TICAD特集:アフリカビジネス5つの注目トレンド日系企業進出増の背景に、外資誘致の補助金制度とフリーゾーン(モロッコ)

2019年7月31日

モロッコには2019年6月現在、日系企業が66社・拠点を設けており(外務省調べ)、2014年と比べ5年間でほぼ倍増した。進出日系企業による現地での雇用創出効果は大きく、例えば住友電装は2万人以上の雇用創出に貢献し、モロッコ進出外資企業の中でもトップクラスだ。モロッコの輸出品目はこれまで、リン産品、衣料品、水産物などの軽工業、一次産品が上位を占めていたが、近年は自動車・同部品が輸出額の約4分の1を占める最大輸出品目となっている。住友電装の製品もその一翼を担う。日系企業の進出増加や輸出品目の多様化の背景にある、同国の外資誘致策、フリーゾーン(税優遇ゾーン)について紹介したい。

外資誘致を促進する3つの補助金制度

モロッコでは、外資誘致を促進する補助金制度として、投資産業開発基金2種と、ハッサン2世基金を設けている。

(1)投資産業開発基金

2015年に設立され、2020年まで200億モロッコ・ディルハム(約2,200億円、MAD、1MAD=約11円)が用意されている。同基金には次の2種類がある。

  1. 産業エコシステム向け補助金
    自動車、航空、再生可能エネルギー、繊維、建材、製薬、金属・機械、オフショアリングなど、業界団体と政府との間でエコシステム構築に関する合意が締結されている分野が対象となる。
    申請要件は、プロジェクト内容により求められる投資総額(もしくは新規正規雇用数)が異なる。要件を満たす場合は、補助金上限額を超えない範囲で、土地・ビル・産業機器の購入やレンタル費、技術支援費、開発研究費、事業開始後3年間の初期費用、国内仕入額などに対して、補助を受けることができる。
  2. 投資憲章の定める補助金
    前述1.の産業エコシステム向け補助金とは別に、一定要件を満たせば、全業種で受けることができる。申請要件は、1億MAD以上の投資、もしくは250人以上の新規正規雇用数である。要件を満たす場合は、投資総額5%を超えない範囲で、土地購入費、インフラ整備費、職業訓練費に対して補助を受けられる。

(2)ハッサン2世基金

2016年に設立された。対象は自動車、航空機、電子産業、化学、製薬、ナノテクノロジー、マイクロエレクトロニクス、バイオテクノロジーに関する製造活動。申請要件は、1,000万MAD(税別)以上の投資で、そのうち設備投資が500万MAD(税別)以上の新規・拡張事業となる。要件を満たす場合、投資総額の15%以内、または3,000万MADを超えない範囲で、土地購入・事業用ビル建設、ビル購入に係る投資額、土地賃貸料、事業用ビル賃貸料、新しい資本財の購入費、自動車部品製造業についてはプレス加工・プラスチック射出成形・工具製造用の中古設備財を輸入した場合の購入費に対して、補助を受けられる。詳細はジェトロのウェブサイト「外資に関する奨励」参照。

輸出産業を育成する多数のフリーゾーンと税制優遇ゾーン

(1)輸出フリーゾーン

主な輸出フリーゾーンとして、タンジェ・フリーゾーン(TFZ)、タンジェ・オートモーティブシティ(自動車関連専用のフリーゾーン)、タンジェ地中海港ロジスティック・フリーゾーン、ケニトラのアトランティック・フリーゾーン、カサブランカ郊外のミッドパーク(航空機産業のフリーゾーン)がある。

主な優遇制度として、関税の免除、法人税は最初の5年間免除(その後の20年間は8.75%に減税)、事業税は15年間免除、会社設立・増資に関する登記費用の免除に加え、職業訓練の補助、通関手続きの簡素化などがある。

モロッコで最大かつ最初に設立されたフリーゾーンは、モロッコ北部の都市タンジェに位置するTFZだ。2000年に設立され、500社以上が進出。タンジェ地中海特別庁(TMSA)がタンジェ地域全体を管轄し、同地域のフリーゾーン・工業団地全体で800社が進出、2018年時点で70億2,000万ドルの輸出売上高を見込む。TMSAはタンジェ地域に5,000ヘクタールの開発用地を確保し、2018年時点で既に1,600ヘクタールを開発済みだ。同地域はタンジェMED港まで車で約1時間の距離にあり、同港から欧州大陸までわずか約14キロ。2018年時点で同港は77カ国186港と結ぶ、アフリカで最大のコンテナ港だ。大きく4つのコンテナターミナルがあり、2019年1月に3番目のターミナルが稼働を開始し、4つ目は2020年1月に稼働の予定だ(2019年7月9日付ビジネス短信参照)。


タンジェMED港。対岸にスペインが見える(ジェトロ撮影)

(2)サービス・金融業向けの税制優遇ゾーン

カサブランカ・ファイナンシャル・シティ(CFC)が2010年に設立され、2019年6月時点で180社以上がステータスを取得し、アフリカ46カ国で事業を行っている(2019年6月25日付ビジネス短信参照)。

CFCステータス取得を申請する企業は、CFC内に建設される3つの専用ビルのいずれかに入居することが義務付けられる。3つのビルのうち、CFCタワーは2019年に開所し、残り2つは建設中だ。CFCの優遇制度として、個人所得税について、従業員は10年間一律20%の税率(その後は標準累進課税)、あるいは標準累進課税(0~38%)のいずれかを選択可能。法人税について、金融業や専門サービス業の場合は輸出売上高分を5年間免除、その後は8.75%の軽減税率。そのほか、外国人の雇用は無制限、就労や在留許可手続きが短縮されるなど優遇がある。

自動車分野を中心に外資企業の進出が続く

前述のように、モロッコ政府は輸出産業育成のため、補助金制度やフリーゾーンの整備を進めている。そうした取り組みも功を奏し、モロッコは2018年時点で、アフリカの中では南アフリカ共和国に次ぐ自動車生産大国となり、年間40万台超の自動車を生産。乗用車の生産量では、アフリカで1位だ(国際自動車工業会)。

2019年6月20日には、フランス自動車大手のグループPSAがケニトラに自動車生産工場を開所した(2019年6月28日付ビジネス短信参照)。日系企業では、ジェイテクト、三井金属アクトが自動車部品工場をタンジェに建設中であり、欧州・中国・韓国の部品メーカー進出も続いている。今後も、自動車部品メーカーをはじめ、日系・外資企業の進出増加が期待できそうだ。

執筆者紹介
ジェトロ・ラバト事務所
本田 貴子(ほんだ たかこ)
2016年、ジェトロ入構。東京本部でビジネス講座やセミナーライブ配信・オンデマンド配信の運営、ジェトロ会員サービスの提供に従事。2018年8月から現職。モロッコへの進出日系企業の増加・活動促進を目指し、情報発信やスタートアップの掘り起こし等に携わる。

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