TICAD特集:アフリカビジネス5つの注目トレンド農業分野でICT活用のスタートアップが盛ん(ケニア その2)

2019年7月31日

ケニアでは、主要産業である農業分野において、情報通信技術(ICT)を活用したスタートアップの活動が盛んだ。生産や販売における課題の解決に向け、さまざまなビジネスモデルが出現している。

農業分野における社会課題と取り組み事例

ケニアで農家が抱える主な課題としては、(1)知識不足(作物の病気などへの知識や効率的な生産方法のノウハウなど)による低生産性、(2)設備不足による低生産性、(3)資金不足、(4)市場へのアクセス、などが挙げられる。キオスクと呼ばれる小売店が抱える課題には、(5)農産物の品質保証・適正価格、(6)資金不足がある。こうした農産物の生産と販売に関わる農家と小売店が抱える課題に焦点を当てたスタートアップの事例が見られる。

WeFarmは、携帯電話のSMSを活用したP2P(peer to peer、双方向通信)による、知識共有プラットフォームを提供している(表参照)。農家同士で、知識共有(肥料や病気への対処法など)を促すことにより、課題(1)へのアプローチを可能にしている。現在、ケニア、ウガンダ、タンザニアで事業展開をしており、登録者数は170万人を数える(2019年7月現在)。2018年3月には、シリコンバレーに拠点を置くベンチャーキャピタル(VC)から500万ドルを資金調達した。課題(2)へのアプローチとしては、SunCultureが挙げられる。同社は、農家向け灌漑設備キットを提供しており、2018年7月にフランス電力公社(EDF)から資金調達した。農村地域は未電化地域であることが多いため、キットは太陽光発電仕様となっている。課題(3)については、FarmDriveが農家の収量などの情報を基に、マイクロファイナンスを提供している。

課題(4)~(5)への取り組みについては、Twiga Foodsが挙げられる。農家と小売店の間には物流を担う仲介業者(Middleman)がいるが、農家に対しては市場へのアクセス困難に乗じて農産物を安く買い、小売店に対しては品質が安定しない農産物を高値で卸すなどしている。そうした仲介業者に代わって、農家へは適正価格、小売店には品質保証と適正価格を提供しているのがTwiga Foodsだ。同社は、課題(6)にも試験的にアプローチしている(2018年4月に結果を公表)。約220の小売店に対して8週間にわたって試験を実施したところ、平均貸出額は30ドルで貸出期間は4日か8日、金利はそれぞれ1%と2%でファイナンスを行った結果、小売店の取引量は平均30%、利益は平均6%増加したという。

表:課題に対するスタートアップの取り組み
対象 課題 企業名 取り組み
農家 1.知識不足による低生産性 WeFarm SMSを活用したP2Pによる情報共有
2.設備不足による低生産性 SunCulture 灌漑設備キットの販売
3.資金不足 FarmDrive 農家向けマイクロファイナンス
4.市場へのアクセス Twiga Foods 農家と小売店をつなぐ仲介業者
小売店 5.品質保証・適正価格 Twiga Foods 農家と小売店をつなぐ仲介業者
6.資金不足 Twiga Foods IBMと連携したマイクロファイナンス提供実験

出所:現地報道や各社プレスリリースよりジェトロ作成

今後の展望と可能性

農業は同国の主要産業であり、今後も同分野へ取り組むスタートアップは増えてくるだろう。特に、課題(1)に対しては、生産性向上に向けた農地データや気象データの提供など、今後、需要が見込まれる部分は大きい。実際、試験的に気象データ提供に取り組もうとしているスタートアップも見られるほか、他国でみられるドローンを活用した、農地データ提供を実施するスタートアップなども今後、活躍が期待されるところだ。

執筆者紹介
ジェトロ・ナイロビ事務所
山田 研司(やまだ けんじ)
2016年、ジェトロ入構。2年間にわたり企画部・地方創生推進課で全国40カ所以上ある国内事務所の運営・管理業務に従事。2018年7月から現職。主としてスタートアップ調査を担当。

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