多様化するアジア大洋州の消費者像-価値観、ライフスタイル、市場機会を読み解く-ベトナムEC市場の拡大と多様化する消費者像
ベトナム(2)

2026年10月9日

ベトナムでは、スマートフォンやSNSの普及に加え、電子決済と物流サービスの発展を背景に、電子商取引(EC)が急速に浸透している。ECの普及は、市場規模の拡大にとどまらず、消費者による商品の発見、情報の比較、購入先の選択といった購買の過程にも変化をもたらしている。こうした変化を踏まえ、企業にはEC、SNS、実店舗を横断した販売・情報発信戦略が求められている。本稿では、ベトナムEC市場動向を概観した上で、ジェトロによる進出日系企業へのヒアリング結果(2026年7月実施)を交え、デジタル化の進展に伴い変化する消費行動について、「比較・検証型」「OMO型」「エンタメ消費型」の3つの消費者像から考察する。

市場概況:高成長が続くベトナムEC市場と変わりゆくプレーヤー

ベトナム電子商取引協会(VECOM)の「Vietnam E-Business Index Report 2026」によると、ベトナムのEC市場規模は2015年の約40億ドルから2025年には約385億ドルへ拡大し、2025年の成長率は前年比21%を記録した。一方、ジェトロ調査(注1) では、2025年から2030年までの年平均成長率は約15%と見込んでいる。小売市場全体に占めるECの比率は、2011年の1%未満から2025年には約19%へ上昇し、2030年には28%に達すると予測されている。

近年のベトナムでは、SNSや動画、ライブ配信を起点とした購買行動が拡大している。「アジア大洋州の消費トレンドおよび国別重点市場調査(2026年9月)」によると、ベトナム消費者の71%がSNS経由で商品を購入した経験がある。また、91%がSNS広告、58%がインフルエンサーの情報によって購入行動に影響を受けている。

また、ベトナムECマーケットプレイスの競争構造も年々変化している。ベトナム最大級のECデータ分析企業であるMetricによると、Shopeeは首位を維持しているものの、そのシェアは2022年の73.0%から2025年には56.0%へ低下した。2022年にはShopeeに次ぐ20.0%を占めていたLazadaも、2025年には2.0%まで大きく縮小した。一方、2022年に参入したTikTok Shopは、2024年に29.0%、2025年に41.3%とシェアを拡大した。Shopeeは、幅広い商品群や公式ストアを備え、消費者が価格やレビューを比較して購入するマーケットプレイスとして強みを持つ。これに対し、TikTok Shopは、ショート動画やライブ配信などを通じて商品の認知と関心を高め、購入につなげる仕組みを特徴としている。

市場概況:発展するEC市場を巡る課題

EC市場規模が拡大し、販促方法が多様化する一方、商品の信頼性やプラットフォームの運用を巡る課題も顕在化している。ベトナムでは以前から、伝統的な市場や個人商店などを通じた模倣品や並行輸入品の流通が問題視されてきた。

ECの普及によって販売事業者が増加し、消費者から販売者の実態や商品の流通経路が見えにくくなったことで、正規品かどうかを判断する難しさが増していると言えよう。

こうした背景から、企業ヒアリングで多く聞かれたのが、消費者による商品の信頼性に対する懸念だ。

例えば、日系企業A社(製造業)は、電池や化粧品などで模倣品が多くみられ、消費者側も警戒心を強めていると指摘する。また、非正規のサプリメントをインフルエンサーがSNSで宣伝・販売し、刑事事件に発展した事例もあるとして、商品情報や広告の信頼性に注意が必要との認識を示した。また、ベトナム地場企業B社(卸売業)は、海外のメーカーが自社製品を日本ブランドと偽って販売するケースが、ECプラットフォームでも散見されると現状を指摘する。

こうした市場環境の変化を受け、消費者の商品発見、情報収集、購入先の選択、購入方法も多様化している。以下では、(1)模倣品や非正規流通品への警戒を背景とする「比較・検証型」、(2)オンラインと実店舗を使い分ける「OMO型」、(3)SNSを起点に購買を楽しむ「エンタメ消費型」の3つの消費者像を整理する(図参照)。

図:ベトナムEC消費者の購買行動:3つの側面購買特性
3つの購買タイプを示した図。左から、「比較・検証型」は「価格・レビューを比較し、販売者や保証も確認して購入」。中央の「OMO型」は「オンラインと実店舗を相互に比較しながら購入」。右の「エンタメ消費型」は「SNS動画やライブ配信で商品を発見し、楽しみながら購入」。各タイプが横並びで配置されている。

出所:企業ヒアリング、ユーロモニター調査およびジェトロ調査を基にジェトロ作成

消費者像(1):商品情報と購入先を吟味する「比較・検証型」

SNSで商品を知っても、その場ですぐに購入するとは限らない。ベトナムの消費者は、複数の情報源や販売チャネルを横断し、価格やレビューだけでなく、商品の品質、販売者の信頼性、保証、返品・交換条件なども確認して購入を判断している。

日系企業C社(サービス業)は、ベトナムの消費者がTikTok、Facebook、Shopeeなど複数のプラットフォームを横断し、価格やレビューを比較すると説明する。また、日系企業D社(小売業)も、消費者が店頭で商品を見ながら、同じ商品のオンラインや他店での販売価格をスマートフォンで瞬時に調べると分析する。

また、価格への関心が高い中でも、ブランドや販売者への信頼が購入先を選ぶ重要な基準になっていることもうかがえる。こうした傾向は、英国の調査会社ユーロモニター・インターナショナルの「Consumer Values and Behavior (2025)」でも裏打ちされている。同調査では、ベトナムの消費者の63%が「完全に信頼できるブランドからのみ購入する」と回答した。ECでは、多くの事業者が同一または類似の商品を販売するため、模倣品や出所不明商品のリスクを消費者が認識しやすい環境にある。

日系企業E社(製造業)は、模倣品への警戒心が強まる中、消費者が正規品を正規サイトで購入しようとする意識を高めていると指摘する。日系企業F社(小売業)も、本物志向が強まり、信頼できる販売先で購入したいという意識が高まっているとの見方を示した。特に家電、化粧品、健康食品、ベビー用品など、安全性や品質が重視される商品では、購入先の信頼性を慎重に確認する傾向がみられる。

消費者像(2):オンラインと実店舗を往復する「OMO型」

ECと実店舗を二者択一で捉えず、商品の性質や購買段階に応じて使い分ける消費特性もみられる。例えば、ECやSNSで商品を知り、ECモールで価格やレビューを確認した後、実店舗でサイズや使用感を試した上で購入する。また、初回は店舗で実物を確認し、再購入時にはECやアプリを利用する場合もある。

前述のユーロモニターの調査によると、ベトナムの消費者の24%が今後、日常の活動がオンラインへ移ると予想する一方、44%は対面での活動が増えることを見込んでいる。こうした結果から、デジタル化が実店舗を一方的に代替するのではなく、オンラインの利便性と実店舗での体験が併存していくことが示唆される。

実際、こうした消費行動に対応する事例もみられる。日系企業G社(小売業)は、実店舗での販売に加え、自社ECサイト、Shopee、Lazada、TikTok Shopなどで注文された商品について、店舗での受け取りにも対応している。また、日系企業H社(製造業)も、顧客との最初の接点としてECを重視する一方、オンライン上だけで購買を完結させず、販売店における消費者との対面販売につなげることが重要との認識を示している。

オンラインと実店舗を往復する動きに加え、SNSを起点として商品と出会い、購入に至るチャネルの多様化も広がっている。

消費者像(3):SNS利用の延長で消費を楽しむ「エンタメ消費型」

ベトナムでは、購入する商品をあらかじめ決めて検索するだけでなく、日常的に利用するSNSや動画プラットフォームを通じて商品を知る消費行動が広がっている。消費者は、動画や投稿で関心を持った商品のレビューやコメントを確認し、ECモール上で比較・購入する。

EC運営支援を手がける日系企業I社(サービス業)は、SNSとECが一体化した購買行動が広がっていると説明する。消費者は動画を楽しみながら、商品の使い方、質感、サイズ感などを確認し、購入を判断する。娯楽と販売を組み合わせた「ショッパーテインメント」が商品発見や購買の入り口になっている。例えば、日系企業J社(小売業)はSNSでポイント付与やラッキードローの配信を行い、消費者がキャンペーンを楽しみながら商品や店舗に接する機会を設けている。

ライブ配信や短尺動画を通じた販売では、商品力だけでなく、動画での見せ方、ライブでの説明、レビューの量と質、コメント対応などが購買転換を左右する(注2)。日系企業K社(製造業)は、SNS、ライブコマース、ショート動画を特に若年層の顧客との最初の接点として活用している。同社は、ショート動画の9割以上を社内で制作し、スタッフによるライブ動画を配信しているという。

多様化する購買行動を捉えた一貫したマーケティング戦略の構築

ベトナムでは、模倣品や非正規流通品への警戒から、消費者が購入先や商品情報の真偽を慎重に見極めようとする動きが強まる。一方、SNSや動画配信を入り口に商品を発見し、複数のチャネルを比較した後、オンラインと実店舗を使い分けて購入するなど、購買行動が多様化している。また、SNS上のコンテンツや交流を楽しみながら商品への関心を高める動きも出てきている。

日系企業には、こうした市場変化の動向を踏まえたマーケティング戦略が求められる。単にECモールへ出品するだけでなく、自社商品の特性や消費者の購入プロセスを踏まえ、情報発信、販売、購入後フォローまでを一体的に設計することが重要となる。比較・検証を重視する消費者との信頼関係を構築しながら、SNS、EC、実店舗を組み合わせた顧客接点を整備することが、持続的な顧客獲得のカギとなりそうだ。


注1:
ジェトロ「アジア大洋州の消費トレンドおよび国別重点市場調査(2026年9月)」参照。 本文に戻る
注2:
注1に同じ。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課
安長 裕(やすなが ゆたか)
2014年、ジェトロ入構。総務部、ものづくり産業部、ジェトロ千葉、ハノイ事務所を経て現職。