多様化するアジア大洋州の消費者像-価値観、ライフスタイル、市場機会を読み解く-オンラインとオフラインが融合する消費市場
マレーシア(2)

2026年10月20日

前稿では、マレーシアの消費特性や市場の特徴を紹介した。消費者に効果的にアプローチするためには、接点となる販売・情報チャネルの把握も重要だ。マレーシアでは、オンラインとオフラインを組み合わせた購買行動が一般化している。本稿では、マレーシア市場におけるオンライン・オフライン両チャネルの特徴について整理する。

ショッピングモールが体験型ライフスタイルの拠点に

各報道によると、2025年6月末時点で、マレーシアには988カ所のショッピングモールがあり、総面積は1,730万平方メートルに達している。さらに、現在34件の新規ショッピングモール開発が進行中であり、国内のショッピングモール数は間もなく1,000カ所に達する見込みだ。

マレーシア観光局によると、マレーシアのショッピングモールは、従来の小売り施設から「体験型ライフスタイル拠点」へと大きく変化してきた。近年では、住宅、ホテル、オフィス、公園などを併設する複合開発の一部として整備されるケースも増えているという。こうしたショッピングモールの発展を支えている要因の一つが、マレーシア特有の気候条件だ。年間を通じて高温多湿で、激しい降雨も頻繁であることから、空調の効いたショッピングモールは買い物だけでなく、食事、娯楽、交流、家族でのレジャー活動などを楽しむ快適な空間として広く利用されている。

こうした変化に伴い、消費者の滞在時間そのものを収益化するために、自由に利用できる休憩スペースの削減や時間制限付きWi-Fiサービスの導入に加え、カフェや飲食店などのライフスタイル関連施設の拡充が進められている。このため、消費行動と空間利用は、これまで以上に密接に結び付くようになった。


ショッピングモールの様子(ジェトロ撮影)

SNSが重要な情報チャネルに

消費者との接点は物理的な商業空間だけでなく、オンライン空間にも急速に広がっている。マレーシア企業のデジタル化は2024年も引き続き進展がみられた。マレーシア統計局によると、情報通信技術(ICT)の活用拡大により、業務効率化やイノベーション、顧客との接点強化が進み、オンラインで情報発信などを行う企業の割合は、2023年の72.7%から2024年には74.4%へ上昇した。その内訳では、SNSが80.3%で最も高く、自社ウェブサイト(58.7%)、電子商取引(EC)マーケットプレイス(44.1%)、第三者が運営するウェブサイト(38.0%)が続いた。また、2024年のEC収入は前年比8.8%増の1兆2,900億リンギ(約50兆3,100億円、1リンギ=約39円)だった。このうち、B2CのEC収入は前年比11.3%増の3,747億リンギとなった。デジタル取引が経済活動の重要な牽引役となっていることが示されている。

このような企業のデジタル化を支えているのが、マレーシアにおける高いSNS普及率だ。2025年10月時点のマレーシアにおけるSNS利用者数は3,070万人で、総人口の85.0%に相当する(注1)。SNSは、同国の主要な情報収集・コミュニケーション手段として定着している。こうした高いSNS普及率を背景に、消費者は商品やサービスに関する情報収集や口コミ共有、購入判断などをSNS上で行う傾向が強く、企業にとってSNSは重要なマーケティングチャネルの一つとなっている。

なお、マレーシアでは民族や所得層による選好の違いを背景に、SNSの利用傾向にはプラットフォームごとの特徴がみられる(注2)。TikTokはマレーシアにおいて幅広い層に利用されており、18歳から38歳までの約64%が定期的に利用している。特にマレー系消費者や中低所得層へのリーチ力が高く、大衆向け商品の認知拡大に適したプラットフォームだ。一方、Instagramは中華系消費者、中央地域(クランバレーなど)の居住者、高所得層に比較的人気が高く、よりターゲットを絞ったマーケティングに適している。また、高所得層ほどX(旧Twitter)や中国の小紅書(Xiaohongshu)といったプラットフォームを利用する傾向がみられる。ターゲットごとの飲食店ブランドを展開するすかいらーくグループでは、ブランドごとにSNSを使い分けているという。企業は、ターゲットとする消費者層に適切にリーチできるプラットフォームを選定することが求められる。

オンラインとオフラインの融合が進展

ショッピングモールなど実店舗を中心としたオフライン消費と、SNSやECを中心としたオンライン消費は、必ずしも分断されたものではない。近年の消費者は、SNSや動画コンテンツを通じて商品やサービスに関する情報を収集し、その内容を参考に店舗を訪れて実物を確認した上で購入するほか、リピート購入する商品はオンラインで注文したり、店舗で見つけた商品をECでまとめ買いしたりするなど、複数のチャネルを横断しながら購買行動を行う傾向がある。

例えば、マレーシアのスキンケア市場は依然としてオフライン販売が中心であり、消費者は店頭で商品の使用感や信頼性を確認した上で購入する傾向が強い。一方で、情報収集や比較検討はSNSやEC上で行われることが一般的となっており、「オンラインで発見し、店頭で体験し、ECでリピート購入する」といったOMO(Online Merges with Offline)型(注3)購買行動が広がっている。

ISETANでは、日用品やリピート購入商品について、オンラインで注文し、百貨店内で受け取ることができるオンラインとオフライン融合型のサービスを提供している。買い物や外食、娯楽を楽しむついでに商品を受け取ることで、顧客にとっての利便性と体験価値の双方を提供している。

顧客接点の多様化に対応した販売戦略が重要

このように、マレーシア市場では、ショッピングモールを中心としたオフライン空間が消費者の生活や余暇活動を支える重要な接点であり続ける一方、SNSやECの普及によってオンライン上での情報収集や購買行動も急速に拡大している。特に消費者は、SNSや動画コンテンツを通じて商品・サービスを発見し、店頭で実際に体験・確認した上で購入したり、その後オンラインでリピート購入したりするなど、複数のチャネルを横断しながら購買行動を行う傾向を強めている。

また、SNSは単なる情報発信ツールではなく、口コミやレビュー、インフルエンサーによる情報発信を通じて消費者の認知形成や購入判断に大きな影響を与える存在となっている。一方で、ショッピングモールは買い物の場にとどまらず、飲食や娯楽、交流の機能を備えた体験型ライフスタイル拠点として重要性を維持している。

このため、日本企業がマレーシア市場で消費者に効果的にアプローチするためには、オンラインとオフラインを別々のチャネルとして捉えるのではなく、両者を連携させた顧客接点の設計が重要となる。例えば、SNSによる認知形成や情報発信、店舗での体験提供、ECによる利便性の高い購買環境を組み合わせることで、消費者の購買行動に沿ったマーケティングや販売戦略を構築することが求められる。

次稿以降では、食品分野およびスポーツ分野の市場動向や消費者ニーズ、日本企業が実際にどのように消費特性を捉えてビジネスを展開しているのかについて、その事例を通じてマレーシアにおけるビジネス機会や課題を考察する。


注1:
SNS利用者数はデジタル分野における情報プラットフォームであるDataReportalによる推計値。アクティブなSNSアカウント数に基づくため、実人数とは一致しない場合がある。 本文に戻る
注2:
市場・消費者インサイトを提供する調査会社Vodusの調査結果による。 本文に戻る
注3:
オンラインとオフラインを組み合わせ、情報収集から購買、体験までをシームレスに行う消費行動。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・クアラルンプール事務所
戴可炘(タイ・カーシン)
2024年、ジェトロ入構。ジェトロ・クアラルンプール事務所で調査アシスタント・ダイレクターを務める。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課リサーチ・マネージャー
菊池 芙美子(きくち ふみこ)
2009年、ジェトロ入構。ジェトロ茨城、ジェトロ・ヤンゴン事務所(実務研修生)などを経て、2020年9月から現職。