TICAD特集:アフリカビジネス5つの注目トレンドスタートアップ同士の連携など新たな動きも(アラブ首長国連邦)

2019年7月31日

アラブ首長国連邦(UAE)のアフリカへの投資や貿易は拡大傾向にあるが、幾つかの対象国や製品に集中している。より広い分野や国とのビジネスを拡大するため、スタートアップ同士の連携促進など、新たな取り組みが始まっている。

分野、対象国の拡大を目指すUAEの対アフリカ投資

ドバイ商工会議所が2017年に作成したサブサハラ・アフリカにおけるビジネスチャンスレポートでは、UAE企業にとっての有望投資分野として、UAE国内や近隣諸国での事業経験を生かせる物流・倉庫、再生可能エネルギー、観光・建設、医療、ハラル食品製造、コーヒー・チョコレートなど農産品の加工を挙げている。また、情報通信技術(ICT)関連製品、貴金属精錬、アクセサリー、医薬品、自動車・自動車部品の製造なども有望という。トムソン・ワンの集計による2015~2018年のUAEからアフリカへの国際M&A(合併・買収)案件をみると、分野としては、医療、金融、IT、不動産などに関連した企業の買収が多く見られる。日本企業関連では、アフリカ企業の買収ではないが、2017年に三井物産がドバイを拠点とするETGの株式を総額約300億円で取得した。農産物取引、農業資材販売などを東アフリカ・環インド洋地域を中心に約36カ国で展開する印僑系企業のETGと連携することで、アフリカ地域での収益基盤強化を目指すと発表している。

アフリカ貿易の中継地としての役割強化

2017年のUAE・アフリカ間の非石油貿易額は1,443億7,300万ディルハム(約390億ドル、1ディルハム=約0.27ドル)でUAEの貿易額全体の9.4%だった。アフリカからUAEへの輸入額を見ると、その約8割を貴石・半貴石・貴金属が占めている。これらの製品はUAEの主要な非石油輸出製品でもあり、UAE国内で消費されるほか、ドバイを中継地として世界中に再輸出されている。UAEからアフリカへの輸出額を見ると、輸入に比べてさまざまな製品が取引されているが、その約7割を再輸出が占める。アジアなど第三国からUAEを通じてアフリカ諸国に、「機械類・電気機器およびその部分品」「車両、航空機、船舶」などが再輸出されている。輸出相手先を見ると、エジプトが最も大きく、以下ケニア、スーダン、タンザニア、南アフリカ共和国、ソマリアと、アフリカ大陸の北東部または東部に位置する国々が多く並ぶ。ドバイ商工会議所のレポートによると、アジアと東アフリカ共同体(EAC)間の貿易額は2017年に輸出・輸入ともに前年比約15%拡大しており、ドバイはその中継地としての役割を果たしているという。同会議所は在ドバイ企業に対し、ドバイを通じた両地域間の取引をさらに拡大させ、ドバイの競争力を維持するために、(1)ブルンジ、ルワンダ、南スーダン、ウガンダなどドバイとの貿易量がまだ限定的な国々での取引先の開拓、(2)EACとドバイの物流・倉庫分野への投資の拡充、(3)柔軟なファイナンスや支払システムの利用、決済オプションの多様化などにより、物流だけでなく決済機能やヒトや情報の集積地としての機能を高めることが重要だと提言している。

実際に、UAEからアフリカへの主要再輸出製品である自動車関連製品を扱う企業が多く集まる展示会「オートメカニカ・ドバイ2019」には63カ国1,880社が出展し、10社以上の日系企業も中東・アフリカ地域でのビジネスチャンスを得るため出展した。ある日系企業は、ドバイで展示会に出展することで、実際に訪問するのが難しい複数のアフリカの国々の新規代理店発掘や、既存代理店との関係強化が一度にできると評価した。既存代理店の中には、ドバイに拠点があり、ドバイで決済を希望する企業も多いと言う。

表1:2017年のUAEの国別アフリカ貿易額(非石油貿易)(単位:100万ディルハム)
順位 国名 輸入 輸出 再輸出 輸出総額 貿易総額
1 エジプト 7,717 2,754 7,244 9,998 17,715
2 スーダン 9,148 2,571 1,980 4,551 13,699
3 南アフリカ共和国 8,390 1,221 2,236 3,457 11,846
4 ギニア 9,997 521 240 761 10,758
5 リビア 6,002 1,292 1,160 2,452 8,453
6 ケニア 1,105 1,608 5,127 6,735 7,840
7 タンザニア 3,448 849 3,420 4,270 7,717
8 アンゴラ 4,408 280 1,159 1,439 5,846
9 ボツワナ 5,202 6 449 455 5,657
10 ナイジェリア 2,233 459 1,789 2,248 4,481
その他アフリカ諸国 26,618 6,941 16,801 23,742 50,360
アフリカ諸国計 84,266 18,501 41,605 60,106 144,373
総計 946,466 181,039 400,308 581,347 1,527,813
アフリカ諸国シェア 8.9% 10.2% 10.4% 10.3% 9.4%

出所:UAE連邦競争・統計局

表2:2017年のUAEの品目別アフリカ貿易額(非石油貿易)(単位:100万ディルハム)
品名 輸入額 輸出額 再輸出額 輸出総額 貿易総額
天然または養殖の真珠、貴石、半貴石、貴金属ならびにこれらの製品 67,344 1,856 1,206 3,062 70,406
機械類および電気機器ならびにこれらの部分品 2,149 959 18,520 19,479 21,627
卑金属およびその製品 5,311 2,277 1,349 3,626 8,937
調製食料品、飲料、アルコール、食酢、たばこおよび製造たばこ代用品 1,542 5,460 1,278 6,738 8,280
車両、航空機、船舶および輸送機器関連品 521 208 6,645 6,852 7,373
鉱物性生産品 1,125 1,883 4,208 6,090 7,216
植物性生産品 3,100 289 449 738 3,838
化学工業(類似の工業を含む)の生産品 1,105 1,298 1,422 2,719 3,825
プラスチックおよびゴムならびにこれらの製品 108 2,250 1,445 3,695 3,803
紡織用繊維およびその製品 578 313 1,649 1,962 2,540
動物および動物性生産品 666 260 499 759 1,425
光学機器、写真用機器、映画用機器、測定機器、検査機器、精密機器、医療用機器、時計および楽器ならびにこれらの部分品および付属品 60 126 887 1,014 1,074
石、プラスター、セメント、石綿、雲母その他これらに類する材料の製品、陶磁製品ならびにガラスおよびその製品 99 477 437 914 1,013
雑品 218 120 622 742 960
木材パルプ、繊維素繊維を原料とするその他のパルプ、古紙ならびに紙および板紙ならびにこれらの製品 51 419 315 735 785
木材およびその製品、木炭、コルクおよびその製品ならびにわら、エスパルトその他の組物材料の製品ならびにかご細工物および枝条細工物 172 22 193 215 387
履物、帽子、傘、つえ、シートステッキおよびむちならびにこれらの部分品、調製羽毛、羽毛製品、造花ならびに人髪製品 23 11 311 321 344
動物性または植物性の油脂およびその分解生産物、調製食用脂ならびに動物性または植物性のろう 24 195 90 285 309
美術品、収集品およびこっとう 46 75 13 88 134
皮革および毛皮ならびにこれらの製品、動物用装着具ならびに旅行用具、ハンドバッグその他これらに類する容器ならびに腸の製品 19 2 63 64 84
武器および銃砲弾ならびにこれらの部分品および付属品 5 1 6 7 12
アフリカ諸国合計 84,266 18,501 41,605 60,106 144,373
アフリカ諸国シェア 8.9% 10.2% 10.4% 10.3% 9.4%

出所:UAE連邦競争・統計局

イノベーション促進など新しい分野でも連携強化

ドバイには、アフリカ諸国から起業家やスタートアップも集まり始めている。経済特区内にコワーキングスペースを有するドバイ・テクノロジー・アントレプレナー・キャンパス(DTEC)は、エジプトやモロッコ、南ア、ナイジェリア、セネガルなどのアフリカ諸国を含む世界70カ国以上の国籍の利用者があり、アフリカ人起業家の利用も増えていると話す。2018年10月に開催されたスタートアップイベント、ジャイテックス・フューチャー・スターズ(GITEX Future Stars)にはエジプト、南ア、ナイジェリア、スーダンなどからスタートアップが出展していた。

ドバイの公的機関には、ドバイとアフリカ地域のイノベーション促進、スタートアップの連携などを目的としたプログラムを開始したところもある。例えば、2020年に開催されるドバイ万博に向け、万博事務局はグローバルなイノベーションのエンジンとなるため、「エキスポ ライブ!(Expo Live!)」という、世界を守り、生活を向上させる創造的なソリューションを促進するためのファンドプログラムを開始している。これにより、ザンビアの砂漠化対策に取り組むオランダ発のコクーン(Cocoon)、農家の収入向上に取り組むルワンダのヌル・エナジー(Nuru Energy)、ケニアなどでオフライン使用可能な教材をネット配信するUAE発祥のユースタッド・モバイル(Ustad mobile)など、アフリカの課題解決に取り組んでいる、20以上のスタートアップが選ばれている。

また、ドバイ商工会議所はスタートアップコミュニティー同士の国境を越えた協力関係を強化するためのメンタープログラムを開始し、UAEスタートアップ5社とアフリカスタートアップ5社が参加している。UAEのスタートアップとしては、ジェンダー・バランスコンサルタント、オレンダ・プラス・ブルーム(ORENDA+Bloom)、AIや仮想現実(VR)を使った従業員研修や生産性を向上させるプログラムを提供するテュイティファイ(Tuitify)、アフリカのスタートアップからは、農家団体と国際市場をつなぐソリューションを提供するファームゲート・アフリカ(FarmGate Africa)(ナイジェリア)、建機のレンタル、売買サイトを運営するクイップ・リンク(quip.link)(ルワンダ)、農家向けのクラウドファンディング・プラットフォーム、コンプリート・ファーマー(Complete Farmer)(ガーナ)などが参加するという。3カ月のプログラム終了後、彼らはUAEやアフリカ各国の政府要人、企業関係者が集まるグローバル・ビジネス・フォーラム(GBF)でプレゼン機会が与えられる。GBFは世界の主要な投資意思決定権者の交流を促進することでアフリカへの投資を促進するため、ドバイ商工会議所が政府後援のもと毎年ドバイで開催している。11月に開催される次回GBFでは、テーマを「スケール・アップ・アフリカ」と掲げ、アフリカ経済をスケールアップするため、ドバイとアフリカの意欲的な若い起業家、民間企業および政府の間の強力で創造的なパートナーシップを築く方法を探るという。ドバイ商工会議所のハマド・ブアミム最高経営責任者(CEO)はこのメンタープログラムをAI、農業、フィンテックのような主要関心分野でのドバイとアフリカスタートアップの連携を開拓する貴重な機会と評しており、今後もこのような取り組みが拡大していく可能性がある。

執筆者紹介
ジェトロ・ドバイ事務所
山本 和美(やまもと かずみ)
2009年、ジェトロ入構。途上国貿易開発部、大阪本部ビジネス情報提供課等の勤務を経て2015年7月より現職。

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