多様化するアジア大洋州の消費者像-価値観、ライフスタイル、市場機会を読み解く-ベトナムで日常化する健康・美容消費
ベトナム(3)

2026年10月9日

ベトナムでは、生活が豊かになる一方、肥満や糖尿病をはじめとする生活習慣病への不安も意識され始めている。また、都市化や工業化の進展に伴い、大気汚染や水質汚染などの環境問題が顕在化している。こうした中、健康は、病気や不調が生じてから対処するものから、自分や家族の状態を日常的に管理し、より良い状態を維持するためのセルフケアへと広がりつつある。あわせて、所得向上や生活水準の改善に伴い、美容や身だしなみへの関心も高まっている。浄水器利用の延長として整水器需要を見込む。

本稿では、ベトナムの健康・美容消費の動向を概観した上で、現地進出日系企業へのヒアリングを踏まえ、健康・美容への支出を将来への投資と捉える「健康投資型」、成分や安全性、商品の正規性を吟味する「成分・安全・信頼確認型」、自身の悩みに応じて商品やサービスを選び、日常的なケアを実践する「課題解決・セルフケア型」の3つの消費者像を紹介する。

市場概況:日常生活へ広がる健康・ウェルネス

ベトナムでは、健康・ウェルネスに対する関心が、特定の健康商品を購入する行為にとどまらず、食生活、運動、休息、衛生、住環境など、日々の暮らし全体へ広がりつつある。消費者は、自分や家族の健康を維持するため、商品の価格だけでなく、原材料、鮮度、安全性、機能なども重視するようになっている。英国の調査会社ユーロモニター・インターナショナルの「Consumer Values and Behavior (2025)」によると、回答者の59%が食品を選ぶ際に健康的な原材料を重視し、33%がストレス軽減や心の健康につながる活動に定期的に取り組んでいる。

食品の選択でも、価格に加えて、鮮度、衛生、原産地、品質管理を確認する傾向が強まっている。日系企業A社(小売業)は、伝統市場より価格が高い場合でも、鮮度、衛生、原産地表示、品質管理を重視する消費者を取り込んでいる。

また、都市化や工業化の進展により、大気汚染や水質汚染など、生活環境に起因する健康上の不安も顕在化している。こうした不安に対し、消費者は衛生機能を備えた製品などを取り入れ、日常生活の中でリスクを軽減しようとしている。日系企業B社(製造業)によると、特に水質への感度が高く、多くの家庭が浄水器を使用している。また、浄水器に加え、アルカリイオン整水器の需要も増加しているという。比較的高額な整水器であっても、消費者が抱える健康上の不安と商品の機能が結び付けば、市場が成立する可能性があるとみている。

市場概況:高成長を続ける美容市場

ベトナムの美容市場は、所得水準の上昇や若年層の消費拡大、海外の美容トレンドへの接触機会の増加を背景に、高い成長が見込まれている。ジェトロの「アジア大洋州の消費トレンドおよび国別重点市場調査(2026年9月)」によると、ベトナムのスキンケア市場は2025~2030年に年平均約16%、メイクアップ・コスメ市場は約12%で成長すると見込まれている。ヘルス&ビューティー分野のEC市場も、2025年の約12億ドルから2030年には約28億ドルへ拡大し、同期間の年平均成長率は約18%に達する見通しだ。スキンケアやメイクアップに加え、エイジングケア、ヘアケア、男性美容などへ需要が広がる一方、海外ブランド間の競争も激しくなっている。

市場の成長を支えているのは、美容への関心を持つ消費者層の広がりだ。特に若年層向けのコスメ市場では、価格競争力とトレンド性を備えた韓国ブランドの存在感が大きい。日系企業C社(小売業)によると、若年層では、K-POPや韓国ドラマ、海外のファッションを通じて美容トレンドを取り入れる行動が定着しつつあるという。

以下では、企業ヒアリングを基に、こうした市場の成長を支える消費者の価値観や購買行動を3つの類型から整理する(図参照)。

図:ベトナムの健康・美容消費者を捉える3つの視点

出所:企業ヒアリングなどを基にジェトロ作成

消費者像(1):将来のために支出する「健康投資型」

第1の消費者像は、健康・美容関連の商品やサービスを、将来の生活の質を維持するための投資と捉える「健康投資型」だ。健康と美容を別々のものとしてではなく、生活の質を維持、向上するための一体的な取り組みとして捉える消費者像が浮かび上がる。コロナ禍を経た健康意識の高まりや高齢化などを背景に、消費者の関心は、病気や不調が生じてから対処することから、日々の生活の中で健康を維持・改善することへと移りつつある。日系企業D社(小売業)は、ベトナムでは今後10年程度で高齢化が進み、健康診断や医療サービスの普及によって、肥満や糖尿病など潜在的な健康問題が可視化されるとみる。その結果、病院を受診する前に自らの健康を日常的に管理するという意識が高まると分析する。

こうした健康投資は、日常的な支出でもみられるようになっている。プロテイン飲料、サラダチキン、ヨーグルト、カットフルーツなど、たんぱく質やカロリー、筋力づくりを意識した日常的な食品選択にも表れている。美容分野でも、現在の状態を整えるだけでなく、将来の変化を見据えて早い段階からケアを始める動きがみられる。日系企業E社(小売業)によると、スキンケア商品が好調で、30~40代向けのエイジングケア商品には、日本を上回る販売水準に達するものもあるという。

健康投資は、日常的な支出から比較的高価格な商品・サービスまで、幅広い消費行動として現れ始めている。

消費者像(2):表示や由来、真贋までを確かめる「成分・安全・信頼確認型」

第2は、原材料、成分、原産地、製造方法などに加え、正規品であるか、信頼できる販売元から購入できるかまで確認する「成分・安全・信頼確認型」だ。健康・美容関連商品は身体に直接関わるため、商品情報と販売経路の双方を確かめ、健康上のリスクや購入の失敗を避けようとする点に特徴がある。

所得水準の上昇や健康意識の高まりに伴い、消費者の商品選択は、価格やブランド、見た目だけでなく、成分や原材料、生産地、管理方法を比較する方向へ変化しつつある。専門性の高い健康商品では、成分の分かりやすさ、摂取方法、科学的根拠、医師や専門家の推奨、口コミ、レビューなど、複数の情報が購買判断に影響する。

日系企業F社(小売業)は、成分表示を確認する層を、健康・美容分野における代表的な消費者タイプの一つとして挙げる。近年は、パッケージの表面だけでなく、裏面に記載された商品情報まで確認する傾向が強まっているという。成分や原材料に加え、オーガニック、自然由来、ナチュラル系であることを重視する消費者も少なくない。

こうした確認行動は、生鮮食品や乳幼児向け製品にも広がっている。食品では、見た目の鮮度だけでは把握できない農薬管理や品質管理、トレーサビリティーへの関心が高まり、どこで、どのように作られ、管理された商品なのかが重視される。特に子どもや家族が使用・摂取する商品では、安全性に対する消費者の意識が一層強い。

さらに、模倣品や非正規流通品への懸念から、確認の対象は商品の中身だけでなく、購入先にも及んでいる。日系企業H社(小売業)は、成分表示を確認する層に加え、正規品保証や信頼できる販売元を重視する層も、代表的な消費者タイプとして挙げている。公式店舗であるか、正規輸入品か、品質が保証されているかなどを確認し、安心して購入できる環境を求める傾向が強いという。

消費者像(3):自分の悩みから探す「課題解決・セルフケア型」

第3は、肌、髪、頭皮、体形、ストレスなどの具体的な課題を起点として、商品やサービスを選ぶ「課題解決・セルフケア型」だ。幅広く「健康に良い」とされる商品を選ぶのではなく、自分の状態や生活環境を把握し、より自分に合った解決策を探す点に特徴がある。

都市化や生活様式の変化に伴い、消費者が抱える健康・美容上の課題は多様化している。睡眠、ストレス、腸内環境、肌、髪、頭皮、体形など、異なる悩みに対して一律の商品を選ぶのではなく、自分の状態や具体的な悩み、目的、ライフステージを起点に商品・サービスを選ぶ傾向が強まりつつある。

実際、日系企業I社(小売業)は、健康分野ではセルフケア市場が今後の最大の成長領域の一つになると予測する。また、美容分野では、大気汚染による肌への影響を気にする消費者が増え、メイクアップ中心から、肌そのものを整えるスキンケアへ関心が移っていると指摘する。

こうした課題解決型の消費は、本人の健康・美容管理だけに限られない。共働き世帯の増加を背景に、自分の仕事と高齢化した両親の世話を両立できないという悩みも顕在化しつつある。その結果、日系企業J社(サービス業)は、富裕層を中心に、質の高い介護サービスへの需要が拡大していると指摘する。利用者は、在宅介護や病院への付き添いといったサービス内容だけでなく、言語、食習慣への配慮、スタッフの身体介助力なども重視している。家族の健康状態や生活環境、個別の事情に合った専門人材を選ぶ消費者像が形成され始めているといえる。

日本品質を生活上の価値へ置き換える

日系企業K社(小売業)は、日本ブランドの品質・安全面への信頼は高いものの、「日本製だから売れる」市場ではなくなったと指摘する。日本企業には、水質や衛生、大気汚染、紫外線、肌・髪の悩みなど、現地消費者が抱える生活上の課題を捉え、自社の商品・サービスがもたらす効果や価値を示すことが求められる。また、成分や原産地、使用方法、正規品であることを分かりやすく伝える必要がある。ベトナムでは、前述のとおり、健康や美容を将来の生活の質を高めるための投資と捉える消費者が増えている。そのため、日本品質そのものを訴求するだけでなく、それが健康維持や美容向上にどのように役立つのかを具体的に示すことが、市場開拓と継続利用のカギとなると言えよう。

執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課
安長 裕(やすなが ゆたか)
2014年、ジェトロ入構。総務部、ものづくり産業部、ジェトロ千葉、ハノイ事務所を経て現職。