多様化するアジア大洋州の消費者像-価値観、ライフスタイル、市場機会を読み解く-若年層を捉える商品開発とEC戦略、MUJI
ベトナム(5)

2026年11月4日

良品計画のベトナム法人MUJI Retail Vietnam(ムジ・リテール・ベトナム)は2019年8月に設立され、2020年にホーチミン市で1号店を開業した。現在は、ホーチミン市、ハノイ市、ダナン市を中心に19店舗を展開している。衣料品、生活雑貨、食品などの販売に加え、ベトナムの気候や生活習慣に合わせた商品開発、ライブコマースやEC(オンライン販売)の活用にも力を入れている。同社の永岩徹也General Director(ゼネラルディレクター)に、ベトナム進出の経緯、消費者の特徴、現地向けの商品開発、EC戦略、事業運営上の課題、今後の展望について聞いた(取材日:2026年7月30日)。


MUJI Retail Vietnamの永岩General Director(同社提供)

ブランドを象徴する大型店から出店したベトナム市場

質問:
ベトナム進出の経緯と現在の事業概要は。
答え:
2019年8月にベトナム現地法人を設立し、2020年にホーチミン市で1号店を開業した。2014年ごろから市場に注目していたものの、当時は出店に適した物件が限られていたため、進出までには時間を要した。
他国では、小型店から段階的に店舗を拡大することが多かったが、ベトナムでは、当初からブランドを象徴する大型サイズで出店した。ホーチミン市中心部に開業した1号店の売り場面積は約2,200平方メートルで、衣料品や生活雑貨、食品など、MUJI(無印良品)の幅広い商品やブランドの考え方を1つの店舗で表現することを重視した。相応のコストを要したが、ブランド認知を高めるための投資と位置付けた。
ベトナム市場進出の背景には、若い人口構成と中間所得層の拡大があった。当社ベトナム事業の主要顧客は20代で、周辺国への旅行などを通じてMUJIを知る人も多い。今後、所得の上昇に伴って消費の拡大が期待される層でもある。
ホーチミン市の1号店は、2020年の開業後すぐに新型コロナウイルスの影響を受け、事業環境が急変した。2021年7月にハノイ市へ出店した際も、その後1カ月以内にロックダウン(厳格な社会的距離措置)となった。
厳しい経営環境が続いたが、現在はホーチミン市、ハノイ市、ダナン市を中心に19店舗を展開し、自社ECや外部ECにも販路を広げている。市場の回復と店舗網の拡大を背景に、足元の事業は堅調に推移している。

MUJI Parkson Le Thanh Ton店(ホーチミン1号店)の外観(同社提供)

店内(生活雑貨売り場)の様子(同社提供)

店内(衣料品売り場)の様子(同社提供)

主要顧客は20代、地域によって異なる消費特性

質問:
ベトナムの顧客層には、どのような特徴があるか。
答え:
当社の主要顧客層を見ると、日本では、30代、40代の顧客が中心であるのに対し、ベトナムでは20代の男女が重要な顧客層だ。よって、ペンなどの文房具は、学生をはじめとする若い顧客がMUJIを知る1つの入り口となっている。大学とも連携し、新学期の需要に合わせた商品紹介などを通じて、MUJIブランドの認知拡大に取り組んでいる。

若年層との接点となる文房具(同社提供)

スマートフォン用ストラップ(同社提供)
全国的に売れ筋商品の傾向は共通しているが、気候や購買行動には地域差がみられる。冬のあるハノイ市では、衣料品や寝具など季節性のある商品の需要が高く、冬季には比較的高価格帯の商品が大きく販売を伸ばすこともある。衣料品や中間所得層以上を主な対象とする商品については、販売金額や販売数量において、ハノイ市の店舗がホーチミン市の店舗を上回る場合もある。一方、物価の上昇に消費者が敏感に反応する傾向があり、経済環境の変化が購買行動に影響しやすい。これに対し、年間を通じて高温なホーチミン市では、厚手の秋冬物衣料に対する需要は限定的である一方、消費活動は比較的活発で、販売も安定している。気候がハノイに近いダナン市では、大型商業施設への出店を機に高い集客力を獲得し、好調な販売が続いている。

衣食住を横断した提案と商品価値の発信が強み

質問:
ベトナムの消費者特性をどのように捉えているか。また、MUJIの強みは。
答え:
MUJIの強みは、衣料品、生活雑貨、食品など、衣食住に関わる商品を幅広く取り扱い、暮らし全体を提案できることだ。現在ベトナムでは、衣料品や化粧品など、自分の身なりを整えたり、人からどう見られるかを意識したりする消費が活発だ。今後、所得や生活水準の向上に伴い、住まいや日々の暮らしをより快適にしたいという需要が高まるとみている。そうした変化の中で、衣食住を横断して商品を提案できる強みを生かしていきたい。
また、自然由来の素材の活用や、包装の簡略化など、MUJIのものづくりの考え方も特徴だ。進出当初は、こうした商品の背景や価格の理由が十分に伝わっていなかった。そのため、売り場のPOPやデジタルマーケティングを通じて、商品の素材や機能、使い方などを具体的に説明してきた。日本のブランドであることだけに依存せず、商品そのものの価値を理解してもらうことが重要だと考えている。
ベトナムの消費者は価格に敏感だが、安い商品だけが支持されるわけではない。例えば、スキンケア商品では、価格を引き下げても期待したほど販売が伸びなかったことがあった。一方で、比較的高価格な寝具など、品質や機能が評価され、一定の需要がみられる商品もある。こうした例からも、価格だけが購買を左右するわけではないことがうかがえる。商品の品質や機能、素材など、その価格である理由を丁寧に伝える必要がある。

抱き枕にみる現地発の商品開発

質問:
ベトナム市場に合わせた商品開発と、好調なカテゴリーについては。
答え:
ベトナムの気候、体格、所得水準、生活習慣などを踏まえて商品開発を進めている。代表例が、住宅調査を基に開発した長い抱き枕だ。学生の共同生活や一般家庭を調査したところ、長い枕が広く使われていることが分かり、商品化した。発売後、現地の口コミサイトで取り上げられ、1週間で約4,000個を販売し、短期間で完売する店舗もあった。現在は、ファブリックカテゴリーの主要商品の1つとなっている。

ベトナムの生活習慣に着目して開発した長い抱き枕(同社提供)
このほか、バイク利用者向けのヘルメットやレインコート、年間を通して需要があるTシャツなども展開している。衣料品では、比較的小柄な消費者が多いことも踏まえて、細身でコンパクトなシルエットを取り入れるなど、MUJIのものづくりの考え方を維持しつつ、現地の生活に合わせている。
フレグランスも伸びており、商品ラインアップを拡充している。衣食住を幅広く扱う一方、「フレグランスといえばMUJI」などと特定のカテゴリーからブランドを知ってもらうことも重視している。

バイク利用者向け商品(同社提供)

Tシャツ(同社提供)

ライブコマースを軸にECで顧客との接点を拡大

質問:
拡大するEC市場に、どのように対応しているか。
答え:
当社のECの売り上げは大きく伸びている。2022年1月からShopeeやLazadaなどの外部ECプラットフォームへの出店を開始、2024年10月に自社ECでの販売を開始し、消費者との接点を広げている。TikTok Shopを含め、ベトナムの消費市場ではECプラットフォームの存在感は高まっている。
特に力を入れているのがライブコマースだ。ホーチミン市の旗艦店では1日2回ライブ配信を実施し、商品の使い方や使用場面を紹介している。MUJIには、開発の背景や使い方を説明することで価値が伝わりやすくなる商品が多く、ライブ配信を通じて使用イメージを具体的に伝える販売手法と相性が良い。2025年からは人工知能(AI)も活用し、夜間の販売支援にも取り組んでいる。

ライブコマースの様子(同社提供)
ECでは、ヘルス&ビューティー商品の販売が特に好調だ。家具についても、ライブ配信で使用イメージや特徴を紹介できるため、商品によってはECの販売が実店舗を上回ることもある。オンラインでも幅広い商品を購入できるよう、旗艦店と同様の品ぞろえを進めている。
外部のECプラットフォームは手数料が高く、収益性の面では課題があるものの、現時点ではブランド認知を拡大するために必要な投資と考えている。今後は会員向けECアプリ「MUJI Passport」と自社ECの連携を強化し、外部ECでMUJIを知った顧客との継続的な関係を築いていきたい。

輸入規制対応と出店条件確認が事業拡大のカギ

質問:
ベトナムで事業を運営する上で、どのような課題があるか。
答え:
輸入規制が大きな課題だ。食品や食器、ヘルス&ビューティー、肌に触れる商品などは商品ごとに申請や規制対応が必要だ。手続きにコストがかかるだけでなく、日本で販売している商品をベトナムで展開できるようになるまでに、1年程度要する場合もある。消費者ニーズが変化する中、商品ラインアップを機動的に変えることが難しい。
また、出店条件を満たす商業施設が限られていることも課題だ。施設の規模、立地、集客力、採算性などを総合的に確認する必要がある。
長期的には、人件費の上昇も課題だ。売り上げの拡大に加えて、店舗運営の生産性を高める必要がある。そのため、店舗では作業時間や必要な人員を可視化し、業務量に応じた人員配置を進めている。
人材の育成では現場経験を重視し、店舗から本部へ登用するケースが多い。本部を店舗の運営と成果を支える部門と位置付けている。転職が一般的なベトナムでは、人材の確保と定着にも継続的に取り組む必要がある。

市場の成長性だけでなく実態を見極める

質問:
今後の展望と、ベトナム市場に参入する上で重要な点については。
答え:
今後は店舗数の拡大を急ぐのではなく、まず既存店の成長とブランド認知の向上に取り組む。商品を1つでも手に取ってもらい、MUJIを知ってもらうことから、顧客との関係を築いていきたい。
輸入規制への対応策の1つとして、食品の現地生産を進めている。現在は食品の約60%を現地で生産しており、2030年までに80%以上へ引き上げることを目指している。現地生産を拡大することで、物流の停滞に伴うリスクを抑える狙いもある。
今後は、2025年に開業した店舗、特に郊外店舗がどこまで成長するかを見極めながら、出店を判断する方針だ。
ベトナムは若い人口構成や中間所得層の拡大を背景に、長期的な成長が期待できる。一方、法制度や各種規制、出店物件の不足、地域間の所得・消費格差などの課題もある。市場の成長性だけで判断せず、地域ごとの商圏や採算性を慎重に見極めることが重要だ。
企業基本情報 
項目 内容
会社名  MUJI RETAIL (VIETNAM) LIMITED LIABILITY COMPANY
設立  2019年 
所在地  ホーチミン市(本社) 
事業内容  総合小売、卸売、インターネット通販、飲食サービスなど、ベトナムにおける無印良品事業の展開、店舗の出店・運営。衣料品、生活雑貨、家具、文房具、ヘルス&ビューティー用品、食品・飲料などを販売。一部店舗ではMUJI Caféを運営。
親会社  株式会社良品計画 
URL  https://www.muji.com.vn/vn外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課
籏 あかね(はた あかね)
2026年、ジェトロ入構。アジア大洋州課でASEANおよびオセアニア関係の調査を担当。

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