TICAD特集:アフリカビジネス5つの注目トレンド優れた通信インフラと金融システムが魅力(南ア)

2019年7月31日

10億の人口を有するサブサハラアフリカ。インターネット普及率(個人)は拡大を続けており、2000年の0.5%から2017年には22%に達している。今や、域内の2億人以上が携帯端末などを用いてインターネットを介した世界中のさまざまなサービスを享受できる状況にあり、その数は増加し続けている。域内2位の経済規模を誇り、インターネット普及率が高く、また金融システムや法制度が整備された南アフリカ共和国(以下、南ア)でもスタートアップ・エコシステムに注目が集まっている。

スタートアップが活躍しやすい環境整う

世界銀行によると、2017年のインターネット個人普及率はサブサハラアフリカ(サブサハラ)全体で22.1%。これは、世界平均の48.6%を大きく下回っている。サブサハラ域内で世界全体を超えるインターネット普及率を有する国は、トップのセイシェル(58.8%)、カーボベルデ(57.2%)といった島国に続いて、3位の南ア(56.2%)含む6カ国しかないのが現状だ(表参照)。その中で、南アは人口約5,700万(2017年、世界銀行)、1人当たり所得が6,160ドル(2017年、世界銀行)と購買力を持つ層の厚みが特徴的だ。2018年10月に世界経済フォーラムが発表した、制度、政策の安定性と生産性の高さの指標となる世界競争力指数において、南アは140カ国中67位で、域内では49位のモーリシャスに次いで2位を維持。サブサハラのスタートアップハブとして注目を集めているケニアが93位、ナイジェリアが115位である状況を考えると、南アの優れた金融・法制度が評価され、スタートアップがより活躍しやすい環境を提供しているといえる。

表:2017 年サブサハラアフリカ主要国の インターネット普及率(個人)
順位 国名 インターネット
普及率(%)
2016年 2017年
1 セイシェル 56.5 58.8
2 カーボベルデ 50.3 57.2
3 南アフリカ共和国 54.0 56.2
4 ジブチ 13.1 55.7
5 モーリシャス 52.2 55.6
6 ガボン 48.1 50.3
7 コートジボワール 41.2 43.8
8 ボツワナ 39.4 41.4
9 ガーナ 34.7 37.9
10 ナミビア 31.0 36.8
サブサハラアフリカ全体 19.8 22.1
世界全体 45.7 48.6

出所:世界銀行「World Bank Database」を基にジェトロ作成

南アにもデジタル経済の波

こうした中、南ア政府も、テクノロジーを活用した第4次産業革命(4IR)推進に向けて取り組みを加速させている。2019年4月にはシリル・ラマポーザ大統領が、4IRを促進するための30人の有識者から成る委員会を発足。また7月には、最大都市ヨハネスブルクでラマポーザ大統領出席の下「4IRデジタル経済サミット」が開催されるなど、具体的な法整備などは道半ばであるものの、デジタル経済化に向けた機運は高まりつつある。南ア政府による、スタートアップを含む小中規模企業向けの代表的な支援策としては、「セクション12A」と呼ばれる税恩典と、黒人の経済力強化政策(BEE)取り組み指標の1つとなる「企業およびサプライヤーの発展」を通じた、黒人中小企業への支援がある。セクション12Aにおいては、南ア政府から承認を受けたベンチャーキャピタル(VC)を通じて、小規模起業家の株式を購入した企業・投資家は、その額に応じて所得税が減税されることになるため、資金を必要とするスタートアップ企業の資金調達を容易にし、間接的に産業全体を支援する効果がある。

VC投資が活発化、2017年は3割増

南アVC協会(SAVCA)によると、南ア国内VCの2017年の投資額は2016年の8億7,600万ランド(約68億円、1ランド=約7.8円)から、11億6,000万ランド(約90億円)と30%強増加し、南アはアフリカ域内でも最大級の投資先しての位置を維持している。そのうち、シード向けファンディングが57%と過半を占めている。投資元は独立系ファンドの4Di キャピタルや、ナイフキャピタル(Knife Capital)、金融機関では大手投資銀行インベステック(Investec)や、ランドマーチャント銀行(RMB)などが代表的だ。ほかにも、ジョズィ・エンジェルズ(Jozi Angels)などエンジェル投資家による投資額も2017年は7,300万ランドとなり、拡大している。投資額の産業別内訳では、製造業(13.4%)、食品・飲料(10.3%)、医療機器(9.4%)、生活品(6.9%)、エネルギー(6.7%)と多岐にわたるのも特徴だ。南アテック関係情報誌「ベンチャー・ベルン」によると、南アVCによるスタートアップ向け大型投資として、モバイル金融システムのバックヤードシステム開発を行うジュモ(JUMO)向けの5,200万ドル(2014年)、小型電子決済端末の機器・サービスを提供するヨーコー(Yoco)の向けの1,600万ドル(2015年)などがあり、VCによるSU支援は活況を呈している。

ケープタウンとヨハネスブルクに2大エコシステム

南アVC協会によると、2017年にVCの投資を受けたスタートアップの所在地別では、ケープタウンがある西ケープ州が51.9%、南ア最大の経済都市ヨハネスブルクを擁するハウテン州が36.1%だった。3位のクワズルナタール州(ダーバン市を含む)の5.2%を大きく引き放していることからも、南アでは西ケープ州とハウテン州がスタートアップの2大集積地となっていることがわかる。西ケープ州はケープタウン大学、ステレンボッシュ大学が優れたスタートアップ人材を輩出する拠点大学となっている。ケープタウンでは「Citi」や「Workshop17」など、州政府や「シリコンケープ」などの非営利団体(NPO)によるインキュベーション施設が20以上あり、またステレンボッシュ大学構内にも南ア大手銀行ネドバンクが支援する「Launch Lab」と呼ばれるコーワキングスペースがあり、エコシステムが形成されている。一般的に、ケープタウン・ステレンボッシュのスタートアップは白人起業家が中心であり、フィンテック、ヘルステックなどのテック関係に強みを持ち、南ア国内向けのソリューションよりも、英国や米国などへのソリューション提供や、海外での株式上場によるエグジット戦略をとるなど、外向き志向であると言われている。他方、アフリカ最大の経済都市で国内外の大企業が集積しているヨハネスブルクと行政の首都プレトリアにまたがるハウテン州のエコシステムは、企業と、大学(ビッツボーターズランド大学、プレトリア大学など)、政府との産学官連携の取り組みが活発である。地理的に企業・政府へのアクセスが容易なことを背景に、同地域のスタートアップは南ア国内の企業や政府など国内向けのソリューション提供が中心であり、ケープタウンと異なり、資金調達に関しては政府や大企業からの支援の比率が高いことが特徴的である。南ア国内では、異なる特徴を持つエコシステムが存在し、互いにしのぎを削っている。

執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
髙橋 史(たかはし ふみと)
2008年、ジェトロ入構後、インフラビジネスの海外展開支援に従事。2012年に実務研修生としてジェトロ・ヤンゴン事務所に赴任し、主にミャンマー・ティラワ経済特別区の開発・入居支援を担当。2015年12月より現職。南アフリカ、モザンビークをはじめとする南部アフリカのビジネス環境全般の調査・情報提供および日系企業の進出支援に従事。

この特集の記事