TICAD特集:アフリカビジネス5つの注目トレンド総論:アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)設立協定が発効、運用開始に向けて前進
2019年7月31日
7月7日、ニジェールの首都ニアメで開催されたアフリカ連合(AU)臨時首脳会議で、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)が設立準備の段階から実行段階へ移行したことが宣言された(2019年7月8日付ビジネス短信参照)。全55カ国・地域が参加すれば人口12億と、世界最大規模となる。域内総生産(GDP)も2兆2000億ドルにのぼる。AfCFTAの設立協定は、2018年3月の大枠合意を経て、2019年5月に発効。AFP通信によると、2020年7月からの運用開始を目指している。
AfCFTA運用への期待が高まる中、既存の地域経済共同体(RECs)にも注目が集まっている。本稿では、AfCFTAの背景、合意内容と進捗状況、RECsの発展状況について見ていく。
域内貿易の促進に向け、高まる地域統合への期待
AfCFTAは、アフリカ域内の物品関税の撤廃、サービス貿易や投資の促進を盛り込んだ自由貿易協定(FTA)だ。域内全55カ国・地域が参加した場合、人口(2018年)は12億人超、名目GDP値(2017年)の総額は2兆2,000億ドルで、世界最大規模となる。AfCFTA設立を望む声が大きい背景には、アフリカの域内貿易の少なさがある。2017年のアフリカ諸国による域内輸出額の比率は全輸出額の16.6%と、EU(63.4%)、アジア(55.1%)と比べ少ない(図1)。もっとも、過去10年の推移(図2)を見ると、域内輸出比率は2007年の9.9%から2017年には16.6%に上昇している。
アフリカの地域経済統合についての議論はかねて見られ、1963年に設立されたアフリカ連合(以下、AU)の前身であるアフリカ統一機構(OAU)は、経済統合を1つの目的としていた。1991年にはアフリカ経済共同体(AEC)設立条約(通称、アブジャ条約)が採択され、1994年に発効した。AECには域内の経済統合に向けた詳細なロードマップが提示されており、2019年までの関税・非関税制度の調和化、2023年までの共同市場設立などが盛り込まれている。2002年にOAUからAUに改組された際にも、地域統合の重要性が再確認されている。
AUは2013年に、アフリカの長期開発ビジョンとして提唱した「アジェンダ2063」の優先的な取り組みの1つに、2017年までのAfCFTAの創設をうたった。AfCFTAの設立に向けて、2012年1月に基本合意、2015年6月に正式交渉が開始された。2018年3月上旬に行われた10回目の協議を経て、2018年3月21日にルワンダの首都キガリで開催されたAUの臨時首脳会合で、AfCFTA設立協定と2つの関連文書「AfCFTAの設立に関するキガリ宣言」、「ヒトの移動に関する議定書」の署名式が行われた。AfCFTA協定には、式中に44カ国が署名し、2018年4月にはルワンダとガーナが批准した。AfCFTA設立協定の発効の条件であった22カ国の国内批准手続きは、ガンビアの批准をもって2019年4月にようやく完了(2019年4月5日付ビジネス短信参照)し、5月30日に発効した。
域内54カ国・地域が署名、第1段階は物品・サービス貿易
2019年7月7日のAU臨時総会で発表された内容によると、南アフリカ共和国やケニアなど27カ国・地域が批准を完了し、参加が決定している(表1参照)。署名しているものの、国内の批准手続きを終えていない国は、モロッコなど27カ国。ナイジェリアとベナンが7月7日に署名し、エリトリアを除く54カ国・地域が署名済みだ(2019年7月8日付ビジネス短信参照)。協定に署名していても国内で批准しないと、AfCFTAに正式参加したことにはならないため、注意が必要だ。
段階 | 国・地域数 | 国・地域名 |
---|---|---|
参加(署名、批准済み) | 27 | ガーナ、ケニア、ルワンダ、ニジェール、チャド、コンゴ共和国、ジブチ、ギニア、エスワティニ、マリ、モーリタニア、ナミビア、南アフリカ共和国、ウガンダ、コートジボワール、セネガル、トーゴ、エジプト、エチオピア、ガンビア、シエラレオネ、西サハラ、ジンバブエ、ブルキナファソ、サントメプリンシペ、ガボン、赤道ギニア |
参加手続き中(署名済み) | 27 | モロッコ、アルジェリア、リビア、チュニジア、スーダン、ソマリア、南スーダン、中央アフリカ共和国、カメルーン、ベナン、リベリア、ギニアビサウ、ガーボベルデ、コンゴ民主共和国、タンザニア、ブルンジ、マラウイ、コモロ、モーリシャス、マダガスカル、モザンビーク、ザンビア、アンゴラ、ボツワナ、レソト、ナイジェリア、セーシェル |
署名なし | 1 | エリトリア |
出所:アフリカ連合(AU)
AfCFTA構想は、フェーズ1とフェーズ2の2段階に分かれている。2019年5月に発効したAfCFTA設立協定はフェーズ1の位置づけで、物品貿易、サービス貿易、紛争解決規則・手順が取り決められた。フェーズ2には競争原則、投資、知的財産の3つに関する協約がある。各項目の合意達成状況を図3に記した。AfCFTA設立協定のフェーズ1にあたる、物品、サービス、紛争解決に関する協約の枠組み大枠は2018年3月に合意された。その後、2019年2月にエチオピアの首都アディスアベバで行われた通常総会で、物品貿易ではタリフラインベースで90%以上を関税撤廃させること、非対象品目は3%未満にとどめることが合意された。また、残り7%はセンシティブ品目とし、原則10年間で完全撤廃すること、後発開発途上国に限り13年間で完全撤廃を完了することが定まった。
各国が作成する物品貿易における関税率の譲許表は2019年7月が、サービス貿易(注)の約束表は2020年2月までが提出期限である。それぞれ交渉と承認を経て、正式に適用される。フェーズ2は2019年下半期ごろから交渉が始まると報道されている。2019年7月の臨時首脳会議では、AfCFTA事務局がガーナに設置されることが決定し、加盟国首脳会議、貿易相協議会、貿易省高官委員会と連携し、運営にあたる。
域内市場統合に期待が高まる中、既存のRECsにも注目集まる
アフリカには既に、自由貿易地域としてつくられた地域経済共同体(RECs)が6つある(表2参照)。特に、東アフリカ共同体(EAC)、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)では、関税同盟が導入されている。2008年10月には、東南部アフリカ市場共同体(COMESA)、EAC、南部アフリカ開発共同体(SADC)の3者で共通市場を目指す広域自由貿易圏(TFTA)も合意されている。ジェトロが2018年に、アフリカに進出する日系企業を対象に実施したアンケート調査によると、回答企業303社中、約2割の55社がFTAを利用しており、62社が利用を検討していることがわかった(図4参照)。
名称(略称) | 加盟国数 | 加盟国 |
協定 内容 |
域内 人口 (2017年) |
域内GDP (2017年) |
備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
東南部アフリカ市場共同体 (COMESA) |
21 | エジプト、リビア、スーダン、エリトリア、ジブチ、エチオピア、ケニア、ウガンダ、ルワンダ、ブルンジ、コンゴ民、セーシェル、コモロ、マダガスカル、モーリシャス、マラウイ、ザンビア、ジンバブエ、エスワテイニ、チュニジア、ソマリア |
|
約5.4億 | 約7,194億ドル | 2008年10月に、COMESA・SADC・EAC間で広域自由貿易圏(TFTA)設立に合意 |
南部アフリカ開発共同体 (SADC) |
15 | タンザニア、ザンビア、ボツワナ、モザンビーク、アンゴラ、ジンバブエ、マラウイ、レソト、エスワテイニ、コンゴ民、モーリシャス、ナミビア、南アフリカ、マダガスカル、セーシェル |
|
約3.4億 | 約6,953億ドル | 2008年10月に、COMESA・SADC・EAC間で広域自由貿易圏(TFTA)設立に合意 |
東アフリカ共同体 (EAC) |
6 | ケニア、タンザニア、ウガンダ、ルワンダ、ブルンジ、南スーダン、コンゴ民(手続き中) |
|
約1.7億 | 約1,732億ドル | 2008年10月に、COMESA・SADC・EAC間で広域自由貿易圏(TFTA)設立に合意 |
アラブ・マグレブ連合 (AMU) |
5 | アルジェリア、リビア、モーリタニア、モロッコ、チュニジア |
|
約1億 | 約3,524億ドル | |
西アフリカ諸国経済共同体 (ECOWAS) |
15 | ベナン、ブルキナファソ、カーポベルデ、ガンビア、ガーナ、ギニア、ギニアビサウ、リベリア、マリ、ニジェール、ナイジェリア、セネガル、シエラレオネ、トーゴ、コートジボワール |
|
約3.6億 | 約5,570億ドル | |
中部アフリカ諸国経済共同体 (ECCAS) |
11 | アンゴラ、ガボン、カメルーン、コンゴ民、コンゴ共、サントメプリンシペ、赤道ギニア、チャド、中央アフリカ、ブルンジ、ルワンダ |
|
約1.9億 | 約2,638億ドル |
出所:各地域共同体ウェブサイト、ジェトロ・アジア経済研究所資料からジェトロ作成
AfCFTAの運用が開始されれば、輸出先の選択肢が広がる
各国の譲許表は非公開であるため、どの物品が関税引き下げの対象か否か、どのようなスケジュールで下げるかなどが、明確ではない状況だ。しかし、いざ実用開始となれば、アフリカでビジネスをする上での戦略が根本から変わってくるだろう。例えば、南アに製造拠点を持つ日本企業の場合、従来までは南アで製造された製品は、アフリカ域内だと、既存のSADC域内にしか、無税(注)で輸出できなかった。しかし、AfCFTAに加盟したことで、域内有数の市場であるケニアやエジプト、最もハイペースで人口増が見込まれるコートジボワールなどに、無税で輸出することが可能になる。これまでは、各ブロックで考えることしかできなかったアフリカビジネスが、大陸一体を市場として見ることができる。これは、アフリカ市場で今後、事業を拡大する、あるいは新規事業を立ち上げようとする日本企業にとっても魅力ではないだろうか。
AfCFTAは長期的にはメリット
先述の通り、AfCFTAは、物品貿易における各国の譲許表が交渉を経て総会で承認されてはじめて、運用開始となる。それまでは既存のRECsの活用が有効であろう。署名済みであるものの、未批准の27カ国が国内議会を説得し、早期批准に至るかも、引き続き注視する必要がある。また域内貿易の促進には、インフラの整備も不可欠で、日本の貢献にも期待が集まる。AfCFTAの進展は、世界のビジネス関係者にとって歓迎すべき動きだ。アフリカの人口は2025年には15億人、2050年には25億人に達すると予測され、4人に1人はアフリカ人となる時代が到来する。最大市場の単一化の基盤ができたことは、日本企業にがアフリカビジネスの強化を見通すうえでも、プラス材料だと考えられる。
- 注:
- 一部品目に例外あり。
- 変更履歴
- 表1に誤りがありましたので、次のように訂正いたしました。(2019年8月7日)
- 参加手続き中(署名済み)の27番目の国名
-
(誤)ベナン
(正)セーシェル
- 執筆者紹介
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ジェトロ海外調査部 中東アフリカ課
山崎 有馬(やまざき ゆうま) - 2017年4月、ジェトロ入構。2018年10月より現職。