスモーターグループを買収し、域内の販売網を強化した。また、現地生産では、日産が2019年に南ア工場で新車種の生産設備強化のための追加投資を発表した。自動車部品では、住友ゴム工業が2016年と2018年に立て続けに南アの生産ラインを強化した。西川ゴム工業とインドの自動車部品メーカーALPとの合弁会社は2019年、ALPアフリカに出資し、現地生産基盤を確立させる。河西工業は2019年に自動車用内装・外装部品の販売を目的として、モロッコに新会社を設立した。また、自動車用ガラスを手掛ける旭硝子(2018年にAGCに社名変更)が2016年、モロッコに工場を新設している。

医薬品・医療分野でも、アフリカへの進出が見られる。富士フイルムは2012年に南アに現地法人、モロッコに駐在員事務所を設置した。競合する欧米系医療機器メーカーとはトレーニングの提供で差別化し、また製品の耐久性も付加価値になる。また、武田薬品は2016年に医薬品の販売拠点、日本光電は2017年に医療機器の販売拠点、テルモは2019年に血液関連の事業所を、ケニアに開設した。このほか、ロート製薬は2016年に南ア企業を子会社化し、医薬品の製造・販売を手掛ける。

情報通信分野では、NTTコミュニケーションズが2010年に南アIT大手のディメンションデータを買収したほか、2017年には南アの通信事業インターネット・ソルーションズと連携し、データセンターサービスの提供を開始した。金融・保険業では、2016年にみずほ銀行が域内最大の民間銀行スタンダードバンクと業務協力、2017年には住友商事がモロッコのアティジャリワハ銀行と新規事業を共同で開拓するため、MOU(覚書)を締結した。

新たな動きとして、新興企業と連携する日系企業も見られる。豊田通商は2016年にセブン・シーズ・ベンチャーズに出資した。さらに2018年には、三井物産と住友商事がケニアのスタートアップであるエムコパ・ソーラーに出資、丸紅がタンザニアのワッシャに出資と、相次いで参画した。また金融分野でも、2018年にSBIレミットとSOMPOホールディングスがそれぞれケニアのビット・ペサ(送金システム)と提携した。

中小企業のアフリカ進出も例外ではない。バイオ燃料を扱っていた日本植物燃料はモザンビークで、2014年から電子マネーを導入したキオスク経営を開始した。電子マネー決済で得られたデータを基に、ローンや農業資材の売買プラットフォームを構築するプロジェクトを立ち上げ、独自のビジネスを展開している。また、静岡県の茶商である丸善製茶は、モロッコ企業および日本企業と組んで、モロッコに合弁会社を設立した。現地に新設した生産工場を拠点に、欧米市場を攻める構えだ。

アフリカ経済は近年、資源価格の上昇を受けて、回復傾向にある。中国やインドをはじめとした諸外国がプレゼンスを高める中、日本企業も市場拡大を見越して長期的な視野に立ち、現地企業や外国企業と連携したビジネスで巻き返しを図っている。日本にとって、拡大するアフリカ市場の重要性は今後、さらに高まるだろう。2019年8月末に開催される第7回アフリカ開発会議(TICAD7)では、日本とアフリカが相互の成長を促進させる重要なパートナーであることが確認されることが期待される。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部 中東アフリカ課
山崎 有馬(やまざき ゆうま)
2017年4月、ジェトロ入構。2018年10月より現職。

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