TICAD特集:アフリカビジネス5つの注目トレンド産業界からは慎重論も、AfCFTA発効の見方(コートジボワール)

2019年7月31日

コートジボワールでは、2018年10月に批准したアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)設立協定の発効について、貿易の拡大や経済活動の活性化が期待できるとして、歓迎する向きが多い。共通市場の創設は地域経済の競争力強化につながり、持続的発展を可能にする重要なプロセスとの認識が政府・産業界で醸成されている。一方で、5月30日にAFCFTAの枠組みが発効したが、実現に向けて課題が山積しており、実効性に懐疑的な見方もある。

政府関係者はAfCFTAを開発計画促進のツールに位置づけ

協定の発効に先駆けて5月29日に、コートジボワールの首都アビジャンで、「AfCFTAとコートジボワール開発ビジョン」をテーマとしたパネルセッションが開催された。スレイマン・ディアラスバ商業・産業・中小企業振興担当相は同枠組みについて、「将来的には12億人規模のアフリカ単一市場が形成され、新しい商品やサービスの開拓、貿易の拡大、起業の促進、雇用の創出、消費の牽引などの効果が期待される」と評価した。同大臣はAfCFTAを政府が推進する産業開発計画を後押しするツールと位置付け、工業化の促進により経済構造改革を加速していく機会としている。並行して、国内産業振興に向けた工業規格、競争や比較優位、知的財産権などに関する効果的な貿易・産業政策の実施が相乗効果を生み出すとの考えだ。


「AfCFTAとコートジボワール開発ビジョン」をテーマとしたパネルセッション
(レバノン商工会議所提供)

コートジボワール総企業連盟(CGECI)のステフォン・アカ・アンギュイ事務局長は「西アフリカ地域有数の輸出国であるコートジボワールは、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)加盟国向けに多くの工業製品を輸出しており、AfCFTAによりその他のアフリカ諸国との貿易促進が期待される」とコメントした。

アフリカ統合担当省のディアムテネ・アラサン・ズィエ官房長は「産業界はAfCFTAが形成する市場への参入に向けて、これまで取り組んできた経済連携協定(EPA)の経験を踏まえ、チャレンジに打ち勝つ必要な手段が備わっている」と自信をのぞかせた。他方で、各国では当面、関税収入が減少し、財政に及ぼす影響が懸念されており、関税撤廃による歳入減を補償するメカニズムの必要性に言及した。

産業界は慎重論、外国企業関係者は懐疑的な見方も

産業界は、経済統合の進展に伴い、地域の事業拠点として、外国からの投資や販路の拡大、原材料コストの削減、技術移転の促進などに期待しながらも、これらの恩恵を享受するには、域内の物流インフラの整備、物流コストの改善、ECOWASレベルでの市場統合の確立が重要なカギを握るとして、様子見の姿勢だ。

ビジネス・フランスのジェラルド・ペティ所長は、協定の実効性に懐疑的だ。各国とも主要な財源の関税収入を手放すことに消極的だ、と所長はみている。域内の多くの国の生産構造はモノカルチャーで、特定の輸出産品(農産品、鉱物)に依存しており、現状ではアフリカ域外(中国、EU諸国、米国など)からの工業製品の輸入が貿易の大きな割合を占めている。このように域内の経済・産業構造が類似した低所得国の間では一般的に、分業形成、相互利益配分、相互補完が進みにくいと言われる。短期的には、特定の経済大国や工業国のみメリットをもたらし、工業化が遅れている国は大きな経済効果を期待することはできないとされる。具体化に向けては、域内諸国間の経済格差の是正や関税収入の減少を補填(ほてん)するメカニズムの導入、域内の物流インフラの整備などが不可欠だが、調整には時間と資金を要する。さらに、関税や非関税障壁によって保護されてきた産業は、規制緩和や競争激化などの変化への対応を迫られ、淘汰(とうた)が進むとみている。

レバノン商業会議所のシャリフ・コジョック副会頭は「共通市場の創出により投資先として魅力が増すとの意見は多いが、特定の国に外国投資が集中する」と、否定的な見方も示した。また、域内製品が中国製品などの安価な輸入品に対し競争力をつけるには、効果的な地域原産地規則の導入が不可欠とした上で、インフォーマル・セクターとの不当競争や密輸の横行、複雑な税制、割高な生産コストなどの問題に取り組む必要性を提起した。コートジボワールに進出するレバノン企業の多くが国内に製造拠点を持つよりも、外国から輸入した商品を販売する方が容易で、採算性が高いとして事業方針を見直していると言い、AfCFTAの進展を当面、注視していく姿勢だ。


レバノン系ハードウエア製品百貨店の様子
(レバノン商業会議所提供)
執筆者紹介
ジェトロ・アビジャン事務所
渡辺 久美子(わたなべ くみこ)
1990年から、ジェトロ・アビジャン事務所勤務。主にフランス語圏アフリカの経済・産業調査に従事している。

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