TICAD特集:アフリカビジネス5つの注目トレンド「社会課題」を「チャンス」に変える(ナイジェリア)

2019年7月31日

アフリカ最大の人口と経済規模を持つナイジェリアは、巨大市場ならではの社会課題を併せ持つ。人口増加に経済成長が追い付かず、雇用対策や交通・通信などのインフラ整備は後手に回り、まん延する汚職や不安定な為替などの問題も指摘される。そうした社会課題を解決しながら、成長を目指すスタートアップ企業の存在感が年々増し、外国の投資家や企業の関心も高まっている。

高まるナイジェリア・スタートアップシーンの存在感

これまで、アフリカのスタートアップシーンはケニアと南アフリカ共和国(以下、南ア)が牽引していた。しかし、2018年のナイジェリアへのベンチャーキャピタル(VC)投資件数は58件、投資額は9,490万ドルで、アフリカで初めて1位となった(表1参照)(注1)。2015年に比べて件数、金額ともほぼ倍増しており、スタートアップシーンが急速に成長している(図1参照)。スタートアップ活躍の基盤であるインターネット普及率が50%程度にとどまり、多くの伸びしろがあることや、スマートフォンのさらなる普及に伴い、成長の流れはさらに加速することが期待される。

表1:2018年 アフリカへのVC投資額および件数(上位国)
国名 投資件数 投資額
(100万ドル)
件数シェア
(%)
ナイジェリア国旗 ナイジェリア 58 94.9 28
南アフリカ国旗 南アフリカ 40 59.8 19
ケニア国旗 ケニア 38 52.1 18
エジプト国旗 エジプト 34 33.5 16

出所:Disrupt Africa 「AfricanTechStartupsFundingReport2018」を基にジェトロ作成

図1:ナイジェリア・スタートアップ資金調達件数・金額
2018年は2015年に比べ、ともにほぼ倍増。

出所:Disrupt Africa 「AfricanTechStartupsFundingReport2018」を基にジェトロ作成

また、別の調査によると、投資件数では国内からの投資が国外からの2倍以上であるのに対して、金額ベースでは国外からの投資が圧倒的に多く、国内の実に約70倍だ(表2参照)(注2)。これは、国内の投資家やVCがシード段階の企業に少額を出資し、育ってきた有望企業に対しては、主に欧米の外国投資家やVC、大企業が大型出資するという、すみ分けができていると言える。外国投資家はシード段階のスタートアップにまだリーチできておらず、ブルーオーシャンの状態と見ることもできるだろう。

表2:ナイジェリアのスタートアップへの投資元分類(2018年)
投資元 金額
(100万ドル)
件数
国内投資家 2.2 116
国外投資家 156.6 47
クラウドファンディング,
ICO(ビットコインなど)
19.6 3

出所:Techpoint Nigerian Startup Funding Report 2018

スタートアップシーンの中心は、商都ラゴスだ。ラゴスには全国から優秀な人材が集まり、近年は海外から「ナイジェリア・ディアスポラ」の頭脳回帰も目立ち、多くの創業者がハーバード大学やスタンフォード大学など欧米トップ校の卒業生だ。また、スタートアップを支援するインキュベーターの拠点数も、南アに次いでアフリカで2位(55拠点)となっている。代表例はフェイスブックやグーグルと強いつながりを持つCo-Creation Hub(CcHub)で、2019年8月にはアフリカのスタートアップとアジア5都市を訪問する「Pitch Drive」プロジェクトを企画しており、日本では第7回アフリカ開発会議(TICAD7)でジェトロと共催のピッチイベントを開催予定など、積極的な活動を行っている。ケニアや南アでは欧米人が創業したスタートアップの活躍が目立つ一方、ナイジェリアではナイジェリア人が創業したスタートアップがほとんどを占めているのも特徴だ。優秀な「ナイジェリア・ディアスポラ」の回帰、インキュベーターの国内有望人材の発掘や育成が、ナイジェリア人活躍の土壌をつくっていると言えるだろう。

さまざまな分野で躍動、「社会課題」を「チャンス」に

2018年はフィンテックに向けられた投資実績が目立つが、ナイジェリアのスタートアップはさまざまな分野で活躍している。輸送・交通、農業、医療、教育、金融など、社会的課題が目立つ分野でそれらをチャンスと捉え、ソリューションを提供できる企業が育っている。ナイジェリアへのベンチャー投資を伸ばすべく、2019年7月から活動を始めたケップル・アフリカ・ベンチャーズの品田諭志氏は「政府の非効率性や汚職を防ぐ仕組みとして、ブロックチェーンが適用できる分野も有望。こうしたナイジェリアのニーズに合った(課題解決に向かう)サービスとフィンテックを融合させたビジネスモデルもこれから伸びていくとみている」と話す。

ナイジェリアの代表的なスタートアップとして、アフリカ初のユニコーン企業(評価額10億ドル以上の非上場、設立10年以内のスタートアップ)で、2019年4月にニューヨーク証券取引所に上場を果たしたeコマースのジュミア外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます、地元の優秀な人材を採用し、ITエンジニアを育成しながらソフトウエア開発業務を行うアンデラ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますなどがある(参考参照)。また、農業分野(アグリテック)ではファーム・クラウディ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますが、既にニーズのある作物の生産に必要とする資金をクラウドファンディングで集め、投資家と農家をつなぐプラットフォームをつくっている。これは、品田氏の言う「ニーズに合ったサービスとフィンテックの融合」の好例だ。「トラック版ウーバー」アプリを開発、提供するコボ360外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、2016年の創業以来急速に成長し、ナイジェリアにとどまらず、西アフリカ諸国やケニアにも事業を拡げている。フィンテックに目を向けると、インタースイッチ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますフラッターウェーブ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますなど、オンライン支払いのプラットフォームを開発・提供する企業が目立つ。銀行口座を持たない人でもオンライン送金ができるサービスを提供するパガ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますのような企業もあるが、ケニアで爆発的に普及しているエムペサ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますのようなモバイルマネーサービスは、ほぼ普及していない。銀行セクターがアフリカの中では比較的発達していることや、最近まで政府の規制・運用ガイドラインが存在しなかったことなどが要因だ。中央銀行が2018年10月にモバイルマネー・ライセンスのガイドラインを発表し、モバイル通信最大手のMTN(南ア系)が近い将来にサービス開始するべく準備中、と報じられている。

日系企業の動向と連携可能性

ナイジェリアには、地場に加え、欧米の投資家やVCが熱視線を送っている。前述したスタートアップの多くは、米国を中心とした欧米からの出資を次々と受けている。日系企業の動きは、大手総合商社を中心に投資事例が複数見られる東アフリカ(ケニア)に比べると、まだ動きは活発ではない。しかし2019年6月に、ヤマハ発動機がラゴスでバイクタクシー配車アプリを提供するMAX.ng外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます に700万ドルの出資を決定したことが明らかになり、日系企業としては初の西アフリカのスタートアップへの出資事例となった。ほかにも、複数の日系企業がナイジェリアのスタートアップに関心を寄せているが、ポイントは「実業とのシナジー」だ。スタートアップのアイデアやプラットフォームを活用し、いかに自社のビジネスを伸ばすことができるかを焦点に、最適なマッチングを探ることが肝要だ。ケップル・アフリカ・ベンチャーズのナイジェリア参入により、今後、シードレベル企業の掘り起こしや、それら情報が日本のビジネス界に届きやすい環境になることが期待される。ナイジェリア市場に入りあぐねている日系企業にとって、ナイジェリアのスタートアップは強力なパートナーになり得る存在だ。

参考:代表的なスタートアップ

出所:各社へのヒアリング、各社ウェブサイト、crunchbase.com


注1:
スタートアップ動向を調査するDisrupt Africaの「African Tech Startups Funding Report 2018」による。他社の調査では件数・金額にばらつきがあるものの、件数ベースではナイジェリアがいずれの調査でも1位となっている。
注2:
同資料はナイジェリアのスタートアップへの投資にフォーカスを置いており、少額の投資案件も算入しているため、他調査と数値が大きく異なる。
執筆者紹介
ジェトロ・ラゴス事務所
山村 千晴(やまむら ちはる)
2013年、ジェトロ入構。東京本部で勤務後、2015年2月よりジェトロ岡山にて地元中小企業の輸出支援を中心に担当し、2017年4月より現職。主にナイジェリア、ガーナでの日系企業ビジネス支援に従事している。

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