「次のフロンティア」アフリカを巡る世界各国・地域の動向戦略的にアフリカとの関係強化を目指すインド
製品水準の親和性がカギ
2025年6月16日
移民の展開など、歴史的にアフリカと深いつながりを持つインド。近年、「グローバルサウスの盟主」を自認するようになったことで、アフリカとの政治的・経済的な関係性の再構築の重要性が一層高まりつつある。ビジネスの面でもインドと親和性のある市場として、アフリカに地場企業・在印日系企業が大きな期待を寄せている。
アフリカとの連携を「最重視」するインド政府
インド政府は、英国からの独立100周年にあたる2047年までの先進国入りを目標に掲げ、大国としての意識を新たにしている。さらに2023年1月には初の「グローバルサウスの声サミット」をオンラインで主催するなど、「グローバルサウスの盟主」として、新興国を代表して先進国との橋渡し的な役割を担おうとしている。
この狙いの1つには、先進国主導で進められてきたグローバルな課題に対処する国際秩序に対し、グローバルサウスの国々が一体となることで発言力を高め、インドの国益を追求したい思惑があると考えられる。前述のサミットでは、125の参加国のうちアフリカからの参加が47カ国で全体の3割を超えた。国数、人口の両方の観点で規模の大きいアフリカは、インドのグローバルサウス戦略の中で重要性が高いことが見て取れる。
インドは、アフリカを重視する姿勢を示し続けている。インドが初めて議長国を務めた2023年9月のG20サミットでは、アフリカ連合(AU)のG20常任メンバー入りが決定した(2023年9月15日付ビジネス短信参照)。背景には、ナレンドラ・モディ首相がG20各国の首脳に書簡を送り支持を求めるなど、インドの尽力があったとされる。G20サミットの開催直前には、モディ首相が「アフリカはインドにとって最優先事項である」と述べるなど、インドがアフリカの国際的な地位向上にコミットする姿勢を明確にしていた。また、2020~2024年の5年間で、アフリカに新たに設置されたインド大使館の数は18に上る。2024年11月には、モディ首相が現職として初めてナイジェリアを訪問し、首脳会談が行われた。
対アフリカでは、インド側の貿易黒字を実現
アフリカは、インドにとって貿易上でも重要な相手になりつつある。インドの貿易全体では、輸入額が輸出額を大きく超過する貿易赤字の状態が長年にわたって続いている状況だ。「メーク・イン・インディア」政策により国内製造業振興や貿易赤字の縮小に注力しているが、インドからの輸出額は伸び悩む。インドから世界への輸出額は、2014年度(2014年4月~2015年3月)の第1期モディ政権発足後も横ばいの状態が続く。新型コロナ禍後の2021年度には輸出額が大きく伸長したが、輸入額の伸びがそれを上回り、赤字幅は拡大した(図1棒グラフ参照)。
対アフリカ貿易では状況がやや異なる。アフリカ向けの輸出入についても世界全体向けとほぼ同じ拡大ペースで推移しているが、2006年度から2021年度までは輸入額が輸出額を上回っていたところ、2022年度から2024年度にかけて逆転し、インド側の貿易黒字が実現した(図1折れ線グラフ参照)。

出所:インド商工省・通商情報統計局(DGCI&S)公表データからジェトロ作成
インド政府の目指す輸出拡大では、輸出品目と輸出相手国の多様化が求められる。前述の通り、アフリカは人口規模が大きいことはもちろんのこと、インドと経済水準が近い国も多いことから、求められる製品レベルが類似している。これらのことから、インドは、将来性と親和性のある市場としてアフリカを重要視している。
2024年度のインドからアフリカへの輸出額は427億7,130万ドルだった。品目別にみると、輸入した原油を精製して製造する石油製品(99億4,350万ドル)が全体の23.2%を占めるほか、医薬品・精製化学品(45億1,170万ドル、10.5%)や輸送機器(40億5,910万ドル、9.5%)、機械・器具(40億1,100万ドル、9.4%)など工業製品が目立つ。加えて、農産物である非バスマティ米(45億400万ドル)が10.5%に上る(図2参照)。

出所:インド商工省・通商情報統計局(DGCI&S)公表データからジェトロ作成
他方、輸入に目を向けると、2024年度のアフリカからインドへの輸入額は391億7,240万ドルだった。品目別にみると、原油(94億7,980万ドル)が全体の約4分の1(24.2%)を占め、次いで金・銀(65億6,820万ドル、16.8%)、鉄金属・非鉄金属(29億4,740万ドル、7.5%)が続き、鉱物資源が大部分を占める状況だ(図3参照)。原油など重要鉱物資源を輸入に依存するインドにとって、多くの鉱物資源を保有するアフリカとの関係性構築は、経済安全保障の観点からも必要不可欠となっている。

出所:インド商工省・通商情報統計局(DGCI&S)公表データからジェトロ作成
インド系企業によるアフリカでの事業展開
インドとアフリカは、歴史的にも深いつながりを持つ。英国による植民地時代には、東アフリカ地域の開発のために多くのインド人が動員された。その後、インド西部グジャラート州などから、商業を生業とするインド系移民がアフリカに流入し、貿易業などのビジネス展開を始めた。こういった歴史的背景から、現在、アフリカには南アフリカ共和国(以下、南ア)や東部アフリカを中心として合計約301万人のインド系の人々が居住しており、うちインド系移民が約276万人、NRI(非居住インド人)が約25万人となっている。アフリカでインド系移民が興した企業の代表例としては、インド系ケニア人が創業した大手日用品企業ビドコ・アフリカなどが挙げられる。
インドからアフリカへの直接投資は、まだまだ限定的だ。2024年度のインドからアフリカへの対外直接投資額は、約68億1,064万ドルで全体の16.4%にとどまる。内訳をみると、税制優遇措置の恩恵を目的としているとみられるモーリシャス向けの投資が66.8%を占めている(図4参照)。これらのデータから、インド企業においてもまずは直接投資よりも輸出による事業展開を進めていることが読み取れる。

出所:インド準備銀行「Overseas Direct Investment」から作成
他方で、財閥企業など巨大企業を中心として、現地に根差したかたちでアフリカ進出に取り組むケースもある。インド大手財閥タタ・グループは、南アをはじめとして13カ国で事業を展開する。展開事業は多岐にわたり、特に自動車関連ではバスやトラックを中心としてアフリカ内に4カ所の組立工場を設立、「メイド・イン・アフリカ・フォー・アフリカ」をうたって現地での製造も進める。そのほか、インドの通信大手バルティ・エアテルは、ナイジェリアやフランス語圏諸国を中心にアフリカ14カ国で事業を展開し、2025年3月期のデータ利用者数は前期比14.1%増の7,340万人、電子マネーサービスの利用者数は同17.3%増の4,460万人にのぼるなど年々成長を見せている。南アの非営利団体ブランドアフリカが発表する、2024年のアフリカのブランド認知ランキング(1.13MB)では、米国のナイキやトヨタ自動車など世界の名だたる有名ブランドに並び、同社が20位にランクインしたほどだ。
アフリカに進出する日系企業の声からは、一部地域におけるインド系企業の存在感の大きさが見て取れる。ジェトロが2024年12月に発表した「2024年度海外進出日系企業実態調査(アフリカ編)」では、「進出先市場で最も競争力が強いと思う企業」として、ナイジェリアでは現地日系企業の30.8%がインド企業を選択した。その理由としては「コスト競争力の高さ」が主に挙げられている。
インドからアフリカ市場を目指す日系企業の動き
日本企業の間でも、インドをアフリカへの輸出拠点と捉えようとする動きが広がりつつある。インドは日本や東南アジアと比較して、地理的にアフリカに近いほか、所得水準など市場特性に類似点が多いことから、求められる製品・サービスの種類や質も似ている。また、インドの多言語・多民族の特徴はアフリカにも共通しており、マーケティングの面でもインドでの経験が生かされるだろう。
自動車大手のスズキは、2025~2030年度の中期経営計画で、インドをグローバルの生産拠点と定め、インドからの輸出拡大を目指している。アフリカ市場については、大きな成長の可能性があるとし、現地でのシェア10%を目標に掲げる。スズキのインド子会社であるマルチ・スズキは、インド国内の乗用車販売で約4割(約176万台、2024年度)のシェアをもち、2030年までにインドでの生産能力を現在の約200万台から400万台に拡大する計画を掲げている。そして、インドとの地理的近接性や消費者ニーズの類似点などを踏まえ、インド向けモデルでのアフリカ市場の開拓を目指している。
エアコン大手のダイキン工業は、2023年5月に発表した戦略経営計画「FUSION25」で、インドの一大拠点化を強化事業の1つに掲げる。インド国内の急速な需要拡大に対応していくことに加えて、アフリカ市場での本格的な事業展開に向け、輸出拡大を図っていくことを明確にしている。また、生産拠点としてだけでなく、現地エンジニア人材を活用した開発拠点としてもインドを重点地域に位置付けており、将来的には、アフリカを含む開発機能がない地域向けの研究開発もインドで担っていきたい考えだ。なお、ナイジェリアではすでに、同社の代理店がインド拠点から部品を調達し、現地で室内機、室外機、圧縮機の組み立て生産を行うなど、アフリカでの現地生産を段階的に進めている。
インドの首都ニューデリーを拠点とするインド日本商工会(JCCII)では、主にアフリカへの輸出事業の展開を目指す日系企業が参加する「輸出委員会」を立ち上げ、定期的に会合を開催している。2025年6月1日時点で、同委員会には全597社の商工会会員企業の約1割にあたる56社が所属しており、在インド日系企業のアフリカ市場への関心の高さがうかがえる。
とはいえ、日本企業のアフリカ進出は、ビジネス環境上の障壁も多いほか、日本の本社でも事業展開に関する知見が不十分である。そこで、アフリカへすでに進出しているインド系企業をパートナーとすることも進出にあたっての選択肢となりそうだ。前述の「2024年度進出日系企業実態調査(アフリカ編)」では、アフリカの現地日系企業が選んだ「第三国連携のパートナーとなりうる国」として、インドが第3位に挙げられている。
古くから交流を重ね、近年はグローバルサウス諸国の連携が模索されているインドとアフリカの関係は、今後、官民の活動を通じて一層強化されていくだろう。日系企業のアフリカ市場参入という観点でも、すでにアフリカでネットワークを持つインド系企業とのパートナーシップが、成功のヒントとなる可能性がある。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・ニューデリー事務所
丸山 春花(まるやま はるか) - 2021年、ジェトロ入構。企画部情報システム課、ジェトロ・ムンバイ事務所を経て、2024年7月から現職。