多様化するアジア大洋州の消費者像-価値観、ライフスタイル、市場機会を読み解く-スポーツ参加拡大が生み出す新たな市場機会
マレーシア(4)
2026年10月26日
マレーシアにおいて、健康意識の高まりに伴うスポーツ参加人口の増加を背景に、スポーツ関連市場は成長を続けている。本稿では、マレーシアのスポーツ市場の概況および主要トレンドを整理し、市場の成長性を明らかにする。また、マレーシア味の素(スポーツサプリメント)、アシックスマレーシア(スポーツウェア)、FITOKIO(フィットネス)(注1)の3社へのヒアリング結果を基に、マレーシアのスポーツ市場における競争環境や販売戦略を分析するとともに、日本企業の市場参入における事業機会と課題を考察する。
拡大を続けるマレーシアのスポーツ関連市場
マレーシアのスポーツ関連市場は、健康志向の高まりに伴うスポーツ参加人口の増加を背景に、成長が期待される消費市場の一つとして注目されている。
Malaysian Sports Culture Index(MSCI)2023によると、13歳以上の国民の52%が月1回以上、スポーツや運動、レクリエーション活動に参加しており、2022年の48%から4ポイント上昇した(注2)。
こうしたスポーツ参加の拡大は、スポーツ産業全体の成長にも表れている。2024年のスポーツ産業の付加価値総額は前年比7.8%増の241億リンギ(約9,399億円、1リンギ=約39円)であった(注3)。2015年と比較するとその規模は1.6倍となっており、コロナ禍を除き右肩上がりで成長している(図参照)。内訳を見ると、スポーツサービス(卸売り・小売りを除く)が41.7%と最大の割合を占め、卸売り・小売り32.0%、製造24.2%、建設2.1%と続いた。イベントやフィットネスなどのサービス分野を中心に、スポーツ関連需要の裾野が広がっていることがうかがえる。
出所:マレーシア統計局
今回、ヒアリングした分野であるスポーツサプリメントおよびスポーツウェア市場に着目してみると、いずれの分野でも高い成長が見込まれている。英ユーロモニターの調査によると、2025年のスポーツサプリメント市場は前年比15%成長し、市場規模は5.6億リンギだった。大半を占めたのがプロテイン関連製品だ。こうした商材は運動習慣のある消費者の間で継続的に摂取されることから、プロテイン関連製品を中核に今後も年平均11%程度の高い成長が予測されている。また、スポーツウェア市場の2025年の成長率は8%で、市場規模は100億リンギだった。このうち約半分をフットウェアが占めた。スポーツ用途と日常着の双方に対応できる汎用(はんよう)性の高い製品への需要拡大や、スポーツウェアにおける技術革新も市場成長を後押しするとみられ、こちらも年率8%程度の安定した成長が続くと予測されている。
ランニングやピックルボールの人気が拡大
マレーシアでは、以前から国民的な人気を集めるバドミントンに加え、近年ではランニングやピックルボール(注4)など、幅広い層が参加しやすいスポーツが広がっている。ピックルボールは、バドミントンのダブルスコートとほぼ同じ広さでプレーでき、年齢や競技経験を問わず参加しやすいことから、人気が高まっている。近年、民間主導による専用施設の開設や大会開催が広がっている。
スポーツ参加が広がる背景には、健康意識の高まりに加え、政策による後押しや運動環境の整備などがあることが、今回のヒアリングで明らかになった。
マレーシア青年・スポーツ省(KBS)は、2030年までのスポーツ振興の方向性を示す「国家スポーツビジョン(VSN)2030」の下、マレーシアを「Negara Bersukan(スポーツ国家)」にすることを目標に、スポーツを日常に取り入れる文化の形成や、参加機会の拡大と質の高いスポーツインフラの整備を進めている。
また、教育省とKBSは、国民の健康維持と人格形成を目的に、2011年から「1Murid 1Sukan(1人の生徒に1つのスポーツ)」政策を通じて学校スポーツを強化している。全ての児童・生徒が少なくとも1つのスポーツ活動に参加することが求められており、学校段階からスポーツに親しむ環境づくりが進められている。
都市部では、運動環境の整備も進む。クアラルンプール市役所(DBKL)は2026年5月、市内10公園の開園時間を午前5時30分から午後10時までに延長した。うち2つの公園は、金・土曜日に深夜0時まで利用できる。高温となる日中を避け、早朝や夜間に運動できる環境が広がっており、ランニング大会の開催とともに、日常的に走る層の拡大を支えている。 マレーシアでは、健康意識の高まりと政策の推進によってスポーツ参加が広がり、シューズやウェア、運動時の栄養補給商品など、関連市場の需要を押し上げる要因となっているとみられる。
ランニングブームが追い風に、アミノバイタル®の販売拡大
スポーツ栄養補助食品「アミノバイタル®」販売事業について、マレーシア味の素代表の和田見氏および取締役の野崎氏に話を聞いた(取材日:2026年7月1日)。
マレーシア味の素では、2023年頃からアミノバイタル®をマレーシアで販売している。アミノバイタル®は、疲労回復効果を実感しやすい長距離走のランナーを主なターゲットとする。マレーシアではランニングブームが追い風となり、販売は当初予想を上回るペースで伸長しており、同社の急成長する事業の一つとなっている。
野崎氏によれば、マレーシアではランニング人口が増加し、ランニングブームが起きている。健康志向の高まりや政府による運動推進に加え、余暇活動の多様化もランニング人口増加の背景にあるのではないかと分析している。
マレーシアでは、マラソンブームを象徴する1万人規模のマラソン大会が複数開催されている。気温が高い日中を避け、深夜にスタートする大会が多いことが特徴だ。日本のマラソン大会のように補食が提供されないケースも多く、ランナーが自ら用意する必要がある。そのため、手軽に栄養を補給できるアミノバイタル®の販売が伸びているという。
アミノバイタル®の販売はECが主流だ。店頭にスポーツサプリメントの売り場自体がまだ少ないことに加え、ランナーのライフスタイルも背景にある。一般的にストイックであるとされるランナーは、仕事やトレーニングの時間、回復のために何を摂取するかなどを事前に計画する。トレーニングに集中する時間を確保するため、決まった商品をECでまとめ買いすることがランナーのライフスタイルに適していると同社はみている。
一方で、ECでの販売につなげるためには、実店舗などでの商品認知度向上も重要だ。同社では、ランナーコミュニティーに効果的にアプローチするため、ランニングシューズなどを扱うランナー向け専門店での販売や、マラソンイベントへのブース出展などに取り組んでいる。マレーシアのスポーツサプリメント市場は、プロテインがようやく浸透してきた発展途上の段階であり、市場拡大の余地が大きい。同社は引き続きアミノバイタル®の市場拡大に注力していく方針だ。

市場成熟度の見極めと顧客接点構築が成功要因に
マレーシアのスポーツ市場は成長市場である一方、分野によって競争環境や市場成熟度が大きく異なる。例えば、フィットネス市場は参入事業者が多く、競争が激しいレッドオーシャン市場となっている。一方、アミノバイタル®のようなスポーツサプリメント分野は、市場そのものを拡大していく段階にあり、新たなカテゴリーの商品やサービスの価値を消費者に理解してもらうためのマーケティングが重要となる。このように、スポーツ市場と一言でいっても分野によって状況が異なるため、自社が属するカテゴリーの市場成熟度や競争環境を丁寧に見極めることが重要だ。
また、スポーツサプリメントやランニングシューズなどのスポーツウェアの販売においては、消費者との接点構築が共通して重要な成功要因だ。ヒアリングでは、専門店や自社店舗での販売に加え、マラソン大会などイベントへの協賛・出展や独自イベントの開催を通じて、競技者や愛好家との接点を積極的に構築する取り組みが共通してみられた。こうした取り組みは、商品やサービスの認知向上に加え、実際の利用シーンにおける体験機会の提供を通じた理解促進にもつながっている。スポーツ関連分野では、一般的な広告施策以上に、競技や運動の現場における継続的な接点づくりが重要だ。こうした活動は、イベントなどのオフライン接点を起点としてECなどのオンラインへ誘導するOMO(Online Merges with Offline)型のマーケティングとも親和性が高い。さらに、スポーツ用品はリピート購入も見込めることから、継続購入を促しやすいECチャネルとの相性の良さも特徴として挙げられる。
マレーシアのスポーツ産業は、GDPに占める割合こそ1%台と限定的であるものの、健康志向の高まりやスポーツ参加人口の増加を背景に着実な成長を続けている。スポーツ栄養食品やスポーツウェアなどの関連市場も今後高い成長が見込まれており、市場成熟度や競争環境を見極めながら適切な販売戦略を構築できれば、日本企業にとって有望な市場の一つといえるだろう。
- 注1:
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詳細は「ASICSに聞く、健康志向で広がるスポーツ市場」「FITOKIOが挑むマレーシア健康改革」参照。
- 注2:
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出所:Institute for Youth Research Malaysia(IYRES)。
- 注3:
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出所:マレーシア統計局。
- 注4:
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テニス、バドミントン、卓球を組み合わせたラケットスポーツ。
- 執筆者紹介
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ジェトロ海外調査部アジア大洋州課リサーチ・マネージャー
菊池 芙美子(きくち ふみこ) - 2009年、ジェトロ入構。ジェトロ茨城、ジェトロ・ヤンゴン事務所(実務研修生)などを経て、2020年9月から現職。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部アジア大洋州課
籏 あかね(はた あかね) - 2026年、ジェトロ入構。アジア大洋州課でASEANおよびオセアニア関係の調査を担当。





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