TICAD特集:アフリカビジネス5つの注目トレンド建設業での連携が有望(トルコ)
トルコの可能性

2019年7月31日

トルコのアフリカ進出は、国際コントラクターによる北アフリカでのビジネス展開に始まり、近年は製造業の進出やサブサハラ市場への参入など活発だ。トルコ企業は日本企業との第三国連携にも熱い視線を注いでいる。

政府主導のアフリカ進出

トルコは2005年を「トルコにおけるアフリカ年」として以来、中東・中央アジアに続く新興市場として、アフリカに関与を強めるようになった。トルコは、アフリカ連合(AU)のオブザーバー(2005年)、戦略パートナー(2008年)、アフリカ開発銀行の非アフリカ加盟国(2013年)となり、政府はアフリカ諸国との経済関係を二国間関係からAUなどを介した多国間の関係の強化にシフトさせている。

トルコは在アフリカ大使館を2003年の12カ所から41カ所(2017年時点)に増加させた。また、アフリカとの外交関係の活発化に伴い、商務部を持つ公館の数は2003年の11カ所から26カ所に拡大した。自由貿易協定(FTA)をチュニジア(発効2005年)、モロッコ(同2006年)、エジプト(同2007年)、モーリシャス(同2013年)、ガーナ(発効待ち)と、その他の2国間協力協定をアフリカ45カ国と締結している。トルコ航空の就航路線も、2000年の4都市から33カ国52都市に拡大した。

トルコはプレゼンス拡大の手段として、開発途上国への協力・支援も積極的に行っている。2011年以来、トルコ赤新月社のアフリカでの活動はサブサハラ諸国にも広がり、ソマリアでは難民避難所サービスも提供している。トルコ国際協力調整庁(TIKA)はアフリカの20カ国に事務所を構え、28カ国で社会開発事業を展開している。

こうした一連の動きがトルコ企業のプロジェクト受注にもつながっている。スーダンのニアラでは、2014年にTIKAがトルコ・スーダン研究訓練病院を建設、運営し、ソマリアのモガディシュでは2015年に同国最大となるレジェップ・タイープ・エルドアン病院が完成した。また、トルコ保健省が支援した南スーダンのジュバ教育病院、エチオピアのアディスアベバ黒獅子病院の建設も、トルコ企業が主体となって行った。

人口と海運が進出のカギ

トルコにとってのアフリカ市場は当初、北アフリカのエジプトとリビアに限定されていた。旧フランス植民地の国々は、トルコ人ビジネス関係者が不得手だったフランス語が障害となり、未開拓の状況が続いていた。しかし、2011年に始まった「アラブの春」による北アフリカの不安定化を契機に、西アフリカを含めたサブサハラに新市場を求める動きが強まった。中でもトルコが重視しているのが、巨大な市場の可能性を持つ人口集中と物流の拠点となる沿岸港湾都市だ。

トルコの2002~2018年のアフリカ向け直接投資額(フロー・国際収支ベース)の合計は全体の約2%で、そのほとんどが北アフリカ向けとなっている。投資案件としては、製造業やインフラ関連が多く、8億3,200万ドルに達した。製造業部門では近年、アルジェリアでの活動が活発で、トスヤル鉄鋼が2013年に鋼板製造工場を設立し、タイパ・テキスタイルが2015年に繊維コンプレックスを建設した。ともに各セクターでアルジェリア最大規模となる大型投資だった。化学品では、ハヤト化学がエジプト、アルジェリア、ナイジェリアにおむつや洗剤工場を、リマクはモザンビーク、コートジボワールにセメント工場を有している。コチ財閥系の家電大手アルチェリッキは、アフリカ南部の消費市場をターゲットに、2011年に南アフリカ共和国(南ア)のディファイを買収した。また、2019年3月に商船三井と液化天然ガス(LNG)発電船事業でパートナーシップを構築したカルパワーシップは、ガーナなどアフリカ6カ国に水上発電を提供している。また、日系企業がトルコ製造業施設に設備を納入するケースもある。

トルコ企業の活動は、前述の製造業に加えて、住宅、商業・工業施設、物流インフラ、エネルギーなどを中心に建設セクターで著しく、近年は医療部門などへの拡大も見られる。トルコの大手ゼネコンでは、ヤプメルケジ建設がエチオピア、タンザニア、スーダンに、スンマ建設がセネガル、スーダン、リビア、赤道ギニア、ルアンダ、コンゴ共和国、ニジェール、テクフェン建設がモロッコ、リマク建設がセネガル、タンザニアなどで大型プロジェクトを実施している。

第三国連携に意欲的なゼネコン

トルココントラクター協会(TMB)によると、トルコの国際コントラクターは、企業数では中国に次ぐ世界2位に位置付けられている。1972年以降、アフリカ41カ国でのプロジェクト受注実績は1,389件、675億ドルを超えた(図参照)。トルコのコントラクターのアフリカにおけるシェアは17.8%(うち約8割が北アフリカ)で、ロシアを中心とした旧ソ連/ユーラシア地域(45.9%)、中東(26.6%)に次ぐ規模になっている。

2018年のトルコ企業による海外での建設プロジェクト受注件数は54カ国283件あり、スーダンが4位、アルジェリアが8位と好調で、過去4年間のアフリカでのプロジェクト受注では最も大きな伸びを見せた。2017年にもタンザニアがトップ(17.3%)で、アルジェリアが5位(6%)、ナイジェリアが10位(2.5%)と、アフリカでの受注が上位に見られた。

図:トルコの国際コントラクターのアフリカでの活動(1972~2019年4月累計)
北アフリカは1972年以降、6カ国でのプロジェクト受注実績は1,150件、535億ドルに上る。1位リビア(54%)、2位アルジェリア(29.4%)、3位モロッコ(7.7%)。サブサハラ・アフリカでは1972年以降、35カ国でのプロジェクト受注実績は239件、140億ドルに上る。1位タンザニア(18.4%)、2位エチオピア(16.4%)、3位ナイジェリア(11.3%)

出所:トルココントラクター協会(TMB)、貿易省

デロイトPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2.5MB) によると、2017年のアフリカでのプロジェクト施工実績におけるトルコ企業のシェアは2.6%で、中国(28.1%)、イタリア(5.6%)、フランス(5.3%)、ポルトガル(3.3%)、米国(3.3%)、南ア(3.3%)に次ぐ。中でも、北アフリカでのシェアが5%と高い。しかし、北アフリカでは、トルコの最重要市場だったリビアが内戦により実質的に失われ、エジプトはトルコとの外交関係が冷え込んでおり、スーダンも治安環境が悪化するなど、マグリブを除き新市場開拓の可能性は限定的となっている。

こうした中、トルコのコントラクターは、サブサハラにおいて中国が融資額、施工ともに圧倒的なシェアを誇っていることから、第三国との資金・技術の両面で協力関係を模索し、シェア拡大を図っている。特に日本との協力関係を重視しており、2018年3月には両国政府の主催により「第4回日本トルコ建設会議」が東京で開催され、アフリカなどでの第三国連携に関するセミナーや、訪日したトルコ企業10社とのビジネスネットワーキングが開催された。2019年6月には、国際協力銀行(JBIC)とトルコ輸出入銀行(Türk Eximbank)などの共催でアフリカにおける日本とトルコのビジネス連携をテーマとしたセミナーがイスタンブールで開催され、120人を超える両国の企業関係者が参加するなど、アフリカにおける両国の協業関係構築に向けた取り組みが活発になっている。

執筆者紹介
ジェトロ・イスタンブール事務所 調査担当ディレクター
中島 敏博(なかじま としひろ)
1995年関西大学大学院博士課程後期課程修了。1988~95年桃山学院高校で非常勤講師(世界史)。1995~99年カナダ・マギル大学(McGill University)イスラーム研究所PhD3単位修得後退学。2000年から現職。共著『イスタンブールに暮らす』JETRO出版、共著『早わかりトルコ・ビジネス』日刊工業刊、寄稿『トルコを知るための53章』明石書店刊、寄稿『NHKデータブック 世界の放送2009年~2016年、NHK放送文化研究所編』NHK出版刊

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