船橋発!ガーナにパワープロダクツ販売店をオープン
大木無線電気マーケティング推進部チームリーダーに聞く

2018年9月26日

千葉県船橋市に拠点を構える大木無線電気(大木武士社長)は創業が1974年、従業員数18人で、電気・電気通信工事や太陽光発電などの電気事業を軸に事業展開している。一方で、農業や不動産なども手掛ける多角経営を行っている。2016年には、アフリカのガーナに現地法人フナバシカンパニーリミテッドを設立し、養豚事業を開始した。2018年には同国で、本田技研工業(以下、ホンダ)のパワープロダクツ(発電機、汎用エンジン、ポンプ、芝刈り機、耕運機など)の正規販売代理店をオープンさせた。同社のアフリカビジネスの概要と展望について、マーケティング推進部の井藤真哉チームリーダーに話を聞いた(8月6日)。

太陽光発電や電気工事を主軸に展開する元気な中小企業

質問:
事業の概要は。
答え:
国内では、電気設備工事や電気通信工事、太陽光発電など電気事業を中心に手掛けている。太陽光発電は、土地買収から、施工、メンテナンスまで全て一括で行う。主力事業を礎に農業(パクチー栽培)、ガラスコーティング、不動産なども営んでいる。また、2018年からは新たにバーチャルリアリティー(VR)コンテンツの制作・販売事業も準備している。

大木無線電気の外観(大木無線電気提供)

海外でも多角経営に取り組む

質問:
海外ビジネス展開のきっかけは。
答え:
アジアには大きなポテンシャルがあると見込み、2014年にカンボジアに現地法人を設立した。現在では、電気事業や不動産事業のほかに、飲食店情報サイトの運営やガラスコーティング塗装の施工・販売などをカンボジアで行っている。また、現在手掛けているVRのコンテンツ関連事業では、韓国企業がビジネスパートナーとなっており、今後アジアでVR動画の制作工場をつくる計画もある。

日本の良い製品を現地に届けたい一心で

質問:
アフリカビジネスのきっかけは。
答え:
もともと当社の社長は、日本の技術を生かした海外での食料の生産や加工のほか、一般ゴミ、食物残りかす、汚泥などの産廃物からのエネルギー創出、販売、雇用創出までのサイクル構築を国内外で実施しようと強い信念をもって検討していた。
そのような中、社長が船橋商工会議所青年部の活動を通して、船橋市内でバーを経営するガーナ人のピーター・アクワシ・コビア氏と意気投合。「われわれがガーナと船橋の懸け橋になろう」と、2016年にコビア氏の出身地であるガーナ第2の都市クマシへの進出を決めた。アフリカにとって船橋を日本で一番親しい街にしようとの思いから、社名もフナバシカンパニーリミテッドにした。
社長の親類が畜産業を営んでおり、養豚のノウハウがあったことから、現地では最初に養豚事業に取り組んだ。現在約300匹の子豚を飼育している。また、主力の電気事業も現地で行っており、ガーナの政府系機関である建設・道路研究所(BRRI)の施設に太陽光パネルを当社の出資で納入した。20キロワット(kW)と60kWの太陽光発電システムを納入しており、ここからの電力をBRRIに売電している。売電額が投資を上回り、リターンが出ることを期待している。
2018年6月には、ガーナにおけるホンダのパワープロダクツ正規販売代理店として、販売店を開設した。発電機、汎用エンジン、ポンプ、芝刈り機、耕運機などを販売している。きっかけは2017年、日本のテレビ番組でコビア氏が取り上げられたのを、ホンダの担当者が目にしたこと。折しも当時、ホンダは西アフリカ地域での販売を強化するために、ビジネスパートナーを探していたという。販売先は個人や小規模農場、小売店などだ。ホンダと正規販売代理店契約を結ぶに当たり、フナバシカンパニーリミテッドのスタッフが来日し、ホンダで研修を受けて知識や技術を習得、現地でもホンダの担当者がエンジニアに技術トレーニングを行った。補修部品もドバイのホンダから輸入して、ガーナではまだ普及していないアフターサービスを提供している。模倣品が流入している同国のパワープロダクツ市場において、日本製の正規品は相場よりも価格が高くどうしても敷居が高くなるが、修理しながら高品質の製品を長く使ってもらうよう、アフターサービスへの理解を促している。一方、他社製品についても、テクニカルサービスやメンテナンスを行っている。現地の消費者に受け入れられるよう、柔軟なカスタマーサポートやプロモーションを現地スタッフと考えていきたい。

BRRIに設置した太陽光パネル(大木無線電気提供)

養豚場(大木無線電気提供)
質問:
アフリカビジネスの課題と展望は。
答え:
アフリカ事業には着手したばかりで、結果が出るのはこれから。また、現地には日本人駐在員はおらず、コビア氏の弟とその知人、エンジニア2人を含む計5人で経営している。ガーナに進出している日本企業が少ない中で、さまざまな引き合いがあるが、現地人員が不足しているのが課題。
養豚は、これから1~2カ月後に初出荷を見込んでいる。将来的には、養豚のみならず食肉加工まで手掛けることを視野に入れている。パワープロダクツも2018年6月に店舗が開店してから数台売れており、これから営業や広報を強化していく。現在はラジオCMを流しており、反応も上々だ。そのほかにも、現地の女性や子供向け商品が少ないことに着目し、100円ショップの経営も検討中で、日本のある企業からサンプル提供を受けている。当社は既存の事業にとどまらず、日本の良い製品を現地に紹介する「アンテナショップ」のような役割を果たしたい。

店舗の内部(大木無線電気提供)

開店セレモニーの様子(大木無線電気提供)

取材後記:人の縁が呼び込むビジネスチャンス

「アフリカにとって船橋を一番親しい街にしよう!」という大木社長の志を、同社一丸となってビジネスで体現している。他地域と比較して、アフリカはまだまだ日本企業にとってはビジネスをする上でのハードルが高いと言われている。アフリカの潜在的な市場規模や成長性に期待する日本企業が増えてきている一方で、現地進出には慎重な姿勢を示す傾向にある。そのような中、同社は持ち前の機動力と即断で現地の進出を決めた。また同社は、地元船橋で信頼できる人物に出会えたことで、遠隔での情報収集ではなく、身近なところで信頼できる情報を得ることができた。ガーナの現地法人の運営で現地化に踏み切ることができたことも、コビア氏の功績が大きい。 そして、現地パートナーのネットワークを通じて、BRRIへの太陽光発電システム納入につながったり、養豚場経営の試みがホンダの代理店開設のきっかけになったりと、「人」がビジネスチャンスを呼び込んでいる。現地に根差し、長期的視点でビジネスに臨んでいることと、人との縁を大切にしていることが、同社の飛躍につながっているようだ。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課
清水 美香(しみず みか)
2010年、ジェトロ入構。産業技術部産業技術課/機械・環境産業部機械・環境産業企画課(当時)(2010~2013年)を経て現職。