ASEAN主要国の産業政策と企業によるサプライチェーン対応生産と調達の多元化を進めるベトナム戦略(マブチモーター)

2026年10月21日

車載用の小型モーターで高い世界シェアを有するマブチモーター(本社:千葉県松戸市)は、ベトナムのドンナイ市(旧ドンナイ省)とダナン市の2拠点を、ASEAN域内の中核の製造拠点と位置付けている。安定した労働力の確保を目的に始まった海外展開は、現地拠点が開発機能や部材の内製化を担うまでに深化した。中国に加えて、ベトナムやメキシコ、ポーランドでの生産により、生産体制の複線化を進める一方、原材料・部品の調達では、中国からの調達比率が依然として相対的に高い。同社の渡辺広昭執行役員(購買・生産管理本部長)、谷紘太経営企画本部副本部長、細谷英生氏(生産管理部付)に、ASEANでの事業展開とサプライチェーンの多元化に向けた取り組みについて聞いた(取材日:2026年7月14日) 。


左から谷経営企画本部副本部長、渡辺執行役員、細谷氏(生産管理部付) (ジェトロ撮影)
質問:
企業概要について。
答え:
当社は小型モーターを主力製品とするメーカーであり、事業の約8割を車載向けが占めている。とりわけミラーやドアロック用の小型モーターでは世界市場で非常に高いシェアを有し、顧客は日系・非日系を問わず世界の自動車メーカーや自動車部品メーカーに広がっている。事業は日本、中国、ASEAN、米州、欧州の5極体制で展開しており、中国、ベトナム、欧州には研究開発機能も配置している。ASEANではベトナムのドンナイ市とダナン市に生産拠点を有し、タイには販売拠点を設置している。近年は車載向けに加え、産業機械、医療機器、マイクロモビリティ(近距離移動向けの小型モビリティ)などのライフ・インダストリー分野の拡大にも注力している。

現地主導の運営が支えるASEANの中核拠点

質問:
ベトナム進出の経緯と、各拠点の位置付けは。
答え:
ASEANで最初に進出したのはベトナムではなく、1989年に進出したマレーシアだった。当時のモーター生産は労働集約型で、生産ラインには50人から100人近くの作業者が並び、ベルトコンベヤー上で組立作業を行う工程が中心だった。そのため、当時は十分な労働力を確保することが重要な課題だった。ベトナムでは、1996年に南部ドンナイ省(現ドンナイ市)(注)に、2005年に中部ダナン市に拠点を設立した。1990年代から2000年代初頭当時は、ベトナムにおける生産も労働集約型が中心だった。ホーチミン市内にも工業団地はあったが、労働力確保のしやすさと賃金水準の観点から、都市部から少し離れているドンナイ省を進出先に選んだ。現在、ドンナイ拠点は小型モーターを中心とした生産と製品および生産設備などの開発を、ダナン拠点は主に中型モーターの製造と営業を担っている。ベトナムで対応できる開発領域は着実に増えている。2011年にマレーシア拠点を閉鎖して以後は、ASEAN地域の生産拠点はベトナムに集約している。
質問:
ベトナム拠点の強みは。
答え:
現地主導の運営体制が、ベトナム拠点を下支えしている。各海外拠点では設立当初から、現地社員とともに事業を築いてきた。人事制度のグローバル化も進めており、日本から海外へ人材を派遣するだけでなく、海外の人材が日本で活躍できる機会も増やしている。実力主義に基づく人事評価を導入し、国籍を問わず人材の登用を進めている。ベトナム拠点では、現地法人で経験を積んできたベトナム人が代表を務めている。
拠点の経営だけでなく、部品の内製化や生産管理など、製造面での現地化が進んでいる点も特徴だ。ベトナムの両拠点には相当程度のノウハウが蓄積され、技術的難易度の高い案件にも対応できるようになった。また、技術者の定着率も改善している。かつては技術者の年齢が若く、習得した技術を生かして他社に転職するケースもみられた。現在では、家庭を持つコアな技術者が増えたことも、離職率の低下につながっているとみている。
加えて、現地人材が若手社員を指導・育成する仕組みも構築されている。新しい技術や自動機を導入する際には、日本から担当者が出張して技術指導や生産移管を行うが、通常の操業においては、ベトナム工場の生産ラインに日本人が支援に入ることはほとんどない。

コスト競争力を背景に中国からベトナムへ生産移管

質問:
ベトナムへの生産移管を決定した背景は。
答え:
従来は、生産を中国に一極集中させ、コスト競争力と高い品質を両立することで競争優位性を維持していた。しかし人件費など中国における製造コストが上昇し、将来的に中国産の価格競争力が低下すると見込まれた。また、当時は音響映像機器向けモーターの需要増に対応するため、生産能力増強の必要性があった。そのため、より製造コストを低く抑えられるASEANへ目を向けた。
当初は生産能力増強とコスト競争力の向上が主な目的だったものの、結果として生産拠点の分散や地政学リスクへの対応にもつながっている。顧客側も、調達に関して安定供給をより重視するように変化しつつある。強靱性の高いサプライチェーンをいかに構築するかが課題となっている。
質問:
ベトナムに生産移管した製品は。
答え:
モーターの主要部材の一部については、ベトナム拠点での製造対応を進めており、製造拠点の複線化を図っている。ベトナムで生産した部材は、同国内で製造する完成品向けにとどまらず、ASEAN域外にある当社の工場にも輸出している。ベトナム拠点は完成品の輸出拠点であると同時に、グループ各社への部材供給拠点としての役割も担いつつある。主要部材の内製化と供給拠点の複線化は、グループ全体のサプライチェーンの強靱化にもつながっている。

調達の多元化に向けた取り組みと課題

質問:
ベトナム拠点における調達の現状は。
答え:
現在、ベトナム拠点で使用する原材料・部品については、品質、コスト、納期の観点から最適な調達先を選定している。これまで構築してきたグローバルな調達網を活用しながら、地産地消の方針に基づき、ASEAN域内における調達先の開拓も進めている。
一方、足元の世界情勢や地政学リスクの高まりを受け、特定の部材だけでなく、サプライチェーン全般の見直しを進めている。2025年には、長年取引関係にあり中国に工場を持っていたサプライヤーが、事前の通告なく突如として解散した。既存サプライヤーだけでは全品目を供給できる状態ではなかったため、代替のサプライヤーの製品が基準をクリアしているか、新たに試験する必要が生じた。調達先をある程度多角化していたため影響は限定的ではあったが、この経験を通じ、複数の調達先を確保しておくことの重要性をあらためて実感した。品質をはじめとする各領域の能力をともに高め、サプライヤーとともに成長していくことが必要だ。ASEANでは、現地サプライヤーを育成しながら活用を広げ、調達先の多元化につなげていきたい。
質問:
調達の多元化を進める上での課題は。
答え:
地産地消の考え方に基づいて、調達における多元化を進めてきているが、昨今の状況も踏まえて、さらに対応を加速する必要があると捉えている。競争優位な調達と安定的な調達を高い次元で両立させる必要があり、多元化は容易ではない。
コスト上昇分の価格転嫁についても、一様ではない。顧客から特定部材の使用を求められた場合には、追加コストを価格へ反映しやすい。一方、顧客からの要請がない中、自社の判断だけで高コストの代替部材を使用すれば、製品の価格競争力が低下する可能性がある。供給網の強靱化とコスト競争力のバランスをどう取るか、試行錯誤しながら取り組んでいる。
質問:
中東情勢や原油価格の上昇などの影響を受けているか。
答え:
中東情勢などを背景とした原油価格の上昇は、ナフサ価格に反映され、樹脂原料の価格に影響している。当社製品には樹脂部品が使用されており、樹脂成形に使用する樹脂原料の価格に大きな影響が出ている。また、樹脂材以外にも素材や梱包資材、また輸送費といった部分にも影響が及んでいる。
質問:
今後の事業方針は。
答え:
当社が高いシェアを獲得できた背景には、製品の標準化戦略がある。特定の顧客だけに最適化した製品ではなく、幅広い顧客が使用できる標準的な製品を提供してきた。また、部品の内製化率が高く、高い品質とコスト競争力を両立しながら納期も確実に守る供給力は、世界でもトップクラスにあると認識している。
今後は、こうした強みを生かしつつ、高付加価値製品を増やす方針だ。車載用モーターを巡っては、グローバルに競合企業が存在する中、特に中国企業が価格面で競争力を高めている。こうした競争環境の変化も、高付加価値化を進める背景のひとつだ。
モーターや関連部品については、特定の数値目標を置いて中国やベトナムにおける生産比率を決めるのではなく、各地域の需要に即して地産地消に基づく生産体制を構築する方針だ。中国国内の需要には中国拠点での生産で対応し、ベトナム拠点はベトナム国内向けと輸出向けの生産を担う。
既存の車載用モーターに加え、今後はライフ・インダストリー分野における高付加価値のモーターやユニット製品の製造、販売にも注力する。特に産業機器、半導体製造装置などの「Machinery」、医療機器の「Medical」、マイクロモビリティや電動自転車などの「Mobility」から成る「3つのM」を重点領域と位置付け、動きのソリューションを提供する「e-MOTO」コンセプトに基づいて、付加価値の高い製品の開発・供給を進める方針だ。
企業基本情報
項目 内容
会社名 マブチモーター株式会社
設立 1954年(ベトナム拠点:ドンナイ1996年/ダナン2005年)
所在地 〒270-2214 千葉県松戸市松飛台430
URL https://www.mabuchi-motor.co.jp/外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

注:
2026年4月の行政区分再編に伴い、ドンナイ省から中央直轄市ドンナイ市となった。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課
安長 裕(やすなが ゆたか)
2014年、ジェトロ入構。総務部、ものづくり産業部、ジェトロ千葉、ハノイ事務所を経て現職。

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