多様化するアジア大洋州の消費者像-価値観、ライフスタイル、市場機会を読み解く-品質志向が高まる小売市場で求められる戦略
インド(4)

2026年10月22日

インドの小売市場は、人口増加、所得水準の向上、都市化の進展を背景に、世界有数の成長市場として注目されている。近年は中間所得層の拡大に伴い、価格だけでなく品質やブランドを重視する消費者も増加しており、日本企業にとっても有望視されている。一方、地域ごとに消費者の嗜好(しこう)や購買行動が異なるため、現地ニーズに即した商品開発やマーケティング戦略の構築が求められる。本稿では、インド進出日系企業や地場流通コンサルティング会社へのヒアリングを通じて、インド小売市場の現状と日本企業に求められる市場戦略についてまとめる(取材日:2026年7月13~30日)。

小売市場の二重構造:近代型と伝統小売りの併存

IBEF(注1)によれば、国内の小売市場規模は約1兆939億ドル(2025年時点)と、世界2位の規模となっている。今後はさらなる中間所得層の増加により、2030年には約2兆3,611億ドルと現在の2倍以上の拡大が見込まれる。流通形態は2種類あり、個人経営による小規模な「トラディショナルトレード」と、ショッピングモールやハイパーマーケットなどの「モダントレード」で構成されている。インド国内には、1,400万以上の小売店舗が存在しており、その9割以上を、トラディショナルトレードの「キラナストア」が占める。

一方で、近年はデリーやムンバイなどの大都市圏を中心に、ショッピングモールやスーパーマーケットなどのモダントレードの拡大が進んでいる。さらに、中堅都市(ティア2都市)や地方都市(ティア3都市)でも、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の普及を背景に、ブランド商品の需要拡大や新規出店も加速している。


ムンバイのキラナストア(ジェトロ撮影)

インドにおける日系小売企業の進出動向

図は、2019~2024年(2024年10月時点)のインドにおける日系小売企業の進出企業数・拠点数を示している。2020年から2021年は、新型コロナウイルス感染症の影響で、新規参入の停滞や一部企業の事業撤退により、企業数・拠点数ともに減少したが、2022年以降は増加傾向にある。

図:小売業界におけるインド進出日系企業数
小売業界におけるインド進出日系企業数を示した図。企業数は2019年39、2020年36、2021年33、2022年30、2023年32、2024年33。拠点数が2019年86、2020年78、2021年74、2022年94、2023年97、2024年107。

注:2024年は2024年10月時点の数字。
出所:在インド日本国大使館・ジェトロ「インド進出日系企業リスト」を基にジェトロ作成

外国企業がインドで小売業を展開する際、単一ブランドの商品を販売する場合は、特定の条件下で独資(外資出資比率100%)での進出が認められる(ジェトロ「外資に関する規制」サイト参照)。一方で、総合小売業(複数ブランド小売業)の場合は、政府認可ルートで外資出資比率51%まで認められている。形態によって出資比率の上限が異なるものの、進出企業は、現地の流通ネットワークや商慣習、市場特性などを総合的に勘案し、地場パートナーとの提携の必要性を判断している。

ジェトロの調査レポート「アジア大洋州の消費トレンドおよび国別重点市場調査」では、アジアの消費トレンドの1つとして「ローカルブランドの主役化」が挙げられている。インドは国土が広く、地域ごとに消費者の嗜好や購買行動が異なることから、現地の生活習慣や価格感覚を踏まえた商品開発・マーケティングを展開する地場企業の存在感が大きい。加えて、「消費者の日常に寄り添い、いつでも近くで買える」販売網を構築していることも、大きな競争力となっている。また、トラディショナルトレードの従事者が多く、雇用創出や生計維持の観点から、政治的にも市場開放に慎重だ。一方、消費力が特に高い都市部だけでも巨大な市場が形成されており、日本企業にとって重要な市場として認識されている。

価格から品質へ、変わる消費者意識

インド進出日系小売企業へのヒアリングを通じて、インドの消費者像や特性、ビジネス上の課題について見ていく。

A社およびB社は、いずれもインドを中長期的な成長が期待できる有望市場と位置付け、進出に至った。事業展開上の課題として、商品ごとの認証取得や輸入可否確認に多大な時間とコストを要することを挙げている。輸入品は輸送費や関税の影響により販売価格が高騰し、価格競争力の確保も課題だという。また、従来は「価格や利便性を重視する」消費志向だったが、近年では耐久性やデザイン性などの「品質面を重視する」傾向に変化しつつあるという。このような消費行動の変化の背景には、所得水準の向上に伴う消費ニーズの多様化が考えられる。英国の調査会社ユーロモニター・インターナショナルによると、2025年のインドの平均世帯人数は4.7人とジェトロ調査の対象国中で最も多く(注2)、家族を重視する価値観も強い。こうした背景から、両社からは「一世帯当たりの人数が多いため、一度の生活用品の購入量は日本より多い」「子ども向け商品が売れ筋だ」といった声が聞かれた。

C社は、進出検討にあたり、市場調査や家庭訪問を実施し、インド人消費者の嗜好やライフスタイルを詳細に分析した。その結果、中間所得層の比率が最も高いムンバイを進出先に選定したという。同社は、流行に敏感な若年層を主要なターゲット層と位置付け、「繰り返し来店しても新たな発見や満足感が得られる店舗づくり」に努めている。

また、インド市場では地域や宗教による文化的・社会的特性があり、消費者ごとの嗜好に配慮した対応が必要だ。食品を扱う場合は、菜食主義者(ベジタリアン)や非菜食主義者(ノン・ベジタリアン)向けのマーク表示はもちろん、地域や販売エリアごとの需要予測と調整が必要になる。また、多様な気候帯が存在するため、「日本では全国で同じ季節商品を扱えるが、インドは地域の気候に合わせて投入商品を調整する必要がある」(D社)との声もあった。

日本製品への高い評価と市場参入時の課題

日本ブランドは高品質で耐久性に優れるとの評価がある一方、課題もある。地場流通コンサルティング会社のベダンシュ・インペックス(Vedansh Impex)は、日本企業のインド進出支援を行っている。同社ディレクターのナタラジャン・アイェル氏に、日本企業が直面する課題やマーケティング戦略の重要性について話を聞いた(取材日:2026年7月16日)。


ナタラジャン・アイェル氏(同社提供)

アイェル氏によれば、日本製品は「高品質で耐久性が高い」「優れた技術力を有する」「信頼性が高い」「細部にまで配慮が行き届く」といった点がインドで高く評価されている。そのため、高価格でも価格に見合う価値があれば、受け入れられる余地は十分にあるという。一方、インド事業展開にあたっての注意点もある。例えばアパレル分野では、日本のサイズ規格がインド人の体形や嗜好と異なる場合が多い。また、化粧品分野では成長性が高い一方で、事前の市場調査や消費者理解が不十分だったため、撤退を余儀なくされた企業もあったと述べる。

また、アイェル氏は、日本製品がインドで普及する上で、価格設定とマーケティングが最大の課題であると指摘した。日本製品は輸入関税や各種税負担により高価格帯になりやすく、その価格に見合う価値を消費者に理解してもらうための継続的なマーケティング投資が不可欠だという。一方、韓国製品は現地市場に合わせた積極的なプロモーションによって存在感を高めている。K-POPやKドラマなどの韓国コンテンツへの関心が若年層を中心に高まる中、韓国企業はこうしたコンテンツを積極的に活用して商品プロモーションを展開している。その影響もあり、韓国製品を購入するために渡韓する消費者もいる。


フードイベントの韓国食品ブランドのスタッフ(ジェトロ撮影)

今後は消費者の品質志向の高まりを背景に、高品質な日本製品への需要拡大が期待されるが、日本企業には「現地ニーズの変化に応じた柔軟な価格・販売戦略の構築が求められる」とアイェル氏は指摘する。この事例は、日本製品への品質評価が高まる中でも、それを実際の購買につなげるためには、現地の消費者に効果的に訴求するマーケティングが重要であることを示唆している。また、日本企業が直面する価格競争力の課題に対しては、日印包括的経済連携協定(CEPA)の活用も有効な手段になるという。CEPAの対象品目については、原産地規則などの要件を満たすことで関税優遇措置を活用でき、価格競争力の向上につながる可能性がある。

インド市場で成功するためには、消費者に対して商品価値や自社ブランドの強みを訴求するだけでなく、日本企業自らが市場や消費者特性の理解を深めることが重要だ。また、品質志向が高まる中でも、価格競争力の確保と地域ごとに異なる消費者ニーズへの対応は引き続き欠かせない。その上で、現地に適したマーケティング活動への投資を拡大し、継続的にブランド認知度を高めていくことが、市場開拓のカギになるという。

小売市場での消費者動向の変化

従来は価格や利便性が重視されていたが、近年は都市部や中間所得層を中心に、耐久性やデザイン性などの品質面を重視する傾向が強まっている。この変化により、高品質を強みとする日本製品の需要拡大が期待される。一方、日本企業は商品ごとに異なる規制への対応や、関税負担による価格上昇などの課題に直面している。また、地域によって消費者の嗜好や購買行動が異なるため、市場調査を通じた現地市場への理解が不可欠だ。日本企業には「品質」という強みを生かしつつ、日々変化する現地ニーズに即した商品開発や、ブランド価値を効果的に訴求するマーケティング戦略の構築が求められる。


注1:
India Brand Equity Foundation。インド商工省商務局によって設立された財団。 本文に戻る
注2:
インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム、バングラデシュ、インドの計8カ国。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・ムンバイ事務所
野本 直希(のもと なおき)
2016年大手生命保険会社入社、ジェトロ調査部アジア大洋州課を経て2026年4月から現職。

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