多様化するアジア大洋州の消費者像-価値観、ライフスタイル、市場機会を読み解く-商業・教育・不動産で都市開発推進(東神開発)
ベトナム(4)

2026年10月9日

髙島屋グループの不動産事業を担う東神開発(本社:東京都)は、ベトナムで商業施設、不動産、学校不動産事業を展開している。2016年にホーチミン市で「サイゴンセンター」を開業し、髙島屋を核テナントとする商業施設運営を通じて都市部の消費需要を取り込んできた。近年は事業を北部へも拡大し、ハノイでの商業施設運営に加え、大型複合開発プロジェクト「ウエストレイクスクエアハノイ」の建設を進めている。

ベトナムでは一人当たりGDPの上昇と中間所得層の拡大を背景として、消費者の価値観が変化している。従来の価格重視型の消費から、品質・ブランド・体験価値・安全性を重視する消費へと移行しつつある。また、SNSやデリバリープラットフォームの普及により、消費者行動にも変化が現れている。同社はこうした市場変化を成長機会と捉え、髙島屋ブランドを活用しながら、商業施設・不動産・教育を組み合わせた「まちづくり」を展開している。

Toshin Development Vietnamの長澤和広General Manager(ゼネラルマネジャー)、中島正人Deputy General Manager(副ゼネラルマネジャー)、渡邊瑠惟Manager(マネジャー)に、ベトナム市場の特徴や事業戦略、今後の展望について話を聞いた(取材日:2026年7月28日)。

2027年秋にはハノイで髙島屋初出店を予定

質問:
ベトナムにおける進出経緯と事業概要について。
答え:
髙島屋グループは、海外においても髙島屋ブランドを活用したまちづくりによる事業拡大の機会を模索しており、早くからアジア市場に注目してきた。1993年にシンガポールで髙島屋S.C.を開業。ここでの成功をその後の海外展開の礎とし、成長市場としてベトナムへの投資を決断。2007年にはホーチミンへ進出した。当時のベトナムの小売市場は参入規制が多く、事業化は容易ではなかったが、制度調査や現地パートナーとの協議を重ね、進出から約9年後の2016年に「サイゴンセンター」を開業した。
サイゴンセンターは、商業施設、オフィス、ホテルで構成される大型複合施設だ。当社は不動産デベロッパーとして現地パートナーと施設開発を手掛けるとともに、髙島屋を核テナントとしたショッピングセンターを展開している。現在ではホーチミンを代表する商業施設の1つとして広く認知されている。また、近隣のAグレードオフィス「A&Bタワー」にも出資しており、日系企業を含む多くの企業が入居するオフィスビルとして運営している。
近年はベトナム北部への事業展開も推進している。首都ハノイでは2019年に大型複合施設であるインドチャイナプラザハノイ(Indochina Plaza Hanoi)を取得し、2023年には商業部分を「The LOOP by Takashimaya Group」として全面リニューアルした。さらに現在、西湖地区のスターレイクエリアにて大型複合開発プロジェクト「ウエストレイクスクエアハノイ(Westlake Square Hanoi)」を推進している。2027年秋には1期計画として髙島屋を核テナントとする商業施設「Hanoi Takashimaya S.C.」が開業する予定であり、2030年頃には2期計画としてオフィスタワーが建設され、全体が完成する予定だ。
このほか、ハノイでは学校不動産の賃貸事業も展開しており、現在2校の保有・賃貸を行っている。

Westlake Square Hanoi Phase 1完成予想図(同社提供)
質問:
貴社のベトナム事業の特徴は。
答え:
当社はショッピングセンター事業を中核に、不動産事業、学校不動産事業を展開している。当社の強みは大きく4つある。第一に、地域特性に応じたショッピングセンター運営だ。画一的な施設を展開するのではなく、地域の暮らしや消費者特性に応じた施設づくりを行っている。第二に、開発後の運営力だ。施設を建設して終わりではなく、運営を通じて街に根付かせ、長期的に施設価値を高めていくことを重視している。
第三は髙島屋ブランドだ。ベトナムではシンガポール髙島屋S.C.やサイゴンセンターの成功により髙島屋ブランドが浸透しており、顧客だけでなくテナントや取引先からも高い評価を得ている。第四はサステナビリティへの取り組みだ。ウエストレイクスクエアハノイでは国際環境認証であるLEED Platinum取得を目指している他、RE100(再生可能エネルギー電力100%を目指す国際イニシアチブ)の推進やごみの分別・リサイクルといった日常的な施設運営スキームの確立を通じた地域社会への貢献を目指している。

高い成長性と親日性がベトナム市場の魅力

質問:
ベトナム市場をどのように評価しているか。
答え:
ベトナム市場の魅力は大きく3つある。
第一は、高い経済成長と消費市場の拡大だ。ベトナムでは継続的な経済成長を背景に中間所得層が急増している。一人当たりGDPが5,000ドルを超え、消費者の価値観にも変化が生じている。かつては「安ければよい」という考え方が主流だったが、現在は品質やブランド、快適性に加え、商品の安全性や信頼性を重視する消費者が増えている。
第二は親日性だ。日本製品や日本企業に対する信頼は非常に高い。特に髙島屋ブランドは品質や安心感の象徴と認識されており、商業施設運営やリーシング活動においても大きな競争優位性となっている。
第三は政治的安定性だ。ベトナムは共産党による一党体制であるものの、経済成長や国民生活の向上を重視した政策運営が行われているため、大きな政治的混乱のない事業環境が維持されている。

アッパーミドル層が支える都市型消費市場

質問:
ベトナム都市部消費者の特徴は。
答え:
当社が2019年に取得したインドチャイナプラザハノイの商業施設を例に挙げると、来館者の約4割が18~28歳、約3割は30代で、日本の商業施設と比較しても圧倒的に若い世代が中心だ。
職業別ではオフィスワーカー、専門職、技術者の割合が高い。世帯月収中央値は約4,000万ドン(約24万円)であり、ベトナム全体の平均所得と比較してもかなり高い。いわゆるアッパーミドル層が主要顧客だ。4P’sやStarbucksなどの中価格帯のテナントも売り上げが好調であり、提供価値のクオリティに応じて適切な金額を支払う様子がうかがえる。
また、女性の比率が高いことも特徴的だ。ファッション、美容、コスメへの関心が高く、自己投資にも積極的な傾向がみられる。
施設利用者の多くは3キロ圏内に居住または勤務していることから、商圏自体は比較的狭く、バイクがいまだに主要な移動手段だ。一方で、施設の目の前にメトロ3号線の駅があるが、今後都市鉄道網のさらなる整備や利用が進むことによる行動変化も注視している。

Indochina Plaza Hanoi外観(同社提供)

SNSが消費体験を変える

質問:
デジタル化は商業施設にどのような影響を与えているか。
答え:
ベトナムではSNSの影響力が極めて大きい。TikTok、Facebook、Instagramは日常生活に深く浸透しており、多くの消費者がSNS経由で商品やブランド、トレンドを認知している。 ライブコマースも急速に拡大しており、SNS上で商品を見つけ、そのまま購入する消費行動も一般化している。商業施設としても、リアルな場だけでなくデジタル上でどのように認知されるか、その認知をオフラインであるリアルの場にいかにつなげるかが重要になっている。
特に若年層や女性客は「SNS投稿」を前提に施設を訪れるケースが多い傾向があり、施設に訪れる目的の1つに、写真撮影や動画投稿が含まれている。そのため、施設デザインや装飾、イベント企画でも「写真映え」を強く意識している。
ウエストレイクスクエアでも季節装飾やアート作品、撮影スポットの設置を積極的に整備する予定だ。一見アナログな施策に見えるが、SNS拡散を促進するデジタルマーケティング戦略の一環だ。 また、GrabやBeを中心とする配車サービスを使ったデリバリーも完全に生活インフラ化している。飲食店舗では売り上げの一定程度をデリバリーが占める事例も珍しくない。そのため、施設計画においてもバイク動線や受け渡しスペースを考慮した検討を進めている。

Indochina Plaza Hanoiで開催されたクリスマス
イベントの様子(同社提供)

同ピックルボールイベント(同社提供)

教育熱の高さに着目し学校不動産事業へ参入

質問:
学校不動産事業に参入した背景と事業内容について。
答え:
実際にベトナム市場に入り調査を進める中で、ベトナム人の教育熱の高さに着目したことが参入のきっかけだ。特に英語教育や国際教育への関心の高まりを背景に、インターナショナルスクールやバイリンガルスクールの需要が拡大している。今後も世帯年収3万ドル以上の中間・富裕層の拡大が見込まれる中、高い教育水準を提供する私立教育市場の成長余地は大きいと捉えている。
こうした市場環境を踏まえ、当社はハノイでバイリンガルスクールなどに向けた学校不動産の賃貸事業を展開している。ウエストレイクスクエアハノイと同じスターレイクエリア内で開発した学校は、幼稚園から高校まで一貫教育を行うバイリンガルスクールで、約3,000人を受け入れる規模を有し、国際バカロレア(IB)プログラムにも対応している。施設内には共用図書館や食堂に加え、約1,000人を収容できる大規模講堂も整備している。

ベトナム市場の成長とともに持続的なまちづくりを目指す

質問:
ベトナム市場における現在の課題と今後の展望は。
答え:
課題は大きく2つある。1つは、許認可の取得や行政手続きなどの不透明さだ。制度上の公式な説明と実際に所管する省庁の運用が異なるケースが多々あり、事業者として苦慮する場面が多い。また、昨年の行政機関の再編により相談窓口自体が分かりにくくなることもあった。もう1つは、昨今の建設コストを中心とした物価上昇だ。資材価格や人件費の上昇は想定以上のスピードで進んでおり、開発初期の見積もりからコストが膨らむケースが増えている。経済成長に伴う労働需要の拡大も相まって、人材獲得競争も一段と激しくなっている。
一方で、ベトナム市場の成長性に対する期待は変わっていない。ハノイの消費市場はまだ発展途上であり、ラグジュアリーブランドも含めた本格的な消費市場が形成されるまでには5~10年程度かかるとみている。しかし、それは裏を返せば大きな成長余地が残されているということだ。また、先に挙げたとおり、ハノイでは都市鉄道網の整備が進められており、鉄道網が拡大すれば人々の移動手段やライフスタイル、消費行動も大きく変化する可能性がある。このような変化を察知し、商業施設内のテナント構成やサービス提供をブラッシュアップし続けることが、開発から運営までを一体で手掛けるわれわれの強みの発揮につながると捉えている。
2027年秋に開業予定のウエストレイクスクエアハノイを中心に、同エリア内での学校不動産事業をはじめ、さらに隣接区画も含めた面的開発の検討も進めている。これまで、東神開発が日本国内の二子玉川や流山で培ってきたエリア開発=まちづくりのノウハウを生かし、ハノイにおけるまちづくりを進めていきたい。そして同時に、日本の価値観を一方的に持ち込むのではなく、髙島屋グループが大切にしている品質やサービス基準などをベトナムの現地ニーズに適応させていくことも重要だ。今後もベトナムの成長と軌を一にして、商業、不動産、教育施設などを通じた持続的なまちづくりに取り組んでいきたい。
企業基本情報
項目 内容
会社名 Toshin Development Vietnam Limited
設立 2022年
所在地 ホーチミン市(本社)
事業内容 商業施設、オフィス、住宅、教育施設などの不動産開発・運営。髙島屋グループのベトナム事業拡大を担い、「サイゴンセンター」「インドチャイナプラザハノイ」「Westlake Square Hanoi」などの商業を核とした複合ビル開発や、教育施設の賃貸事業、住宅分譲事業などを展開。
親会社 東神開発株式会社(髙島屋グループ)
主要プロジェクト
  • Saigon Center (ホーチミン市)
  • A&B Tower(ホーチミン市)
  • Indochina Plaza Hanoi(ハノイ市)
    商業部分:The Loop by Takashimaya Group
  • Westlake Square Hanoi(ハノイ市、2027年秋開業予定)
  • The Dewey Schools Toy Ho Tay校、Ocean Park校(ハノイ市)
  • Royal Island プロジェクト(ハイフォン市)
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執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課長
藤江 秀樹(ふじえ ひでき)
2003年、ジェトロ入構。ジェトロ・ジャカルタ事務所(10~15年)、海外調査部アジア大洋州課(15~18年)、シンガポール事務所(18~22年)などを経て、2024年9月から現職。編著に「インドネシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2014年)、「分業するアジア」(ジェトロ、2016年)がある。