多様化するアジア大洋州の消費者像-価値観、ライフスタイル、市場機会を読み解く-手頃さと味が支える菓子、広がる健康志向
インドネシア(3)
2026年10月15日
インドネシアでは、日常の支出に慎重さがみられる一方、菓子・スナックなどの間食は生活に根付き、健康的な食品への関心も高い。総論で見た、価格には慎重でありながら、楽しさや健康など、納得できる価値に応じて商品を選ぶ「めりはり」のついた消費は、食品ではどのように表れるのか。
前稿が「便利さ」を軸に調理済み食品を見たのに対し、本稿では、手頃な「楽しさ」としての菓子・スナックと、関心が高まる健康志向の商品を取り上げる。2026年7月の日系企業へのヒアリング(注1)からは、菓子では手頃な価格と食べ慣れた味が日常的な購入を支え、新しい味が商品を試すきっかけとなる一方、健康志向の商品では、手の届く価格と味に加え、健康価値と日常的に選ばれる理由の分かりやすさが、購入や継続利用を左右することが分かった。
慎重な支出の中の「めりはり」、間食と健康志向の位置付け
英国の調査会社ユーロモニター・インターナショナル(以下、ユーロモニター)の2025年調査では、職場で間食する人は51%に上る。また、食品を選ぶ際に健康的な原材料を探す人は71%、健康・栄養面の付加価値に追加料金を払うと答えた人も52%だった。一方、日用品の価格上昇を懸念する人は68%に上る。間食の習慣や健康への関心がみられる一方、価格に対する慎重な姿勢も同時にみられる(図1参照)。
注:各項目に該当すると答えた回答者の割合。
出所:ユーロモニター「Consumer Lifestyles in Indonesia」(2025年6月)からジェトロ作成
販売実績を見ても、一部に減少したカテゴリーはあるものの、間食や健康に関連する商品の小売り販売額はおおむね増加している。米国農務省海外農業局(USDA/FAS)によると、2019年から2024年にかけて、甘味ビスケットの小売り販売額は16.6億ドルから22.0億ドル、塩味スナックは7.9億ドルから10.5億ドル、アイスクリームは7.7億ドルから9.8億ドルへ増加した。健康志向の商品としても展開されるヨーグルト・発酵乳は、3.6億ドルから8.1億ドルへ2倍以上に拡大した(図2参照)。
(2019年、2024年)
注:「チョコレート・キャンディーなど」はガムを含む菓子(Confectionery)。米ドル建て名目値。
出所:USDA/FAS「Retail Foods Annual: Indonesia」表4からジェトロ作成
菓子:小さな楽しさを支える手頃な価格
菓子を扱う日系メーカーからは、娯楽や外出への支出を抑える中でも、手頃な菓子で「小さなぜいたく」を楽しむ需要があるとの見方が聞かれた。同社は、高価なケーキを買う頻度を抑える代わりに、手軽に楽しめる菓子を選ぶ消費者がいると見ている。大きな支出を伴わずに楽しめることが、支出に慎重な中でも菓子が選ばれる背景の一つとみられる。
こうした日常的な購入では、無理なく買える価格に収まることが重要になる。例えば、住宅地に点在するワルン(伝統的な個人商店)では、子どもも主要な顧客層の一つだ。同社によると、子どもの1日の小遣いは3,000~6,000ルピア(約27~54円、1ルピア=約0.009円)程度との見立てだ。複数の日系メーカーへのヒアリングでは、こうした売り場で1,000~2,000ルピア程度の小袋の菓子・スナックが売れ筋となっており、小遣いの範囲で買える価格が重視されている(注2)。
子どもの小遣いが大きく変わらないことは、企業の価格設定にも影響している。前述の菓子メーカーは、スーパーやミニマートなどの近代的小売り向けでは値上げする一方、ワルン向けでは値上げが難しく、内容量を減らして販売価格を維持しているという。原材料費が上昇しても、消費者が日々買える価格を保つことが重視されている。
なお、塩味スナックを扱う日系メーカーからは、近代的小売りでも、一度に購入して複数回に分けて食べる方が割安だとして、大容量のお得パックが選ばれる例が聞かれた。
菓子:定番の味を軸に「少し違う」を加える
手頃な価格に加え、菓子の選択を左右するのが味だ。前述の菓子メーカーからは、チョコレートやミルクなど食べ慣れた味が選ばれやすく、酸味のある商品は定着しにくいとの声が聞かれた。同社は、ワルンなどの伝統的小売りでは主力の味に品ぞろえを絞っており、定番商品を販売の軸に据えている。
こうした定番への支持を踏まえながら、企業は味やパッケージに「少し違う」要素を加え、他社商品との差別化を図っている。前述のスナックメーカーでは、従来のバーベキュー味に加えてのりや魚介風味の商品を展開し、日本語の表記で海外由来の印象を打ち出している。韓国風の味付けを取り入れた競合商品もみられるという。
新しい商品を広げる際には、売り場も使い分けている。同社は、近代的小売りで新商品を含む幅広い商品を展開し、売れ筋となった商品を小袋にして伝統的小売りへ広げている。定番商品を主力としつつ、新しい味への反応を確かめながら販売を広げる取り組みだ。
健康志向:広がる健康への関心
健康への関心も広がっている。前述のユーロモニター調査に加え、食品卸・小売りへのヒアリングでは、コロナ禍以降、サラダなど野菜を使った商品の売り場が広がったとの声が聞かれた。食品メーカーからも、都市部を中心に運動習慣のある人などの間で、健康関連商品の利用が広がっているとの指摘がある。
政府も、食事の提供を通じた栄養改善に取り組んでいる。2025年に始まった無償栄養給食(MBG)は、子どもなどに栄養のある食事を無償で提供し、成長や健康を支える事業だ。 ヒアリングでは、複数の日系食品メーカーが献立提案や栄養教育、商品供給に関わり、乳製品などで給食向け需要が増えた例が聞かれた。消費者自身による店頭購入とは別に、政策を通じて栄養を意識した食品の供給機会が生まれている。
健康志向:「減らす」より「加える」、そして味
健康への関心を実際の購入につなげるには、健康面で何が得られるかを分かりやすく伝えることが重要になる。前述の菓子メーカーは、低糖や減塩など「何を減らしたか」より、ビタミンC配合のように「何を加えたか」を示す方が伝わりやすいと見ている。健康面で得られる価値を端的に示す訴求が受け入れられやすいという。
また、同社からは、添加物を避けたいという意識があっても、無添加の商品は味が薄いと受け止められることがあるとの声も聞かれた。健康面の特徴だけでなく、味への満足も重視されている。
さらに、複数の日系食品メーカーからは、アンケートでは健康のためなら追加料金を払うと回答しても、実際の店頭では価格を優先する消費者も多いとの指摘があった。健康価値に対してどの程度の追加負担を受け入れるかが、市場の広がりを左右するとの見方もある。
健康志向:続けてもらうには「なぜ良いか」の納得
継続して買ってもらうには、なぜ健康に良いのかという納得も重要になる。日系食品メーカーからは、健康に良いとされる新しい飲料が流行しても、その理由を十分に理解しないまま購入し、短期間で離れる消費者がいるとの声が聞かれた。話題になったことをきっかけとする購入と、商品の特徴を理解した上での継続利用は、分けて考える必要がある。
日常のどのような場面で利用する商品なのかを伝えることも課題となる。健康志向の飲料を扱う日系メーカーの消費者調査では、商品を「体調の悪いときに飲むもの」と受け止める人がいた。同社は、こうした認識が日常的な利用につながりにくい一因と見て、現地の好みに合わせた新しい味やパッケージ、商品の楽しみ方の提案を増やしている。健康面の特徴を伝えるとともに、日々の飲み物として選んでもらう取り組みだ。
健康価値を伝えるため、専門家への説明や消費者向けの教育も続けられている。前述の飲料メーカーや調味料メーカーは、栄養士や医療関係者への科学的根拠の説明、栄養士団体や学会と連携したセミナー、学校や地域での栄養教育を行っている。飲料メーカーからは、現地の大学との共同臨床試験で得られた知見を今後の商品説明に活用する方針も聞かれた。こうした説明や教育を通じて、商品の健康・栄養面の特徴を理解してもらい、日常的な利用につなげようとしている。
表示規制の強化にも留意
規制面では、食品の糖分・塩分・脂肪分に関する表示制度の整備が進んでいる。2026年6月には、食品医薬品監督庁(BPOM)が加工食品の栄養表示に関する規則を公布した。同規則では、糖分などの含有量に基づき、A~Dの4段階を色分けして示す「ニュートリレベル」を段階的に導入し、初期対象の飲料については2028年6月17日までの移行期間を設けている(注3)。
企業が消費者に対して健康面で「何が得られるか」を伝えるのと並行して、制度上は「何がどれだけ含まれるか」を分かりやすく示す対応も求められる。こうした制度変更は、糖分などを減らす商品設計や表示の見直しにつながる可能性がある。
菓子と健康志向商品、それぞれの選ばれ方
菓子・スナックでは、手頃な価格で「小さなぜいたく」を得られることが、日常的な購入を支えている。企業は、子どもの小遣いなどに収まる価格と定番の味を軸に、味やパッケージに新しさを加え、商品を試してもらう機会をつくっている。
健康志向の商品では、健康への関心がそのまま購入や継続利用に結び付くとは限らない。手の届く価格に加え、健康価値の分かりやすさ、日常の利用場面への定着が必要になる。
これらの事例からは、価格に慎重な中でも、楽しさや健康という価値を、日々の予算や好みに照らして「めりはり」をつける消費者の姿がうかがえる。
- 注1:
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ジェトロは2026年7月13~17日、ジャカルタ首都圏の日系食品メーカー、食品卸、小売りなどにヒアリングを実施した。
- 注2:
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国連人口部「World Population Prospects 2024」(中位推計)に基づく2025年の推計では、2025年の15歳未満人口は全体の24.2%を占める。また、米国農務省海外農業局(USDA/FAS)によると、食品小売り売り上げの約73%を伝統的小売りが占め、店舗数は約400万に上る。若年人口の厚みや、身近な伝統的小売りが食品購入の主要な場となっている市場構造も、低価格・小容量商品が重視される背景の一つとみられる。
- 注3:
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政府規則2024年第28号(2024年7月26日公布)、保健大臣決定HK.01.07/Menkes/301/2026(2026年4月14日決定。大規模事業者が提供する調理済み飲料を対象)およびBPOM規則2026年第10号(2026年6月9日制定、2026年6月17日公布、包装済み加工食品を対象、2028年6月17日までに完全適用)。保健大臣決定については2026年5月7日付ビジネス短信「大手製造の飲料の栄養表示を義務化へ」を参照。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部アジア大洋州課
八木沼 洋文(やぎぬま ひろふみ) - 2014年、ジェトロ入構。海外事務所運営課、ジェトロ北九州、企画部企画課、ジェトロ・ジャカルタ事務所を経て、2025年11月から現職。





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