多様化するアジア大洋州の消費者像-価値観、ライフスタイル、市場機会を読み解く-現地化と差別化、家庭用空調(エアコン)市場
インド(2)

2026年10月20日

中間層が拡大し、人々の消費力が上昇しているインドでは、耐久消費財のさらなる普及が見込まれる。中でも、酷暑への対応を背景に生活環境を改善する実用品となってきている家庭用空調(ルームエアコン、以下エアコン)市場は、今後も成長が見込まれる。インドの消費特性や嗜好(しこう)を理解することで、日本企業のさらなる活躍が期待される重要分野の一つだ。3社のインド進出日系空調メーカーへのヒアリング内容と併せ、インドのエアコン市場の状況や消費特性などについて考察する(取材日:2026年7月14日、15日、31日)。

普及率は1割程度、販売台数は2桁成長

インドの信用格付け会社ICRAによると(注1)、インドのエアコン販売台数は2024年度(2024年4月~2025年3月)に過去最高となる1,250万~1,300万台に達した。2025年度はエアコン販売のピークシーズンである4~7月に発生した異常降雨の影響で前年度比10%程度の減少が見込まれるものの、その後回復し2027年度には1,430万~1,480万台への成長を予測している。その背景には、気温上昇、世帯当たりエアコン保有台数の増加、都市化の進展、所得水準の向上、消費者向けローンの利用拡大などがある。進出日系企業によれば、インドでのエアコン普及率は10%程度にとどまると言われる中、ジェトロ調査(注2)は、エアコンは、ぜいたく品から健康や生活を守るための耐久財(必需品)へと変わりつつあり、大都市の高所得層だけでなく、地方都市の中間層へ需要が広がっていると指摘している。

また同調査によると、今後はエントリーモデルの1.0~1.5トン級(一般家庭向け標準サイズ)のスプリットエアコン(室内機と室外機から成る)を中心に、普及が進む可能性が高いという。一方、インド市場におけるエアコンの平均単価は2025年時点で約557ドルと、同年の1人当たり国民総所得(GNI)が約2,600ドルにとどまる中、中間層にとっては依然として慎重な購買判断を要する水準にある。購入時には本体価格だけでなく、電気代、設置費用、分割払いの有無なども考慮され、「購入しやすい価格」と「使い続けられる電気代」の両立が重視される。

初期コスト重視も徐々にトータルコスト考慮へ

前稿「中間層拡大とデジタル化が導く新潮流」でも述べた「価格に敏感である」や「価格に見合った機能や品質であるという納得感が重要」というインドの消費者の特徴は、エアコン市場でも聞かれた。実際、同市場における進出各社は、購入の決め手となる項目として、第一に「価格の手頃さ」を挙げた。一方で、「購入の入り口は価格であることが多いが、最終的には品質評価が重要になると考えている」「基本的には価格が重視されているが、インドは電気代が高く、多少価格が高くても、省エネ性能が良い機器も選ばれるようになってきている」といった声が聞かれた。価格は重要であるものの、消費力の向上とそれに伴う品質重視、トータルコストに配慮した省エネ志向への意識が高まっている。

激しい競争、よく冷え壊れにくい「信頼」に価値

英国の調査会社ユーロモニター・インターナショナル(以下、ユーロモニター)によると、2025年のエアコンのブランド別小売り販売台数シェアは、地場ボルタスが18.9%、韓国のLGが16.7%、日系のダイキンが13.3%と続いた(図参照)。エアコン市場は活況だが、プレイヤーが多く存在し、競争は激しい。ある進出企業は、「市場は伸びているが、ビジネスとして利益を出すのは難しい。ルームエアコン市場は、工業会に登録されているブランドが30ほど、家電量販店に置かれているブランドは20ほどあり、競争環境は厳しい」と述べた。

図:インドのエアコンのブランド別小売販売台数シェア(2025年)
メーカー別の構成比を示した横棒グラフ。上位はボルタス18.9%、LG16.7%、ダイキン13.3%、ロイド10.3%。続いてブルースター8.1%、ゴドレジ7.2%、キャリア5.4%、ハイアール4.9%、パナソニック4.6%、サムスン3.9%、日立3.1%。その他のメーカーはワールプール1.1%、ミデア0.8%、エレクトロラックス0.5%、オニダ0.1%、その他1.3%。ボルタスが最も高く、LGとダイキンが続いている。

出所:ユーロモニター資料を基にジェトロ作成

こうした中、重要になるのは差別化だ。その前提として押さえておきたいのが、インドは地域によって気候が大きく異なるという点だ。南部・西部は年間を通じて冷房需要が中心となる一方、北部の一部地域では冬季に暖房需要も生じる。そのため、北部では冷暖房両用機への需要がある。つまり、全国一律の仕様ではなく、地域ごとに異なる製品ラインアップを用意する必要がある。機能面の特徴としては、インドの50度前後の高外気温でもしっかり冷える性能や、ほこりや腐食などへの耐久性強化のほか、外出先からスマートフォン(スマホ)でエアコンを操作できるスマート機能などが挙げられた。「インドでは、スマホからエアコンを操作できるなどのIoTへの関心が他国より高いように感じる」との意見が聞かれ、ユーロモニターの消費者調査(注3)でも「スマート家電を所有」(40%)と「スマートホーム機能を重要視」(28%)の回答率は対象アジア7カ国(注4)の中で最も高かった。背景にはインドでのスマホの普及があり、2025年には85.5%の世帯が少なくとも1台のスマホを保有しているという(注5)。前稿で触れたとおり、インターネットバンキング利用率も70%と高く、デジタルへの抵抗感が低い。生活インフラとなっているスマホを通じて、帰宅前にエアコンを稼働させるといった実用性も受け入れられやすいとみられる。一方で、現地は前述のとおり、50度前後の高温が続く上、粉じんの多い過酷な使用環境にある。進出各社からは、追加機能を過度に盛り込むよりも、基本的な性能や耐久性における「信頼」の重要性があらためて強調された。

また、こうした「信頼」の中身も一様ではない。進出企業によれば、市場の大半はインバーター式が占める一方、電圧が不安定な地域では「壊れにくい」として、非インバーター式(定速機)も支持を得ている。効率性だけでは測れないインド市場特有の状況がうかがえる。さらに、日本では一般的なフィルター自動清掃機能も、メイドが手入れを担う家庭が多いことから、インド向け製品にはほとんど搭載されていないという。


インドの家電量販店のエアコン売り場(ジェトロ撮影)

「すぐ付く、壊れてもすぐ直る」に対応

インドの顧客が重視するものの一つに、迅速な設置や修理などのアフターサービスもある。実際、進出各社からは、「設置や修理対応のスピード感は重視される。この点については、日本以上にうるさく、サービス品質の向上に各社が注力している」「ピーク時に設置要員を確保することが重要」といった意見があった。ジェトロ調査でもアフターサービスを「ブランド形成の中核機能として設計する必要がある」とし、「『壊れにくい』だけでなく『困ったときに早く直る』ブランドが評価される」と解説している。また、特に地方都市では「『近くで買える、すぐ付く、壊れても直る』といった実用的価値が競争力になる」と指摘している。理由としては、地方都市ではサービス拠点や修理業者の数自体が限られており、酷暑下で故障時に生活へ与える影響が大きいことから、身近で迅速に対応してもらえるという安心感が、ブランド選択の決め手になりやすいと思われる。

こうした背景もあり、多くの企業は売り切りのEC販売よりも、商品知識があり、アフターサービスにも柔軟に対応できる独自のディーラー網や卸などを活用した小売店での対面販売を重視しているようだ。現地日系企業によれば、エアコンは売り場で販売員に勧められたものを購入するケースが7~8割を占めるとされ、売り上げ向上には製品を置くだけでなく販売員の配置や教育も重要だ。そのため、国土が広いインドでは、地方都市など市場の裾野は広いものの、コスト制約の中で「選択と集中」が求められる。地方展開などの市場拡大においては、地域を絞った上で、有力なディーラー網の構築や販売員教育など、対面販売チャネルの強化に経営資源を集中させることが、市場開拓の実効性を高めるとみられる。

BISの影響大、製造輸出拠点としても注目

エアコン業界でもインド標準規格局(BIS)の強制認証への対応に苦慮する企業が多いようだ。「急な制度改正の通達などがあるため、事業計画を立てづらい」といった声が聞かれたほか、認証取得や運用面で外国企業や輸入品への負担が相対的に大きいため、進出企業は現地生産・現地調達を進める方向性にある。一方で、「現地生産を強化する方針だが、部材を含め全てを現地調達するのは難しい」といった声もあった。

そもそも現地生産を進めるのはBISへの対応のためだけではない。ジェトロの調査では、インドは空調機器の消費地であるだけでなく、空調機器・部品の製造拠点としての重要性にも言及している。政府は国内製造業振興のため、2020年に生産連動型優遇策(PLI)という製造業向け補助金制度を導入し、白物家電(エアコン、LED)も対象分野の1つとなっている。これは、部品も含めた現地調達・現地生産を拡大し、インドをグローバル供給網に組み込む政策的な後押しとなっている。価格競争力や部品を含めた在庫管理能力の向上のためにも、現地生産を進めていくことは大きな流れとなっている。また、インドで成立する「高外気温対応、低消費電力、購入しやすい価格、簡易設置、遠隔保守」のモデルは、国内のみならず、ほかのアジア地域や中東、アフリカにも展開し得るものであり、輸出拠点としても注目が高まっている。

価格優位性と品質訴求を両立する市場戦略

これまで見てきたように、インドのエアコン市場で重視されるポイントには、(1)手軽な初期コストと運用コスト削減への訴求、(2)しっかり冷えて壊れにくい品質の良さと信頼性、(3)迅速な設置、修理などのアフターサービス体制などがある。これらに配慮しながら、価格競争力、ピーク需要時の供給対応、補修部品の即応性の強化を見据えた現地製造とローカライズを進めていく必要がある。日本企業の技術や機能などの強みが発揮しやすい上位機種もあるが、市場のボリュームゾーンはエントリーモデルであり、主力価格帯でも消費者が体感できる品質差を生み出すことが重要だ。また、競争環境が激しいことから、自社の強みが生きる価格帯や機能帯に特化したり、OEM生産を検討したりするなど、複数の選択肢を検証する必要があるだろう。


注1:
ICRA, 「 A cooler growth story in a heated cost environment」2026年9月。 本文に戻る
注2:
ジェトロ調査レポート「アジア大洋州の消費トレンドおよび国別重点市場調査」。 本文に戻る
注3:
「Consumer Lifestyles」2025年6月。 本文に戻る
注4:
シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、ベトナム、フィリピン、インド。 本文に戻る
注5:
インド統計・計画実施省資料(MoSPI)「Results of Comprehensive Modular Survey: Telecom, 2025」。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課 課長代理
古屋 礼子(ふるや れいこ)
2009年、ジェトロ入構。在外企業支援課、ジェトロ・ニューデリー事務所実務研修(2012~2013年)、海外調査部アジア大洋州課、 ジェトロ・ニューデリー事務所(2015~2019年)を経て、2019年11月から現職。