多様化するアジア大洋州の消費者像-価値観、ライフスタイル、市場機会を読み解く-「力になりたい」が支えるタイの保護猫カフェ
タイ(4)

2026年10月21日

2015年に日本人オーナーがタイで立ち上げた「モフモフカフェ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」は、首都バンコクにおける保護猫カフェの草分け的存在だ。この10年でタイ人の保護猫に対する関心が大きく高まり、今ではバンコク市内に同様の店舗が複数みられるまでになった。背景には、TikTokをはじめとするSNSの普及と、仏教的な徳を積む行為「タンブン」という価値観の結びつきがある。さらに、キャッシュレス決済の普及が、保護猫を支援したいという思いを、寄付などの具体的な行動に結び付けている。同カフェの寺岡英毅オーナーに、タイの消費者像とビジネス機会について話を聞いた(取材日:2026年7月22日)。

保護猫カフェ、バンコクにおける先駆けとしての歩み

質問:
事業の概要と、保護猫カフェを始めた経緯は。
答え:
もともと猫の保護活動や里親探しに携わっており、猫が好きだった。2015年、バンコク北部のMRT(地下鉄)ラップラオ駅近くのチャトチャック地区で、保護猫カフェを始めたのが原点だ。当初は、保護猫をコンセプトにしたカフェは珍しく、周囲のタイ人から「野良猫カフェ」と呼ばれることもあった。ただ、この10年ほどで、保護猫に対するタイ人の意識も変化した。今では「保護猫カフェ」であること自体が、来店の理由に挙げられるほどで、店内での猫との接し方(ルール)も浸透してきたと感じる。店内にいる猫(20匹ほど)のうち、約半分は街中で保護された野良猫で、残りはシェルター(保護施設)から引き取った猫だ。タイの猫は、洋猫と比べて人懐っこく、猫カフェに向いていると感じている。子供の頃には助けられなかった猫を、大人になった今、自らの力で助けられることが、何よりのやりがいだ。

寺岡英毅オーナー(ジェトロ撮影)

店内の様子(ジェトロ撮影)

消費者像:タンブンとSNS発信でつながる、ゆるやかな支援者たち

質問:
保護猫カフェというコンセプトは、タイ人にどう受け止められているか。
答え:
敬虔な仏教徒であるタイ人のタンブン(徳を積む行為)という価値観にも合致したのかもしれない。タイ人によれば、本来ならば自分が、捨てられた猫を保護したいが、ペット禁止のアパートに住んでいるなど、住宅環境を理由に飼育はできないという話を聞くことがある。そこで、野良猫を直接保護できなくても、何らかのかたちで力になりたいという思いから、保護猫カフェに来店する人がいる。実際、お客様に来店理由を尋ねると、「保護猫カフェだから来た」という声が多い。コロナ禍で店内での飲食提供が禁止された際には、フェイスブック上でタイ人から提案があり、オンラインで支払いを受け、フェイスブックライブ(Facebook Live)を通じて、リアルタイムで猫におやつを与える「リモートでの餌やり体験」を行ったところ、大きな反響を得た。
質問:
タイ人の保護猫への関心が、近年高まった背景は。
答え:
タイ人からの関心が高まった要因のひとつに、デジタル化があると感じている。特にTikTokの普及以降、SNS上で「保護猫」「猫カフェ」といったキーワードの露出が増えていった。有名人が保護猫活動を推進し、SNS上で世間の関心を集めた例もある。TikTokはコンテンツが自動的に表示されるため目に留まりやすく、TikTok経由で当店の存在を知り、来店するお客様も多い。店舗としてもTikTokで情報発信しているが、お客様自身が、自らのSNSで当店について発信してくれることも多い。タイ人には、野良猫を自分では直接助けられないものの、何か力になりたいという思いから、SNSで発信する層がいる。
質問:
そうした思いは、実際の支援行動にもつながっているか。
答え:
こうしたタイ人の動物愛護の精神を、実際の行動につなげる上で、デジタル化は1つの要因になっている。具体的には、キャッシュレス決済の普及だ。インターネット上で、当店のQRコードをスマートフォンでスキャンするだけで、遠方のタイ人でも、SNS経由ですぐに寄付ができる。過去に、店内の猫のうち一匹が、猫伝染性腹膜炎(FIP)を発症し、治療に費用がかさんだことがあった。フェイスブックで新薬購入のための寄付金を募ったところ、治療費に相当する資金があっという間に集まった。タイ人の寄付文化が、デジタル化で強化されたと感じている。SNSを通じて、動物医療関係者を含む、多くのタイ人が当店を応援してくれている。一例として、タイの名門チュラロンコン大学の医師が、関係当局向けに、当店の猫たちは、狂犬病の恐れがないことを説明する手紙を書いてくれたこともあった。
質問:
現在の立地に移転してから、客層に変化はあったか。
答え:
当店はもともと、タイ人をターゲットに始めた。バンコクに日本人駐在員やその家族は多いが、いずれ帰国してしまうためだ。ただ、結果として、現在の客層はタイ人が6割、外国人が4割となっている。特に、チャトチャック地区から現在のシープラヤー(バンラック)地区に移転して以降、外国人旅行者(非日系)の来店が増えている。また最近では、マレーシアの日本人学校の生徒たちが、修学旅行の一環で当店に来店したこともある。これは、移転の狙いどおりの結果だ。現在、周辺には外国人旅行者向けのホテルが多い。以前の立地は住宅街にあり、顧客拡大には限界を感じていたことも、移転の後押しとなった。 外国人旅行者の集客では、Googleマップ上の広告の効果が非常に高いと感じている。広告費は安くはないが、外国人旅行者は、ホテル近辺のカフェや飲食店を探す際に同アプリを使うことが多く、検索結果を通じて当店を直接見つけてもらいやすいのだろう。

課題:規制対応と、善意が生む副作用

質問:
規制面や採算面での課題は。
答え:
バンコクの区役所からは、飲食業のライセンス更新にあたり、飲食フロアと猫と遊ぶフロアの分離が必要と指導されている。当店も当該ルールにのっとってサービスを提供している。猫のフロアと食事のフロアを分離すると、飲食の注文は減ってしまうが、致し方ないと感じている。
質問:
保護猫カフェという業態から見える社会課題は。
答え:
タイ人は仏教的価値観もあり動物にやさしいが、それが故に、地域住民が野良猫にご飯を与え、野良猫が増えてしまう側面もある。また、外国人が本帰国の際にペットを置いていく例や、引っ越し先に連れていけずに手放すケースもある。受け皿となる保護猫団体は2~3団体にとどまり、実際には個人の活動が多い。もっとも、タイではお寺が捨てられた猫や犬を世話することもあり、ここでも仏教が動物を保護する存在として機能している。

消費特性:「ペットの家族化」で安心・安全・品質への需要が向上

質問:
ペットに対するタイ人の消費意識に変化はみられるか。
答え:
タイでは、いわゆる、「ペットの家族化」意識が拡大しており、学生層のタイ人であっても、良質な猫用フードを購入しているようだ。一般的なタイ人のペットオーナーは、ペット関連支出として、一匹当たり月1,000~2000バーツ(約4,900~9,800円、1バーツ=約4.9円)程度を支出しているとみられる。ただ、「ペットの家族化」意識が強い飼い主では、支出額はさらに増えると考えられ、市場は今後も拡大していくだろう。一方、プレミアム製品の普及には、動物病院(獣医師)からの推薦がカギになるとみている。安心・安全について専門家が推薦した製品を、大切なペットのためであれば購入する傾向がある。

今後の展望:駅近立地への多店舗展開と、日本製品への商機

質問:
今後の事業展開について。
答え:
将来的には多店舗展開できればという夢がある。現状では保護できる猫の数に限りがあるためだ。可能であれば、利便性の高い、都市鉄道や地下鉄の駅に近い立地への出店を希望している。 また、すでに着手している取り組みとして、売り上げ拡大のため、委託販売のかたちでオリジナルのトートバッグ、ポストカード、パズルなども販売しているほか、英語の絵本も取り扱っている。中でも、シンガポールのデザイナーとコラボレーションした猫ステッカーが最も売れ筋だ。

店内のグッズ販売の様子(ジェトロ撮影)
質問:
日本製品にはどのような商機があると考えられるか。
答え:
日本製のペットフードは、タイで人気が高いブランドが多い。おやつでは、液状(ピュレ・ペースト型)の日本ブランド製品が、タイ市場に浸透している。一方、動物病院で扱われ、獣医師からも推奨されているタイブランドの「VF+Core(VFコア)」シリーズも、おやつ型の犬猫用の栄養補助食品(サプリメント)として、市場シェアが大きい。サプリメント市場は、現在はハイエンド層が中心だが、価格が下がり、動物病院からの推奨が広がれば、さらに拡大していくだろう。
また、タイでは、近年のペットブームを背景に、最近飼われ始めた犬猫が、今後高齢化を迎える見込みだ。この点、オーラルケア製品にも販売の見込みがあると考えている。犬猫は、高齢になると口腔内のトラブルが増える。オーラルケア分野では、欧州の動物用医薬品メーカーのブランドが有名だが、日本製品をどのように打ち出していくかがカギになるとみられる。加えて、かわいらしい日本製のおもちゃ、特に猫用おもちゃの評価も高い。一方、日本メーカーのペット用品もタイに入ってきているものの、ハイエンドに分類される。

共感をつなぐSNS、高齢化で広がる商機

保護猫カフェへの来店や寄付には「何か力になりたい」という思いがあり、タイに根付くタンブンの価値観も、そうした動物への支援意識の背景の1つになっている、と寺岡オーナーは指摘する。また、TikTokなどのSNSの普及やQRコード決済の浸透により、こうした共感が来店や寄付といった具体的な行動につながりやすくなっている。ジェトロが同時期に取材したバンコクの日系ペットホテル事業者も、タイ人のペット飼育とSNSを通じた自己表現との結び付きを指摘しており、SNSはタイのペット関連消費を捉える上で欠かせない接点といえそうだ。また、サプリメントなどの販促では、獣医師など専門家との連携が重要との点でも、両者の見方が一致した。

一方、今後はペットの高齢化も進むとみられ、高齢ペット向け用品やヘルスケア関連製品など、日本企業にとって新たな市場機会も広がりそうだ。同事業者によれば、中間層以上の家庭では日常のペットの世話をメイドが担うことも多い点も、タイのペット市場の特徴という。このため、高齢ペット向け用品では、徘徊防止サークルや犬用車椅子など、特に飼い主自身が必要性を実感しやすい製品にも、日本製品の勝機がありそうだ。

執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課 課長代理
田口 裕介(たぐち ゆうすけ)
2007年、ジェトロ入構。アジア大洋州課、ジェトロ・バンコク事務所を経て現職。
執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所
若林 香奈(わかばやし かな)
2025年4月からジェトロ・バンコク事務所勤務。