TICAD特集:アフリカビジネス5つの注目トレンド総論:市場参入のカギ握るアフリカ・スタートアップとの連携

2019年7月31日

アフリカは巨大市場と目されつつも、市場のデータがほとんど存在せず、アプローチが難しかった。ところが昨今、デジタル化の波が押し寄せたことで、市場の可視化が進んでいる。フィンテックなど新興産業領域で起業するスタートアップの動きも加速し、新たな商機がもたらされている。

資金調達額は大幅に増加

アフリカのスタートアップ企業がベンチャーキャピタル(VC)から調達した資金の総額は、2018年に前年比3.5倍と驚異的な伸びを示し、7億2,560万ドルに達した(ウィー・トラッカー調べ、注)。案件ベースでは、前年の201件から458件へ2.3倍に増えた(図1参照)。

図1:アフリカ・スタートアップの資金調達額と案件数の推移
2015年が1億8,500万ドル、2016年が1億2,900万ドル、2017年が2億300万ドル、2018年が7億2,600万ドルとなった。資金調達案件数では、2015年が125件、2016年が153件、2017年が203件、2018年が726件だった。

出所:ウィー・トラッカー

資金を調達したスタートアップの拠点国をみると、金額ベースでは南アフリカ共和国(以下、南ア)が全体の3割を占め、2億4,110万ドル(108件)と最も多かった。次いで、ナイジェリアが1億3,350万ドル(136件)、ケニアが1億1,180万ドル(77件)と、上位3カ国だけで全体の7割弱を占めた。この傾向はここ数年続いており、これら3カ国のスタートアップを中心に、数千万ドルを超える大型の資金調達がみられた。続くエジプトは3,350万ドル(42件)と上位3カ国の半分以下の金額にとどまった。

分野別では案件数ベースで、フィンテック(93件)、ヘルスケア(43件)、教育テック(42件)、農業(38件)、再生可能エネルギーなどのクリーンテック(36件)などのほか、ビジネスインテリジェンス(BI)システム、サービス型ソフトウエア(SaaS)、物流・運輸などに投資を分散させる傾向もみられた。資金調達額ベースの割合は、図2の通り。

図2:アフリカ・スタートアップによる資金調達の分野別割合(2018年)
フィンテックが39.2%、クリーンテックが19.8%、電子商取引が13.5%、教育テックが4.5%、農業テックが2.8%、ヘルスケアが2.1%、その他18.2%だった。

出所:ウィー・トラッカー

資金調達額の上位5企業をみる。1位は南アの中古車売買EC(電子商取引)サイト運営ウィ・バイ・カーズ(調達額9,400万ドル)で、同じ南アのメディア大手ナスパーズ傘下のEC運営会社OLXグループによる出資を受けた。2位のジュモも南ア拠点のスタートアップで、携帯電話会社と提携して、モバイル金融システムのバックヤードシステムを開発している(6,750万ドル)。続いて、オフグリッド太陽光パネルの割賦販売を手掛けるディ・ライト(ケニア、6,600万ドル)とゾーラ・エレクトリック(タンザニア、5,500万ドル)の2社、デジタル決済システム会社セルラント(ケニア、4,750万ドル)となった。

インフォーマル市場の可視化で商機が拡大

起業を支えるエコシステムも発達し、VCによる投資拡大やインキュベーション施設、コワーキングスペースの新設が進んでいる。2019年時点でのテックハブ数はアフリカ全体で618カ所で、ナイジェリアが85カ所と最も多く、次いで南ア(80)、エジプト(56)、ケニア(48)、モロッコ(31)、チュニジア(29)と続く(GSMアソシエーション調べ)。エコシステム情報サイトのスタートアップ・ブリンクは、資金調達や人材などの指標を基に「グローバル・ランキング調査(2019年)」を発表しているが、アフリカ諸国のランキングをみると、南ア51位、ケニア52位、ナイジェリア56位、エジプト60位、ルワンダ64位、モロッコ65位と続いた(表1参照)。

このうち、ルワンダは人口約1,200万人、1人当たりGDP800ドルと市場は小さいものの、政府は国内の起業支援を積極的に進め、外国のスタートアップの誘致にも熱心だ。新技術の実証向けに規制を緩和するなどし、ドローンを使った血液・医薬品輸送を手掛ける米ジップラインのほか、フォルクスワーゲン(VW)・モビリティーソリューションは、ライドシェアの実証実験を経て、実用化につなげた。

表1:アフリカ主要国のスタートアップ・エコシステムの特徴
国名 特徴
南アフリカ共和国 高い教育レベルを背景に、高度な技術力。現地オリジナルの技術も開発され、域内のみならずグローバル展開を目指す企業も。
ナイジェリア ラゴスの「ヤバコンバレー」を中心に急速に拡大。州政府も通信インフラ整備を含め支援。ユニコーンのジュミア(EC)が有名。
エジプト カイロ・アメリカン大学(AUC)と現地サワリベンチャーズがアクセラレーターFlat6 Labsを発足させ積極支援。中東諸国にも展開。
ケニア モバイル決済サービスのエムペサが、新たな社会インフラとして確立。資金決済面でのハードルを軽減、起業を加速させている。
モロッコ 北アフリカで最初に3Gを導入(2006年)するなど通信インフラ整備も加速。政府主導の下、起業に対する優遇措置が拡充されている。
チュニジア 2018年4月にスタートアップ法を成立させ、エコシステム構築に向けた支援を強化。起業促進により高失業率、貧困の解消を目指す。
ルワンダ 政府は起業支援やICT技術者の育成に力を入れるほか、新技術の実証向けに規制を緩和するなど外資誘致にも積極的。

出所:各種資料を基にジェトロ作成

市場に目を転じると、例えば携帯電話をプラットフォームとする決済システムの開発により、これまでターゲットとされてこなかった農村市場や貧困層が、消費者として取り込まれるようになった。きっかけは、2007年にケニア携帯電話大手のサファリコムが開始した「エムペサ」というモバイル送金サービスだ。エムペサは、銀行口座を開けない貧困層を中心に広がり、今ではケニアの総人口の半数にあたる2,300万人が利用している。こうした消費者は、正規の経済活動の枠組みから外れた、いわゆるインフォーマルセクターでの活動が中心で、これまで消費行動や商品流通の実態を把握するのは極めて困難であった。

モバイルマネーが急速に普及したことで、こうした消費者が可視化され、ビジネスの対象にすることが可能になった。エムペサを通じて獲得した顧客データを基に、電子決済や小口融資などさまざまなビジネスが派生している。さらに、モバイルマネーはいまや社会インフラの一部となっており、農業、医療、教育、公共サービス(電気・水道)などの分野でも、新たなビジネスモデルの創出を加速させている。例えば、ケニアのエムコパ・ソーラーは、60万以上の家庭に太陽光発電システムをローンで販売している。顧客はエムペサで支払い、その履歴は膨大なデータとして記録される。支払いに問題のない優良顧客のデータは、新たなビジネスに向けた重要な基礎情報となる。

現地スタートアップと日本企業との連携可能性

日本企業にとっても、スタートアップと連携することで、潜在顧客へのアクセスやマーケティングの面において、スピーディーかつ確度の高いビジネスを展開できる可能性がある。中小企業も例外ではない。現地を拠点に活動するある投資家は「アフリカのスタートアップと日本の中小企業は親和性が高い。独自の技術や身近な市場への販売ノウハウ、社会課題への着眼点のほか、大企業に比べて稟議(りんぎ)に費やす時間が短い中小企業のスピード感が、連携を促す要素になるのではないか」と分析する。適切なパートナーを見つければ、これまで進出のネックとなっていた資金回収リスクの回避や、拠点設立やマーケティングのための初期投資費用を抑えられる可能性もある。

事例では、埼玉県の中小ガス関連機器メーカーであるサイサンが挙げられる。同社は、タンザニアでガスボンベを供給するスタートアップのコパガスに出資した(表2参照)。コパガスはスマートメーターを利用してガスの量り売りを手掛けているが、ここにサイサンの保安技術や供給ノウハウを提供する。一方、サイサンはコパガスが有するアフリカでの販売網の拡大や、将来の第三国への横展開を視野に入れている。

表2:日本企業のアフリカにおけるスタートアップとの連携事例
企業名(日本) 内容
丸紅 タンザニアを拠点に太陽光パネルの貸出を手掛けるワッシャに出資。アフリカ未電化地域でソーラーホームシステムを販売する英アズーリ・テクノロジーズに出資。
三井物産、住友商事 ケニア、ウガンダなどで一般家庭や小規模商店向けソーラーホームシステムを販売するエムコパ・ソーラーに出資。
豊田通商 ルワンダでドローンを使った輸血用血液製剤の物流事業を展開する米ジップライン・インターナショナルに出資。
SOMPOホールディングス 国際送金サービスを展開するビットペサに出資。
ヤマハ ナイジェリアのバイクタクシー配車サービスMax.ngに出資。
サイサン タンザニアでスマートメーターを付けたガスボンベを低所得者層に供給するコパガスに出資。

出所:報道資料などを基にジェトロ作成

日本企業は、これまで資源やインフラなどの分野でアフリカ進出を果たしてきたが、スタートアップとの連携で、ビジネスの裾野が広がる可能性がある。アフリカでは、さまざまな社会課題を、新たなビジネスモデルで解決するために、多様なスタートアップが出現している。社会インフラが恒常的に不足するアフリカで、「本当に必要なモノやサービス」を提供できれば、爆発的に普及する可能性を秘めている。顧客のビッグデータを持つスタートアップは、市場との結節点の役割を果たしている。

なお、ジェトロではアフリカの有望スタートアップ100社をまとめた、調査レポート「アフリカ・スタートアップ100社」を公開している。


注:
南アフリカ共和国のメディア会社。同社出版の2018年次報告書「Decoding Venture Investments in Africa」(2019年1月4日発行)による。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課 課長代理
高崎 早和香(たかざき さわか)
2002年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、ジェトロ熊本、ジェトロ・ヨハネスブルク事務所(2007~2012年)を経て現職。共著に『FTAガイドブック』、『世界の消費市場を読む』、『加速する東アジアFTA』など。

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