村をつなげるアプリ、日本企業が手掛ける「電子農協プラットフォーム」
日本植物燃料CEOの合田真氏に聞く

2018年11月29日

スマートフォンと電子マネーカードで、アフリカの農村が変わる。日本植物燃料は東アフリカのモザンビークで農民を対象とした「電子農協プラットフォーム」サービスを開始した。農民と、数十キロ離れた資材販売者とのマッチングや、農民向けの定期預金、少額融資などのサービスをアプリで提供する。同社CEOの合田真氏に話を聞いた(10月23日)。


日本植物燃料の合田真CEO(同社提供)

バイオ燃料生産・販売のため、農民組合を立ち上げ

質問:
モザンビーク進出のきっかけと、これまでのビジネスは。
答え:
2000年に日本植物燃料を設立。東南アジア産のバイオディーゼルを供給していた取引先の紹介で、2006年からモザンビークのバイオ燃料調査を開始した。これが当社にとって、モザンビークとの初めての関わりだった。
2011年からは、バイオディーゼル燃料の元となるヤトロファ(ナンヨウアブラギリ)の品質改良の研究を始めた。そして、独自の事業を始めるため、2012年にモザンビークで現地法人ADMを設立した。当初は北部カーボデルガード州(マプトから飛行機で約3時間)において、ヤトロファ・バイオ燃料の生産、販売、発電に取り組んだ。ヤトロファ栽培のため、1万人規模の農民を組織化し、組合を立ち上げた。苗木・資材の配布、コメ・トウモロコシの買い取りを行い、持続可能な仕組みをつくった。また、バイオ燃料を使って冷やした飲料を売るなど、キオスク経営も開始した。

燃料の元となるヤトロファ(日本植物燃料提供)

ヤトロファから抽出したバイオディーゼル燃料
(日本植物燃料提供)

キオスクに「電子マネー」を活用

質問:
キオスク経営上の工夫は。
答え:
キオスクでは2014年から、電子マネーシステムの利用を開始した。当初は現金を使っていたが、従業員による盗難と思われる事態がたびたび発生し、資金管理に問題があった。監視カメラは従業員との信頼関係に支障が出ると思われ断念。モザンビーク国内で利用可能なモバイルマネー「M-Kesh」には携帯電話が必要で、さらに電波が途切れた際、決済履歴を正確に記録できない問題があった。そこで、当社は電子マネーを選んだ。NECが途上国向けに販売していた電子マネーシステムは停電しても履歴が保存され、利用者は携帯電話ではなく、カードがあれば支払い可能だからだ。仕組みは単純で、店側はタブレットでレジ・在庫管理などが可能。客には「SUICA」のような電子マネーカードを配布。電力は小型のソーラーパネルがあれば十分で、携帯電波が常時届いていない状態でも決済ができる。

配布している電子マネーカード(日本植物燃料提供)

タブレットを使ったレジ、在庫管理
(日本植物燃料提供)

目指すは「電子マネー経済圏」、ICTで村の垣根を取り払う

質問:
新事業「電子農協プラットフォーム」サービスの概要は。
答え:
2019年から「電子農協プラットフォーム」サービスを国連世界食糧計画(WFP)と共同での実施する予定であり、現在はモザンビークの首都マプト郊外とインドにおいて自社によるパイロット事業を展開している。農民50人で1組とし、多くの農民はスマホを持っていないため代表者にスマートフォンを1台支給。当社がインドIT企業のJMRインフォテックと共同開発したアプリ「Agri-NET」をインストールすれば、別の村や都市部の買い手、資材店、銀行などと取引ができる。「作物、資材、金融、技術のウェブ・マッチング」だ。プラットフォームの構築を可能にしたのは、電子マネーシステムで蓄積された顧客データだ。利用者の収入状況、貯蓄額から信用度を、購入品などからニーズを可視化できるからだ。
当社が目指すのは、人がスマホと電子マネーでつながる「電子マネー経済圏」。お金の流れが増えれば、燃料販売や商店経営を行う当社の利益になる。農民にとっても、ビジネスの幅が広がるメリットになる。過去には新しい作物を栽培したいと考えても、種や肥料などが手に入らず断念していた農民がたくさんいた。しかし、同アプリを使えば、新しい作物の需要予測をアプリを通じて入手でき、それを都市部の農業資材店に示すことで一度に安く購入したり、村に支店をつくることを資材店に要請したりできるようになる。村と村、村と都市部にあった距離という垣根を情報通信技術(ICT)で取り払った。

スマホで作物、資材、金融、技術のマッチングを行う(日本植物燃料提供)

ビジネス課題にも柔軟に対応

質問:
ビジネス上の課題とリスク回避の方法は。
答え:
2017年10月、カーボデルガード州で武装集団による襲撃が報告されている。同州に駐在していた日本人スタッフ4人全員を首都マプトに引き揚げさせ、現在は月に1度の出張で対応している。影響は大きいが、これを機に現地人スタッフの自立を期待している。また、事業を1地域だけに集中させるのではなく、中部でも事業展開するなど展開地域を分散させる柔軟な運営をしていく。
また、アフリカビジネスのリスクヘッジとして、公的機関と組むことは重要だ。アジアと比べると、ビジネス環境上の課題が多く、アフリカのビジネス成功率は低いと思う。事前に市場を知るためにも、ネットワークをつくるためにも、まずは実証事業などに参加して、現地に行ってみることがアフリカビジネスの攻略法だ。

取材後記:大胆かつ冷静な姿勢でモザンビークに挑む

取材を通して、同社の中に「大胆さ」と「冷静さ」が共存しているように思えた。「Agri-NET」の開発はまさに「大胆」なアイデアで、農協とICTを見事に融合させた。同様に、モザンビークでは珍しい電子マネーの技術をあえて導入したことで、「Agri-NET」の基盤となる顧客データを取得することができた。

一方で、「冷静」な判断、地道な苦労も見て取れる。合田氏はアフリカビジネスを楽観視しているわけではない。本稿の取りまとめにあたっては、合田氏とのインタビューに加え、合田氏による講演(注)も参考にしたが、講演において、合田氏は「未知数なところが多く、短期間で採算はとれないと考えている」とも強調している。だからこそ、政府や関連機関の事業やファンドを利用し、約10年かけてノウハウを蓄積し、ネットワークを構築したことで、「Agri-NET」を実現させたのだ。


注:
合田真氏講演会「Information Platform for Everyone」(主催:一般社団法人アフリカ協会、2018年10月23日、国際文化会館)。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部 中東アフリカ課
山崎 有馬(やまざき ゆうま)
2017年4月、ジェトロ入構。2018年10月より現職。