TICAD特集:アフリカビジネス5つの注目トレンド北海道発!狙うは巨大市場ナイジェリア、自社開発のコンクリート試験装置で挑む

2019年7月31日

総合建設事業を手掛ける日東建設は1952年創業で、北海道の北東部オホーツク海沿岸に位置する雄武町に本社を構える。現在の従業員数は57人だ。同社はコンクリート構造物の圧縮強度を測る非破壊検査装置を独自に開発し、数年前から海外展開への取り組みを始めた。「誰が測定しても同じ数値。どのような向きで測っても補正の必要なし」、そんな簡便性を武器に売り込みをかける。アフリカでは、人口約2億人の巨大市場ナイジェリアを視野に入れる。同社の取り組みと中小企業ならではの苦労や難しさについて、同社技術開発部の久保元樹取締役部長と岡本真氏に話を聞いた(6月18日)。

自社開発製品に世界中から高い関心

質問:
ナイジェリアでの販売に至った経緯は。
答え:
装置を開発した当初は、国内での販売しか想定していなかった。その後、当社ウェブサイトで商品をみたとして、日本人が立ち上げた米国企業から連絡があり、販売店契約を結ぶとともに、英語の専用ウェブサイトを立ち上げた。これを機に、米国のみならず、アジア、中国、インド、中東など多くの国・地域からの照会が増え、世界中で需要があることを認識した。時を同じくして、2012年にエジンバラ(英国)で開催された学会発表の併設展示会に装置を並べたところ、連日、ブースに熱心に立ち寄るナイジェリア人のエンジニアと出会った。同氏は、世界中で流通する既存のテストハンマーの買い付けに来ていたが、当社製品の目新しさに興味を持ち、1台購入した。実際に使用して評判が良かったということで、その後、追加の注文が入った。
質問:
その後の取り組みは。
答え:
2014年から1年半にわたり国際協力機構(JICA)事業も活用し、ナイジェリアでの普及・実証事業を実施した。先に述べたナイジェリア人を事業パートナーと位置付け、現地に3回渡航したほか、現地の公共事業省の行政官を日本に招いて技術への理解を深めた。
具体的には、日本で行われている橋梁(きょうりょう)点検技術の移転や、構造物の維持修繕、長寿命化計画についての実習やセミナーを現地で行った。実習では約30人のエンジニアが集まり、またアブジャやラゴスで開催した技術セミナーにはそれぞれ約40人が参加した。現地への渡航にあたっては、予防接種や査証手続きなど不慣れなことや、治安や交通事故に対する懸念はあったものの、渡航してみたら慎重さは常に持ちつつも、必要以上に神経質になる必要はないと感じた。

ナイジェリアでの技術指導の様子(同社提供)

為替変動リスクと価格面が課題

質問:
ビジネス上の課題や苦労した点は。
答え:
ナイジェリア経済は石油に依存しており、原油価格下落の影響による為替ナイラの変動が大きい。当社では為替変動リスクを負えないので、通常は円建て決済としている。
例外的にドル建て決済もあるが、いずれにしても現地の為替変動によって製品の現地価格が2倍以上になることもあり、販売が伸び悩む要因となる。代金回収リスクも負えないため、すべて前払い決済を求めている。現地での活動では、パートナーが全面的に関係者との調整を引き受けたこともあり、円滑に事が運んだが、交渉の局面で押しの強い現地の商習慣に戸惑うことや、空港職員や役所の警備員などから金品を要求されることもあった。
マーケティングの面でも苦労がある。当社製品は既存のものと比べて価格が高いが、測定値の処理が簡単で速いことや単純な操作で使えることが売りだ。一方、現地ではコストが重視され、こうした品質面でのアピールが必ずしも効果的ではない。価格は高いものの作業時間や解析時間が短縮され、長期的にはコスト削減につながると説明しても、目の前の価格でしか判断されないことも多い。人材面では英語ができる社員を中心に、社内体制の整備にも着手した。現地パートナー企業の若手技術者の育成を目的に、ナイジェリア人をインターンとして2週間受け入れた実績もある。帰国後に現地での技術普及に寄与してもらうことを期待している。

久保取締役部長(左)と岡本氏(ジェトロ撮影)

ナイジェリアは勢いある有望市場

質問:
今後の展望は。
答え:
ナイジェリアは、商機が見込める魅力的な市場だ。特にラゴスには古い建物も多く、海岸沿いはコンクリート構造物の塩害が進んでいる。ラゴスの都心はラグーンに浮かぶ島にあり、それぞれの地区と結ばれる橋梁が多く存在する。その維持管理のための検査装置の需要が見込まれる。さらに、人口増や都市化の加速に伴い、新規の建設需要も拡大すると予測されている。当社の装置は、構造物の建設過程における品質管理の面で威力を発揮する。現場では、コンクリートを形成しやすくするために規定の量より多く水を混ぜたり、しばらく放置された結果、コンクリートが固くなり中心部の密度が低くなったりといった問題がある。こうした場合でも、当社の装置があれば、手軽に検査できる。また、ナイジェリア人は概して貪欲で、必要なモノや欲しいモノがあれば熱心に探し、常にビジネスチャンスを探している。目新しい情報やモノへの感度が高く、市場の勢いを感じる。
今後も、海外事業の比重を高めていきたいと思っているが、そのためには資金や人材、人員体制など多くのリソースを投入する必要があり、中小企業として一気にそれを進める余裕はない。一方で、日本は課題先進国と呼ばれ、高齢化や社会インフラの老朽化などの課題に直面している。世界の国々も経済が成熟するにつれ、いずれ同じ課題に直面する。この中で、日本で培われた技術や経験は、世界中で価値を持つだろう。例えば、既存のリバウンドハンマーは、世界中で使われている。当社の装置がこれに代わるようになれば、世界中に普及する可能性はある。それが10年後、20年後かは分からないが、海外事業は細々とでも関係を保ちながら続けていきたい。

編集後記:日本独自の技術が決め手に

簡便性が高く、メンテナンスも容易な日東建設の検査装置は、スキル人材不足を抱えるアフリカ諸国で重宝される可能性を秘める。同社は中長期な視点でアフリカ市場を見据え、明確なビジョンを持って取り組みを進めている。一方で、同社の言葉を借りれば「大々的な海外展開に耐えうる企業体力がない」中で、一足飛びに販売体制の強化を図れないのも事実だ。

同社に限らず、日本からの距離も長く、厳しいビジネス障壁が存在するアフリカへの進出において、中小企業が直面する問題は多い。例えば、資金回収や為替変動のリスクを負うほどの余裕がない、現地パートナーの信用調査に多くの費用をかけられない、地元の物流業者が貿易手続きを熟知しておらず商品が動かせない、外国語での契約書を十分に理解できる社員がいない、など枚挙にいとまがない。そうした中で、日東建設はアフリカ域外の第三国でナイジェリアのパートナーと出会い、その縁を新たな市場開拓の足掛かりにした。現地パートナーとの関係を強化することでリスク回避を図り、将来に向けた地ならしを進めている。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課 課長代理
高崎 早和香(たかざき さわか)
2002年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、ジェトロ熊本、ジェトロ・ヨハネスブルク事務所(2007~2012年)を経て現職。共著に『FTAガイドブック』、『世界の消費市場を読む』、『加速する東アジアFTA』など。

この特集の記事