TICAD特集:アフリカビジネス5つの注目トレンド静岡発!モロッコに日本の茶メーカーが初進出、3社協業で欧州・中東市場を狙う(その1)
製茶工場を開設、丸善製茶に聞く(1)

2019年7月31日

静岡市の丸善製茶は2018年、モロッコに合弁企業を立ち上げ、2019年から製茶工場を操業開始する。自動車関連企業の進出が盛んなモロッコで、日本の製茶企業が進出したのは初のケースで、日本企業・地場企業との連携により海外市場を狙う、いわば第三国連携の取り組みでもある。日本の地方から積極的にアフリカ進出を果たした意味でも、大変示唆に富むケースだ。

2回シリーズの本稿の1回目では、モロッコの茶市場を解説し、モロッコに拠点を置く合理性を解き明かす。その上で、工場設立に当たりモロッコを訪問した丸善製茶にモロッコ進出や合弁相手について現地で話を聞くとともに、現地パートナー企業にもインタビューを行い、同社の強みや日本への思い、モロッコから見た日本との協業のポイントなどを尋ねた。2回目では、静岡に丸善製茶を訪ね、国内動向などを含めた海外進出の背景や同社の創意工夫、アジアなど海外へ踏み出したきっかけ、輸出に際し必要となる有機認証の取得などの詳細を深彫りしてインタビューした。

茶の消費・加工大国モロッコ

モロッコは茶の生産国ではないが、旧来から、砂糖をたっぷり入れた甘いミントティーが日常の嗜好(しこう)品として、また来客へのもてなしとして親しまれている。

モロッコは近年、毎年約6万トン以上の茶を輸入しており、99%は中国産だ。茶の消費量は年間5万5,000~6万トン、売上高は約30億ディルハム(約339億円、MAD、1MAD=約11.3円)に上る。食品安全衛生局(ONSSA)が輸入茶を管理し、品質と安全を保証している。

国連食糧農業機関(FAO)によると、2016年のモロッコの茶の輸入量は6万7,314トン、輸入額は1億9,919万ドル。茶はモロッコの農産品輸入額で5位に位置しており、1位の小麦、2位の分蜜糖(Sugar Raw Centrifugal)、3位のトウモロコシ、4位のオイル・大豆に続く主要輸入産品だ。また、茶の輸入国(輸入額ベース)として、モロッコは世界8位で、茶の消費大国と言える。

他方で、モロッコは茶の加工・輸出国でもある。国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、同国の2017年の茶・マテ茶の輸出額は3,027万ドルで、2000年比で3倍増となった。主な輸出先は欧州や米国、シンガポール、アラブ諸国と、年を追って拡大している。

日本の茶メーカーが初進出、欧州向けの試験生産を開始

そのような茶の消費・加工大国モロッコに、2018年に日系の茶の製造企業が初進出し、2019年2月から工場の試験運転を開始した。

2018年6月に丸善製茶(静岡市)は、包装機や包装資材の販売を行うナサ(東京都)、茶加工・輸出大手のSITI(モロッコ・マラケシュ)を傘下に持つマネジメント・アンド・アドバイザリーとの合弁会社Maruzen Tea Moroccoをマラケシュに設立。モロッコから欧州・中東市場を狙う。

丸善製茶の代表取締役である古橋克俊氏と、ナサの営業本部長の鈴木星司氏に、Maruzen Tea Moroccoの活動内容・進出背景・今後の展望について当地で聞いた。

質問:
Maruzen Tea Moroccoの事業概要は。
答え:
最終加工前の荒茶や碾茶(てんちゃ)を日本から輸入し、モロッコで荒茶から1番茶、2番茶、番茶(有機茶を含む)を製茶し、碾茶からは抹茶を粉砕加工する。欧州向けのOEM供給が主な事業だ。
マラケシュの製茶工場は2018年10月に設立し、工場内の機械は全て日本から輸入し、試験生産を2月中旬から開始。8時間で700キログラムの生産を見込んでいる。従業員は4人、資本金300万MAD。
質問:
なぜモロッコのSITIとの協業を決めたのか。
答え:
丸善製茶が2014年にタイに工場を設立した際に取引のあったナサから、顧客企業であるSITIの紹介を受けた。ナサは「原石を磨くこと」が仕事であり、海外展開に意欲的な丸善製茶の商品を海外に持っていきたかった。
SITIはマラケシュを生産拠点として、世界の茶の大手ブランド企業を相手に、茶の加工・輸出を行う。クライアントから仕入れた茶葉を商品化する上で、全工程を内製化している。ティーバッグのタグ付け、ティーバッグ、缶の各生産工場、第三者機関として茶の品質チェックが可能な機関まで、グループ会社を立ち上げ、茶の製造・出荷に必要なエコシステムを自社で確立している。仕入れた茶を包装し製品化するまでの全工程を外部委託せずに完結する仕組みが整っていることが魅力だ。

MARUZEN TEA MOROCCOの工場内、
左が古橋氏、右が鈴木氏(ジェトロ撮影)

MARUZEN TEA MOROCCOの工場内、製茶機械
(ジェトロ撮影)
質問:
丸善製茶の強みとは。
答え:
他の製茶会社と比べて、有機茶の取扱量が多い。また、製茶時に火入れの温度をわずかに変えることで、甘みや香り、色合いにさまざまな特徴を引き出す製法を持っている。
質問:
モロッコでビジネスする上での課題は。
答え:
日本から導入している資材(袋、段ボール、プラスチックケースなど)や機械の仕様書の説明を現地政府から細かく求められることだ。また、日本からモロッコを経由して欧州に商品を輸出すると、有機JAS認証が適用されない。茶の農薬規制が厳しい欧米への輸出に有利になるべく、MARUZEN TEA MOROCCOとしてエコサート認証を取得した。
質問:
これまでの海外企業との取引や連携経験、今後の目標は。
答え:
丸善製茶としては3代目の社長になる。初代社長は1970年代にケニアに拠点を設立したが、その後撤退した。2014年にはタイで合弁会社の丸善フードを設立。今後も機会があれば、海外に拠点を設立したい。
モロッコでの事業に関しては、SITIやナサの販売網を生かし、欧州の茶メーカー向けにOEM供給を手掛けたい。初年度の販売は50トン、その後は毎年30%ずつ生産量の拡大を目指す。可能性は何でも探りたい。

現地パートナー企業のSITIは、日本文化に強い関心

茶加工を行うSITIは、ナサとの合弁事業として、2009年にタグ付きのティーバッグフィルターを生産するBagFilterをマラケシュに設立した。BagFilterと SITIの工場には、ナサが導入した日本製の多様な機械が設置され、世界の多くの大手茶ブランド企業向けに少量多品種の茶加工を行う。SITIの缶生産工場では、プリントではなくペイントにより小ロット多品種の缶生産が可能。タグの生産工場では、産業印刷ではなくデジタル印刷により少量多品種のタグ生産が可能になっている。

SITIのAmine El Baroudi社長は、日本製の機械の質を高く評価する。同氏はモロッコの茶ブランド「TCHABA」を生み出し、モロッコの高級ホテルやレストランには「TCHABA」の商品が並ぶ。「TCHABA」のデザインを生み出す上で日本のデザインを参考にした、と同氏は述べている。SITIは丸善製茶、ナサと協業することで、日本茶の販路拡大を目指す。同氏は繊細で小さなものへの気配りがある日本文化を高く評価しており、そうした日本文化を広めるには日本茶が一番だと話す。同氏からMARUZEN TEA MOROCCOの合弁事業について話を聞いた。

質問:
御社の強みは何か。
答え:
タグ、缶、ティ―バッグの生産から、クライアントの要望に合わせてパッケージのデザイン開発まで、茶加工を関連会社内で完結することができる。日本茶は新鮮さが大切。仕入れた茶を一早く新鮮な状態で商品として提供することが可能。また、世界のブランドメーカーの茶を加工しているSITIのデザイン力やパッケージ技術で、質の高い茶製品を製造し提供できるだけでなく、欧州文化のテイストに合った茶の製品供給も可能。例えば、欧州では抹茶はスティック状の包装が売れる傾向にある。日本製機械の性能の高さを評価しており、SITIのティーバッグフィルターの生産工場では、日本から輸入した機械300台以上を使用している。
質問:
多々ある日本茶メーカーの中から、なぜ丸善製茶との協業を。
答え:
丸善製茶の古橋社長の茶に対する熱意に共感したため。そして、古橋社長は海外展開に対してフットワークが軽い。
また、丸善製茶は多様な茶を提供できる。現在、海外に普及している煎茶の種類は限られており、煎茶には多様な種類があることを世界に広めたい。

編集後記・まとめ

世界の中でも有数の茶の消費・加工大国モロッコで、茶の製造・販売企業として初の進出日系企業である丸善製茶は、パートナーのナサやSITIとともに、欧州・中東での販路開拓・拡大を狙う。

本合弁事業の背景には、丸善製茶の茶生産における技術力、ナサのビジネス展開力、SITIが持つ茶加工技術と広い販路があると思われる。同時に、丸善製茶の海外展開に対する熱意とフットワークの軽さ、そうした同社の海外展開を後押しするナサの協力、SITIの日本文化に対する深い理解が協業を可能にしていると感じた。

執筆者紹介
ジェトロ・ラバト事務所
本田 貴子(ほんだ たかこ)
2016年ジェトロ入構。東京本部で、ビジネス講座やセミナーのライブ配信・オンデマンド配信の運営、ジェトロ会員サービスの提供に従事。2018年8月から現職。モロッコの進出日系企業の増加・活動促進を目指し、情報発信、スタートアップの掘り出しなどに携わる。

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