中国の両用品目輸出管理強化
税関実務の留意点
2026年10月27日
中国では、両用品目に該当しないと考えられる貨物であっても、税関から技術資料や該非判定の根拠を求められ、通関に時間を要するケースが生じている。企業には、該非判定の根拠を短期間で説明できる資料と社内対応体制を、輸出前に整備しておくことが求められると共に、小口貨物においても同様の管理が必要であることに留意が必要だ。
近年、中国は軍民両用(デュアルユース)品目に対する輸出管理を強化している。2025年5月9日、中国国家輸出管理業務調整メカニズム弁公室は、商務部、公安部、国家安全部、海関総署(中国税関)、最高人民法院、最高人民検察院、国家郵政局などの政府部門を組織し、広東省深セン市で戦略的鉱物資源の違法輸出の取り締まりに関する会議を開催した。会議では、各政府部門に対して、戦略的鉱物資源分野を重視し、管理を強化すること、連携して取り締まりに当たること、特に虚偽の報告や隠蔽(いんぺい)、個人携帯による密輸、第三国・地域経由での輸出などの典型的な規制回避行為の取り締まりに注力することを強く求めた(2025年5月12日付ビジネス短信参照)。
輸出管理の強化の一環として、これまでの目視検査に加え、最新の人工知能(AI)技術を用いたスマート化も進行している。2026年7月22日の国務院新聞弁公室の記者会見で、海関総署(中国税関)の孫梅君署長は、2030年までに90%以上の税関にスマート検査設備を備え、「AI+ビッグデータ+スマート設備」を税関業務に広く活用するとした。また、膨大なデータとAIの大規模モデルを活用し、システムによる自動的なリスク検知や早期警戒の通知、タイムリーな対応を通じて、密輸などの違法行為を見逃さない体制を整えるとした。
こうした中国政府の動きによって、日系企業を含む各国のサプライチェーンにも影響が広がっている。2025年12月1日に中国EU商会が発表した中国の輸出管理制度の影響に関する緊急調査では、回答企業の42%が、商務部の両用品目輸出許可書を取得した貨物についても税関においてさらなる遅延が生じたと回答した。また、回答企業の26%は、1週間以上の遅延が生じたと回答している。ジェトロにも、両用品目の規制対象品ではないにもかかわらず、追加の資料要求や検査の対象となり、輸出が遅れているとの相談が複数寄せられている。
そのような中で、商務部および海関総署は2026年10月19日、商務部 税関総署公告2026年第52号を公布した。両用品目輸出管理における税関の疑義確認業務の権限を明確にし、検査強化を図った海関総署公告2025年第123号を更新するもので(第123号は同日廃止)、税関は貨物の発送人から提供された全ての資料を受領した日から15営業日以内に疑義の判別を完了する、商務部も鑑別に必要な完全な資料を受領してから15営業日以内に鑑別結論を出すなど、具体的な判断スケジュールが明記された。一方で、輸出貨物の荷送人による追加資料の提出、または疑義のある貨物の検査・試験等の時間が15営業日以内の期限に含まれないこと、重大・難解等の特別な案件については期限に制限が無いことも明記された。(2025年6月18日付、2026年10月23日付ビジネス短信参照、商務部 税関総署公告2026年第52号
)。
本稿では、上海税関が公表する行政処罰事例と、2026年7月21日に実施した当地弁護士事務所へのヒアリングを基に、輸出管理の強化によって税関実務に何が生じているのか、また、日系企業に求められる対応は何かを整理する。なお、ヒアリング後の2026年10月19日に52号公告が施行されたため、疑義提起および鑑別の手続きについては、同公告の内容を反映して補足・更新した。
両用品目輸出管理強化後の税関検査の変化
税関検査の頻度や検査の所要時間に関する公式統計はないが、両用品目の輸出管理の強化に伴い、貨物が税関検査の対象となる頻度が増加し、通関対応に要する時間も増加しているとの声が日系企業から聞かれている。同弁護士事務所への相談内容によると、実務上、以下の4点が主な変化として挙げられる。
(1)申告内容の裏付け資料の提出を求められる場面が増加
税関はインボイスなどの申告資料を基に審査を行うが、疑わしい貨物があると判断した場合には、状況説明書、規格書、成分検査表といった追加資料を要求し、開梱検査を行う。一連の輸出管理強化後は、こうした追加確認の対象となる貨物の範囲が広がり、従来は申告資料のみで通関していた貨物についても、裏付け資料の提出を求められるケースが出ている。
(2)「両用品目輸出管理税関質疑通知書」による確認
特に、税関が合理的な理由に基づき、当該貨物が輸出管理の対象となる可能性があると判断した場合には、輸出者に対して「両用品目輸出管理税関質疑通知書」(以下、質疑通知書)が交付される。
質疑通知書を受領した輸出者は、7営業日以内に「通関申告書」「輸出貨物契約書」「貨物の性能指標」「状況説明書」「第三者機関の検査・試験報告書」その他の技術資料、ならびに税関が求める資料を提出しなければならない。資料には第三者機関の検査・試験報告書といった客観的な裏付けも必要となるため、社内資料のみでの即時対応は難しく、事前の資料整備が実務上の重要なポイントとなる。
(3)成分検査などにより通関に時間を要するケース
開梱検査自体については比較的短期間(1週間~数週間)で済むケースも多い。他方、税関による独自の成分・性能検査は、税関管轄の専門機関で実施される場合があり、内容によっては遠隔地の検査場を利用するケースもあるため、1カ月以上を要するとの声も寄せられている。
(4)規制対象外の貨物でも該非判定の根拠提示を求められる
税関の検査は、申告資料と貨物の内容が一致しているか、規制対象品が含まれていないかといった観点で行われる。このため、最終的に規制対象品目に該当しない貨物や、商務部で両用品目輸出許可書を取得済みの貨物であっても、その根拠を輸出者側が示せなければ確認に時間を要する。「規制対象品に該当しないこと」を第三者機関が発行した検査報告書などを用いて客観的に説明できるかどうかが、通関に要する時間を左右する。
税関による一連の検査によって法令違反が認められた場合、税関は「輸出管理法」第34条や「税関行政処分案件処理手続規定」第58条などの規定に基づき、輸出事業者に対して処罰を科す場合がある。
なお、一連の提出資料については、税関対応を急ぐあまり、企業の通関担当者が独断で、自社や業界の競争力に影響を与え得る機微な技術情報やサプライチェーンの詳細情報などを必要以上に提出しないよう、社内の管理体制やプロセスを整備しておくことにも留意したい。
輸出管理違反の種類と行政処罰の手続き
輸出管理違反の種類と行政処罰について、上海段和段律師事務所のエクイティパートナー弁護士である張磊氏にインタビューを行った(取材日:2026年7月21日)。
- 質問:
- どのような行為が違反となるか。
- 答え:
- 輸出管理規制に違反した場合、事案の内容や故意の有無に応じて、(1)税関監督規定違反行為、(2)虚偽申告行為、(3)密輸行為に認定される。
- 具体的には、両用品目および技術の輸出許可証の申請・提出が必要であるにもかかわらずこれを行わなかった場合、「輸出管理法」第34条、「両用品目輸出管理条例」第39条、および「税関行政処罰実施条例(2022年改正)」第14条の規定に基づき、(1)税関監督規定違反行為に該当する。また、申告した品目コードや貨物情報が実際の貨物と異なる場合、「税関法(2021年改正)」第86条および「税関行政処罰実施条例(2022年改正)」第15条に基づき、(2)虚偽申告行為に該当する。
- 前述の2つは行政処罰の対象だ。一方、これらの行為が故意であると認められ、重量や貨物価値が一定以上に達する場合には、刑事罰の対象となる(3)密輸行為と認定される可能性がある。
- 「最高人民法院・最高人民検察院による密輸刑事事件の処理における法律適用の若干の問題に関する解釈」の規定によれば、当該事件に係る貨物の重量が20トン以上、または貨物価値が20万元(約480万円、1元=約24円)以上に達する場合、密輸行為として刑事責任を追及される可能性がある。
- なお、輸出者が中国企業、外資系企業または日系企業であるかにかかわらず、適用される法的責任に差異はない。
- 質問:
- 行政処罰の手続きはどのような流れになるか。
- 答え:
- 税関は違反事実の存在を確認した後、正式に事件を立件し、調査を行う。調査の結果、正式決定を下す前に、「行政処分事前告知書」または「行政処分不実施告知書」(以下、あわせて「告知書」という)を作成・交付する。告知書には、予定する処分内容、事実関係、処分理由および法的根拠が明記されるとともに、当事者に対し、法律に基づく陳述、弁明、聴聞請求の権利がある旨が告知される。
- 当事者が5営業日以内に書面による陳述、弁明、聴聞申請を提出した場合、税関は提示された事実、理由および証拠を再審査する。再審査の結果、告知書の内容を変更する必要があると判断した場合、税関は告知書を再作成・交付し、あらためて告知手続きを行う。
- 税関は調査過程において、行政機関または司法機関が処理すべき違法行為を発見した場合、事件移送書を作成し、当該事件を関連する行政機関または司法機関へ移送して処理を依頼する。また、税関による行政処罰案件の処理期間は、原則として立件日から6カ月以内であり、この期間内に処分決定が行われる(図参照)。
出所:上海段和段律師事務所作成
摘発事例にみる違反の傾向と処罰リスク
中国の各税関は、輸出管理違反を含むさまざまな行政処罰を原則公開しており、各税関ウェブサイトで確認できる(表参照)。世界最大級の貨物取扱量を誇る上海税関(上海浦東国際空港税関、上海外高橋港区税関、洋山税関などの税関を管轄)は、日系企業が活用する主要港の1つであるが、同税関でも2026年以降だけで相当数の輸出管理関連事案が公開されている。
公開事例からは、次の2つの傾向が読み取れる。
- 貨物の量や金額の多寡は問われていない。国際クーリエを用いた数キロ・1点の小口貨物の輸出でも、貨物にわずか(1%未満)ながら基準値以上の規制対象品目が含まれていたため、行政処罰を受けた事例が確認されている。
- 輸出者自身が規制対象ではないと認識していた可能性のある事例も少なくない。含有成分が微量であった事例のほか、機械の性能が基準値を上回っていたため、輸出管理品目に該当した事例も複数確認されている。
なお、前述の商務部・海関総署公告2026年第52号においても、越境EC、旅客携帯、郵便、宅配便などのルートで両用品目を輸出する場合に、同公告を参照して実施する旨が明記されており、小口貨物であっても、通常の輸出と同様の輸出管理への対応が求められる点に留意が必要だ。
| 処罰企業の資本 | 荷主 | 対象貨物 | 内容 | 処罰 |
|---|---|---|---|---|
| 米国系 | 国際クーリエ | 磁石関連製品 | 2025年X月に米国へ貨物(磁石、計数十キロ)を輸出申告。輸出貨物にはジスプロシウム(含有量約0.1%)が含まれていたため、許可証の提出が必要であったが、未提出であった。 | 罰金約2万元 |
| ドイツ系 | 国際クーリエ | 磁石関連製品 | 2025年X月に台湾へ貨物(磁石、数百グラム)を輸出申告。輸出貨物にはジスプロシウム(含有量約0.7%)が含まれていたため、許可証の提出が必要であったが、未提出であった。 | 罰金約1万元 |
| 日系 | 国際クーリエ | ゲルマニウム関連製品 | 2025年X月に日本へ貨物(サンプル数百グラム)を輸出申告。輸出貨物にはゲルマニウム(含有量90%以上)が含まれていたため、輸出管理品目に該当した。許可証の提出が必要であったが、未提出であった。 | 罰金約1万元 |
| 中国系 | 物流会社 | 黒鉛関連製品 | 2025年X月に一般貿易で黒鉛金型千数百キロをベトナムへ輸出申告した。申告上の黒鉛純度は99.9%未満であったが、実際には純度99.9%以上かつ高強度・高密度の人造黒鉛製品であり、輸出管理品目に該当した。許可証の提出が必要であったが、提出できなかった。 | 罰金約4万元 |
| 中国系 | 貿易会社 | タングステン関連製品 | 2025年X月~Y月にかけて、計数十回にわたり金属製ペンダント計百数十ドル分を輸出申告した。調査の結果、実際にはタングステンが含まれており、輸出管理品目に該当した。許可証の提出が必要であったが、提出できなかった。 | 不明 |
| 中国系 | 貿易会社 | ポンプ関連製品 | 2024年X月、2025年Y月に、一般貿易でマグネットポンプ数台をチリ向けに輸出申告した。実際には最大流量が約10m3/hと規定値を上回り、接触面もフッ素含有ポリマー製であったため、輸出管理品目に該当した。許可証の提出が必要であったが、提出できなかった。 | 罰金約3万元 |
出所:上海税関ウェブサイトを基にジェトロ作成
- 執筆者紹介
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ジェトロ・上海事務所
佐川 将平(さがわ しょうへい) - 2014年、ジェトロ入構。農林水産食品部、ジェトロ徳島、デジタル・マーケティング部等を経て、2024年10月から現職。








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