日本産養殖トラフグの輸出拡大に向けた挑戦
プロモーションと陸上養殖による安定供給

2026年10月30日

日本産養殖トラフグは、高度な養殖技術や厳格な安全管理制度を背景に、国内外で高級食材として評価されている。近年は国内需要の減少がみられる一方で、海外人気が高まっている。

今回、日本産フグの食文化発信や輸出拡大に取り組む国際ふぐ協会(本部:東京都)をはじめ、会員企業である髙瀬水産(本社:大分県佐伯市)に、日本産養殖トラフグの輸出促進や海外販路開拓に向けた取り組みについて聞いた(取材日:2026年8月5日、12日)。

シンガポールで進む市場育成と日本産トラフグの安全性訴求

日本にはトラフグをはじめ、マフグ、ゴマフグ、ショウサイフグなどさまざまな食用フグが存在する。その中でもトラフグは高級フグの代表格として知られ、国内で養殖技術が確立されていることから、生産量、流通量ともに多く、日本産フグの輸出における中心的な品種となっている。

フグは毒を有する魚種であることから、多くの国で厳格な輸入規制や衛生要件が設けられており、輸出へのハードルは依然として高い。国際ふぐ協会の古川幸弘代表によると、今後の輸出拡大には規制対応に加え、各国における継続的な需要創出が重要となる。需要創出の一環として、国際ふぐ協会は2019年以降、海外のレストラン向けの試食会や料理講習会、展示会への出展、インフルエンサーを活用した情報発信などを継続的に実施してきた。

特に富裕層が多く、高級日本食市場が発達しているシンガポールでは、日本産フグの認知度向上と需要創出を目的として、レストラン関係者や輸入事業者、シェフなどを対象としたプロモーション活動を積極的に展開している。

国際ふぐ協会は、在シンガポール日本国大使館やシンガポール食品庁(SFA)、輸入事業者、レストラン関係者らと連携しながら、日本産フグの安全性に関する情報提供や制度面での課題整理を継続的に実施した。その結果、2022年にはシンガポール向け養殖トラフグの輸出対象が筋肉に加え、白子、皮、ヒレにも拡大され、扱える商品の幅が大きく広がった。

協会は制度改正後、この機会を捉えて現地のレストラン関係者やサプライヤー向けの説明会、解禁記念レセプション、試食会などを実施した。その一環として開催された2022年の試食会では、日本産養殖トラフグを使用した刺し身、唐揚げ、白子料理、ちり鍋、ヒレ酒などが提供され、日本産フグの安全性や品質に加え、日本独自のフグ食文化も紹介された。特に白子や刺し身に対する評価は高く、日本産フグへの関心の高さがうかがえたという。

日本産養殖トラフグの強みとして、特に海外市場では「安全性」が訴求ポイントとなっている。日本では有毒部位の除去や流通管理が厳格に行われており、その管理体制自体が付加価値として評価されている。関連する知識や技術を持つ人に対し、フグの処理を認めるふぐ処理者認定制度のほか、「身欠き」と呼ばれる加工技術の評価が高い。身欠きとは、ふぐ処理者として認められた者が有毒部位を除去し、安全に流通できる状態に加工することを指す。こうした加工技術と厳格な安全管理体制は、日本産トラフグの品質保証にもつながっており、海外市場における信頼性の向上に寄与している。


シンガポールでのプロモーション実施の様子(国際ふぐ協会提供)

陸上養殖と販路開拓で輸出拡大を目指す髙瀬水産

国内のトラフグの養殖生産量が減る中、注目されるのが陸上養殖(注1)だ。髙瀬水産は、トラフグやサクラマスの養殖事業をはじめ、活魚運搬や水産加工業を展開している。同社は陸上養殖によるトラフグ生産を通じて、高付加価値化と安定供給体制の構築を推進している。国内のトラフグ市場では価格競争や需要の縮小が課題となる中、同社は品質の向上やブランド化による差別化を図っている。こうした取り組みは、新たな市場開拓を見据えた戦略の一環として位置付けられている。

同社は、海底からくみ上げた地下海水を活用するかけ流し式の陸上養殖を採用している。地下海水は海面付近の海水より約3~5度低く、水温や酸素濃度を安定的に維持できるため、高水温によるへい死リスクの低減が可能だ。これにより、年間を通じた安定的な給餌と成長促進を実現し、約10グラムの稚魚を1年半で約2キログラムまで育成している。また、給餌データや成長状況を管理アプリで記録し、トレーサビリティーの確保と安定供給に取り組んでいる。トラフグは病気にかかりにくく、投薬の必要性も低いため、陸上養殖との親和性が高いという。一方で、施設整備や設備維持に係るコスト負担が大きいほか、自然海水を利用するため、養殖に適した海域条件を備えた立地選定が重要な課題となっている。


いけすの様子(髙瀬水産提供)

髙瀬水産が輸出に取り組むきっかけとなったのは、国内市場における価格低迷や需要の伸び悩みだ。同社は2025年ごろ、新たな成長機会を求めて海外市場へのアプローチを開始した。輸出市場の開拓と新たな国内需要の創出は、本質的に共通する部分が多く、輸出への取り組みを通じて得られる知見や経験は、国内需要の拡大にも間接的につながると考えられる。ターゲット市場はフグの食文化が浸透しているアジア圏を中心としており、既存の食習慣や市場ニーズを踏まえた販路開拓を進めている。

近年は「ジャパン・インターナショナル・シーフードショー」などの商談会や展示会に参加し、国内外のバイヤーとの接点づくりを進めている。また、ジェトロのサービスである輸出プロモーター(注2)の支援を受けながら、市場調査やターゲット国の選定、輸出に向けた課題整理にも取り組んでいる。特に、展示会を単なる出展の場ではなく、国内外バイヤーとの具体的な商談機会として活用することが重要とされており、市場ニーズの把握や商品提案方法について助言を受けながら販路開拓を進めている。

また、同社では展示会や商談会だけでなく、SNSを活用した情報発信にも取り組んでいる。国内・海外展示会への出展や現地営業によるアプローチのほか、SNSを通じて国内から海外の潜在顧客に直接アプローチする狙いだ。


シーフードショーでの様子(左:輸出プロモーターの山本雄彦専門家、右:髙瀬取締役)(ジェトロ撮影)

市場開拓・育成と養殖技術の向上による付加価値創出が輸出拡大のカギ

日本産養殖トラフグは、厳格な安全管理体制や身欠き技術、高度な養殖技術を背景に、海外市場における評価を高めている。また、試食会やプロモーション活動を通じて、日本産トラフグの認知度向上や販路開拓が進められている。

国際ふぐ協会によると、輸出拡大に当たっては、制度対応だけでなく、現地シェフへの調理技術普及やメニュー開発、消費者向けの情報発信などを通じて、日本産フグへの理解や需要を高めていくことも重要であるという。

一方、生産現場に目を向けると、髙瀬水産では、陸上養殖による安定供給体制やトレーサビリティーの確立といった付加価値の創出に加え、地域の名産であるカボスを飼料に活用したブランド化など、差別化に向けた取り組みが進められている。市場開拓・育成による需要創出と、養殖技術の向上による付加価値創出。この両輪が、日本産養殖トラフグのさらなる輸出拡大を支える鍵となりそうだ。


大分県の地域ブランド「かぼすフグ」(髙瀬水産提供)

注1:
陸上に設置した水槽や循環設備を用いて水産物を生産する養殖方式。水温や水質、生育状況を管理できることから、気候変動の影響を受けにくく、安定供給やトレーサビリティーの確保が可能とされる。 本文に戻る
注2:
ジェトロの農林水産食品分野の輸出支援事業において、輸出に取り組む生産者や食品事業者に対し、市場情報の提供、商談支援、商品開発・ブランディングに関する助言などを行う専門家。輸出先国の市場特性や規制への対応、展示会・商談会の活用方法などについて支援を実施している。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ農林水産食品部市場開拓課(執筆当時)
齋藤 愛友(さいとう あゆ)
2024年、ジェトロ入構。全国の農林水産物・食品事業者対象の輸出プロモーター事業を担当。
執筆者紹介
ジェトロ農林水産食品部商流構築課(執筆当時)
水口 あすか(みずぐち あすか)
2024年、ジェトロ入構。水産物事業者の輸出支援や海外販路開拓支援に従事。