2024年米新車販売は新型コロナ禍後最多
関税、環境規制、IRAなどの行方に注目

2025年4月17日

2024年の米新車販売台数は新型コロナウイルスのパンデミック後で最多の1,604万台になった。繰り越し需要やメーカーによる割り引き、追加関税発動前の駆け込み需要などが背景にある。ハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)、高級車などが伸びを牽引した。

2025年も当初は好調な販売が予測されていた。しかし、追加関税などトランプ新政権の一連の政策の影響が想定以上に広がりを見せる中、新車市場の見通しが不透明感を増している。

2024年は年末が好調で1,600万台超

モーターインテリジェンスの発表(2025年1月10日)によると、米国の2024年の新車販売台数は、前年比2.7%増の1,604万2,766台になった(図1、表1参照)。パンデミック期間中の買い控えによる繰り越し需要が残っていたことや、在庫不足の解消に伴い、自動車メーカーが現金還付取引や低金利融資などで販売促進を強化したことが背景にあるとみられる。

また、同年内の推移をみると、第1~3四半期の合計が前年同期比1.0%増だったのに対し、第4四半期は8.0%増と大きく伸びた。このことから、2025年1月の新政権発足後に想定されていた価格高騰を見込んだ駆け込み需要も押し上げ要因になったとの見方がある。

図1: 米国の新車販売台数と前年比の推移(2008年~2024年)
新車販売台数は、リーマンショックの影響により2009年に1,043万台となったが、その後増加して、2015年以降5年連続で1,700万台を維持した。しかしながら2020年は新型コロナウイルスの影響で1,458万台に減少。2024年は繰越需要や、メーカーの販売促進などが押し上げ要因となり、2020年以降最高の1,604万台となった。

注:対象は、乗用車、小型トラック(バン、ピックアップトラック、SUV)。大型トラックは含まない。
出所:モーターインテリジェンスからジェトロ作成

在庫比率はパンデミック後最高

2024年の売上在庫比率(販売台数に対する在庫台数の比率)をみると、2020年以降で最高の204.9%になった。

在庫の回復に伴い、メーカーによるインセンティブ(販売促進のための割引)額も増加した。米自動車調査会社のコックスオートモーティブによると、2024年12月時点の販売価格に占めるインセンティブの割合は、前年同月の5.5%から8.0%に伸び、1台あたり3,958ドルとなった。また平均車両販売価格は、前年同月比1.3%増の4万9,740ドルと、過去最高に近い水準で推移している。第4四半期に上位プレミアムクラス(注1)の販売が前年同期比21.0%増と大きく伸びたことも、一部影響したとみられる。コックスオートモーティブのエリン・キーティング・エグゼクティブアナリストは、2025年1月のレポートで「高級車は通常、感情的な購入品だ。消費者は楽観的になると購入する」と述べた。2024年11月の選挙後に、消費者信頼感の高まりが購買を刺激したことを説明したかたちだ。

コンパクトSUVの人気が上昇

部門別販売台数をみると、乗用車が前年比2.2%減少。一方で、小型トラックが4.0%増加した(表2参照)。全販売台数に占める小型トラックのシェアは、データの確認できる1980年以来最高の80.3%になった。大型車を好む傾向がさらに進んでいる(図2参照)。

中でもスポーツ用多目的車(SUV)のシェアは前年より1.2ポイント増加。過去最高の57.5%にまで伸びた。ただしSUVの中では、小型車が伸びる傾向にある。4段階のサイズのうち最小のコンパクトモデル〔ゼネラルモーターズ(GM)「トラックス」やホンダ「HR-V」を含む〕の伸びが最も大きい。当該モデルは、前年比14.3%増と2年連続で2桁増になった。

表2:2024年の新車販売台数の内訳(単位:台、%)(△はマイナス値)
項目 2024年 2023年
販売台数 前年比 構成比 販売台数
乗用車小計 3,157,216 △ 2.2 19.7 3,229,010
ミニバン、フルサイズバン 721,307 △ 1.3 4.5 730,807
ピックアップトラック 2,936,741 2.8 18.3 2,855,777
SUV(スポーツワゴン、CUVを含む) 9,227,502 4.8 57.5 8,801,284
小型トラック小計 12,885,550 4.0 80.3 12,387,868
合計 16,042,766 2.7 100.0 15,616,878

出所:モーターインテリジェンス発表データからジェトロ作成

図2:部門別新車販売台数の推移
乗用車は、リーマンショックの影響により2009年に541万台にまで減少した後、2014年には771万台にまで増加したが、その後減少が続き、2021年には342万台となった。他方で、小型トラックは2009年以降増加を続け、2019年は1,224万台となった。2020年は新型コロナウイルスの影響で1,106万台に落ち込んだものの、2024年には1,289万台にまで回復した。小型トラックは2012年に乗用車を上回り、それ以降その差は拡大している。

出所:モーターインテリジェンス発表データからジェトロ作成

テスラが2015年以降初のマイナスに

主要メーカー別の販売台数では、ホンダ、GM、トヨタなどが全体の伸びをけん引した。一方で、EVメーカーのテスラは、2015年以降初めて前年比減。また「ラム」を含むほぼ全てのブランドが落ちこんだステランティスも、大幅に減少した(図3参照)。

モデル別では、2014年以降、一貫して販売台数のトップ3を米系メーカーのピックアップトラックが占めていた。しかし2024年は、HEVバージョンが好調なトヨタ「RAV4」が3位、ホンダ「CR-V」が4位に入った。 2024年の販売を、各メーカー別(販売台数の多い順)にみると、次のとおりになる。

  • GM:SUV「トラックス」「エンビスタ」が伸びて、4.3%増。
  • トヨタ:SUV「RAV4」、ピックアップトラック「タンドラ」が伸びて、3.7%増。
  • フォード:ピックアップトラック「マーベリック」「Fシリーズ」が伸びて、4.2%増。
  • ホンダ:乗用車「シビック」、SUV「CR-V」が好調で、8.8%増。
  • ステランティス:ピックアップトラック「ラム」や乗用車「チャージャー」の販売が落ち込み、14.8%減。2019年以降6年連続でマイナスだった。
  • 日産:乗用車「セントラ」「バーサ」が伸びて、2.8%増。
  • 現代自動車:乗用車「ソナタ」、SUV「パリセード」が伸び、4.8%増。
  • 起亜:乗用車「K4」、SUV「スポータジュ」が好調で1.8%増。
  • スバル:SUV「フォレスター」「XV クロストレック」が押し上げて、5.6%増。
  • テスラ:乗用車「モデル3」、SUV「モデルY」が減少して、3.2%減。
  • フォルクスワーゲン(VW):乗用車「ジェッタ」、SUV「ティグアン」が伸びて、3.2%増。
図3:全新車販売台数の変化に対するメーカー別寄与度
2024年全新車販売台数の前年比に対するメーカー別寄与度をみると、ホンダが0.74%、GMが0.72%、トヨタが0.54%、フォードが0.54%、その他が0.4%、マツダが0.39%、現代が0.27%、スバルが0.23%、日産が0.16%、メルセデスベンツが0.14%、VWが0.12%、起亜が0.09%、BMWが0.01%、ボルボがマイナス0.02%、テスラがマイナス0.14%、ステランティスがマイナス1.45%となった。

出所:モーターインテリジェンス発表データからジェトロ作成

クリーンビークルのシェアは初の1割超え

動力別に販売台数をみると、ガソリン車は1.1%減少した。

一方で、クリーンビークル〔CV:バッテリー式EV(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)の総称〕は前年比9.4%増。161万7,034台になり、全新車販売台数に占める割合が10.1%。前年を0.6ポイント上回った(表3、図4参照)。

内訳をみると、FCVは79.5%減の611台と落ち込んだ。しかし、BEVが前年比9.2%増の130万2,020台、PHEVが11.2%増の31万4,403台と好調だった。

また、ハイブリッド自動車(HEV)が36.0%増の160万7,949台と大幅に伸びた。その結果、CVとHEVを合わせた電動車が全車に占める割合は、20.1%。過去最高を記録した。

表3:動力別販売台数(△はマイナス値)
項目 2024年 2023年
販売台数 前年比 全車に占める割合 販売台数
(1)バッテリー式EV(BEV) 1,302,020 9.2 8.1 1,192,194
(2)プラグインハイブリッド車(PHEV) 314,403 11.2 2.0 282,852
(3)燃料電池車(FCV) 611 △ 79.5 0.0 2,978
クリーンビークル(CV)合計
=(1)+(2)+(3)
1,617,034 9.4 10.1 1,478,024
(4)ハイブリッド車(HEV) 1,607,949 36.0 10.0 1,182,023
電動車合計
=(1)+(2)+(3)+(4)
3,224,983 21.2 20.1 2,660,047
(5)ガソリン車 12,817,783 △ 1.1 79.9 12,956,831
全米新車販売台数
=(1)+(2)+(3)+(4)+(5)
16,042,766 2.7 100.0 15,616,878

出所:モーターインテリジェンス発表データからジェトロ作成

図4:動力別販売台数推移
販売台数は2020年から2024年までそれぞれ約32万台、62万台、99万台、148万台、162万台となった。全販売台数に対するバッテリー式電気自動車とプラグインハイブリッド車、燃料電池車の合計の割合は2.2%、4.1%、7.1%、9.5%、10.1%となった。

出所:モーターインテリジェンス発表データからジェトロ作成

CVの8割以上を占めるのが、BEVだ。その動向をみると、全新車販売台数に占めるシェアは8.1%と過去最高になった。メーカー別には、次のとおり。

  • ホンダ:2024年3月に販売を開始した「プロローグ」の純増で、シェアが3.1%。
  • GM: SUV「エクイノックス」などが伸び、2.4ポイント増の8.8%。
  • フォード:1.4ポイント増の7.5%。
  • テスラ:販売台数で首位ながら、シェアは6.3ポイント減の48.7%。

2025年は関税、環境規制、IRAの行方に注目

2025年の新車販売台数に関し、年初の時点で主な調査会社は、2024年を上回る1,610万~1,640万台を予測していた(図5参照)。

しかし、その後トランプ政権は一連の追加関税や、インフレ削減法(IRA)などに基づくEV普及政策の見直しなどを発表。市場の見通しは不透明だ。英調査会社のグローバルデータは、2025年1月時点で、関税賦課やEV税額控除見直しの影響を一部加味した上で、新車販売台数を1,610万台と予測した。関税賦課の対象によっては50~100万台程度の下振れリスクがあるとみている。

また、コックスオートモーティブは同年2月時点で1,630万台を予測した。しかし、関税賦課に対して「自動車メーカーや消費者がどのように反応するかは全くの未知数であり、全てが不確かな状況だ」と述べている。

図5:2025年販売台数予測
販売台数の実績は、2019年1,706万台、2023年1,562万台、2024年1,604万台となった。2025年の予測販売台数は、グローバルデータの1,610万台から、センターフォーオートモーティブリサーチなどの1,640万台までとなっている。

注:CAR: センターフォーオートモーティブリサーチ、NADA:全米ディーラー協会、COX: COXオートモーティブの略。2025年1~3月に各社が発表した予測値。
出所:各社発表データからジェトロ作成

各社発表などによると、2024年の国内生産台数は前年比3.2%増の1,078万7,837台だった。販売台数に占める国内生産車の割合は、前年とほぼ同水準の67.2%になった(表1参照)。また、輸入台数は前年比4.5%増の769万台、輸出台数は3.0%減の247万台だった(注2、図6参照)。

輸入ではメキシコが全体の27.6%を占め213万台、韓国が20.2%の155万台、日本が18.0%の139万台、カナダが12.9%の99万台、中国が7.5%の58万台の順だった。輸入台数の伸び率では、中国が前年比48.8%増、韓国が23.0%増と目立っている。中国に関しては、後述する追加関税を避けるため、前倒し輸入が増加した可能性も指摘されている。

図6:販売・生産・輸出入台数(2024年)

国内生産・輸入、国内販売・輸出
輸入(国別)
輸出(国別)

出所:商務省、モーターインテリジェンス、オートモーティブニュースデータセンター発表データからジェトロ作成

2025年1月20日に発足したトランプ政権は、3月4日に国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づき、メキシコ、カナダを対象とした25%の追加関税を発動した(2025年3月4日付ビジネス短信参照)。米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の原産地規則を満たした輸入品は、適用除外となっている。しかし今後、追加関税の対象に例外なく自動車が含まれることもありうる。そうなると、メキシコで生産台数の多いGM、日産、VWや、カナダで生産の多いトヨタ、ホンダを中心に、多くのメーカーが影響を受けることになる(2025年3月7日付ビジネス短信参照)。

また、1962年通商拡大法232条に基づき、3月12日に、鉄鋼・アルミ製品に対して25%の追加関税を全面的に適用した。さらに3月26日には、自動車や自動車部品に対し、25%の追加関税を発表した(2025年3月27日付ビジネス短信参照)。

中国からの輸入品には、次のとおり、既に追加関税を賦課している。

  • バイデン前政権下、1974年通商法301条に基づいて対中追加関税を見直したことにより、2024年9月27日から(1) EVに100%、(2)EV用リチウムイオンバッテリー、重要鉱物に25%の追加関税を課している。2026年1月1日からは、天然黒鉛、永久磁石にも25%が課されることになる。
  • さらにトランプ現政権下では、自動車を含む中国からの全輸入品目に対し、IEEPAに基づく20%の追加関税を上乗せした。
    2024年の中国からの輸入車は約58万台、うちEV(BEVとPEHVの合計)は約5,000台といずれも限定的だ。もっとも、自動車部品の輸入額は、中国からがメキシコ、カナダに次いで多く、約101億ドルに上る。また、中国からの輸入量はEV用バッテリーで全輸入量の約70%、バッテリー材の黒鉛で35%をそれぞれ占めることから、追加関税の影響は大きい(注3、4、2024年12月17日付地域・分析レポート参照)。

見直しが始まった環境規制とEV化推進策

関税以外では、環境規制の緩和や、2022年にバイデン政権下で制定されたIRA、インフラ投資雇用法(IIJA)の見直しがEV市場に与える影響にも注目だ。

ドナルド・トランプ大統領は1月20日、大統領令で「EV義務化の撤廃」を掲げた。カリフォルニア州に付与している、環境規制に関する連邦政府規制からの適用除外を撤廃するほか、温室効果ガス排出および燃費に関する連邦基準を緩和する可能性が高い(2025年1月15日付地域・分析レポート参照)。また連邦政府内では、IRAで定められたCV購入に対する税額控除の見直しや、IIJAによるEVインフラ関連への補助金給付の一時差し止めに向けた取り組みが既に始まっている。これら政策が実現すると、今後のEV販売や企業の投資計画に与える影響は大きい(2025年2月12日付ビジネス短信参照)。

こうした中、ジェトロが在米日系製造企業に対して実施したヒアリングでは「今後の任期が4年弱と決まっているトランプ政権下で、大規模な生産拠点の変更は難しい」との見方が多い。また、米国自動車部品工業会(MEMA)が3月に行った鉄鋼・アルミの関税賦課に関するアンケートで、サプライヤーの8割が「米国には、現在グローバルに調達している部品を製造できる余剰生産能力はない」と答えた。雇用を含め国内への生産回帰が難しいことを示唆している。追加関税分の価格転嫁による自動車価格の上昇水準がどの程度想定されるのか、確たる見通しさえ立たない状況だ(2025年2月4日付ビジネス短信参照)。追加関税や環境規制緩和、EV化推進策の見直しなど、新政権による一連の政策が2025年以降の自動車市場に与える影響が注目される。


注1:
フェラーリやジャガーランドローバー、キャデラックなど。
注2:
輸出入台数は、米国関税分類番号(HTSコード)8703と、商務省がライトビークルと定めるHTS8704の一部に該当する項目の合計。
注3:
自動車部品はHTS8708、EV用バッテリーはHTS8507600010を参照。バッテリー、黒鉛は重量ベースの割合。
注4:
2025年3月25日時点で、中国製乗用車への関税率は、一般関税率2.5%に加え、301条に基づく25%、IEEPAに基づく20%、が追加されて合計47.5%。中国製EVに関しては一般関税率2.5%に加え、301条に基づく100%、IEEPAに基づく20%が追加され、合計122.5%になっている。
執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所 リサーチ・マネージャー
大原 典子(おおはら のりこ)
民間企業勤務を経て2013年からジェトロ・ニューヨーク勤務。自動車産業を柱に米国の産業調査を担当。