広島発!もみ殻の固形燃料化装置でアフリカビジネスに挑む
トロムソ執行役員に聞く

2018年7月26日

広島県尾道市の因島に拠点を構えるトロムソは、もみ殻を固形燃料に変える機械装置の製造や販売を手掛ける。造船の機械メーカーとして培った技術と見識を生かし、2007年に製品化を機に会社を設立した。現在の従業員数は7人だ。同社は数年前から海外事業に目を向け、アフリカ市場への参入にも取り組む。同社のアフリカビジネスの概要と展望について、上杉正章執行役員に話を聞いた(7月13日)。

廃棄対象だったもみ殻が燃料に

質問:
事業の概要は。
答え:
田んぼから収穫した稲を、もみすりする際に発生するもみ殻。これをすりつぶして圧縮し、燃料用に固形化する「グラインドミル」の装置を製造・販売している。この装置から製造される、まきのような固形燃料を「モミガライト」と名付けた。原料は100%もみ殻で、石炭などの化石燃料に代わる天然のバイオ燃料だ。発熱量は1キログラム当たり約4,000キロカロリーで、排ガスは石油やガスと異なり硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)を含まない。新たな二酸化炭素も発生しないため、環境保全を図れる。また、もみ殻は通常は廃棄処分されるが、固形燃料に変えることで有効利用につながる。これまで、日本国内で100台を販売した。

モミガライトの製造過程(トロムソ提供)

海外での販売に意欲

質問:
海外ビジネス展開のきっかけは。
答え:
2013年ごろから当社の機械を海外に販売する代理店を通じて、ベトナムを中心としたアジアでの製造や販売を視野に動き始めた。現地に足を運ぶうち、この機械は日本国内より海外で爆発的に売れるのではないかと感じた。例えばベトナムの稲作は4期作で、日本とは比較にならない量のもみ殻が廃棄されている。こうした地域はモミガライトの生産拠点としてのポテンシャルが高い。一方、機械を海外で販売する際には、購入者に対してモミガライトの販路まで確保することが、ビジネスを持続させるカギとなる。最近では、日本国内の大手鉄鋼所からモミガライト炭の大口注文が入ったが、恐らく二酸化炭素が発生しない固形燃料への需要が拡大しているものとみられる。こうした発注の供給元として、海外の機械購入者を位置付け、その購入者が生産するモミガライトの納入先を確保することで、長期的なビジネス関係を築いていきたい。

執行役員の上杉正章氏(右)と営業技術係の秦頌平氏(ジェトロ撮影)

アフリカ特有の新たなビジネスモデル

質問:
アフリカビジネスも同じ状況か。
答え:
現在、取引を進めている在マダガスカルの欧州系企業A社とは、アジアとはまったく異なるビジネスモデルに基づいて商機がもたらされた。A社はバニラ生産大手で、多くの契約農家を抱えている。こうした農家は、バニラ生産だけでは年間の収入を安定させることが難しい。このため、A社が支援してエッセンシャルオイルの精製を副業とすることで、収入源の多角化を図っている。具体的には、農家がオイルを精製する際に必要となる設備投資を行い、生産されたエッセンシャルオイルについても、A社が買い取ることで農家に報酬を支払う。
A社はエッセンシャルオイルを精製する際の燃料として、環境に優しいモミガライトに注目し、国連工業開発機関(UNIDO)東京事務所の「環境技術データベース」のウェブサイトに掲載されている当社の機械装置をみて連絡してきた。A社が位置するバニラ生産地では稲作も営まれており、もみ殻の入手が可能だ。また、マダガスカルでは農地やまきの確保のための違法伐採などから、森林面積の減少が深刻な問題となっており、A社は環境配慮への意識も高い。こうしたビジネスモデルは将来的にも有望で、例えばマダガスカルにある10を超える農業組合に注目している。規模の小さい農家への機械販売は難しいが、農家を組織化している団体にアプローチすることで、ビジネスの発展が見込める。
質問:
アフリカビジネスの課題と展望は。
答え:
過去に、タンザニアに8台をテスト納入し、デモンストレーションを実施したこともある。その場では好感触を得たが、ビジネスに発展させる難しさを実感した。現地では貧困層の多くが料理用の燃料をまきや炭に依存しており、ここにモミガライトの商機があるとみた。ところが、当社製品の認知度が低い上、価格面でも競争力がないことが分かった。現地の機械購入者が商品を店頭に並べて採算を取れるようにするには、機械の価格を日本国内の2分の1程度まで下げる必要があった。これは機械生産の一部を海外工場で行うことで実現させた。今後も地道なマーケットリサーチは欠かせない。
アフリカ人材にも注目しており、ナイジェリア人の研修生を受け入れたことがある。帰国して現地で製品をアピールしてもらうとともに、現地に特有の用途を見いだしてもらえるなどの副次的な効果も期待できる。アフリカは遠いが、現地に行けば新しい発見があり、ビジネス機会も広がる。行く価値のある市場といえる。

トロムソの外観(ジェトロ撮影)

(取材後記:現地ニーズに寄り添った取り組み)

今回の取材では、わずか7人の従業員で、因島からアフリカビジネスに打って出るトロムソに話を聞いた。同社の貿易実務担当者によると、アフリカへの輸出は税関による荷物の滞留や必要書類に対する認識の違いなどから、試行錯誤の連続だ。一方で、アフリカはアジアに次ぐ、「この先、行かなくてはならない市場」という認識で取り組んでいるという。タンザニアでの機械のテスト納入を機に、マーケットリサーチの重要性に気付き、現地調査やアフリカ人材など、さまざまなチャネルを活用した現地ニーズの把握に努めている。同社は炭焼きの窯も販売しているが、この窯では電気を一切使用せずに、モミガライトそのものの発熱により炭を作ることができる。失敗して灰になるリスクもない。電力の普及が遅れるアフリカの農村部でも重宝されそうだ。また、モミガライトの環境面でのアピールはアフリカの貧困層の消費行動には必ずしもつながらず、価格重視の面が大きい。そのため、同社の機械装置を使って商品を製造・販売した場合に、競合するまきや炭との価格に近いところで採算が合うラインを見定め、機械の価格引き下げのための工夫を怠らない。こうした現地ニーズに寄り添った新たな取り組みが、同社のビジネスを支えている。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課 課長代理
高崎 早和香(たかざき さわか)
2002年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、ジェトロ熊本、ジェトロ・ヨハネスブルク事務所(2007~2012年)を経て現職。共著に『FTAガイドブック』、『世界の消費市場を読む』、『加速する東アジアFTA』など。