多様化するアジア大洋州の消費者像-価値観、ライフスタイル、市場機会を読み解く-ベトナム消費市場、成熟化する消費者像とデジタル消費
ベトナム(1)
2026年10月8日
ベトナムは、約1億人の人口規模と所得水準の上昇を背景に、消費市場として存在感を高めている。従来、日系企業にとっては製造・輸出拠点という位置付けが強かったが、近年では国内市場での販売を目的とした進出や現地企業との協業が広がっている。
所得水準の向上に加えて、インフラの整備や急速なデジタル化の進展などにより、消費者の価値観や消費特性も変化している。
本調査では、ジェトロによる進出日系企業へのヒアリング(2026年7月実施)などを基に、こうした市場環境の変化を概観した上で、ベトナムの代表的な消費者像を整理する。本稿で取り上げる主な消費特性は、価格と品質のバランスを吟味する「価値納得型」、複数の接点を行き来しながら情報収集や購入を行う「非直線的な購買」、健康・美容を将来への投資と捉え、成分や安全性を確認する「健康投資・成分確認型」だ。
消費市場の全体像:高成長が支える内需
ベトナム統計局によると、2025年の実質GDP成長率は8.02%となり、1人当たりGDPは初めて5,000ドルを超えた。経済成長を背景に、消費者の将来見通しも比較的明るい。ユーロモニターレポート(注) によると、「将来、現在より経済的に豊かになる」と回答した人の割合は、ベトナムで60%に達し、世界平均49%を上回っている。消費者の購買力向上を背景に、2025年の小売売上高・消費者サービス収入は前年比9.2%増加した。また、ベトナム国家統計局「Statistical Yearbook of Viet Nam 2024」によると、2018~2024年には、100世帯当たりの冷蔵庫保有台数が79台から93台へ、エアコンが36台から77台へ増えるなど、生活の質を高める消費が拡大している。
消費市場の全体像:人口動態と家族観の変化
国連によると、ベトナムの2025年時点の年齢中央値は33.4歳で、依然として若い人口構成を維持している。一方、2024年の合計特殊出生率は1.91人となり、都市部では少子化や将来の高齢化が意識され始めている。こうした社会的背景から、消費者の価値観や行動にも変化が生じている。日系企業A社(小売業)は、「共働き世帯では、若い世代を中心に、仕事帰りにスーパーを利用する機会が増えている」と、消費特性の変化を指摘する。
また、少子化が進む一方、子どもに関係する支出の優先度は従来どおり高く、教育を将来への投資と捉える傾向が強い。日系企業B社(サービス業)は、「教育に対する考え方も、学歴を重視する価値観から、音楽、創造性、体験、感情知能(EQ)などを通じた総合的な成長を重視する方向へ広がっている」と捉えている。背景として、2020年前後から受験科目以外の教育の重要性が意識されるようになったことに加え、人工知能(AI)時代を見据え、政府も創造性や問題解決能力の育成を重視している。将来に目を向けると、高齢化を見据え、介護や高齢者向けサービスに対する考え方にも変化がみられる。国連によると、ベトナムは2035年前後に、65歳以上人口が総人口に占める割合が14%を超え、いわゆる「高齢社会」に入ると推計される。日系企業C社(小売業)は、女性の就業や核家族化により、家族だけで親の介護を担うことが難しくなる中、外部の介護専門サービスの利用も親孝行の一形態と捉える考え方が、都市部や富裕層を中心に芽生えつつあると指摘する。
こうした変化を背景に、消費者の購買行動には、次の3つの特性が見て取れる。以下の3類型は地域間の程度差を伴いつつ、ベトナムに広く共通してみられる傾向だ(図参照)。
出所:企業ヒアリング、ユーロモニター調査およびジェトロ調査を基にジェトロ作成
消費特性(1):価格だけではなく理由を吟味する「価値納得型」
ジェトロの「アジア大洋州の消費トレンドおよび国別重点市場調査」では、ベトナムの消費特性の1つとして、「所得はまだ発展途上だが、上位消費への憧れとデジタル接触が先行する市場」が挙げられている。消費者は、セールやクーポンを活用する一方、品質、機能、安全性、ブランド、保証などを確認し、価格に見合う価値があるかを判断する。価格に敏感でありながら、「安さだけ」で購入を決めない「価値納得型」の消費が増加している。
進出日系企業へのヒアリングでも、「高いものは良いもの」という感覚が一定程度ある一方、単純に高価格であれば売れるわけではないとの指摘があった。所得向上によって価格感応度が消えるのではなく、価格と価値の関係をより吟味するようになっているとみられる。日系企業にとっては、日本製や日本ブランドの訴求だけではなく、品質の根拠や現地生活での使用場面、アフターサービスなど、製品・サービスが持つ価値を具体的に示すことが重要となる。
消費特性(2):デジタルを活用しつつ発見と検証を往復する「非直線的な購買」
SNSや動画で商品を発見し、複数の情報源で価格や評価を検証する「デジタル発見・比較型」の消費行動も広がっている。ベトナムの消費者、特に若年層は、Facebook、TikTok、YouTube、ECモールなどを日常的に利用している。
ShopeeやTikTok Shopでは、インフルエンサーなどによるレビューやライブ配信を視聴し、その場で質問して購入する行動も広がっている。特に、消費者はECサイトやSNSなどを横断し、価格やレビュー、保証を比較する傾向がみられる。中でも、高額商品や使用感を確認したい商品については、オンラインで情報収集した後に店舗で実物を確認し、商品説明を聞いてから購入するケースが多い。その後、継続購入は再びオンラインで行うなど、「非直線的」な購買がみられる。いわゆる、Online Merges with Offline (OMO)型の消費特性が近年の特徴であると考えられる。そのため、ECと実店舗は競合するチャネルとして区別するのではなく、両者を使い分けながら消費者との接点を構築することが求められる。
消費特性(3):家族と自分に支出する「健康投資・成分確認型」
第3は、健康や美容を将来の生活の質への投資と捉え、商品情報を慎重に確認する「健康投資・成分確認型」だ。まず、経済成長に伴い、水質、大気汚染、食品衛生への関心が高まり、健康食品、スキンケア、浄水・整水機器、衛生機能付き家電などへの支出が拡大している。特に、中間層以上の女性や子どもを持つヤングファミリー層では、自分自身だけでなく、家族の安全や健康を意識した購買がみられる。消費者の間では、包装の裏面で成分や原材料を確認することが増え、オーガニックや自然由来の商品への関心も高まっているという。また、日系企業D社(製造業)は、水質改善など健康上の効果が明確であれば、比較的高価格な機器にも需要があると指摘する。日系企業E社(小売業)によると、高齢化の進展、健康診断の普及、医療制度の整備を背景に、セルフケアや健康食品、予防を意識した商品の需要拡大が見込まれている。さらに、所得水準の向上を背景に、美容も健康と同様に将来の生活の質を高めるための投資として捉えられるようになっており、ベトナムでは健康と美容が一体的な消費領域として市場を拡大させている。
ベトナムの消費特性を見る際の特有の留意点
ベトナムでは、経済成長や所得向上を背景に消費市場の拡大が期待される一方、消費特性を見る上で留意すべき点もある。
前述のとおり、ベトナムの消費特性は、価格だけで購買を決めるのではなく、商品・サービスの品質や信頼性を比較し、慎重に判断する傾向がある。その背景には、模倣品や非正規流通への警戒感があるとみられる。日系企業E社(製造業)は電池などの模倣品の広がりを、日系企業F社(小売業)は偽装書類による模倣品の「正規品」登録や他国メーカーによる日本ブランドの偽装販売を課題として挙げる。デジタル化によって販売経路が多様化する中、ベトナム当局も模倣品の取り締まりに苦慮しているという。こうした状況が、商品の正規性や品質保証に対する消費者の不安を高め、購入先や商品情報を慎重に確認する行動につながっていると考えられる。
また、ベトナムは単一の商圏として捉えることが難しく、地域によって消費特性が異なる点にも留意が必要だ。こうした違いは、南北に長い国土や気候、生活習慣の違い、歴史的背景など、複合的な要因によって形成されていると考えられる。
日系企業G社(不動産業)は、ホーチミンとハノイを「全く異なる市場」と指摘する。ホーチミンは消費意欲が旺盛で、お金を使う楽しみを重視する市場である一方、ハノイは貯蓄や資産形成を重視し、購買には慎重だが品質へのこだわりが強い市場と位置付ける。日系企業H社(小売業)も、南部の消費者は新商品への関心が高い一方、北部の消費者は新製品の受容に時間がかかるものの、一度定着したブランドへの忠誠度は高いと指摘する。
日系企業には、こうした「比較・吟味のプロセス」に応える具体的な価値提示に加え、地域特性に応じた価格設定やブランド戦略が求められると言えよう。
安全・衛生意識の高まりとコールドチェーン
なお、消費者の品質・安全性に対する要求の高まりは、ベトナムの物流インフラ整備にも影響を与えている。特に、生鮮食品の品質や安全性に対する関心の高まりを背景に、コールドチェーンの重要性が増している。また、進出日系企業へのヒアリングからは、ベトナムの消費者の間で、所得向上に伴い、伝統市場で扱われる生鮮品の農薬管理や衛生環境、原産地の不透明さに対する不安が広がっていることがうかがえた。日系企業I社(小売業)は、鮮度が良く見えても品質管理やトレーサビリティーに不安を感じる消費者が増えており、「どこで、どのように作られたか」が分かる商品への需要が高まっていると指摘する。
こうした消費者ニーズの多様化に対応し、全国の消費市場の発展を支えるため、ラストワンマイル輸送を含むコールドチェーンの整備が求められている。しかし、日系企業J社(物流業)によると、冷凍・冷蔵倉庫は現在、主に南部に集積しており、北部での需要はまだ限定的だ。一方、今後5~10年を見通すと、小売事業者の集約などを背景に、北部でも食品流通やコールドチェーンへの需要が高まる可能性があるという。南北高速道路をはじめとする地域間を結ぶ道路網やコールドチェーンの整備は、消費者の選択肢を広げ、購買行動の変化にもつながると考えられる。
次稿以降では、市場が成長し、消費行動も多様化するEC・デジタル分野と美容・健康分野に焦点を当て、ベトナム消費者の特性と事業機会を検証する。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部アジア大洋州課
安長 裕(やすなが ゆたか) - 2014年、ジェトロ入構。総務部、ものづくり産業部、ジェトロ千葉、ハノイ事務所を経て現職。





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