TICAD特集:アフリカビジネス5つの注目トレンド多角化する日系企業のアフリカビジネス
ジェトロ調査から

2019年7月31日

日系企業のアフリカへの関心は確実に高まりつつあるが、近年そのビジネス内容にも変化が見られる。ジェトロは 2019年 8月28~30日に横浜で開催される「第7回アフリカ開発会議(TICAD 7)」での議論にも資するべく、 2018 年9~10月に「アフリカ進出日系企業実態調査」を実施した。その結果を基に、日本企業のアフリカビジネスの実態を紹介する。

進出理由は民需狙いに、新産業への注目も

アフリカ進出企業の業績は、景気に左右されつつも、改善傾向にある。アフリカ 24 カ国の日系企業 392 社を対象に行った前出の実態調査(回答企業310社、表参照)では、2018年の営業利益見込みが黒字の割合は49.8%となり、資源価格下落の影響による2014年以降の経済鈍化を受け、2016年(56.4%)、2017年(50.8%)から低下した。一方で、2019年の営業利益見通しが「改善する」と回答した企業は41.9%に上り、資源価格の持ち直しを受けて業績改善への期待が見られた。また、今後1~2年の事業展開の方向性について、「拡大」と回答した企業の割合は過去5年連続で半数を超え、事業拡大傾向は継続している。特に、天然ガス開発で将来的に成長が見込まれるモザンビークで7割超、フリーゾーン開発で企業誘致に力を入れるモロッコで6割超となり、強い拡大意欲が示された。

表:調査対象国・企業数
地域・国 調査対象
企業数
回答企業数
有効回答 構成比
総数 392 310 100.0
北アフリカ 97 68 21.9
階層レベル2の項目 エジプト 49 35 11.3
階層レベル2の項目 モロッコ 33 25 8.1
階層レベル2の項目 アルジェリア 9 6 1.9
階層レベル2の項目 チュニジア 6 2 0.6
西アフリカ 48 41 13.2
階層レベル2の項目 ナイジェリア 22 21 6.8
階層レベル2の項目 ガーナ 12 11 3.5
階層レベル2の項目 コートジボワール 9 5 1.6
階層レベル2の項目 セネガル 4 4 1.3
階層レベル2の項目 ブルキナファソ 1 0 0.0
東アフリカ 80 62 20.0
階層レベル2の項目 ケニア 42 33 10.6
階層レベル2の項目 タンザニア 13 9 2.9
階層レベル2の項目 エチオピア 9 7 2.3
階層レベル2の項目 ウガンダ 8 7 2.3
階層レベル2の項目 ルワンダ 8 6 1.9
南部アフリカ 167 139 44.8
階層レベル2の項目 南アフリカ共和国 120 96 31.0
階層レベル2の項目 モザンビーク 19 18 5.8
階層レベル2の項目 ザンビア 10 10 3.2
階層レベル2の項目 アンゴラ 6 5 1.6
階層レベル2の項目 マダガスカル 5 5 1.6
階層レベル2の項目 マラウイ 2 2 0.6
階層レベル2の項目 モーリシャス 2 2 0.6
階層レベル2の項目 ジンバブエ 1 1 0.3
階層レベル2の項目 ボツワナ 1 0 0.0
階層レベル2の項目 ナミビア 1 0 0.0

出所:2018年度 ジェトロ「在アフリカ進出日系企業実態調査」

日系企業はアフリカ市場の潜在力に注目している。アフリカへの進出動機について尋ねたところ、2007年度調査と比較して「日本のODA」や「天然資源」の割合が大幅に減少しているのに対し、民需狙いと考えられる「市場の将来性」や「市場規模」を進出理由とする声が増加した(図1参照)。アフリカを有望市場と捉える企業が増加している現状が反映された。国別では、ナイジェリアとエジプトで9割超が「市場規模と成長性」に期待していると回答した。

図1:アフリカへの進出動機の変化(2007年度・2018年度)
2007年度と比較して「日本のODA」や「天然資源」の割合が大幅に減少しているのに対し、2018年度は民需狙いと考えられる「市場の将来性」(77.3%)や「市場規模」(38.3%)を進出理由とする声が増加している。

注:Nは回答企業数(図2も同じ)
出所:2018年度 ジェトロ「在アフリカ進出日系企業実態調査」

日系企業はまた、新たな有望ビジネス分野にも着目している。今後有望視する分野では、上位にインフラ(53.0%)、サービス業(52.7%)、消費市場(40.9%)、新産業(39.6%)が並び、これまでの注目分野であった資源(31.9%)、輸送機器(二輪・四輪など)(30.2%)などを上回る結果となった。具体的な部門をみると、消費市場を有望視する企業のうち、約5割がベビー・子供向け、女性向け商品に注目。新産業ではIoT(モノのインターネット)、フィンテック、電子商取引(EC)などへの関心が高い。企業からは「スマートフォンの普及と若年層の増加に伴い、EC分野が有望」「モバイルペイメントなどの爆発的な拡大があったように、革新的な技術を組み合わせた新たな市場が創出される可能性が高い。先進国でも実現しない新たな産業が興ることもあり得る」と新産業への期待がうかがわれた。

アフリカ域内の経済統合が進展していることも、巨大市場形成への期待につながっている。近年、域内FTA(自由貿易協定)を利用する日系企業は着実に増加しており、FTA・関税同盟を利用していると答えた企業は、2007年度調査では5.6%だったが、今回の調査では18.2%に増加した。日系企業が最も利用しているFTAは、南アフリカ共和国(以下、南ア)が牽引する南部アフリカ開発共同体(SADC)で49.1%、今後の利用を検討する企業が多かったのは、人口大国ナイジェリアが加盟する西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)で35.5%だった。2019年5月にはアフリカ連合(AU)加盟55カ国・地域からなる、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)協定が発効した。すでに52カ国が協定に合意しており、アフリカの経済統合の加速化が期待される。

規制・法令の未整備が最大の障壁

アフリカ市場を有望視する日系企業が増える一方、現場からはその難しさを指摘する声も依然として聞かれる。調査では、「市場の潜在性が高いのは魅力だが、諸制度の未整備などに難があり、ビジネスを円滑に行うにはハードルが高い」、「市場に可能性を感じつつも、資金繰りを考えると難しい企業も多いだろう」との指摘もあった。

日系企業のアフリカ進出にとって、最大の懸念事項は「規制・法令の整備、運用面」で、およそ9割の企業がリスクと捉えている。中でも、「現地政府の不透明な政策運営」や「行政手続きの煩雑さ」に強い懸念が示された(図2参照)。このほか、「財務・金融・為替面」、「不安定な政治・社会情勢」も、7 割以上の企業が問題だと指摘した。具体的には、「行政手続きの煩雑さやインフラ環境などが改善される見通しがない」、「治安やインフラ、政治面など投資環境で優れた面は少ない」などだ。一方で、国別にみると、モロッコはいずれの項目も軒並み平均以下で、特に「政治・社会情勢」をリスクと捉える企業は他国と比べて極めて少ない結果となった。

図2:アフリカ投資のリスク
日系企業のアフリカ進出にとって最大の懸念事項は「規制・法令の整備、運用面」で、およそ9割の企業がリスクと捉えている。

出所:2018年度 ジェトロ「在アフリカ進出日系企業実態調査」

南アなどとの連携を有望視

アフリカのビジネス環境の厳しさについてはすでに述べた通りだが、日系企業はどのようにリスクを回避できるだろうか。その1つの方法として、第三国企業との連携が考えられる。他国企業との連携に期待できることを尋ねたところ、6割の企業が「パートナー企業のネットワーク活用」を挙げた。パートナーとしては、南ア、インド、フランスの企業との連携が有望視された(図3参照)。南アとの連携については、「域内拠点として広域展開で先行する地場企業が蓄積したノウハウと市場ネットワークが魅力」とのことだった。インドは「同国と親和性のあるアフリカ市場での優れた戦略」のほか、「(日本企業の)インド拠点を活用したアフリカ進出」が示唆された。フランスについては「仏語圏アフリカ諸国での協業可能性」への期待が聞かれた。

一方、最も競合関係がある企業(回答310社)を問うたところ、これまでは欧州系や日系企業を競合先とする声が多かったが、中国企業が過去4回の調査(注)で初めてトップに浮上した。回答企業の割合も2007年度調査の3.7%から、今回は22.9%まで大幅に増加した。アフリカとの経済関係を強化する中国に対する考えを聞いたところ、「競合が激化し、自社にも影響がある」との回答が4割を超えた。一方で、「ビジネスチャンスの拡大やメリットと捉えている」との回答も約2割で、具体的には「中国が整備したインフラを活用できる」との声もあった。また、「中国を競合相手としてだけでなく、協業するパートナー国としても検討する段階に入った」と指摘する企業もあった。

図3:第三国企業との連携
南アフリカ共和国(13.9%)、インド(10.6%)、フランス(7.3%)の企業との連携が有望視されている。

出所:2018年度 ジェトロ「在アフリカ進出日系企業実態調査」

日本政府の支援強化に期待

日系企業のさらなる進出や進出分野の多様化が期待される中、日本政府の支援強化を望む声が高まっている。現在、「日本政府による支援を受けている」と回答した企業は3割弱にとどまる。一方で、「日本政府は支援を強化すべき」と回答した企業は約8割に上った。具体的には、「相手国政府への各種要望伝達(制度構築、改善指導など)」(57.3%)、「資金面」(45.8%)、「情報提供」(45.8%)、「FTA や租税条約、投資保護協定などの二国間協定締結」(45.8%)が 目立った。

2019年8月には横浜で第7回アフリカ開発会議(TICAD 7)の開催が予定されている。それに先立ち日本政府は今年6月、アフリカビジネス支援強化を目的とした官民連携プラットフォーム「アフリカビジネス協議会」を発足させた。協議会では、アフリカ政府・企業との関係構築やビジネス環境改善の促進、個別ビジネスの支援などを行う。このような新たな枠組みを活用しつつ、近年のアフリカのビジネス環境の変化や諸外国企業の動きを踏まえ、日本政府と民間企業のさらなる連携が求められる。


注:
本設問は2007年度、2012年度、2017年度、2018年度に実施。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課
閔 普鮮(みん ぼそん)
2018年、ジェトロ入構。民間企業勤務を経て、現職。

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