TICAD特集:アフリカビジネス5つの注目トレンドアフリカ市場で挽回を狙う企業との連携が有望(フランス)
大企業中心から中小・スタートアップを取り込んだ総合的展開へ

2019年7月31日

フランスは2017年に、対アフリカ輸出額の欧州トップの座を初めてドイツに奪われた。アフリカ市場での地位の低下に対し、フランス企業は自らの差別化を模索し、大企業中心のアフリカ展開から、機動力を備えたスタートアップを含む中小企業を取り込んでの総合的なアフリカ進出を志向している。大手、中小、スタートアップそれぞれのアフリカ展開事例を紹介するとともに、フランス企業の日本企業との連携によるアフリカ市場開拓への動きを見る。

中小・スタートアップを取り込んだ総力体制を志向

フランス取引信用保険(コファス)が2018年6月に発表したレポートによると、2000年に世界のアフリカ向け輸出の11%を占めていたフランスは、2017年にはその半分の5.5%まで低下した。特に、主要輸出セクターだった自動車や医薬品、設備資材、また北・西アフリカを中心とするフランス語圏アフリカ諸国での地位低下が顕著だ。アフリカ市場に進出する国々は多様化し、中国やインド、新規参入国のトルコ、欧州ではドイツなどの活躍がフランスのシェア低下の要因だ。こうした現実を踏まえ、フランス企業はアフリカ市場での挽回を図るため、大手から中小・スタートアップまで新しい動きを見せている。

持続可能・社会的包括をキーワードに、新ビジネスモデルを開発するフランス大手

次回開催が2020年に予定されているフランス・アフリカサミットのテーマは「持続可能な都市」。肥大化するアフリカの都市に求められる環境重視の開発に、いかにフランス企業が参画できるかが重要課題となる。既にアフリカに進出している大手環境関連企業は、アフリカ市場を新しいビジネスモデルを展開する格好の場と捉える。総合環境関連のヴェオリアは、持続可能な環境ソリューションを提案することで市場シェアの獲得に努めている。モロッコ北部のルノー・タンジェール工場が必要とする電力システム構築に、同国で生産量の多いオリーブの搾りかすを原料としたバイオマスを利用し、「二酸化炭素ゼロ排出」を達成した。また、ナミビアでは、排水処理により飲料水を抽出する世界で初めての試みを50年前に始め、現在では首都ウィントフックの飲料水の35%を賄うに至っている。ごみ・水処理を手掛けるスエズ・エンバイロメントは、アフリカの都市にとっては高コストな欧州仕様のごみ処理場に代えて、採算が取れて持続可能な、ごみの埋め立てと発生するメタンの再利用の2本立てのシステムを開発し、モロッコのメクネスのごみ処理場に導入されている。さらに、現地のごみ回収事業者を計画の中に取り込むことによって、生活安定を保証する社会包摂性も有していることが重要なポイントとなる。

アフリカに特化した高品質商品を提供する中小企業

アフリカ34カ国で自社製造のハンドポンプを設置するフランスの中小企業ベルニエ・イドロ(Vergnet Hydro)は、40年前にブルキナファソで起業された。政府、地方自治体、国際機関、NGOと提携し、水道・電気のない遠隔地を中心に、手動式の汲み上げポンプをこれまでに10万カ所以上に設置。インド・中国の製品が多く出回る現在、価格面では競争できない現実を踏まえ、耐久性と簡易な設計、さらには現地の30社以上の提携先を通じて、350カ所に部品ストックを配置するなど、アフターサービスを充実することで差別化を図っている。

また、ベルニエ・イドロの母体であるベルニエ・グループは、持続可能なエネルギー(風力・太陽光)発電用機材の製造・販売・設置・メンテナンスを行う中小企業で、現在アフリカ40カ国で事業を展開している。90機以上の風力発電機や太陽光発電装置を設置。また、遠隔地での利用を想定して、風力・太陽光エネルギーの双方を最大限、ハイブリッドなかたちで利用できるようリアルタイムで制御する「ハイブリッド・ウィザード」を開発している。東アフリカのエチオピアで、サブサハラ地域最大の風力発電所をアシェゴダ(首都アジスアベバの北方750キロ)に設立し、30万人以上に計120メガワットの電力を供給している。従来の進出拠点であるフランス語圏西アフリカから東アフリカへの新しい展開を志向するフランス中小企業の好例と言える。

新しい分野では、フィンテック企業のタッグ・ペイが挙げられる。2005年創業の同社は、最初のモバイルマネーのプラットフォームを2010年にナミビアで開始し、現在はアフリカで20以上の銀行にサービスを提供している。2016年にはフランス金融大手ソシエテ・ジェネラルが出資し、同行がアフリカ諸国で開始したEウォレット・サービス「YUP」の技術面を担当。大企業との提携により、アフリカ経済発展のカギとなるモバイルマネーのコアのデジタル・バンキングシステムを構築している。

アフリカで活躍しているフランスのスタートアップ、大企業のサポートを受けるアフリカのスタートアップ

アフリカ14カ国で展開するアフリカEコマースサイト最大手の「ジュミア・テクノロジー」は、アフリカで事業を開始したスタートアップとして初めてニューヨーク証券取引所に上場したが、このアフリカのユニコーンはフランス人CEO(最高経営責任者)のジェレミー・オダラ氏とサシャ・ポワニョネック氏 の共同創業だ。他にもアフリカで活躍するフランスのスタートアップは多い。例えば、非電化地区で、太陽光とLED使用の公共照明と数戸分の屋内照明を供給する独立型街灯を開発・製造・販売するスナ・デザイン。フランス電気大手シュナイダーエレクトリックなどと提携して販売を拡大しており、アフリカ市場における大企業とスタートアップの提携例として興味深い。

一方、アフリカ市場への新アプローチの中心に「スタートアップ支援」を据える企業も多く見られる。2016年以来毎年パリで開催されている技術革新とスタートアップの国際展示会「ビバ・テクノロジー(Viva Technology)」では、2018年から「アフリカテック」コーナーが設けられ、アフリカのスタートアップとフランス企業との連携を後押ししている。2019年はアフリカのスタートアップが160社出展し、フランス大手のバンシ・エナジー(エネルギー)、トタル(石油・エネルギー)、サノフィ(製薬)、ソシエテ・ジェネラル(金融)が、自社ブース内にアフリカのスタートアップに展示ブースを提供し、全面的に支援した。トタルは展示スペースの全てをアフリカのスタートアップに提供し、アフリカでの自社イメージアップとアフリカ市場でのスタートアップとの連携の機会を探っていた。


ビバテックのアフリカテックは多くの来場者の
興味を引いた(ジェトロ撮影)

アフリカ・スタートアップ・ピッチ会場
(ジェトロ撮影)

日フランス連携の実例と展望

日フランス企業間のアフリカでの連携に関して、これまでジェトロ・パリ事務所でヒアリングを行ってきた中では、フランス側で積極的に取り組みを希望する企業はインフラ関連が中心だった。フランスがアフリカで得意としてきたインフラ分野では、中国企業などの進出が激化している。フランス企業は日本企業と提携し、クオリティーで勝負することで案件を勝ち取ることを狙っている。

その例が、2018年5月に発表された東芝エネルギーシステムとフランス建設大手のバンシ・コンストラクションの協業だ。両社は水力・地熱発電所建設に関わる設計・エンジニアリング・製造・建設まで、トータルな戦略的協力関係構築に関する合意覚書を締結した。東芝の地熱向け蒸気タービンをはじめとする水力・地熱発電設備に関する高い技術力・ノウハウと、バンシの90年以上にもわたるアフリカ20カ国以上での実績、建設ノウハウとグローバルネットワークを生かした提携は、日本企業の高い技術とフランス企業のアフリカでの経験を生かした事例として注目される。さらに同社は、アフリカでの病院建設案件の実現に向け、建屋と病院内の高品質な内装・医療機器・システムをパッケージで提案するべく、各分野の日本企業との提携を志向している。

また、豊田通商はアフリカ専門のフランス商社CFAOに対し、2012年末に資本参画を行い、2016年11月には完全子会社化したが、両社の地域・事業内容上の補完性が連携を生んだアフリカでの画期的な日フランス連携の事例として挙げられる。

新しい動きとしては、既に南アに進出している世界有数の3D技術を有するフランスITシステムのダッソー・システムが、アフリカで現地生産を視野に入れる日本企業と提携し、製造現場の3Dシミュレーションによる研修システムを構築することを希望している。また、ベンチャー・キャピタル事業を展開する日本企業は、アフリカスタートアップへの投資を考えるに当たり、リスク回避のために、フランスのベンチャー・キャピタルと連携するオプションを考えているという。このように、従来にない分野での日フランス企業連携の取り組みの可能性も見えてきた。

執筆者紹介
ジェトロ ・パリ事務所
渡辺レスパード智子(わたなべ・レスパード・ともこ)
ジェトロ・パリ事務所に2000年から勤務。アフリカデスク調査担当としてフランス及びフランス語圏アフリカ・マグレブ諸国に関する各種調査・情報発信を行う。

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