TICAD特集:アフリカビジネス5つの注目トレンド一層の投資環境改善に向け、2国間の協力を強化(エジプト)
産業政策の構築、通関、制度設計などの見直しを強く要求

2019年7月31日

エジプトは、人口1億人を抱える魅力的な市場だ。加えて欧州、中東、アフリカ、南米との自由貿易協定(FTA)を締結しており、地域のハブとしての優位性も備える。産業は自動車、家電、繊維、家具、水産など多岐にわたり、今後も活性化が期待される。一方で、現地のビジネス環境は、産業政策から行政サービスに至るまで多くの課題が残されている。日本は官民一体となった改善要望を実施しており、エジプト政府は大統領のイニシアチブで改善に向けた取り組みを継続しているが、時間を要しているのが現状だ。

日本の官民から6つの改善項目を提案

エジプト中央動員統計局(CAPMAS)によると、2017/2018年度の実質GDP成長率は5.3 %、2018/2019年度上半期の実質GDP成長率は5.4%となり、2011年の「アラブの春」以降、停滞していた経済は回復基調にある。エジプト経済が好調に転じたのは、2016年11月の国際通貨基金(IMF)による120億ドルの融資が決定し、外貨不足が改善されたことが主因である。さらに、外国からの送金額も増加している。2019年5月時点の外貨準備高は約442億7,500万ドルで、直近3カ月間は400億ドル台を維持している。国債格付け会社フィッチ・レーティングスは、3月時点のエジプトの信用格付けをBからB+に引き上げた。2016年にIMFの融資が決定して以来、5回目の引き上げとなった。

このようにビジネスの大きな可能性を感じさせるデータが並ぶが、現地のビジネス環境は決して良いとは言い難い。2019年3月にジェトロが日本商工会議所と共催したビジネスミッションでは、アブドゥルファッターハ・エルシーシ大統領、モスタファ・マドゥーリー首相、関係閣僚に対して、日本の官民関係者から表にある6項目の改善を要請した。

表:第11回日本・エジプト経済合同委員会ミッションにおけるエジプトへの要望事項
No 項目 所管省庁
(エジプト)
現状
1 国内自動車産業振興のための(1)部品輸入関税撤廃、(2)国内自動車製造者に対するインセンティブの付与を含む明確な産業政策の実施 財務省
貿易産業省
部品関税の撤廃にあたっては、国内調達率とのバランスを含めた検討が行われてきたが、国内調達率の義務化(45%)については、2019年6月の議会で調達率を撤廃する省令が発効した。
2 駐在員事務所設置に関する新規則(2018年11月施行)の撤廃および迅速なライセンス発行の要求 投資・フリーゾーン庁 2018年11月の新規則により駐在員事務所ライセンス取得後3年以内に法人化もしくは支店化を義務付けられたため、この規則の撤廃を要求。一部の企業がライセンスを更新できない事案が発生したため、早期の対応を要求中。
3 フリーゾーン利用手数料の改定および更新手続きの迅速化 投資・フリーゾーン庁 更新手続きに時間がかかること、利用手数料が付加価値の1%から総売り上げの1%に増加したことの撤回を要求したところ、従前の規則に戻す方向で調整中。
4 駐在員に対する労働査証の迅速な発給 内務省など 駐在員の労働査証取得に1年以上かかるケースがあり、システムの構築と迅速な発給を要求中。大統領からは早急に対処するよう関係部署に指示。
5 通関手続きの迅速化・効率化 財務省 手続きについては、電子システムの導入により72時間以内に通関手続きが完了するよう構築中。最近は通関時に商品や販売用の梱包(こんぽう)材が破損するケースが散見されるため、その是正を要求中。
6 産業発展に資する案件についての戦略的かつ柔軟な政府保証の発行 財務省 近年、債務返済のための財政支出抑制を背景に、適用分野がエネルギー・電力・石油化学に限定されていることが判明。引き続き、柔軟な対応を要求中。

出所:日本・エジプト経済合同委員会資料からジェトロ作成

エジプト政府は、2014年6月のエルシーシ大統領就任以降、大統領のイニシアチブで国家の安定と発展を目指すべく、ビジネス面では投資環境の改善に取り組んでいる。2017年には新投資法が施行され、現在も関連法の改正などが行われている。今回、日本から要望が出された改善要望については、一部解決に至ったものもあるが、正式な回答までに時間を要するとみられる。直接投資をさらに誘致したいエジプト政府にとって、今必要なことは、企業の声に耳を傾けるだけでなく、一過性の対応に依拠することなく、より透明性が高く、問題を未然に防ぐ仕組みの導入とフォローアップ体制の整備である。

執筆者紹介
ジェトロ・カイロ事務所長
常味 高志(つねみ たかし)
1993年ジェトロ入構。東京本部では、農水産部、展示部、技術交流部、海外調査部、企画部に所属。2007年から4年間、一般財団法人中東協力センター(日本サウジアラビア産業協力タスクフォース事務局)に出向。地方では、ジェトロ徳島、海外では、ジェトロ・カラチ事務所、ジェトロ・リヤド事務所の勤務経験を有し、2018年1月よりジェトロ・カイロ事務所長として赴任(現職)。

この特集の記事