アフリカでの第三国連携、ロシア企業とも可能性
鉄道・エネルギーインフラに強み、在エジプト・ロシア通商代表部代表に聞く

2019年5月10日

国家戦略として輸出振興に力を入れ始めたロシア政府。中でもエジプトでは、ロシア政府が資金を投入し、ロシア企業専用の工業団地を創設する事業(2019年2月25日付ビジネス短信参照)が進行し、ロシア企業による原子力発電所建設や鉄道客車の大型受注が決まっている。また、ロシアが主導するユーラシア経済連合(EEU)はエジプトとの自由貿易協定(FTA)締結に向けた交渉を開始しており、2019年10月22〜25日にはロシア南部ソチで「第1回ロシア-アフリカサミット」が開催されるなど、エジプト市場でのロシア企業の存在感が急速に高まりつつある。一方、8月に横浜での第7回アフリカ開発会議(TICAD)開催を控える日本。「アフリカ年」とも言える重要な年だ。エジプトにおける政府間の協力事業やロシア企業の活動概況、エジプトを含むアフリカ・中東市場での日系企業とロシア企業の協力との可能性について、在エジプト・ロシア通商代表部のニコライ・アスラノフ主席代表に話を聞いた(インタビューは2月28日)。


在エジプト・ロシア通商代表部のニコライ・アスラノフ主席代表(ジェトロ撮影)

エジプトを起点にアフリカ・中東市場にアクセス

質問:
世界初のロシア企業専用工業団地の設立がエジプトに決まった理由は。
答え:
エジプトでのロシア企業向けの工業団地(以下、工業団地)の設立は、過去数年にわたってロシア(政府)が検討してきたものだ。しかし、この構想がロシアとエジプトの両大統領間で合意に至ったのは2015年になってからだ。両政府間の戦略的パートナーシップの性格も踏まえると、この事業の実施は非常に重要なものになるだろう。創設される工業団地を通じて、ロシア企業はエジプトで製造した製品を無関税でアフリカ、中東市場へ輸出できることになる。
2014年から2018年の間に、プーチン大統領とエジプトのエルシーシ(シシ)大統領は8回、個別に会談している。2018年10月には会談の成果として、両国間の包括的・戦略的協力に関する合意が調印されている。
大多数のアフリカ・中東諸国とエジプトとの間で締結されている優遇的な貿易協定を考慮すると、工業団地はロシアのハイテク製品のこれら市場への入り口となりえる。エジプトの法令によると、経済特区の入居企業は再輸出向けの輸入部材に関税、付加価値税が付加されない。
2018年5月23日にモスクワで開催された第11回ロシア-エジプト貿易経済科学技術協力委員会の総会で、エジプトのスエズ運河経済特区におけるロシア工業区の設立と操業条件の維持に関する両政府間の合意が締結されている。2月にスエズ運河経済特区管理当局代表のモハブ・マミシュ氏がロシアを訪問し、潜在的入居者に対してロシア輸出センターと共同で工業団地のプレゼンを実施した。両者は近い将来に工業団地のロシア側の管理会社をエジプトに設立・登記することに合意しており、当事者は既に工業団地の建設と運営のための商業契約について話し合いを開始している。ロシア政府はハイテク製品の輸出振興が重要と考えており、工業団地の建設の第1期工事のために資金を用意している。

サミットと大規模展示会を開催予定、ロシアとアフリカの経済交流拡大へ

質問:
2019年はロシアとエジプトで大規模なイベントが予定されている。(「ロシア-アフリカサミット」に合わせた)「第1回ロシア-アフリカ国際フォーラム」、カイロでの産業見本市「ビッグ・インダストリアル・ウィーク・エジプト」などが予定されている。EEUとエジプト間のFTA交渉も1月から開始されている。
答え:
近年、ロシアとエジプトの多様な分野で、貿易、産業プロジェクト、投資案件などの協力事業が着実に増えている。2018年の両国間の貿易額は前年比14%増の77億ドルで、ロシアからの輸出は前年比15%増となった。ロシア企業によるエジプト向け投資は2019年までの累計で60億ドルに上っている。
在エジプト・ロシア通商代表部は現在、ロシアの国営原子力企業ロスアトムによるエル・ダッバでの原子力発電所建設事業を支援している。建設費は300億ドル。前述の工業団地事業にも積極的に参画している。総投資額は70億ドルを予定している。2018年9月にはロシアのトベリ客車工場(ロシア中央部・トベリ州)がハンガリーのパートナーと共同して受注したエジプト国鉄への1,300台の客車納入契約の取りまとめも支援した。通商代表部はロシア企業のエジプト市場、特に農業(加工を含む)、冶金(やきん)産業、輸送技術、エネルギー分野、医薬品製造、木材加工、食品加工などへの展開を支援している。エジプト企業とも協力しており、2018年にはロシアから87件のビジネスミッションが来訪した(2017年は77件)。
「第1回ロシア-アフリカ国際フォーラム」に関しては、2月25日にプーチン大統領が10月の「ロシア-アフリカサミット」準備委員会に関する大統領令に署名している。準備委員会の規則は策定されており、現在は委員会の構成が検討されているところ。サミットとフォーラムには多くのアフリカ諸国の首脳、ロシア、国際ビジネス界、政府機関、団体などの代表が参加する予定。ロシアでのサミット開催は、全てのアフリカ諸国との協力について、バイ、マルチ形式でのロシア政府の前向きな姿勢を反映している。
10月10〜13日には、ロシア産業貿易省とロシア輸出センターの支援の下、カイロで大規模な工業展示会・フォーラム「ビッグ・アラビア・ウィーク2019」の開催が予定されている。これはロシアのエカテリンブルクで毎年開催されている工業見本市「イノプロム」(2018年7月19日付ビジネス短信参照)のコンセプトと同じく、先端技術やモノ、サービスのエジプト・アフリカ・中東の潜在的顧客にアピールし普及させることを目的としている。ロシア、中国、ドイツ、イタリア、韓国、そして日本などからの大企業100社程度の参加を期待しているところだ。
エジプトとEEUとのFTA締結作業については、現在、エジプト側と協力しながら輸出入・投資の増加、貿易構造の多様化のために適した条件を確認している最中だ。2017年にEEU加盟国はFTA締結に向けた会合(コンサルテーション)を行うと決定した。FTA交渉の第1回会合は1月15〜17日にカイロで開催され、双方にとって有益な結果に至るため、できるだけ迅速に作業を進めることを確認した。第1回会合では双方の認識に原則的な相違がないことを確認している。

日本企業とロシア企業の協業に前向きな見方

質問:
エジプトを含むアフリカ・中東市場での日本企業とロシア企業の協業の可能性について。
答え:
エジプト市場が異なる国の企業の協業に大きな可能性を与えてくれることを確信している。ロシア(企業)と日本(企業)は相互協力に多くの機会を見いだすことができるだろう。それは、エジプトだけではなく、その他のアフリカ、中東の国々でも同様だ。われわれはエジプト市場で、ロシア企業と第三国の企業との連携事例を経験している。特に、輸送インフラの更新、再生可能エネルギーを含むエネルギー分野での開発、輸送技術、水浄化、電気技術製造、IT分野など(注)が有望であることは明白だ。ロシア企業と日本企業のエジプトでの協力可能性の端緒を挙げるとすれば、「ビッグ・アラビア・ウィーク2019」により多くの日本企業が参加し、ロシア企業とのBtoBミーティングを実施することだろう。

注:
ロシア・CIS地域では、2018年5月に鉄道分野で日立製作所とロシア鉄道車両製造最大手「トランスマシ」が鉄道車両用電気品製造の合弁会社設立に合意している。トランスマシは前述のトベリ客車工場の親会社で、南アフリカやエジプト市場への進出を進めている(2018年11月2日付ビジネス短信参照)。プラント分野では、2019年4月にプラント製造大手・日立造船の欧州子会社の日立造船レノバAGが、ロスアトムの子会社のコルジョニキゼ記念(ZiO)ボドリスク工場との間で、廃棄物(都市ごみ)発電分野での協力を目的としたコンソーシアムの合意書に署名、協力を推進する予定だ。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課ロシアCIS班 課長代理
髙橋 淳(たかはし じゅん)
1998年、ジェトロ入構。2005年から2007年まで海外調査部ロシア極東担当。2009年から2012年までジェトロ・モスクワ事務所駐在。2012年から2014年までジェトロ・サンクトペテルブルク事務所長。ジェトロ諏訪支所長を経て2017年7月より現職。