TICAD特集:アフリカビジネス5つの注目トレンド東アフリカでは群を抜く存在感(ケニア その1)

2019年7月31日

東アフリカに位置するケニアは人口約4,800万、GDPは日本円換算で約9兆円。主要産業は農業でコーヒーや紅茶のほか、バラに代表される切り花で有名だ。ライオンやキリン、シマウマなど、サファリでおなじみの人もいるだろう。そんなケニアが昨今、スタートアップで脚光を浴びている。

日系企業による連携・出資案件に限っても、豊田通商の子会社CFAOによるSendyへの出資、三井物産や住友商事によるM-KOPA Solarへの出資、SBIレミットとBitPesaとの提携、SOMPOホールディングスによるBitPesaへの出資・提携と、ここ数年で矢継ぎ早に進む(表1参照)。本稿は、ケニア・スタートアップの概況と連携に向けたカギについて紹介する。

表1:ケニア・スタートアップと日系企業の連携事例
企業名 スタートアップ 内容
CFAO(豊田通商) Sendy 2017年11月に出資公表
三井物産 M-KOPA Solar 2018年5月に出資公表
SBIレミット BitPesa 2018年9月に提携公表
SOMPOホールディングス BitPesa 2018年11月に出資・提携公表
住友商事 M-KOPA Solar 2018年12月に出資公表

出所:現地報道、各社プレスリリースからジェトロ作成

2018年の資金調達額は3億4,800万ドルでアフリカ最大

サンフランシスコやパリ、ベルリンなどに拠点を置き、世界中で投資を行うPartech Venturesのレポートによると、2018年のアフリカ全体のスタートアップによる資金調達額は10億ドルを突破。そのうち、ケニアは3億4,800万ドルとなり、アフリカ最大の資金調達先となった(図1参照)。 9,270万ドルだった2016年と比べると、約4倍と急速なペースで投資が拡大している(図2参照)。東アフリカの周辺国と比べると、タンザニア(7,500万ドルを調達)の約5倍、昨今、情報通信技術(ICT)で注目を集めるルワンダ(1,900万ドル調達)の約18倍で、その存在感は群を抜く(図3参照)。

図1:アフリカ全体に占める主要国の資金調達額割合
ケニアが30%を占めて最大。

出所:Partech Venturesレポートを基にジェトロ作成

図2:過去3年間のケニア・スタートアップの資金調達額推移
2018年には3億4,800万ドルまで増加。

出所:Partech Venturesレポートを基にジェトロ作成

図3:東アフリカにおけるケニアの存在感
スタートアップによる資金調達額は、ケニアがルワンダの約18倍、タンザニアの約5倍。

出所:Partech Venturesレポートを基にジェトロ作成

ICTとモバイルマネー普及に伴う社会課題へのアプローチ

ケニア・スタートアップを語る上で欠かせないのが、ICTとモバイルマネーの普及であり、多くのスタートアップがそれらを活用して、ケニアの抱えるさまざまな社会課題へアプローチしている(図4参照)。

ICTについては、携帯電話加入件数は人口比104%と1人2台の時代に入り、インターネット利用者数も人口比9割を超える(図5参照)。ケニアにおいては、全国に広くICTが普及しているといえるだろう。

モバイルマネーについて、エムペサ(M-Pesa)は、ケニアのみならず、今や世界的に有名なモバイルマネーだ。エムペサは、ケニアの最大手通信会社であるサファリコムが提供するサービスで、「エム(M)」は「Mobile(携帯電話)」を、「ペサ(Pesa)」はスワヒリ語で「Money(金)」を意味する。すなわち、モバイルマネーを意味するエムペサは、農村から都市に出稼ぎにきた人々の、実家への迅速かつ安全な送金方法として、2007年から開始されたサービスだ。農村地域の人々でも所有している携帯電話のSMS(ショート・メッセージング・サービス)を活用することで、迅速かつ安全な送金を実現したエムペサは、その利便性から都市部の人々にまで浸透し、社会インフラと化している。

現在、ケニア国内のモバイルマネー利用者数は人口比約7割で、2018年の総取引額は約4兆円とケニアのGDPの5割近くに達する。実際ケニアの生活では、スーパーマーケットや飲食店、水道光熱費、郵便代金、鉄道(SGR)の支払いなど、多くの場面でモバイルマネーの利用機会に遭遇する。モバイルマネーは、今や一種の社会インフラとして機能している。

エムペサを代表とするモバイルマネーは、送金前に代理店で入金(デポジット)する必要があることから、未収の恐れがない決済システムが構築できたと言える。この意義は大きく、これまでビジネスが難しかった、銀行口座を有していない、などの理由で経済活動を捕捉できないインフォーマルセクター従事者も含めたビジネスアプロ―チが可能となった。

ICTの普及はテック系スタートアップが活躍する土壌を醸成し、モバイルマネーの普及はインフォーマルセクターも含めた幅広い層を対象とするビジネスチャンスをつくった。こうした背景から、ケニアが抱えるさまざまな社会課題の解決に、焦点を当てたスタートアップの起業が盛んになっている。

図4:スタートアップの背景
社会課題解決にICTとモバイルマネーの普及を活用。

出所:ジェトロ作成

図5:ICT・モバイルマネーの普及(対人口比)
ケニアの携帯電話利用者数は104%に達した。

出所:ケニア通信局「2018/2019第2四半期通信セクター統計」を基にジェトロ作成

図6:モバイルマネー取引額の対GDP比
2018年には約5割に達した。

注:1ケニア・シリング=約1.1円。
出所:ケニア国家統計局「Economic Survey 2019」、ケニア中央銀行「Mobile Payments」を基にジェトロ作成

欧米人が活躍するケニア・スタートアップ

欧米人の活躍も著しい。500万ドル以上の資金調達を行ったスタートアップを見ると、実に7割のスタートアップの最高経営責任者(CEO)または創業者が欧米出身となっている(表2参照)。サブサハラでよく対比されるナイジェリア・スタートアップのCEOもしくはファウンダーの約7割が地元ナイジェリア出身であるのとは対照的だ(表3参照)。

表2:500万ドル以上資金調達したスタートアップとCEO/創業者の出身国(ケニア)

スタートアップ 分野 調達額
Tala 金融 50.0
Cellulant 金融 47.5
d.light オフグリッド電力 41.0
Branch International 金融 20.0
Twiga Foods アグリテック 10.0
M-KOPA Solar オフグリッド電力 10.0
Africa's Talking 通信(支払用API) 8.6
Lori Systems 物流 6.1
Mobius Motors 輸送機器製造 6.0
BitPesa 金融 5.0
Wefarm アグリテック 5.0

注:調達額の単位は100万ドル。
出所:Partech Venturesレポートを基にジェトロ作成

7割のCEO/ファウンダーが欧米出身。

表3:500万ドル以上資金調達したスタートアップとCEO/創業者の出身国(ナイジェリア)

スタートアップ 分野 調達額
Frontier Car Group 中古車売買 130.0
Wakanow E/M/S/コマース 40.0
Mines 金融 13.0
Flutterwave 金融 10.0
Paga 金融 10.0
Paystack 金融 8.0
Lidya 金融 6.9
Kobo360 物流 6.0
Tizeti コネクティビティ 5.2
SystemOne エンタープライズ 5.0
Terragon Group エンタープライズ 5.0
Jumia E/M/S/コマース 非公開

注:調達額の単位は100万ドル。
出所:Partech Venturesレポートを基にジェトロ作成

7割のCEO/ファウンダーがナイジェリア出身。

インキュベーター、アクセラレーターと投資会社の活動状況

iHubやNairobi Garageに代表されるインキュベーターやGrowthAfricaなどのアクセラレーターなど、スタートアップの成長を支える組織の活動も活発だ。中には、C4DLab(ナイロビ大学)やiBizAfrica(ストラスモア大学)のように、大学に起源を持つインキュベーターもある。海外との連携では、グーグル(Google)とiHubとの連携のほか、最近ではアリババグループ創業者のジャック・マー氏が、The Africa Netpreneur Prize Initiativeのパートナーとして、ケニアのインキュベーターであるNailabを指名している。

投資会社の活動では、ケニアに拠点を持ち、主としてアーリーステージのスタートアップへ投資するSavannah Fund(Eneza Education、Sendyなどへ出資)や、オランダに拠点をもつDOB Equity(Copia Global、Twiga Foodsなどへ出資)などが活動している。このように、スタートアップ自身のみならず、その周辺部も含めたエコシステム全体が活発化している。

社会課題に焦点を当てたスタートアップの取り組み

ICTとモバイルマネーの普及が支えるケニア・スタートアップは、さまざまな社会課題へアプローチしている。ここでは、農業、物流、そして「Pay as you go(使用する分だけ支払う)」モデルのスタートアップについて概観する。

まず農業では、主として農家と小売店に焦点を当てたスタートアップが多くみられる(表4参照)。農家に焦点を当てたスタートアップとしては、農業資材を提供するiProcureなどの活動が見られる(その他、詳細は別途、農業分野のレポート参照)。

物流については、他の途上国と同様、ケニアでも物流網が未整備だ。そうした現状に対し、Sendyはアプリを利用したラストワンマイルの配送サービスを提供している。ほかにも、貨物輸送に特化した、「トラック版ウーバー」とも言えるLori Systemsも活動する。Lori Systemsは、スタートアップ媒体として著名なTechCrunchが主催した「Startup Battlefield Africa 2017」で優勝し、勢いに乗っているスタートアップだ。ウガンダのほか、ナイジェリアへの進出も果たしている。

Pay as you goは、「使用する分だけ支払う」というモデルで、モバイルマネーの普及によって発展した。代表例としてM-KOPA Solarがあり、太陽光発電キットを、非電化地域の居住者へローン提供する。1日約50円をモバイルマネーで支払い続けることで、利用者はキットを利用することができる。ほかに、LPGガス販売のPayGo Energyがある。こうしたPay as you goモデルは、アフリカ全体で流行しており、太陽光発電キットで言えばタンザニアのZOLA Electric、LPG販売では同じくタンザニアのKopaGasがあり、しのぎを削っている。

表4:ケニア・スタートアップ一覧
スタートアップ 分野 概要
Wefarm 農業 農家同士の知識共有プラットフォームの提供
SunCulture 農業 農家への灌漑キット提供
FarmDrive 農業 農家へのファイナンス提供
iProcure 農業 農家への農業資材提供
Twiga Foods 農業 農家と小売店を繋ぐ仲介業者
Sendy 物流 アプリによるラストワンマイルの配送
Lori Systems 物流 貨物輸送に特化した配送
M-KOPA Solar エネルギー 太陽光発電キットのローン提供
PayGo Energy エネルギー LPGの提供

出所:各社ウェブサイトなどを基にジェトロ作成

スタートアップが有するアセットをどのように活用するかが、連携のカギ

スタートアップへの企業による出資・連携事例としては、三井物産や住友商事によるM-KOPA Solarへの出資のほか、フランスのEDFによるSunCultureへの出資や、フェイスブック(Facebook)とBRCKとの提携などがある。スタートアップとの連携によるビジネスとして、事例2件を紹介する。

1例目は、Twiga FoodsとIBMによる、小売店へのファイナンス提供だ。試験的運用の域を出ないが、2018年4月に公表されたところによると、約220の小売店に対して8週間にわたって試験を実施。平均貸出額は30ドルで、貸出期間は4日か8日、金利はそれぞれ1%と2%でファイナンスを行った結果、小売店の取引量は平均30%、利益は平均6%増加したという。

2例目は、ウーバー(Uber)、Stanbic Bank、CMC Motorsによる、Uberドライバーへの自動車ローン提供だ。Uberが持つドライバーの評価(与信)、Stanbic Bankが有するローンサービス、CMC Motorsによるスズキ・アルトの提供によって、2018年2月にケニアで始まり、同年9月には350台を突破した。ドライバーの債務不履行など課題はあるものの、このようにスタートアップが有するプラットフォーム上の情報を活用した新たな取り組みも始まっている。

今後も、スタートアップのアセットを活用した連携事例は、増加していくものと思われる。現状では、アフリカ市場へのマーケットイン目的の連携事例が目立つが、アジアなど他国への展開も見据えた連携事例が増えることも予想される。

執筆者紹介
ジェトロ・ナイロビ事務所
山田 研司(やまだ けんじ)
2016年、ジェトロ入構。2年間にわたり企画部・地方創生推進課で全国40カ所以上ある国内事務所の運営・管理業務に従事。2018年7月から現職。主としてスタートアップ調査を担当。

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